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記事 2件
  • <菊地成孔の3週間/2018年3月第1、2、3週>

    2018-03-19 14:00  
    220pt
     小磯が敷く手、失礼、小忙しくて、メルマガ(そろそろ死メディア)のクリシェだが、更新が遅れて申し訳ない。という訳で、一気に3週まとめてしまうことにした。
     写真を撮ることに抵抗が生じているという症状はまだ続いていて、というか悪化している。食事に行った際に食べたものの写真を撮れなくなってしまった。
     SNSの誕生よりはるか前、ブログに食事の写真を載せるに際して(私はこの世代である)、店の店主と、勝手に写真を撮った客が揉める。などという牧歌的な時代があった。
     現在、「写真お断り」なんていう店は、無いか、あってもものすごく少ないだろう。情報を封鎖する「取材お断り」の店だった数少ない店だけが、恐らく今でも写真は撮らせていないと思うが、面倒なので詳述はしないけれども、私はこの問題に非常に興味がある。
     メディアで何度も繰り返し言っているが、言われる方がフロイド的失視(ヒステリー症状の一部)によって、見えなくなっているのだろう。誰からも反応がないが、ネットカルチャーの最大の属性は無法性だ。インターネットを規制する国内法も国際法もなく、特に問題なのは後者だが、まあそれはともかく、国民全員の掌中に握られた無法性の塊、即ち無法者が社会を変えてゆく。これは凄いことだ。
     筒井康隆(敬称略)的な発想だが、「取材お断り」の有名店に、SNSファシズムどっぷりの客が来て、料理の写真を撮ろうとし、店主と揉める。そのやり取りを周到に書くだけで相当面白い短編になるだろう。
     当然、<客が写真を撮って拡散する行為を「取材」と定義するかどうか?>の議論が行われるし、あらゆるネットカルチャーの本質的な話題が会話の中で出てくるだろう。店側の、「不特定多数の客に知られたくない」というコンセプトに対し、全く理解を示さない客が、「知られたくないなら商売をするな」と言うだろうし、「取材というのはプロの取材という意味だろう。我々はプロではない」「ではアマチュアか?アマチュアの取材者というのは何だ?」「国民全員のことだ」という、筒井独特の、不毛な議論が延々とかわされ、途中から客は、このやり取りをツイッターで生中継し始め(そんなことができるかどうかわからないが)、ラストは発狂した店主が、客を殴って失神させ、頭から天ぷら油を浴びせて焼き網に乗せて焼いてしまう。文字通りの「炎上」、それによって店は大繁盛で、文字通りの「炎上商法」、つまり「取材お断り」の店が「炎上商法」の店に反転。というベタベタの締めがよろしい。 と、妄想の筒井康隆昭和短編時間が長くなったので、話を戻すが、今やシェフというのは、料理だけでなく、自分や自分の店の給仕やソムリエまでも撮影される前提の商売になってしまった。これは、病的なナルシシズムの強要、というか、強い感染であり、SNSの本質を突いている。
     私は、まず通って上顧客になり、自然と撮影が許されるようになるか、あるいは店主に「あのう、お料理の写真を撮ってもよろしいでしょうか?もちろんチェックを入れていただいて構いません」と聞いて、むしろそこそこ喜ばれていたクチだが、食べログなどの写真を見ると、見るに堪えない下手くそな写真が多く、まあなんというか、ドルオタぐらいにはグルメブロガーの写真の腕を上げてもらいたいと、今は願うしかない。
     料理人が最悪の場合二重に(料理と自分を含む、従業員と内装)被写体になってしまった世界。嫌だと言ってももうしょうがない。面白がるしかない。しかし、本当に気持ち悪い。イヴリン・ウォーぐらいのブラックユーモア感覚が必要である。医者がそうなったらどうだろうか?
     この三週間で、いうまでもなく三週間分、飲食店に行った(今更だが、私は100%外食である)。しかし、恐るべきことに、あれほど食事の写真を撮るのが好きで、そこそこ上手かったという自負すらあった私が、今は気がつくと1枚も撮っていない。
     

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  • <菊地成孔の一週間/2018年2月第4週>

    2018-03-06 10:00  
    220pt

    2月20日火曜  写真はロシア大使館近くの「サウンドシティ」というスタジオで、東京でも老舗に類する。私が使用するのも随分と久しぶりだ。

     あらゆるジャンルで、宅録とも卓録とも書かれる、所謂ミ二マルなデスクトップミュージックの驚異的な発達によって、昔日にはクリシェだった「どこそこのスタジオの音が素晴らしい」「このアルバムはどこそこで録音されているから偉い」的な、まあ、アビーロードだとかハンザウォールだとかロスのキャピタルだとか何とか、ああいう話は、現在ほとんど口にされない。

     限定的に、生楽器による演奏に関してのみこのクリシェは健在で、まあそれはおかしな事でも何でも無い。むしろ、初期のヒップホップやテクノやエレクトロを「有名なスタジオで録音していた」としていた、という事実の方が、黎明期の混乱、牧歌的な時代の遺物として語り継がれるだろう。

     ここで、市川愛氏の、バンドを使った最終レコーディングが行われた。フライングで書くが、アコースティックピアノが林正樹、アコースティックベースがトオイダイスケ、そしてアコースティックギターが今堀恒雄である。演奏は完璧で、中でも今堀のギターは圧倒的に凄い。彼と仕事をするのは何年ぶりだろう?互いに少しずつだが、確実に老けた。
     

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