• このエントリーをはてなブックマークに追加

2023年2月の記事 4件

<菊地成孔の日記 2023年2月23日 午前5時記す>

 「オール1の天使」     モノンクルとぷにぷに電気が対バンをするというので行ってきた。「1人で(普通にチケットを買って)ライブに行く」こと自体がかなり久しぶりなのだが(20代は盛んに行っていたので)、結果として、久しぶりすぎるほどの久しぶりの嵐で目が回った。コインロッカーの小さいのを2つ使ってカバン(昔はリュックサックではなくアディダスのスポーツバッグだったが)とコートを押し込み、開演までの30分をコーラ飲みながらうだうだするのも久しぶりだし、そもそも僕がよくライブハウスを巡っていた頃、この土地はシネマライズですらなかった。    風圧にも似た、ものすごく強いノスタルジーの力に抗しながらフロアの後ろの方に行くと、今日平均の中でも一番服装がダサいぐらいの男子2人組が終始楽しそうにぷにぷに電気とモノンクルの話をしていて、「モノンクルって最初はジャズだったんだよね。ガンダムの菊地成孔?って奴がプロデュースで、フリージャズやラテンジャズやってんだけど」と言ったのでマスクを深くかけ直したりしたのだが、そいつが握っていた缶ビールを派手に落として、床がびしょびしょになり、一瞬騒ぎになったので、その隙に乗じてささっと前方へ進む。<お洒落で可愛い女子>としか書きようがない人々が山のようにいて、ファッションンチェックをしているだけでも楽しかったが、ノスタルジーの風圧は上がるばかりで、台風の時に銚子市の犬吠埼燈台の下で吹き飛ばされる直前のリポーターのような心情になっていった。    特に理由はないが、先にぷにぷに電気が出ると思い込んでいたら、ベースアンプの前に、角田君そっくりの人物が現れてチェックしだしたので「ええええええええ?」と思っていたら、すっかりお姉さんになっていたサラ太郎が現れてモノンクルのライブが始まった。  

<菊地成孔の日記 2023年2月17日 午前0時記す>

「髪が自然に染まる話」     年末にゴダール特番をTFMでやり(結局「出ただけ」になったが)、特に浅田さんとの対談は独立して文字起こしされ、エレキングブックに再録(?)されたけれども、こういう言い方はどうかと思うが、恐ろしいほど反応がなかった。    因みに最近「恐ろしいほど反応が良かった」のは、ブルータスのジャズ特集の、しかも先走りのウエブ版の方で、まあまあこれは、特集の面子を睥睨するに、真面目に「今は東欧系のプログレ寄りアンビエントーーペッター・エルド等ーーが流行ってますが、それって基本的にはメタルであるアニマルズ・アズ・リーダーズの影響で、ジャズとメタルが寄るって歴史的にも滅多にないし」「拍節のグリッドがある上で揺れたり訛ったりするんじゃなくて、すげえ正確に、拍節グリッドがない細かい変拍子を、壊れた4拍子みたいにする形」「これがクールでありホットであるということなんですよね。すごくよくわかると同時に、自分がやっても若作りしてるようにしか聞こえないと思う」「人類全体が、暗くなっていると感じる。それってブルーノートっていう概念の第二世代と言えると思う」とか何とか、書いたり話したりしてしまうと、なんかひょっとしてとっても虚しいことになるのではないかと予感して笑、結果、編集者が取材に来てからアレを考えたわけだけれども(本誌では割愛されたが、最初は、ひらがなで「じゃず」と入れるのもやってみたのである笑)、久しぶりで反応がでかかった。    ま、クリスマスに難しい映画を撮り続けて死んだ90過ぎの映画監督の話をラジオでするのと、巷間「敷居が高い」という言葉で表される、未知の伝統的ジャンルへの入門を、ネット検索でやってみよう!というのが、同等の反応を起こすわけがないことぐらいは自分でも理解しているけれども、「恐ろしいほど」が重要で、要するに予想を大きく超えた。その規模感がどこから来るのか?やはり20世紀と21世紀の差のような気がする。20世紀初等の人類は19世紀を重んじたか?単純に1923年の人類は1867年とか1878年とかよりも、1923年の姿を借りた1925年ぐらいに熱狂していたのではないかと思う。  

<菊地成孔の日記 2023年2月9日 午前5時記す>

  僕は去年の10月にはライブが一本もなく、その前はコロナや歯の手術にのたうちまわっていたのだが、11月から一挙に仕事が増え、昨日まで睡眠は一度も取らなかった。仮眠を積み重ねだけで今日まで来たのである。    <常勤>    ペン大  美學校  LDK beautyの連載(「菊地成孔のコスメモリー」)*現在3回目が脱稿  IMAでやってる「菊地成孔の写真選曲」  新宿ピットインの3デイズ  ピットインのカウントダウンライブ  歯医者での定期検診 / ホワイトニング / 歯周病予防  内気功による整体  「大恐慌へのラジオデイズ」  新音楽制作工房の代表Twitter   <不定期常勤>    ジャズドミューン  日記   <非常勤>    11月3日 ぺぺトルメントアスカラール川崎  11月6日      クインテット高崎  11月15日 タトゥアー大島さんとトークイベント  11月18日ペペトルメントアスカラール 大阪  11月19日 同上 京都(ゴダール追悼)  11月27日 ラディカルな意志のスタイルズ 反解釈1    12月のウイークリーパーティー(新音楽制作工房)   12月25日のTFM ゴダール追悼番組  12月14日Q/N/ K  12月16日クインテット  12月21日ジャズドミュニスターズ  1月5日 Q/N/K  1月29日 ドミューンラディオペディア(ポッドキャスト番組)  1月31日 オーニソロジー リリパ  2月3日 沖野修也 キョウトジャズセクステット    <リリース系>    *去年の夏から  「オーニソロジー / 食卓」  「Q/N/K」    <劇伴>     「岸辺露伴は動かない」第7、第8話   「岸辺露伴ルーヴルに行く」      *これに、インタビュー、キャンペーン、打ち合わせが全部ついてくる。   

<菊地成孔の日記 2023年2月1日午前3時記す>

   「鳥類学(オーニソロジー)と言ったのはバード(鳥)である。はいこれを英語で」     辻村くん(オーニソロジー)やYuki Atoriくん、守くんと一緒に北京ダックを食っていたら1月が終わってしまった。素晴らしいプレイをしてくださった宮川さんと小川さんは明日が早いということでお帰りになったが、恐らくそれは、良くも悪くもなく、「家庭がある」ということだろう。僕にはとうとう経験できなかったが、「家庭を持ち(維持し)、子供ができて、家族のためにもステイタスをあげ、家族を食わすためにちゃんと働く」というのが労働のグランクリュだ。誰もが最短でも一時的にそうなる。今日、テーブルに着いた3人だってやがてはそうなるかも知れない。それはとても達成感と自己肯定感をもたらす、強い行為だからである。    このコースから自発的、恣意的にコースアウト出来る人間はいない。適応できたら死ぬまで続けることになるこのコースに、乗れないのに乗っかってしまい、弾き飛ばされたものだけが、1週間の中で、2日も同じ北京ダックを喰って、朝まで飲んでるような人間なのである。この僕のように。    60になると、飲み食いの量が減る。性交に至ってはもうやめてしまう者も多い。僕は煙草こそ止め(「止めさせられた」が正しい。僕は欲望に関して、恐らく、だが、自分から止めた事は一度もないと思う。誰かに止めさせられるだけだ。生きることが欲望なのだとしたら、だが、僕は殺されて死ぬだろう)たが、飲み食いが全盛期の半分まで落ちたわけではないし、性交も変わらずしている。「人のセックスを笑うな」という本が売れたのがいつかは忘れてしまったが、僕のセックスを見たら、多くの人々は慄くと思う。ロジェ・バディムの自伝の中に、ピカソと寝たことがある女性が出てくる。「どうだった?」と聞くと「殺されるかと思ったわ」と彼女は、「実に嬉しそうに」答えるのである。    性愛もろくに経験せずセクシスト(エクソシストならともかくだ)という言葉を簡単に口に出して、(僕を含む)呪われた人々を糾弾してはスッキリすることもできないバカにもわかるように嚙んで含めるが、別に絶倫を誇るとかではない。子育てや家族の維持にかかる莫大な労働を逃れた、僕らはある意味での兵役拒否者だと言える。人は自らにはいくらでも逆らえるが、天命には逆らえない。自分の神に背いてはいけない。もう一度最初から。小さなライブハウスが満員になって、全員が満足する。そこからもう一度やり直すのである。  

ビュロ菊だより

「ポップ・アナリーゼ」の公開授業(動画)、エッセイ(グルメと映画)、日記「菊地成孔の一週間」など、さまざまなコンテンツがアップロードされる「ビュロ菊だより」は、不定期更新です。

著者イメージ

菊地成孔

音楽家/文筆家/音楽講師 ジャズメンとして活動/思想の軸足をジャズミュージックに置きながらも、ジャンル横断的な音楽/著述活動を旺盛に展開し、ラジオ/テレビ番組でのナヴィゲーター、選曲家、批評家、ファッションブランドとのコラボレーター、映画/テレビの音楽監督、プロデューサー、パーティーオーガナイザー等々としても評価が高い。

http://www.kikuchinaruyoshi.net/
メール配信:あり更新頻度:不定期※メール配信はチャンネルの月額会員限定です

月別アーカイブ