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<ビュロ菊だより>特別編~鈴木成一、『時事ネタ嫌い』の装丁を語る。
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<ビュロ菊だより>特別編~鈴木成一、『時事ネタ嫌い』の装丁を語る。

2013-09-17 10:00
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<ビュロ菊だより>特別編~鈴木成一、『時事ネタ嫌い』の装丁を語る。

 

「コンセプトは、本のかたちをした伊勢丹」


『時事ネタ嫌い』の装丁を手がけたのは、菊地成孔よりも1つ年上のブックデザイナー鈴木成一氏。
同世代ならではの共感とともに原稿を読み終えた鈴木成一氏は、この本にどんなビジュアルを与えたのか? 
悩みに悩んだという制作の舞台裏を公開します!

 

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カバー(表1)

 


編集との最初の打ち合わせのとき、「文字だけの装丁でなく、何かビジュアルを併せてほしい」という注文だったわけですが、この本の場合、タイトルの「時事ネタ嫌い」という言葉がけっこう強いため、あんまり意味のあるビジュアルだとタイトルとぶつかってしまうので、ちょっとこう、匂わす程度のものはないかと、かなり悩みました。とりあえず原稿のなかからヒントを探すんですが、あまりにもテーマが広範囲に亘っているので、どうしたものかと……。

そんな中、本書のなかに何度か出てくるものとして、「伊勢丹新宿本店」があったんです。「格差社会」だったり、「サロン・デュ・ショコラ」(チョコレートの品評会)の舞台になっていたりするんですが、そもそも著者が住んでいるところ(歌舞伎町)が伊勢丹の近所なので、何となく伊勢丹が、この本で描かれている、さまざま時事ネタの世界の「中心」……と言えなくもない。新宿三丁目から世界を見ていると言うか、そもそもこの本自体が時事ネタのデパートみたいな本でもありますし、そのあたりを自分なりに納得して、だったら伊勢丹をネタにやってみよう、と考えました。

それで、とりあえず実際にまず行ってみまして、初めて中にも入ってみたんですが――地下の食品売り場は行ったことがありましたが、上の階に行くのは初めてで……行く用事もないですし――まあとにかくすごい人で、活気がありますよね。あんまりデパート自体行かないのでわからないんですけども。漫然とやってない感じ、売る気満々な感じがすごかったです。

で、伊勢丹をモチーフにするとして、問題は「それをどう見せるか」ということです。単に写真を撮ってそのまま使ったって別に何とも思わない。「伊勢丹? だから何?」じゃ困るわけで、やっぱりそれを手がかりとして、読者と「何か」を共有できるようにしないといけない。そのへんが最大の悩みどころですよね。「見せられる何かしらのもの」にするには、どうしたらのいいか?

そこからまた悩み始めるんですが、あるとき、伊勢丹の外観が本を開いた形に見えるな、と思ったんです。新宿三丁目の交差点から見た建物の形が、ちょうど本を90°に開いて立てた状態に見えなくもない。そのとき「しめた!」と思いましたね。これ、やってみたらどうなるのか。やっていいよな……やれるな、これなら。と確信めいてきたわけです。

それでまず、建物の外観を写真に撮って、本のカバーのサイズにはめこんでみました。本の背が、交差点の角の部分になるように。 

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伊勢丹の外観(撮影と合成:鈴木成一)


この写真、どうやって撮ったかと言うと、伊勢丹は周囲を他の建物に囲まれているので、正面から撮れない。なので下から見上げるように、縦に窓3列分ずつ、順番に撮っていきました。合計14カット。ただそれだとパースがかなりかかっているので、ひとつひとつフォトショップで変形させて(パースを全部取り去って)、できるだけ正面から見た感じになるように合成したわけです。

装丁として使う場合、この写真のように、伊勢丹のかたちそのものを出しちゃうと、ただの「伊勢丹の本」になってしまうので、あえて外形を消して、「窓」と「その下の部分」(四角い網と、丸いレリーフ)だけを柄として残し、「窓」から時事ネタが覗いている、という感じにしてみたわけです。


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色面
*印刷用のデータなので、実際の刷り色とは異なります。

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色面+文字


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色面+文字+窓マスク


デザインは3層のレイヤー構造になってまして、まず一番下に、黄色、赤、青の3色(特色)のパターンを敷き、その上に時事ネタの文字列を重ね(文字には同様に3色を適当に割り当てて、サイズに変化をつけてます)、最後、一番上から、先ほどトレースした伊勢丹の窓の柄を、白いマスクとして覆っているわけです。

色をこの3色にした理由は、やっぱりカラフルにしたかったからなんですよね。もう1、2色多く使ってもよかったんですが、3色くらいが、あっけらかんとした感じにもなって、きれいかなと。原色でもありますし。もしここに緑とかが混じってきたらなんか汚くなるかなって思いました。


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表紙とカバーの全景


カバーを取った「表紙」には、ぎっしりと時事ネタが刷ってあります。つまりこれが中身で、「カバー」が外観。「カバー」の窓から中身が覗いているという、建築的といいますか、本の形を利用した装丁なわけです。カラフルな窓からいろんな時事ネタが浮かび上がっている……見え隠れしている。伊勢丹というメディアを通して、この本のネタを見せる、というコンセプトです。

しかしこの本を見て、これが伊勢丹だとすぐ気づく人はいないでしょうね(笑)。たぶん本を開いたカバー「そで」(表2)にある、鉄の門の模様で、わかる人はわかる。まあ、それぐらいの感じがいいかなと。


本文の用紙は、「時事ネタ」ということで、ちょっと新聞っぽさのあるラフな紙にしています。

造本は、仮フランス装という、表紙の縁の部分が3センチくらい内側に折り込まれているもので、この折り返し部分がいつもみっともないと思っていたんですが、今回のように、表に全面に刷った文字が折り返されていると、本全体が時事ネタで縁どられている感じになり、より一層、新聞のざっくり感が出ていい効果になったと思います。


タイトルと著者名は、菊地さんご本人による手書きです。ビジュアルが、まあカラフルではあるんですが、デザインとしてはストイックなので、手書き文字が活きるんじゃないかと思いました。
編集が持ってきたゲラ(菊地さんによる赤字入り)を見たら、その手書き文字がすごいよかった。とてもいい字を書く人だなと思って、それで、タイトルと著者名、あと、帯の表4もお願いして全部書いていただきました。


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カバー+帯(表1)

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カバー+帯(表4)

 

ちなみに菊地さんとは、3年くらい前に、まさにこの伊勢丹の近くにあるイタリア料理店「ブリッコラ」で偶然お会いしているんですよね。相当飲んでいたので、何の話をしたか記憶にないんですが……(笑)。

 

2013年9月9日、鈴木成一デザイン室にて
インタビューと構成:高良和秀(イースト・プレス)
本の撮影:岩田和美

 

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