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2017年1月の記事 2件

<ビュロ菊だより>No.122「結局、大晦日にアップできず(土下座)。正月は香港で過ごして来た+」

*前号までのあらすじ*   いろいろあった2016年も大詰めとなり、年末の挨拶ぐらいはブログでしようと思っていた菊地であったが、急遽ジャズドミュニスターズの、しかもft勢揃いのライブがカウントダウン直後に行われる事となり、なし崩しに(笑)それどころではなくなったまま、正月は香港で過ごす事が決まっていた。どうする菊地成孔。   「月末も結局スタジオにいて、ラップやらサックスやらを練習している。とても幸せな事ではないか」   クリスマスが「機動戦士ガンダム/サンダーボルト2」のOSTレコーディングと決まったので、物凄く気が楽になった。私は基本的に、クリスマスやハロウィンを大切に思う女性達を、バカとまでは言わないが、バブルの生き残り、もしくは恋の直中にでも居ない限り(バブルの生き残りがクリスマスやらバレンタインやらを有り難がるのは仕方が無い。彼女達は一生、有り難がり続けるだろう)、かなりの空虚を感じる。勿論、空虚が悪い訳ではない。空虚さを抱えた女性の精神生活、生涯イメージというのは一定ではないだろうが、私にとってはエキゾチックなほどだ。    斜に構える訳でも、バブルの生き残りの常として「オレは普通の人とは違うんだよ(だから偉いんだへへん)」と反射的に考えたがっている訳ではなく、単なる事実として私は、離婚してしまった前の妻の誕生日と彼女との結婚記念日が12月25日だったので、そして、亡くなった父親が危篤状態になったのが12月25日だったので、自分にとって特別な日になってしまったのであって、前妻も父との死別も空想すらしていなかった幼少期には、クリスマスは、ちょっとしたオモチャが買ってもらえる以外は、実家の仕事が忙しい日、でしかなかった。    そして、その頃のクリスマスは、幼少期であったとか、昭和であったとかいった特別なオプションを差し引いても、気軽で楽しい日だった。サラリーマンの、紙と輪ゴムと、金色のモールで出来た三角帽子の着用率は現在の比ではなく、誰もが楽しそうだった。任侠の道を歩む人々も、下っ端は三角帽子を被った。遠洋漁業の人々も、下っ端は三角帽子を被った。あの帽子が、工業製品なのか、内職の手仕事によるものだったかは解らない。いずれにしても、そこそこ儲かった筈だ。誰もがヘラヘラし、どこかで誰かが小銭を稼いでいる、と想像する事は、今現在に翻訳しても、楽しい。    あれから、大学生なら誰もが彼女と一泊でデートをする(つまり、セックスをする)クリスマスデートが平均的である、クリスタルな時代がやって来たが、大学生でもないし、稼ぎも無い私は、前妻と結婚するまでは、適当に安めのクリスマスデートを様々なガールフレンドとして、楽しげに話し、それからセックスをして、丁度良い空虚を味わい、しかし、空虚であり、チープであるのが我が国のクリスマスで、じゃによって素晴らしいのだ。と信じて疑わないようになった。何せ当時、シャンペインが飲めなかったのが大きい。    前妻と住み出してからは、それは暖かく、幸福な、愛する人の誕生日になった。入籍して、せっかくだからと入籍日を12月25日にしてからは、もう一度書くが、それはなんの条件もなく、暖かく、幸福な日に変わった。それが10年以上続いた。    彼女と別居してしまってからは、クリスマスは、「イルミネーションの日」になった。私は我が国が、右傾化しているとか、戦争に向かっているとかは思わない。いかにもそうであるからである。いかにも自分を殴りそうな人物は決して自分を殴らない。ただ、我が国が、どんどんファシズムのコスプレを普通に楽しむ様に成ったのは事実である。バブル期を、浮かれたバカの季節とするのはイージーである。人の世はいつだって浮かれたバカの季節である。今は、ファシズムのコスプレをしている事に気がついていたり、気がついていない、浮かれたバカの季節だ。わざわざ入力するのも嫌だが、「一億総活躍社会」というのは物凄い言葉だ。「活躍」を「よし、僕も活躍出来る。SNSで何かを世界に発信して活躍しよう」と思う人々の数と、そう思わない人々の数を比べたらどのような比率になるだろうか。どんな人間にとっても人生は芸術であり、表現であるとするのはパーフェクトリヴァティ教団、すなわちPL教の教義の第一である。PL教団のインスタグラムはあるのだろうか。  12月2?日、スタジオノア初台店にて。ガンダムの作曲中。  

ビュロ菊だより

「ポップ・アナリーゼ」の公開授業(動画)、エッセイ(グルメと映画)、日記「菊地成孔の一週間」など、さまざまなコンテンツがアップロードされる「ビュロ菊だより」は、不定期更新です。

著者イメージ

菊地成孔

音楽家/文筆家/音楽講師 ジャズメンとして活動/思想の軸足をジャズミュージックに置きながらも、ジャンル横断的な音楽/著述活動を旺盛に展開し、ラジオ/テレビ番組でのナヴィゲーター、選曲家、批評家、ファッションブランドとのコラボレーター、映画/テレビの音楽監督、プロデューサー、パーティーオーガナイザー等々としても評価が高い。

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