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記事 22件
  • 甲斐良治:よみがえる廃校

    2006-10-25 11:49  
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     私の編集する「増刊現代農業」の最新号は『よみがえる廃校 「母校」の思い出とともに』です。下記は長文ですが、「月刊現代農業」12月号掲載の「主張」(「社説」のようなもの)に加筆したものです。学校もまた、「『くに』より先に『むら』がある」でした。
    現在の小山小学校(竹島真理さん撮影)
    共通する「地つき」の思い出
     下の写真をご覧いただきたい。昭和27年、大分県日田市の小山小学校新校舎建設のための「地つき」の風景である)。
    (『小山小百年の歩み』より)
    ――地固めをする「地つき」の日、村のお年寄りから子どもまで、みんなが学校に集まりました。木を何本か組み合わせて櫓を組み、その中に地つきのための柱を吊るし、柱に結わえた何本もの綱をみんなで力を合わせて引っ張ります。赤い手ぬぐいを首に巻いて、地つき唄を歌いながら。なかには、手ぬぐいを鉢巻きにしてもらった子どももいます。ドスン、ドスンという威勢の
  • 甲斐良治:「くに」より先に「むら」がある

    2006-07-06 13:25  
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     私が編集している「増刊現代農業」は一号一テーマの特集主義で、次号は「山・川・海の『遊び仕事』」(7月13日書店発売)。これまでこのコーナーでも紹介してきた地蜂獲りやイセエビ生け簀漁、郡山の「奇跡のむら」の堰上げのほか、山菜採り、川漁、鴨猟など、さまざまな「採る」「獲る」「遊び仕事」のオンパレード。



    1部900円 年間購読3600円(送料サービス)
     もちろん、山・川・海での「採る」「獲る」行為をつきつめていくと、入会権や漁業権などの「所有と利用」や「コモンズ」の問題とも関係し、また、経済的価値観だけではとらえられない自然・身体・労働の関係性が見えてくる面白みもあります。  今回は、その取材過程で、きわめて貴重な史料を「発見」することもできました。それが写真の「定置網漁業免許状」。大分県宇佐市長洲の新開基国さんのお宅に保管されていた「石干見」という漁法についての免許状です。

    撮影・
  • 甲斐良治:「奇跡のむら」にインドネシア人がやってきた

    2006-07-05 13:35  
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     あの「安達太良山麓の奇跡のむら」の「堰上げ=イワナ獲り」の日からほぼ1カ月がすぎたころ、むらに6人のインドネシア人がやってきた。訪れたのは、インドネシア中部、スラウェシ島のマレナ集落、トンプ集落のリーダーをはじめ、弁護士やNGO職員、大学教授。招いたのは「自然資源管理(いりあい)と住民自治(よりあい)に関する共同調査・経験交流(まなびあい)」の活動を展開している研究者や国際協力活動家でつくる「いりあい・よりあい・まなびあいネットワーク」(略称あいあいネット――私はもっぱら「酔い酔いネット」)。



     日本の農山漁村の入会権が危機にさらされた明治政府の「官民有区分」とちょうど同じころ、インドネシアでは、オランダ植民地政府が「国有地宣言」を出し、西欧型の排他的所有権が証明されない土地はすべて国有ということにされた。つまりあらゆる国土は国有か私有のどちらかしかないということである。日本
  • 甲斐良治:「遊び仕事」の「ビジネスモデル」(その2)

    2006-06-12 13:40  
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     6月3日夜、「地方に帰りたいけど帰れない若者」のための「ビジネスモデル」づくりにチャレンジしたいと考えている伊藤洋志くんが農文協に訪ねてきた。昨年4月に入ったばかりの出版社を辞めた理由を聞くと、またオモシロイ答えがかえってきた。修士論文作成のために借りた旅の資金を返し終えた以外に、ふたつの「所期の目的」を果たせたからだと言う。


     そのひとつは、その出版社でまかされた、新しい医療技術者のための雑誌づくりを軌道に乗せることができたこと。彼によると、いまの若者の離職率の高さは、きちんとした取材をせずにいいことばかりしか書かない就職情報誌にも責任があるという。入ってみたら「こんなはずではなかった」と、失望して辞めることが多いのだそうだ。「きちんと取材した就職情報誌」で求人・求職のミスマッチを減らしたい――その情報誌をつくるという目的が一応果たせた。
     もうひとつの「所期の目的」は「ちょ
  • 甲斐良治:遊び仕事」の「ビジネスモデル」

    2006-06-01 13:43  
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     元来私はひねくれているのか、世間が「希望がない」という農山村やそこに暮らす女性や高齢者、フリーターやニートと呼ばれる若者たちに「希望」を見いだすことのほうがよっぽど多い。今日もまた、その若者たちのひとりである伊藤洋志くんから手紙が来た。昨年、京都大学の修士課程を修了し、出版社に勤めたが、すでにそこは辞めてしまったようだ。
     その手紙がなかなかオモシロイので、ご本人の了解を得て、「ざ・こもんず」読者のみなさまにご紹介したい。一緒に送られてきた私への「仕事の提案書」はワープロ打ちだが、この手紙は律儀に手書きである(それを私もリチギに入力し直した)。


    (以下引用)
     梅雨の気配も強まってまいりましたが、如何お過ごしで御座いましょうか。
     平素お世話になっております。手仕事文化研究家の伊藤です。先日の銀座での御会食ありがとうございました。
     私はその後、いろいろと作戦を練り、もうしばら

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  • 甲斐良治安達太良山麓に奇跡のむらを見た!(その2)

    2006-05-25 13:45  
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     このむらの水路にイワナがすんでいるということは、それだけそのエサとなる昆虫類が多いということでもある。その昆虫類が多いということは、山が豊かだということでもある。



     Gさんが、むらの入会権を解体し、法人格をもつ森林組合などの管理に移行することに反対したのは、そこに、天然林を伐採させ、スギ、ヒノキの単純林にしてしまおうとする国の意図を感じ取ったからでもある。養蜂家でもあるGさんは、年間を通してさまざまな木の花の咲く天然林があったほうが、ミツバチだけでなく、ほかの昆虫や鳥や獣にとってもよいことを知っていた。


     むらでは、Gさん宅のほかに入会林組合長さん宅、部落会長さん宅にお邪魔したが、どの家でもお茶請けはタラノメやウルイ、ミズなどの山菜類と漬物で、買ったものはほとんどなかった。山が豊かだということは、人の食卓も豊かだということだと思った。

     またむらの水路にイワナがすむということ
  • 甲斐良治:安達太良山麓に奇跡のむらを見た!(その1)

    2006-05-24 13:48  
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     前回の更新から10日以上がたってしまった。書きたいことはたくさんあったのだが、この間、いろいろなことがありすぎて、おおげさに言えば一種のトランス状態になり、あることを思いついた瞬間には、その数分前に考えていたことがもう思い出せないほどだった(たんに物忘れがひどくなっただけかもしれないが)。
     発端は、5月14日に福島県郡山市I集落の「堰上げ」行事に参加したこと。事前には誘ってくれた「あいあいネット」(いりあい・よりあい・まなびあいネットワーク)の案内で、
    1.年に一回の集落をあげての作業2.朝8時頃から、集落内のいくつかの堰にわかれて堰上げ3.そのとき魚を捕まえ、河原で焼いて宴会。2時過ぎに終了4.堰上げの後は夕方まで各世帯がそれぞれの田んぼに水を引き込む作業
     ということだけわかっていたが、実際に現場に行ってみると、驚きと興奮の連続だった。


     その集落は、新幹線郡山駅から車で1
  • 甲斐良治:結城登美雄さん講演会「おとなのための食育入門」のお誘い

    2006-05-12 13:54  
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     6月9日、東京・虎ノ門パストラルで結城登美雄さんの講演会が開催されます。
    ――おとなの食育。それは子どもたちの食育を他者にゆだねるのではなく、自らが食の主体になること。そのためには日本の食の現在がもつきわどさ、危うさを見すえることから出発したい。これまでのような「あさきゆめみし」日々の延長にではなく、もう一度、真摯に「食のいろは」から始めていきたい。断ち切られつつある食の環をつなぎ直し、できうれば土に近い場所で向い合いたい(結城登美雄「おとなのための食育入門」増刊現代農業2004年8月号『おとなのための食育入門 環を断ち切る食から環をつなぐ食へ』掲載より)。


     結城さんとはナニモノなのかを一言で表すのは困難きわまりないのですが、本人が名乗っているのは一応「民俗研究家・農業」。「東北のお地蔵さん」と呼ぶ人もいます。
     10数年前までは東北地方最大の広告代理店の経営者でしたが、思
  • 甲斐良治:風水土のしつらい展(大阪・札幌)

    2006-05-11 13:57  




    「灰に還り、灰から生まれる、森羅の回生へ。手仕事が生むアジアの生活は美しい」をテーマに、大阪(大丸梅田店)と札幌(大丸札幌店)で、「風水土のしつらい展」が開催されます。
     企画制作は私がひそかに「ジサマ・ビン・ラディン」と呼んで尊敬している今井俊博さん。

     日本におけるマーケティングの草分け的存在でありながら、「消費者とは生活の放棄者」と言い放ち、
    「明治以降の近代国家形成、とくに第二次大戦後のアメリカナイズのなかで、清潔という衛生概念、脂肪カロリー指向の栄養学、動物性蛋白質摂取(肉食)、 とくに、戦後の消費革命が消費者を無知にした」
    「20世紀は、石油―プラスチックの生活文化、そして今、石油の毒を消し、殺人光線(電磁波等)から解放されることが求められている」
    「モンスーンアジアに豊かな自然素材―これを材料化する技と文化には、発酵、熟成、灰による制御、ミネラルや微生物の活用がある
  • 甲斐良治:入会・総有・全員一致と「むらの弁証法」

    2006-05-09 13:59  
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     旅先で、ふるさとで、とんでもない「農の哲学者」に出会うことがある。昨年の夏、ふるさと・宮崎の高千穂で初めて出会った農家のSさんもその一人。友人の父親の四十九日法要で同席したのだが、私の仕事を聞きつけ、話しかけてきた。
    「あなたは、『むらの弁証法』をどう思っていなさるか?」
     法要の席でいきなりそんなことを聞かれるとは思っていなかったので、答えに窮していると、「私が、いま一番気にかかっているのは『むらの弁証法』の弱りです」と、続ける。いま75歳で、小学校を卒業するとすぐに農業に従事し、7年前までは出稼ぎをしていて「東京湾のアクアラインの工事にも行きました」というSさんの話を聞いていて、「困ったな。断片的な知識をつなぎ合わせてこんな席で議論を挑まれても……」というのが正直な気持ちだった。


     そのSさんと、今年の3月に宴席で再会することがあり、また話しかけられた。今度は「北海道の花崎皋