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【無料公開】篠塚恭一:街へ出よう!(5) 地域交通を使いこなす ── 新幹線では多目的室を賢く利用
2013-11-01 09:35106歳の砺波サキさんは要介護度5、娘のみどりさんともう一度、秋の京都で紅葉狩りをしたいという夢がある。 すでに5万人を越えた百寿者も、その大半はベッドの上で過ごしているという。身体は寝ていても、気持ちまでベッドとの上かというとそうでもない。人は生きる限り、みな夢を持ち、さまざま希望を抱き続ける力を持っている。だが現実は、周囲に気兼ねし皆どこかで諦めてしまっているのではないだろうか。 みどりさんから相談をうけたトラベルヘルパーは、サキさんの身体にできるだけ負担の少ない移動手段を考える。要介護度5で施設に入居しているサキさん、移動時間も短い方がいい。 横浜にある施設の担当者とも打合せ、新幹線を利用することにした。駅までは介護タクシーを使い、京都でまた介護タクシーで観光する。 新幹線には、多目的に使える無料の個室がある。大人が横になる程のスペースがあり、子供の授乳や具合が悪くなった人の休息に使 -
【無料公開】篠塚恭一:高齢者大国の前線から(5) ── 自然の理不尽さ
2013-10-16 11:43小中学校の授業に「移動教室」という屋外活動がある。 消防署や博物館、名産品をつくる工場などを訪問する社会科見学で、教室から飛び出し、五感を使って学んでみる。地方では漁師と地引網をしたり、農家に泊まって土に触れたりと、自然の中で大人の仕事を手伝う体験が都市の子どもたちには新鮮に映るのだろう。 近年、統合教育が広がり、こうした授業に障がいを持つ子が参加するようなった。100人ほど生徒がいる学年では、身体の不自由な子が一人位はいて周囲もできるだけ移動教室に参加させたいと考えている。 この春は自治体や教育委員会の依頼で障がいを持つ子のケアを頼まれた。修学旅行でトラベルヘルパーを利用したいという旅行会社の相談も増えた。 鎌倉や京都などメジャーな観光地では、移動に車いすを使う生徒など、特別なニーズのある子どもや高齢な人や身体の不自由な人の受入体制が進んでいるが、民泊を行うような地方でバリアフリー対応が -
【無料公開】篠塚恭一:高齢者大国の前線から(4)── 高齢者とICT活用
2013-09-06 10:58以前、「流されたスキーツアー」という見出しの新聞記事が話題になったことがある。 知的障がいのある子と親の会が企画した旅行を、直前になって旅館側が受入できないと断ったことに避難が集中した。 親たちは食事を変えてくれとか、部屋をバリアフリーにしてくれとか、特別なものは何も求めていないと冷静な理解を求めた。一方、旅館の主は今までに受け入れた経験がないから何をしたらいいのかわからず自信がないと理由を説明した。期待が大きかっただけに落胆する親子の気持ちも、サービスに自信がないものは受けられないという生真面目な主の言い分もわかる気がした。 両者を結ぶはずの旅行会社が、提供すべき情報を相手にきちんと伝えていないことから、顧客サービスをイメージできなかったことが不幸を招いた。 つなぎのまずさから信頼は失われ、互いの心に傷としこりだけを残した。こうした情報連携のミスから起こる不愉快なトラブルは今でも少なくな -
【無料公開】篠塚恭一:「街へ出よう!」(4) ── 要介護高齢者にも運賃割引制度を!
2013-08-19 09:39「高齢の父の体が弱ってきて、この夏を越えられないかもしれないので、父と母を連れて最後の思い出に二人のふるさと信州に連れて行きたいと思っています。父は両足切断していて要介護4です。」 そんなメッセージが、ホームページのメールに入っていた。時刻を見れば午前6時、相談者の急ごうとする様子が伝わってくる。 早速、メールの宛先に電話をかけてみる。 介護が必要な父親は、君塚富士夫さん82歳。糖尿病で5年前に両足切断の手術をしていた。 相談は、富士夫さんの娘の幸子さんからだった。 都内で同居する両親と幸子さんのご主人、それに子供2人の家族6人で思い出づくりに信州へ行きたいという内容だった。暑くなる前の諏訪湖とふるさとの山々を見せてあげたいという。 家族が希望する日程と富士夫さんの詳しい介護情報、それに予算を伺い、おおよそのコースプランを考えてみる。 都内から諏訪へ行く交通手段は、いくつかの選択肢がある。 -
【無料公開】篠塚恭一:それぞれのエベレスト ── 高齢者大国の前線から(3)
2013-08-08 09:46冒険家の三浦雄一郎さんが、世界最高齢80歳でエベレスト登頂に成功した。 その驚異的な体力は、70歳7か月、2003年当時の世界最高年齢登頂記録を樹立、その後75歳での登頂で実証済だった。この成功が、さらに多くの人、特に高齢者を勇気づけたことだろう。 三浦さんは、1966 年富士山直滑降、70 年エベレスト、サウスコル 8,000m世界最高地点からのスキー滑降を成功させた。その記録映画はアカデミー賞作品となり、幼少の私も鑑賞する機会があったが、胸がドキドキして息がつまりそうになったのを覚えている。その後、世界七大陸最高峰のスキー滑降など超人的な記録を次々に樹立、世界にも稀な存在として独自の道を拓いた。 その三浦さんが目標を失い、還暦を迎える頃は体脂肪率が40%を超え、狭心症・糖尿病・腎臓病など生活習慣病でメタボとなり発作を繰り返していたというから驚く。 しかし、そんな三浦さんに大きな影響を与 -
【無料公開】篠塚恭一:お墓参りは人気のおでかけ先
2013-07-30 08:48「背負って行きますか?」 お嫁さんと久しぶりに故郷の長崎を訪ねた宮崎マサさん。6年ぶりの里帰りは、介護タクシーと飛行機を乗り継いでの旅だった。 旅の目的はお墓参り。 もう無理とあきらめていた夢が叶った感激で目が輝いている。 ところが着いた菩提寺は、舗装もなく傾斜のきつい坂道、長い階段が墓前まで続いていた。車いすを頼りに暮らす宮崎さんにはとても行けそうにない。 「せっかく、ここまで来たのに・・・」 うつむく宮崎さんの姿に車内は気まずい空気が流れた。 東京から同行したトラベルヘルパーは、「あきらめたくないね」と地元ドライバーの顔を見た。 宮崎さんは、毎年この季節にお嫁さんと旅するのを楽しみにしていた。義理の母との旅は仕事で忙しい息子のプレゼントだった。「本当は(息子も)一緒がいい」でも、そんな優しい親孝行の気持ちが嬉しかった。こんな家族になれたら幸せだと周囲も感じたという。 お墓参りは、人気の -
【無料公開】篠塚恭一:カッコよく歳をとりたい ── 高齢者大国の前線から(2)
2013-07-19 10:21シニア世代に向けたエンディングノートづくりの講座が人気になっている。 エンディングノートをつくることで、自分らしい終末を迎えようと考えることが新鮮に感じるという。死をタブーとせず、最期まで「自分らしさ」を追求する好奇心を示す人が増えているようだ。 遺言とは違うエンディングノートは、いわば人生の終わり方を自分自身で決めるライフデザイン。自分が死んだときや、認知症のように意思の疎通ができない病気にかかったときに自分が望むことをあらかじめ記しておく。例えば延命措置を行うか否か、介護が必要になったときはどうかなど、自分の意思を記しておく。財産整理や相続に関する希望、葬儀の出し方など、死んだあとのことも記入できるようになっているが、それまでにどうしてもやっておきたいこと、行っておきた場所など、生前の時間をどう過ごすかを自ら整理、確認することができる。法的効力はないが、「死期の指示書」をつくることで、 -
【無料公開】篠塚恭一:おでかけ日和
2013-06-06 23:05今日はおでかけ日和、山本勝さんはカレンダーに花まるをつけて楽しみにしてきた。 血圧、体温異常なし、入居している施設の外出許可も出ている。夕べは興奮気味でいつもより睡眠不足だが、今朝の気分はすこぶるいい。久しぶりの外出に子供のようにワクワクしていた。 施設内のケアは、いつものヘルパーがしてくれるから何不自由はない。しかし、部屋から外にでてからは、トラベルヘルパーが介護する約束になっている。 出迎えの際にトラベルヘルパーが、まず行うのは山本さんの様子を伺うこと。その日の体調は、施設の担当者から引継ぎを受ける。 日帰りおでかけのような小さな旅は、時間の無駄ができないので、出発前の準備は周到でなければならない。車いすの点検は移乗させる前に行う。タイヤの空気圧やねじのゆるみがないかをチェックし、ブレーキの利きや車いす用クッションも確認する。介護施設などタイルや木製の床では気づかない振動が、路上では身 -
【無料公開】篠塚恭一:高齢者大国の前線から(1)
2013-05-23 11:252020年に開催されるオリンピック、パラリンピック誘致が話題になっている。 再び東京開催が決まれば、インバウンドを中心に観光産業は活気づくだろう。前回の1964年、日本は高度成長期にあった。開催に合わせて新幹線や高速道路網などインフラがつくられ敗戦後の復興の証を世界に示したことで多くの日本人が自信と誇りを得たという。 今回のエントリーは、原発事故で電力不足が懸念されているというが、財政危機で経済的に厳しいマドリッドや隣国の政治不安が懸念されるイスタンブールとの勝負は五分五分。今度は東日本大震災後の観光復興の証を再び世界に示してほしいと思う。 それから半世紀がたち、日本は先進国一の超高齢者社会を迎えた。 高度成長期を支えた団塊世代が仲間入りしたことで高齢者人口が急拡大し、それが世界の注目を集めている。 高齢化社会とは、全人口に占める65歳以上の割合が7%を越え14%になる迄をいい、さらに21 -
【無料公開】篠塚恭一:さあ、まちに出よう!
2013-05-05 00:01要介護高齢者の外出支援を専門とするトラベルヘルパーの育成をはじめて20年になる。超高齢社会を迎えた日本より一足先に旅行客の高齢化がはじまっていたのがきっかけだった。 身体が不自由な人が一番にしたいことは、なんといっても「おでかけ」だという。友人と好きな映画を見て、陽だまりのカフェでお茶を飲む。そんな他愛もないこと、いつでも自由にでかけることができることがとても特別なことだという。 山倉さんは「おでかけ」150回のベテラン、普段は多摩川に近い介護施設に暮らしている。8年前から月に1〜2度、トラベルヘルパーを利用した車いすの「おでかけ」を楽しんできた。 はじめの希望は「自分の家に帰りたい」という短時間の外出だった。施設から自宅までは、わずか数キロ、車なら20分足らずの距離にある。 しかし、それが難問だった。施設ではスタッフの利用が限られているからと断られ、年老いた妹に頼むわけにもいかない。新し
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