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ビュロ菊だより 第十八号 「菊地成孔の一週間」
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ビュロ菊だより 第十八号 「菊地成孔の一週間」

2013-02-19 09:00
  • 16

 

 菊地成孔の一週間~いよいよ花粉との戦いの火ぶたは斬って落とされた。「<ノマ猫騒動>でむかーし逮捕された人が実際に猫そっくりだった」という驚くべき事実とともに。そして前回、今まで1個か2個だった「いいね!」がいきなり12個も13個もつき、それが何故なのかマジで全く解らず(本当に)、自分に解る事と言えばミランダ・カーは大好きだけど、ミランダ・ジュライはぜんぜん好きじゃないという事だけ。の2月第3週~
 

2月11日(月曜

 今週からレギュラー仕事(WWDUOMOの連載、ペン大と美学校の授業、バンド3つ運営、粋な夜電波、ビュロー菊地チャンネル運営)に加え
 

1)    けもののレコーディング(に際する諸業務)

2)    HOT HOUSEの進行準備と興行準備

3)    ものんくるのプロダクツとプロモーション会議

4)    /1パリ公演のトータルディレクション

5)    ペン大の刷新(入学者と編入者の整理と、授業準備)
 

 という5つの非レギュラー仕事を、17日間で総てこなさないといけないので、時間やりくりが若干タイトになる。とはいえクリエイトは時間効率ではないので、寝ずに必死に働けば良い結果が出るという訳でもなく、それよりもクールかつ感受性豊かにいるよう心がけないといけない。
 

 とはいえ、なるべく、という程度ではあるが、もし自分が、少しでも時間の工面をするとなれば、まあ、毎夜のディナータイムを削る以外ない。という訳で、しばし料理店でゆっくり食事する事が出来なくなるし、ここしばらく新しい店の開拓にも行っていないので、「いつかチェック」のフォルダに入っていながら数年経ってしまっている店の中から「ヘイフンテラス」に行った。
 

 余程の食い道楽もしくはミシュランマニア(がっつり喰う派と、データだけ派がいる)でないと、名前だけでは何料理か解らないだろう。香港料理である。銀座にペニンシュラ東京が出来た際に、キラーコンテンツとして大いに期待されたが、ミシュラン受星1のまま今ひとつ評価が延びず、中庸で安定走行に入った感のある店である。
 

 自分の――あくまで――ミシュランマニア(喰う派)として。の立ち位置は「先ずは東京の受星中華をコンプ」という若干ツイストしたもので(以下、難しい漢字のコピペが面倒なのでカタカナ表気になるが)「センス」「レイカサイ」「チャイナブルー」「フウレイカ」「桃ノ木」に万遍なく通うことで、東京受星中華シーン全体のパースペクティヴは得ているつもりではある。しかし、あまりにツイストした立場であるが故の孤独には常に苛まれている。
 

 例えば「何故、2星でスタートしたレイカサイが一昨年から星を一つ落としたのか?」という考察をするとき、この5年で8回の来店客である自分の考えでは「調査員が、最初はトレビアンと大喜びしたここの奇抜なコンセプト――西太后が不老長寿の為に食べた古代宮廷料理の再現――に、徐々に疑問を感じ始めた」か、或は「最後に、クエやハタの唐揚げ甘酢と一緒に出す米の劣化――ここは、家庭用の電子ジャーで締めの米を炊いており、時間帯によっては、家庭と全く同じ米の劣化を見せる――にとうとう気づいた」以外に無いのだが、この意見をどう思うか話し合う相手すらいない。
 

 そして、そんな孤立無援の立場であれ、「何故かここだけは何となく手が出なかった(そういう事ってありますよね)」というのが、このヘイフンテラスだったのである。
 

 グルメエッセイは別コンテンツなので、いかにミシュラン中華マニアとて、ここでレストラン批評を延々と書くわけにはいかない。とはいえ、せっかくだから敢えてかいつまんで書く。料理店に興味が無いという方は翌日へどうぞ。翌日も料理店は出てくるが。
 

1)    あのペニンシュラの立地条件(最悪)の、しかも2Fなので、他の受星中華のような「ホテル最上階ウインドウビュー」「非常にモダンでエキゾチックな個室」といった、いかにもミシュラン好みの付加価値が無く

2)    つまり「デート用(ホイチョイ――ひとことファック――的に言えば「やれる店」)」という巨大な付加価値が見込めず

3)    質実剛健に、しかしクラス感は保たなければならないという二律背反を

4)    いわゆる「中国飯店式/聘珍楼式」のがっつりクラシコ宴席中華のマナーや、ごりごりの香港志向も導入した上で突破しないといけない。という流れの中で

5)    だからと言って北京ダックやフカヒレやアワビを大盤振る舞いする訳にも行かず(銀座にはフクリンモンを始め、その線の名店がごっそり)

6)    結果として、受星中華式のモダンな料理を、コース中心でなく(受星中華の料理は、あらゆる都合からフィクスの数種類コース中心――ほとんどが、下が6000円から上が3万5000円――に成らざるを得ない)、アラカルト中心にして回す。という類例のないキャラが出来上がり

7)    今の東京のマーケットのニーズと若干ズレてしまっているのだが

8)    受星はダテでもフロックでもない
 

 というのが、初回のみの判断である(1万5千円のコースと、ペニンシュラブランドのシャンパン、ペニンシュラブランドの赤ワイン、ペニンシュラブランドの鉱水、ペニンシュラブランドの花茶。因みに3人で行ったが、様子見の為にコースを選択。写真は――何と、来店して即というとんでもないタイミングのバッテリー切れで――撮れなかったが、料理5皿と菓子1と茶器ごとに50種類ぐらいから選べる茶)。
 

 その結果、「5~6人で行って、好きな食材(特にハタ。総て時価になるハタ料理は、調理法は書かれず、ナポレオンフィッシュから始まって、実に5種が並んでいて、香港以外でこんなにハタが並ぶ光景は初めて見た)を、好きなルセットで注文し、点心から締めの麺飯も含め、大量の品書きから一本釣りで選んでゆき、シェアしてガンガン喰いまくる」という、日本人客が最も苦手なアレに、最も実力を発揮する店。だと判断するに至った(臨席に中国人の大家族が居て、それをやっていた。ハタの時価分を多めに見積もったとしても、コスパ云々という話ではない)。
 

 コース内にあるハタはスナップエンドウと黄ニラとユリネの塩炒めで、衣揚げの甘酢を最上とする自分は煩悶を禁じ得なかったが、誰もが褒める締めの麺飯類のうち、今日食べた車海老と海老味噌の炒飯は、所謂タイ米で、車海老への火通しも、量の調整も、炒飯に入る甲殻類の扱いの中でも最上級であり、噂に違わぬハイクオリティだった(前菜に出た車海老の老酒蒸し――所謂「酔う海老」――も、和訳のなされていないゴリゴリの香港式→エグイぐらいの老酒の使い方。で、とても良かった。海老扱いがうまい店は信用に足るというのは鉄則である)。
 

という訳で、早くも
 

<今週の一番旨かった皿>
 

は、「ヘイフンテラスの車海老と海老味噌の炒飯」とする。写真が無いが(笑)、店のサイトとかにはあるかもしれない。

 と、この際せっかくだし、そもそもメルマガなのだからして実用性の側面も考慮しないといけないとするならば、「これを読んで受星中華に行きたくなったが、どこにすれば良いか?」という読者の皆様に、責任を持ってガイドを書こうと思う。
 

 
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