-
【岡田斗司夫のニコ生では言えない話】なんだこれなんだこれ!?難しいっつーのはこういうのをいうんだ!第43号
2013-07-29 07:00220pt初めて読んだSFを覚えてますか? 私はハインラインの『夏への扉』。でも全然ストーリー思い出せない“読書のミホ”です。 パート2は、いよいよ SFの黄金期、50年代に入っていきます。 SFを語る上で決してはずせない巨匠、現代の小説にも多大な影響を及ぼし続けている作品がどんどん登場します。 岡田斗司夫の脅威の記憶力と分析力を駆使して、“エヴァンゲリオン真っ青”の難解SFから、ミステリ仕立ての読みやすいSFまで、とびっきりのエッセンスをお届けします。 ―― 1950年でSF、ここまで来ちゃってるんですね。 次に紹介するのは、スタニスワフ・レムっていうポーランドの作家です。 一番有名な作品は『ソラリスの陽のもとに』。『惑星ソラリス』『ソラリス』ってタイトルで2回映画化されてます。 SFっていうとだいたいアメリカ人とかイギリス人が書いてるんですけども、ソ連人でも有名な作家はいるんですよ。でも、ソ連よりもさらにマイナーなポーランドで書いてる作家でですね。 ただ、スタニスワフ・レム一人がいるだけで“ポーランドSF”ってジャンルができてしまってるくらいすごい作家なんです。 この人は、ほかのSF作家と違って、 「宇宙空間にある地球人以外の文明や生命は徹底的に理解不可能である」 って前提に立ってるんですね。 『惑星ソラリス』では、ソラリスっていう星1つが丸々巨大な海なんです。周りに月が多いとかの重力場のおかげで、海の有機物自体が揺らされて揺らされて揺らされて巨大な細胞生物になってしまった。 つまり、海全体が1つの生命になってしまったんですね。だから人間よりもはるかに深く考えるし、はるかに長く考える。そいつが考えてることっていうのは、たぶん、ため息をつくだけでも1億年くらいかかる、僕らとは違う時間軸に生きてる生命なんです。 そういう、徹底的に理解できないところではなにが起こるのかわからないっていう、“理解できなさ”を書く作家です。 たぶんそれは、ポーランドという、ヨーロッパで最も古い王家であったのに、第二次大戦でまずドイツに真っ先に潰されて、戦争のきっかけになった国であり、冷戦の世界の中で、ソビエトの宣伝の道具にされたような不思議な運命を持った国のSF作家だから書けたと思うんですけども。 レムの『エデン』て作品。 地球の宇宙船がエデンという惑星に着陸するんですけども、そこには膨大な数の原住生物の死体だけがころがってるんですよ。調べたらものすごい数の文明の遺跡が見つかるんですね。たとえば、エデン人がすべて滅びてから1億年ぐらい経ってるのに未だに動いてる工場。その工場が何を作ってるのか、ものすごい高度なことをやってるのに、作ってるのが生命なのか機械なのかもわからないという描写が延々続くんですね。 この結構長い本は、ものすごい迫力で「なんだこれなんだこれなんだこれ!?」って、最後まで読んでもわからないで終わってるっていう。 エヴァンゲリオン真っ青の難解さ (会場笑)。『タイタンの 妖女』が難しかったという人は1回これ読んでみりゃいいや!と思ったんですよ。 難しいっつーのはこういうのをいうんだっていう(笑)SF作品です。 ――で、わかりやすいのが好きだったらアシモフ読んだらいいんですね。 アイザック・アシモフの『われはロボット』。短編集です。 ロボットが本当に人類の社会の中に入ってきたらっていう仮定なんですけども、アシモフがおもしろいのは、本業がミステリ作家なんですね。だからすべて推理モノなんです。ミステリのネタとしてロボットを使ってるだけなんですよ。 この中に出てくるルールは3つだけで、「 ロボット工学の三原則 」といいます。 これがものすごくうまくできてる! 未だに世界中のロボット学者が研究するときに、アシモフのこの「三原則」が使われてます。 幸いにして AIBOとかASIMOとかルンバとかのロボットたちはまだそれほど進化してないんですけど、 彼らが十分に進化して僕らに危害を及ぼすだけの能力を得たときには、おそらくこの「三原則」を、まるで生物の本能のように埋め込まなきゃいけないんですね。 で、アシモフは、その本能を埋め込まれたロボットたちと人間の関係を書いてるんです。ロボットという存在を、いきなり論理的でミステリのネタにしちゃったんですね。必ず「三原則」のどっかに穴があって、その矛盾に悩むことになってます。 ミステリだから、あんまりSF好きじゃない人も「このミステリ読める」って人多いんですね。 (……) アシモフ、ハインラインていうのを紹介したら、SFには“3大巨匠”とか“4人衆”みたいなのがいるんですよ。 やっぱり紹介しきゃいけないのが、映画「2001年宇宙の旅」の原作者アーサー・C・クラークです。 クラークの『地球幼年期の終わり』。 1950年代のある日、地球についに円盤が降りてきた話なんですね。 それまで、アメリカが先に月に行くかロシアが先に月に行くか宇宙競争が盛んで、両方とも情報封鎖して秘密にしてる。そしていよいよ明日、ロケットが打ち上げられる。 その前夜、いきなり空飛ぶ円盤が地球の上にドーンと現れる。まったく地球の科学では理解できないような反重力場を使ってフワーッと浮いている。 この瞬間、人類は「ああ、俺たちより上がいるんだ」。 で、この円盤、それから20年間、なんにも言わずに浮いてるだけなんですよ。(会場笑) 最初は「じつはソ連の秘密兵器じゃないか?」「アメリカの秘密兵器じゃないか?」と思ってたんですけど、1年2年経つうちにどんどん不安になって、局地戦が始まったり、やけくそになった国が核ミサイルを円盤に向けて飛ばしても、途中で力を失ってスッと消えてしまう。 そんな圧倒的な科学力の差を見せつけられて、地球人類が「もう俺たちあいつらに支配されてるんだ!」 いや何もしてないんですよ。宙に浮いてるだけなんですよ。地球じゅうの都市の空に。 それだけで地球人類は絶望してしまって、ようやっと戦争する気をなくして、平和に世界統一政府ができたその日の夜に、宇宙船のドアがギイッと開くんです。 中から降りてきた宇宙人は、伝説の悪魔とそっくりの姿をしてた。 「俺たちこんな姿してたから出てこれなかったんだけどね」っていうのが冒頭の1/4くらいのところで。(会場笑) こっから先、じゃあ彼らは何なのかっていう話がメインなんですよ。彼らはじつは誰かから遣わされた存在で。 その星の世界を見るっていうのが物語の後半の話です。 僕、ストーリー言ってますけど、まったくこんな話聞いても影響ないくらいおもしろいです!
1 / 1