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「ソフィーの視線の外で綿密に組まれた『ハウルの動く城』の世界 1 」
“絵コンテ” と同じですね。
それに対してプロットというのは「全体の因果関係で並んでいるもの」です。
なので、物語世界の歴史順、時間順に並んでいるのがプロットで、そこに「これをどういう順番で見せるのか?」というのが含まれたものをストーリーだと思ってください。
「はるか昔、ナメック星の龍族の子供が親とはぐれて成長して、自分の中の良い部分が神、悪い部分がピッコロ大魔王になった。その後、宇宙を支配するフリーザが惑星ベジータを征服。その惑星ベジータから、異星征服のための刺客として送り込まれたのが、まだ赤ん坊だったカカロット、後の孫悟空であった」というのが『ドラゴンボール』のプロットとなります。
そうじゃなくて、「どういうふうに見せるのか?」というのがストーリーだと思ってください。
これが前半ですね。
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1. 地味な帽子屋ソフィーは、魔法使いハウルに会って一目惚れ
3. 掃除夫としてはたらくソフィー。
6. かつての恩師サリマンも荒れ地の魔女も怖いハウル。ソフィーに出頭を頼む。→呆れる
――――――
普通の宮崎アニメというのは、この次のDパートまでで終わるんです。
だけど、これを見てもわかる通り、Aパートが2行、Bパートが3行、Cパートが4行と、話が進むごとに語られる内容が多くなってくるんですよね。
さらに、この後にも、Dパート、Eパートまで続くんですけど、後半では、もっと展開が多くなってきて、こんな感じになるんですよ。
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【Dパート】
10. 怪物化し傷ついて帰宅するハウル。ソフィーの告白を拒否する。
15. ついにソフィーの街にも空襲。「逃げましょう」「守りたい」→ハウルのバカ!
――――――
普通、1カットにつき6秒くらいなのに、Aパートでは1カットが10秒以上ある。
鈴木敏夫さんがそれを追求したところ「しまった! Aパートでのソフィーはお婆ちゃんだから、ゆっくり動くんだ! だから俺、ゆっくり描いちゃった!」と(笑)。
結果、Aパートでは、もう取り返しがつかなくなったので、そのままの尺で使うことになり、前半では1カット当たりの秒数がすごく長くなったんです。
だから、物語の展開もゆっくりしてるんですね。
つまり、『ハウルの動く城』の展開が後半に行くに連れて早くなっちゃってるのは、「全体での1カットの平均時間を6秒に戻すために、1カットあたりの時間ががどんどん短くなったから」なんですね。
だから、後半に行くに連れてテンポアップするんです。
1. 隣の国、魔法使いが王国をつくる
王子が魔法使いだから、王家の人間が魔法を使えるという “魔法先進国” です。
これに対して、ソフィーの国は魔法と科学で対抗しました。
さっき言ったように『進撃』のマーレみたいな国なんですね。
どういう意味かというと――
よく見てみると、机の上には原稿のような紙の上に “文鎮” が置いてありますよね?
この戦艦の形をした文鎮には、ハウルの城についている砲台とか、ハウルが好きなものが全部付いている。
なので僕は最初、この文鎮はハウルの持ち物だと思っていたんですけど。
でも、ハウルはこの時、まだ10歳くらいの男の子なんですよ。
なので、こんな文鎮を持っているとは思えない。
そして、この絵コンテには、「机の上、書きかけの草稿」と書いてあります。
この “草稿” というのは何かというと「出版を予定しているけれど、まだ出版されていない原稿」のことです。
魔法使いだったハウルの叔父さんは、魔法の本の原稿を書いていたものの、出版する前に死んだんです。
だから「草稿」と書かれているんですね。
そして、誰が殺したのかというと、おそらくは隣の国の王家なんですよ。
理由は「魔法を文字にして出版しようとしたから」です。
そういうことをされると、自分たちの国の優位性がなくなるから、妨害工作として殺されたんでしょう。
その結果、ハウルというのは隣の国を憎むようになります。
でなければ、ハウルが誰を憎んでいて、誰と戦っているのかわからないんですよね。
「え? サリマン先生の敵なの? 味方なの? それとも隣の国の味方なの?」って、いったいハウルはどっちの国の味方なのかわからなくなるんです。
でも、よく見ると、ハウルというのは、誰彼構わず攻撃しているのがわかるんですよ。
これはなぜかというと、自分の叔父さんを殺した隣の国も憎いし、自分を縛ろうとしているサリマン先生も憎いから。
そんなふうに、周り全てが敵になっている状態なんですね。
ハウルのこういった内情は、まず「彼の叔父さんは、魔法書を書きかけて死んでしまった」という部分を押さえないと、ちょっと分かりにくいんですね。
これも映画本編には出てきてないんですけど、「ハウルの国の国王が隣国の魔法を警戒して、サリマンに王立魔法学校を作らせる」。
ハウルはここに入学します。
実は、星が落ちてきて、ハウルと互いの心臓を共有する契約を交わした時、過去に戻っていたソフィーは、ハウルとカルシファーに聞こえるように「ハウル! カルシファー! 私はソフィー! 必ず未来であなたに会う! 待ってて!」と呼びかけるんですね。
だから、劇中でも、カルシファーとハウルが、ソフィーの方にちゃんと目線送って見ている描写が入っているんですよ。
つまり、あの段階で、ソフィーもカルシファーとの契約の一部に入っている。
あの時、ソフィーが呼びかけたからこそ、カルシファーという名前がつけられたんだということを、宮崎駿はちゃんと描いてるんです。
だけど、こうやって順番で並べてくれていないから、なかなか分からないんですね。
ここから、サリマン先生のハウルに対する憎しみがわかるんですけど。
ハウルは、カルシファーと契約して力を得たことによって、王立魔法学校から逃げだしたんですね。
もちろん、サリマンさんは逃亡させないようにするんですけど、その結果、2人は戦うことになります。
その後のハウルとの確執とかを見るに、「ああ、ここの戦闘で、少なくともサリマン先生はそれくらいのダメージがあったんじゃないかな」という描写なんです。
そう考えると、全体のお話も繋がりやすいというふうに思います。
この時、持っている杖で顔の半分隠しながら喋るんです。
これは「悪役は顔を隠す」という法則の通りです。
サリマン先生って、悪どいことをしている時は、杖で見ている人間の視界を遮りながら話すんです。
まあ、あれには、たぶん杖を動かしながら、軽くソフィーに暗示の魔法をかけるという作用もあると思うんですけど、とにかく悪そうなんですね。
そんなサリマン先生なんですけど、彼女が車椅子に乗っているのは、おそらくハウルとの第1次戦闘の結果です。
「50年前、ある女生徒がサリマンの元から逃げて、荒地の魔女になる」。
そして、7番目、「サリマンのムスカ化」。
つまり、小姓を作ったり、人を犬にしたりと暴走を始めて、魔法を強化したり、反対に無力化する科学研究が、この国で進み始めます。
自分から「面白そうだ」と荒地の魔女に近づいて、怖くなって逃げます。
これによって、彼女の恨みを買うことになりますが、これ以後、ハウルは同様のことを女の子に対して繰り返しするようになります。
これを僕は “サラエボ事件” と書いているんですけど。
なので、サラエボ事件によってオーストリアの皇太子が襲われた結果、戦争が始まったように、劇中で起こっている戦争の直接的な引き金というのは、元々、サリマン主導によって起こされた、おそらくは当時最強の魔法使いの1人だった隣国の王子に呪いをかけて無力化する電撃作戦の一種だったんだと思います。
これが第一次大戦ですね。
サリマンは、ハウルの魔法力を取り戻そうとします。
この戦争について、物語のラストでハウルが戦う時に “国同士の総力戦” というのを見せているんです。
ハウルが空から下を見ると、兵隊たちが塹壕戦で戦っているのが見えるんですよね。
つまり、悪夢のようにいつまでも終らない国同士の総力戦、潰し合いの戦争である第一次大戦が、あそこで行われたのがわかります。
「指輪の導きで、ハウル、ソフィーと会う」。
これは、ハウルとソフィーが始めて出会うシーンのことなんですよ。
ソフィーが兵隊の兄ちゃんに誘われて困っているところへ、「やあ、待った?」ってハウルが出てくるんですけど。
この時、ハウルが伸ばした右手。
ソフィーの肩に掛けた指先で、指輪が赤く光っているんですね。
もう覚えてないくらいはるか昔に「私はソフィー! いつかあなたに会いに来る!」と言っていた女の子に、やっと出会えたという場面なんです。
だけどハウル自身は、それに全く気が付いてなくて、ただ単にナンパしてると思ってるんですね。
ただ、「この時、指輪だけがそれを知っていて光っている」ということで、それを見ている人に教えようとしているんです。
これね、コンテでも「指輪が赤く光る」って書いてあるだけなんですよ。
「え?!それってどういうこと?」「そこのところ、もっと詳しく知りたい!」という人は、どんどん、質問してみて下さい。
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