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<ビュロ菊だより>特別編~新刊『時事ネタ嫌い』の第2章を先行公開!~
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<ビュロ菊だより>特別編~新刊『時事ネタ嫌い』の第2章を先行公開!~

2013-09-10 10:00

    菊地成孔が、過去と現在を、痛みと笑いで横断するエッセイ集。

    <震災前夜までのニュース>の数々
    不二家の3秒ルール/ミートホープ事件/船場吉兆/石原都知事就任/安倍首相バックレ辞任/練炭自殺/アキバ通り魔事件/リーマンショック/豚インフルエンザ/毒ギョーザ/普天間/大相撲と世間/小沢マスク/55年体制最後の自民党総裁マンガ顔の麻生太郎/宇宙人としての鳩山/「ミシュラン東京」発売/オリンピック誘致失敗/「サロン・デュ・ショコラ」のコミケ化/死刑になりたくて殺人/ガザ地区空爆/ベストドレッサー市橋/尖閣
    ↑こうした現象たちと現在は、どう繋がれ、切断されているのか?

    イースト・プレス ●312ページ
    発売日:2013.9.15
    定価1,680円

    9月15日にイーストプレス社から発売される『時事ネタ嫌い』を発売に先がけて、「まえがき」と、全46章のうちの1章~3章まで、数回に分けて公開します。
    ご予約はこちらからどうぞ!



    2 「どっちが好きなの? はっきり言って」

     

    2007年2月、石原真理子(当時。現:石原真理)が、暴露本的な自叙伝『ふぞろいな秘密』を、自ら監督となって映画化することを発表。当該書は2006年12月に出版された後、3ヵ月間で50万部のベストセラーに。
    同年同月、「叶姉妹の(マスメディアにはほとんど登場しない)次女」である「晴栄」が失踪。叶姉妹側は〈5億円相当の貴金属を持ち逃げされた〉と申告し、被害届を提出。

     

     

     ちと穏やかではありませんが、今回のタイトル、恋の二股がけや不倫のドロドロではありません。叶姉妹と石原真理子さんのことです。答えは難しいでしょう。「どっちも何も、そんなもん、どっちも大嫌いよ」 と、即座に吐き捨てられる人は意外と少ないんじゃないでしょうか?
     
     どちらも「醜聞」と訳されてしまう曖昧さにより、我々の生活レヴェルでは漠然と同義の強弱ぐらいに思われている「スキャンダル」と「ゴシップ」ですが、前者は元々「罠、つまずきの石」というギリシャ語であり、それによる社会的な失脚を意味しますが、「ゴシップ」というのは(あくまで語源としては。ですが)「洗礼の時の代父母」転じて「霊的な友」という意味の古英語であり、ことほどさように我々とゴシップ記事の登場人物は親しいのである。などというのはゴシップ論としてあまりにもスカシた物言いだとしても、我が国でも屈指のゴシップ・ガールである彼女たちの魅力は凄い。まさに竜虎が睨み合った感があります。 
     
     竜と虎ほど彼女たちの魅力を隔てているのは「ウソつきか正直か」という根源的な問題でしょう。叶姉妹というのは(ワタシは彼女たちの大ファンなので遠慮なく書いてしまいますが)そもそも出自自体がウソ(現在に於いての定番的説明は〈「姉妹」も含めてユニット名〉というものですが、少なくともデビュー時にはこのコンセプトは用いていませんでした)ですので、フロイトや仏教を持ち出すまでもなく、あとは言う事なす事すべてウソにならざるを得ず、勢い、死ぬまで永遠にウソをつき続けることが決定しているユニットです。今回「妹の安否が心配なら盗難届じゃなくて失踪届が本当だろう。何かウソついてないか」などと真剣に発言する人々がいるようですが、よっぽど純朴可憐なバカか、あるいはこの件で初めて彼女たちのことを知ったとしか思えません。 
     
     一方で、石原真理子さんというのは、〈正直者〉の極北ではないでしょうか? 例の暴露本を「感謝のために書いた」という、ツイストした言い草も、ワタシには「いや、意識の上では本当にそうなんだろうな」と思えました。文体に移入した結果、もさることながら、文字通りあの本がスキャンダル=失脚を意図して書かれたとしたら全くの無力ですし(あの本によって葬られた人は一人もいません)、あの本が持つ、奇妙なホノボノ感(抑圧された怒りや恨みは、そりゃあ感じますが、そんなものは誰の書いたどんなものにだって存在します。私事ですが、ワタシはあの本を、昨年のクリスマスに購入して一日中読んでいたのですが、不思議なことに、実に良い気分でした)には「正直過ぎて困ってしまう人=真性イノセントぶり」が溢れています。
     
     
    確かに石原さんが監督されるという映画、そこに集まった人々のオーラは、単なるDVを「究極の愛」などと明言する怪しいプロデューサー氏と言わず、安達祐実さんの母上と言わず、全員が魑魅魍魎の如き、です。しかしこれも、邦画バブルなどと言われ、ここまでお洒落にハイセンスになった日本映画界の中に於いて、「ふぞろい世代」こと、1980年代が、バブルだ何だ言いながら、冷静に思い起こせばなめ猫だノーパン喫茶だインベーダーゲームだといった、ダーティーでチープで、お下劣極まりないものばかりが流行していたことを(『バブルへGO!!』よりも遥かに)痛切に、つまり「正直に」えぐり出しているとワタシは考えます。
     
     そしてこの「プッツンだのKYだの天然だの言って一刀両断にできるほどヤワじゃない、強烈な正直ぶり」は、いつの時代の、どこから来て、どうやってあの財を築いたのか、そもそもどこで何を稼ぎにどうやって生きているのか誰にもわからない(お姉様の著作を読むと、更にその「わからなさ」が膨れ上がります。赤裸裸だと謳いながら、読むと更に謎が深まる、凄い本です)ウソ=ファンタジーの住人である叶姉妹とは正反対の仕事ぶりであります。 
     
     ワタシは皮肉屋ではありません。中途半端にウソつきで、中途半端に正直で、場の空気もそこそこ読め、趣味よく普通に生きている我々は、彼女たちの魅力に抗うことができません。「ねえねえぶっちゃけどっちが好き?」などと言ってバーで1時間ぐらい盛り上がれば、精神の健康に良いこと間違い無しであります。           2007年2月

     

     

    後 日 談
     
    映画『ふぞろいな秘密』は本稿の4ヵ月後の'07年6月から銀座シネパトスでのみ公開された。石原は映画化の直前、吉田豪氏のインタビューに「あれは自分が書いたのではない」と、またしても正直過ぎる告白をしている。後に「石原真理」と改名(改名は3度目)、芸能活動は実質上の休業中で、本人ブログ「ふわっとした瞬間」は、奇しくもこの後日談執筆中の'13年3月に「また来ます。その日までお元気で、、、、」という一文を最後に更新されていない(ちなみに、無関係だと思われるが、銀座シネパトスも同じく'13年3月、老朽化のため閉館)。

    一方、叶姉妹のその後はご存知(というか、ご存知でない。というか)の通りである。本稿中にある「次女の(持ち逃げ&)失踪事件」は、有耶無耶になるかと思いきや、発生後4年目の2011年に突如、東京地検に横領罪の疑いで書類送検される。という、何とも言いがたい進展があった。というかそもそも次女だの三女だのは「設定上」のものであり、報道に、戸籍上の事実であるかの如く用いられていることそれ自体が何とも言いがたい。

     

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