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記事 5件
  • 鈴木邦男氏:日本会議は日本をどうしたいのか

    2016-06-29 23:00  
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    マル激!メールマガジン 2016年6月29日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第794回(2016年6月25日)日本会議は日本をどうしたいのかゲスト:鈴木邦男氏(一水会元会長・作家)────────────────────────────────────── 安倍首相は過去の選挙と同様に、この選挙をアベノミクス選挙と位置づけ、しきりとその継続を訴えているが、その一方で、依然として憲法改正に対する強い意欲を表明することも忘れていない。各紙の世論調査によると、6月22日に公示された参議院選挙で、与党自民党・公明党を中心とする改憲勢力が、憲法改正に必要な参院の3分の2を押さえる勢いだという。アベノミクスに目を奪われている間に、日本では右派の長年の野望だった憲法改正が、いよいよ手の届くところまで来ていると言っていいだろう。 安倍政権の右傾化路線の背後に、日本会議というロビー団体の影響力が働いていることが、次第に明らかになってきている。現に、第三次安倍改造内閣19人の閣僚のうち、日本会議国会議員懇談会のメンバーが12人いたことは既に知られている。もちろん安倍首相もそのメンバーだ。日本会議は、その前身の日本を守る国民会議と日本を守る会が統合して、1997年に設立された、いわゆる草の根保守の運動団体だ。関係する組織には神社本庁や明治神宮、靖国神社といった宗教関係の団体が多く、宗教右派に位置付けられる存在だが、関係団体の動員力や資金力をてこに、長年にわたって政治への働きかけを行ってきている。 政治団体一水会の元顧問で、かつて生長の家で現在の日本会議のメンバーらと活動を共にした経験を持つゲストの鈴木邦男氏は、日本会議の中心メンバーには有能な人物が多く、過去の経験から大衆運動のノウハウを心得ていると指摘する。それが日本会議の勢力の拡大につながっていると鈴木氏は言う。 しかし、日本会議の主張は歴史修正主義的な色彩が強く、近代民主主義の理念や前提と矛盾するものも多い。選択的夫婦別姓には強く反対し、国家や天皇を中心とする国体のためには個人の自由や権利を制限することも厭わない。その内容の過激さ故に、現在の日本会議の中心メンバーの多くが所属していた生長の家でさえ懸念を表明しているほどだ。 日本会議とは何者なのか。そこまで国政に影響力を持つようになった日本会議は、一体日本をどうしたいのか。安倍政権の下で着々と進む右傾化の背後にある日本会議という団体の実態と、彼らがそれだけ影響力を持つに至った歴史的な経緯や背景などを、日本会議の内情や日本の宗教右派の歴史に詳しい鈴木邦男氏と、日本会議を取材してきたジャーナリストの青木理、社会学者の宮台真司が議論した。++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・日本会議とはいかなる組織なのか・“イデオロギーは後からついてくる”という、左派に対するアドバンテージ・左右の激突がなくなり、残ったものは・保守がたどる当然の帰結としての日本会議+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■日本会議とはいかなる組織なのか
    青木: 今週は神保さんが出張中で不在のため、私、青木理が代役を務めさせていただきます。7月10日投開票の参院選が6月22日に公示され、選挙戦に入りました。憲法改正を考えると、自民、公明、おおさか維新で改選議席77くらいを取ってしまうと、参院でも改憲勢力が3分の2に達し、公明党さえうまく説得できれば憲法改正を発議できるようになります。各種の報道を見ていると、77議席を取るのは難しいという感じもしますが、このようなところも含め、まず今回の参院選について宮台さんはどうご覧になっていますか。
    宮台: マスメディアが言うように、改憲に必要な勢力を獲得できるのかどうか、ということが一番のポイントだと思います。しかし、従来の選挙とかなり違うところがある。要するに、自民党を支持している勢力というのは、前回の衆院選などを見ても全有権者の25%を切ったりしているにもかかわらず、大規模に議席を取るのです。その背景として、もちろん小選挙区制度もありますが、野党が分立した状態で、特に現民進党の失敗があり、基本的に単独の野党でそれなりの票を獲得することがあり得なくなっている。つまり非常に消極的でぼんやりとした自民党支持を背景にしています。実際に個々の票が持つ意味の軽さと、場合によっては選挙結果が持つ意味の重さの間に、非常にアンバランスがあるということが、今回の選挙の影のポイントでしょう。
    青木: 今回は、この憲法改正問題の背後にあると言われて昨今話題になっている、日本会議という組織について議論していきたいと思います。僕は7月11日に『日本会議の正体』(平凡社)という本を出すのですが、突貫工事でいろんな関係者を取材してきました。ゲストとして、実は日本会議に肉体的に一番詳しいのはこの方じゃないかと思います、作家で政治活動家、評論家でもいらっしゃる鈴木邦男さんをお招きしました。 まず、日本会議について簡単に紹介すると、日本最大の右派組織であり、安倍政権を牛耳っている存在だとまで言われています。外国のメディアはかなり早い段階で「危険じゃないか」と書いており、特に、第二次安倍政権が発足した際に、閣僚の7割くらいを日本会議国会議員懇談会――つまり、日本会議の議員連盟に加盟している議員が占めていたことを問題視しました。英エコノミスト誌は「日本会議は、ナショナリストの要求をとりそろえている、日本でも有数の圧力団体だ」とし、米ニューヨーク・タイムズ紙は「日本会議は日本最大のナショナリスト団体で戦後体制を拒否し、天皇制を崇拝し、日本が先の大戦中にアジアで行ってきたことを正当化している」と書いています。調べてみると、申し上げたように「安倍政権を牛耳っている」とか、また「乗っ取られている」ということも書かれていました。しかし、日本のメディアはほとんど書かなかった。最近、朝日新聞が日本会議研究というものを始めましたが、これもようやくということです。 まず宮台さんは、日本会議というものをどうご覧になっていますか。
     

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  • 斎藤環氏:18歳選挙権で試される日本の成熟度

    2016-06-22 23:00  
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    マル激!メールマガジン 2016年6月22日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第793回(2016年6月18日)18歳選挙権で試される日本の成熟度ゲスト:斎藤環氏(精神科医・筑波大学医学医療系教授)────────────────────────────────────── 精神科医の斎藤環氏は、選挙年齢の18歳への引き下げに反対している。大勢の引きこもりの若者を診てきた経験から、日本社会に若者の成熟や自立を支える準備ができていないと考えているからだ。 6月19日に改正公職選挙法が施行され、選挙権を与えられる年齢が18歳に引き下げられた。7月10日に投票が見込まれている参議院議員選挙は、18歳選挙権が実施される初の国政選挙となり、今回の引き下げで、全有権者の約2%に相当する約240万人の若者が新たに選挙権を手にすることになる。世の大人たちは、選挙年齢の引き下げによって若者の政治への参加意識が高まり、責任感も増すのではないかと、おおむね肯定的のようだ。また、欧米諸国で18歳から投票権を与えていることも、今回の制度改正を支持する理由になっている。 しかし、若者の自立や成熟を支援する制度を強化することなく、単に選挙年齢を下げれば自動的に若者の自立や政治参加が進むと考えるのは、「根拠がない」と斎藤氏は言う。選挙年齢を下げれば、次は成人年齢を18歳に引き下げようという議論になることは必至だ。それは現行制度の下では保護の対象となっている18歳、19歳の若者を大人として扱い、年金や社会保障費や刑事罰で大人と同等の義務や責任を負わせることを意味する。 そもそも今回の選挙年齢の引き下げは、憲法改正のための国民投票の対象年齢を18歳としたことに合わせるためだった。これは憲法改正を目指す自民党が、若年層が憲法改正に前向きであることを意識したためであると考えられている。選挙年齢がそのような「不純な動機」で引き下げられる一方で、若者の引きこもりは深刻の度合いを増していると斎藤氏は言う。多くの若者が、携帯電話やSNSによって繋がる友人関係から外れまいと、過剰なプレッシャーに耐えている。そのプレッシャーに耐えられなかったり、そこから外れてしまった若者の多くが、不登校や引きこもりなどの手段によって自己防衛に走る。その数は正確にはわからないが、人口の5%~10%に及ぶとの推計もあると、斎藤氏は言う。 このような引きこもりの問題も解決できない日本が、選挙年齢を引き下げて18歳の若者を成人として扱い、一人前の責任を求めるようになれば、今以上に多くの若者が社会から隔絶されてしまう恐れがある。今日本が優先的に考えなければならないことは、若者の責任を増やすことではなく、自立を支援する体制を強化することではないかと斎藤氏は語る。 選挙年齢の引き下げは妥当なのか。18歳に選挙権を与え、これを大人として扱うだけの体制が日本の社会にできているのか。成人年齢の引き下げ論議や、社会的弱者としての若者対策の現状などを参照しながら、ゲストの斎藤環氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・選挙権、成人年齢の引き下げは、権利ではなく義務の拡充だ・弱者対策を家庭に押しつける日本・若者はなぜ引きこもるのか・義務の押し付けより、排除された若者のサポートを+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■選挙権、成人年齢の引き下げは、権利ではなく義務の拡充だ
    神保: 6月19日の改正公職選挙法施行で、国政選挙では今回の参院選より18歳から選挙権が認められるようになりました。この18歳選挙権と日本の現状、というのは非常に面白い論点だと考え、テーマに設定したのですが、宮台さん、最初にポイントはありますか。
    宮台: 今度の選挙は安倍を選ぶか、9条護憲を選ぶか、みたいな構図になっており、反安倍勢力は争点隠しを問題化しています。僕は安倍さんはよくないと思うけれど、9条護憲という立場にも反対です。マル激でも沖縄論のなかでずっと議論してきましたが、いざというときにどこかから暴力を調達しなければならず、結局アメリカの暴力に依存することになる。そのためにはアメリカの侵略戦争や、米軍基地が沖縄にあるということも容認するという、非常にでたらめなエゴイズムに基づいています。憲法改正にはもともと2つの方向性があり、つまりアメリカの暴力にすがり、侵略戦争にもついていくしかないようなものか、アメリカの暴力を当てにしないで前に進んでいけるようなものなのか、と問うてきましたが、誰も聴かなかったでしょう。最近、小林よしのりさんが漫画でそのことを主張しているけれど、やはりみんな聞かない。マッカーサーは「日本は、まだ12歳の少年だ」と言いましたが、僕たちは今、何歳になっているのでしょうか。
    神保: 後退している可能性ありますね。
    宮台: ただでさえ大人が幼児化しているなかで、選挙権に関する議論がどういう意味を持つか考えていただきたい。
    神保: むしろ選挙年齢を上げろ、という議論があってもおかしくありませんね。さて、選挙権の引き下げは政治とのかかわり方を根本的に考える上で全面的にいいことだと言われてきましたし、僕もそれを真に受けている部分がありましたので、今回は考えさせられるところがありました。ゲストをご紹介します。精神科医で、筑波大学医学医療系教授の斎藤環さんです。斎藤さんは、基本的に18歳選挙権には反対の立場を表明されており、明確に反対という人は初めて見ました。
    斎藤: 確かに、他にいないですね。
     

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  • 会田弘継氏:米大統領選で右も左も大混乱なわけ

    2016-06-15 23:00  
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    マル激!メールマガジン 2016年6月15日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第792回(2016年6月11日)米大統領選で右も左も大混乱なわけゲスト:会田弘継氏(青山学院大学教授・ジャーナリスト)────────────────────────────────────── アメリカ大統領選はヒラリー・クリントンが民主党の候補者に指名されることが確実となり、11月の本戦で共和党候補のドナルド・トランプと大統領の座をかけて争うことが事実上決まった。 アメリカの政治は前代未聞の異常事態に陥っている。共和党では政治経験など皆無の不動産王が、暴言を繰り返しながら、名だたる党のエスタブリッシュメント候補を完膚なきまでに打ち破ってしまった。もう一方の民主党も、知名度も経歴も非の打ち所の無いと思われた大本命が、昨日まで民主党員でもなかった老政治家に、ぎりぎりのところまで追い込まれた。二大政党が同時に崩壊の縁に立たされているといっても過言ではない。 アメリカに何が起きているのか。アメリカの思想史を長年ウォッチしてきたジャーナリストで青山学院大学教授の会田弘継氏は、トランプやサンダース躍進の背景にアメリカ社会に鬱積した不満や不安の存在を指摘する。グローバル化が進む中でアメリカの豊かさの代名詞だった「分厚い中間層」が崩壊し、その多くは、低所得層へと没落した。彼らの多くは既存の政治勢力に強い絶望感を抱いている。中でもプアホワイトと呼ばれる白人の低所得層は怒りの矛先を移民や少数民族に仕向けるトランプの支持に回り、多額の学費ローンを抱え、満足な仕事に就くことができない若者はウォールストリートや富裕層批判を強めるサンダースの下に参集した。そうした政治的変動が、今回の大統領選挙の予備選で既成政党に対する反発と反体制派候補への支持という形で顕著になったのだという。 アメリカではもはや保守派が社会を保守できず、リベラル派は再分配を通じた公平の実現が困難になっている。そしてそれは、決してアメリカに限ったことではない。アメリカの大統領選挙の異常事態は、保守とリベラルという従来の政治的な棲み分けが、世界的に困難になっていることの反映と見ることができる。 アメリカの大統領選で表面化した政治的な混乱は何を意味しているのか。保守とリベラルという伝統的な仕分けが成り立たなくなった世界で、何が新たな対立軸となり得るのか。トランプ、サンダース躍進から見えてくる世界の新たな政治的潮流の正体を、ゲストの会田弘継氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
     ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・あらためて振り返る、トランプ快進撃の理由・なぜ、右も左も大混乱なのか・“下”への憤りがトランプ支持、“上”への憤りがサンダース支持へ・同様の問題を抱える日本に、処方箋はあるか+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■あらためて振り返る、トランプ快進撃の理由
    神保: 今週は米大統領選で、民主党ヒラリー・クリントンVS共和党ドナルド・トランプが確定した週になりました。右(保守派)も左(リベラル派)も大混乱で、一体何が起きているのか、その背景には何があるのか、ということを見ていくのが今回の趣旨になります。宮台さん、最初に何かありますか?
    宮台: イギリスではあと2週間も待たずしてEUを離脱するかしないかの国民投票(6月23日)が行われるのですが、これも面白い分断があります。そして、イギリスでは、アメリカで「プアホワイト」と呼ばれているような層と重なる人々が、圧倒的に離脱派なんです。つまりEUに入っているということは、グローバル化に身を晒すことであり、それにより自分たちの職が奪われたと、彼らは感じている。報道によれば、4ポイントほど離脱派が勝っている。
    神保: イギリスがEUを離脱するかもしれない。
    宮台: これはすごいことです。いずれにしても、イギリスを見ても、もう「保守だ」「革新だ」みたいな話とはまったく違った展開になっています。首相のキャメロンは「もしEU離脱なんてことをしたら、全く未知の不確定なカオスに突っ込むことになる」としていますが、アメリカのトランプ現象に似ていませんか。アメリカもイギリスも、「そんな不透明な領域に入っていいのか?! もういいよ!」みたいな状況です(笑)。
     

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  • 今福龍太氏:ビジネスに乗っ取られた五輪が破壊するスポーツの醍醐味

    2016-06-08 23:00  
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    マル激!メールマガジン 2016年6月8日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第791回(2016年6月4日)ビジネスに乗っ取られた五輪が破壊するスポーツの醍醐味ゲスト:今福龍太氏(東京外国語大学大学院教授・文化人類学者)────────────────────────────────────── 東京オリンピックの招致に少なくとも2億円の裏金がコンサルティング料の名目で使われていたことが、英・ガーディアン紙のスクープで明らかになった。ところが、当時の招致委員会の理事長だった竹田恒和現JOC会長は国会で、「極めて一般的なこと」と、裏金に対する批判を一蹴した。招致に億単位の裏金が飛び交うのが当たり前という五輪というのは、一体どういう世界なのだろうか。 IOC(国際オリンピック委員会)では、過去にも大会の招致をめぐり過剰な接待や裏金による不正が行われてきたことが批判を受けてきた。何億、何十億という裏金を使い、場合によっては贈収賄など法律に触れる危険を犯してでも招致する価値があるほど、五輪は一部の人たちにとっては旨味のあるビジネスになっているようだ。 東京外国語大学大学院教授で、文化人類学者の今福龍太氏は、オリンピックが商業主義に乗っ取られる原因の一つとして、オリンピックという存在やその仕組みが、もはや21世紀の社会構造に合わなくなってきていると指摘する。 20世紀、国家の代表が国際舞台で競い、世界中に興奮をもたらすことで国威発揚にフルに利用されたオリンピックは、冷戦や大国間のイデオロギー対立が消滅した今日、過剰なまでの商業化によって、巨大な利権が動く一大ビジネスの舞台となっている。 しかし、過剰な商業化の最大の弊害は、それがスポーツ本来の身体的な神秘性や競技の持つカオティック(無秩序)な一面を排除する方向に向かっていることだろうと、今福氏は言う。商業化が進むと、超人的な要素はビジネスが最も忌避する偶発性に依存しているが故に、その醍醐味がスポーツから排除される方向にあると今福氏は言う。 試合時間はテレビの放映時間内に収まる必要があり、個々の超人的なプレーよりも国旗を背負ったナショナルチームの勝利が何よりも優先される。単なる勝敗よりも美技や超人的な肉体性が見たいダイ・ハードなファンは存在するが、大衆の動員が不可欠となるビッグビジネスでは、そのような少数派マニアの要求に応えている暇はない。 東京オリンピックの招致活動をめぐる一連の不祥事が、われわれに突きつけたスポーツの裏の顔について、広告代理店やメディアの影響などを参照しながら、ゲストの今福龍太氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・近代オリンピックが抱えるパラドクス・「中立・平等・アマチュアリズム」の崩壊と、勝利至上主義・合理化と監視システムの導入で、スポーツから失われるもの・カオスを受け入れられない、人々の劣化+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■近代オリンピックが抱えるパラドクス
    神保: 今回は東京五輪招致にかかわる裏金問題から、議論を展開したいと思います。単なる疑惑ではなく、実際にフランスでは検察による捜査が行われています。日本でも当時の招致委員会の理事長だった竹田恒和現JOC会長が国会に呼ばれて、お金のやり取りがあったこと自体は認めました。ただ、それは正当なコンサルタント料である、という趣旨の説明だったようです。 どうも、スポーツは完全にお金に乗っ取られているように見えます。なぜそうなったのか、それによりわれわれは何を失っているのか、ということを考えていきましょう。
     

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  • 高原孝生氏:「核なき世界」の実現を阻むもの

    2016-06-01 23:30  
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    マル激!メールマガジン 2016年6月1日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第790回(2016年5月28日)「核なき世界」の実現を阻むものゲスト:高原孝生氏(明治学院大学国際学部教授)────────────────────────────────────── なぜ「核なき世界」の実現が、そんなにも難しいのだろうか。 アメリカのオバマ大統領が、現職の大統領として初めて被爆地の広島を訪問して、改めて「核なき世界」の実現を訴えた。人類史上初めて核兵器を使用した国の指導者による被爆地の訪問は、歴史的な出来事として、世界に向けて大きく報じられた。 しかし、「核なき世界」への歩みは遅々として進んでいない。今回のオバマの広島訪問について、明治学院大学国際学部教授で軍縮問題に詳しいゲストの高原孝生氏は、世界で唯一核兵器を使用したアメリカの大統領が公式に訪問した意義を評価しつつも、プラハ演説以降、オバマ政権は核廃絶に向けてほとんど何もしていないと、厳しい見方を示す。 世界には依然として1万5000発以上の核弾頭が存在し、その9割以上をアメリカとロシアが保有している。プラハ演説以来、アメリカが核なき世界に向けた具体的な行動を取る機会はいくらでもあったが、医療保険改革やイラク戦争の後処理を抱えたオバマ政権では、核廃絶が必ずしも優先順位の高い政策とは位置づけられていなかったと高原氏は残念がる。 アメリカは圧倒的な通常兵器を保有するため、保有する核兵器を一方的に削減しても、安全保障上の問題が生じない唯一の国と言っても過言ではない。そのアメリカが率先して核兵器の削減を行わない限り、他国に対して核の削減を訴えることは難しい。実際、アメリカは包括的核実験禁止条約(CTBT)すら、いまだに批准していないなど、世界における核兵器廃絶のリーダーとは到底言えない状態だ。 世界では核兵器禁止条約の制定に向けた地道な努力も続いているが、既に120カ国以上が同条約に賛成の立場を表明しているものの、核保有国は議論にも参加してないために、条約発効の目途は立っていない。そうした中にあって、唯一の被爆国である日本は、世界の核廃絶運動を牽引していると思いたいところだが、残念ながらアメリカの核の傘に依存しているため、まったく指導的な役割は果たせていない。 なぜ核兵器の廃止は一向に進まないのか。核廃絶が進まないことで、世界にはどのようなリスクが生じているのか。アメリカの責任や日本の対応など、「核なき世界」の実現の前に立ちはだかる諸課題について、ゲストの高原孝生氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・オバマの広島訪問をどう評価するか・世界を“オーバーキル”する量の核兵器が溢れている理由・核兵器廃絶のプロセスと、その課題とは・核廃絶に向けて、日本にできること/すべきことは多い+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■オバマの広島訪問をどう評価するか
    神保: マル激は金曜日の夜に収録しており、今回は直前にオバマ米大統領の広島訪問の様子をテレビで観ました。議論に入る前に、宮台さんは今回の歴史的な訪問をどうご覧になりましたか。
    宮台: いろいろな面から語れますが、オバマ大統領自身のコミットメントがなければ実現しなかった、ということが非常に重要です。彼は演説で「自分の生きている間には核兵器がなくならないかもしれないが、核廃絶に向けて行動することが大事なのだ」と訴えた。抽象的に言えば、現実は現実として、その一方で理想や価値を手放さないことが大事だと言うことです。また、「恐怖」と「勇気」という言葉で「感情なのか理性に基づく意思なのか」という二項図式を示してもいる。僕はやはり、こういうスピーチを日本の首脳、政治家から聞きたいと思いました。比較して、安倍さんのスピーチは非常にみすぼらしいものだった。その意味では、もともと日本が持っている外交的なリソースは何だったのか、ということを考えさせる力すら、オバマさんのスピーチにはありましたね。
     

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