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記事 4件
  • 小黒一正氏:軽減税率なんてやってる場合ですか

    2016-01-27 22:30  
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    マル激!メールマガジン 2016年1月27日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第772回(2016年1月23日)軽減税率なんてやってる場合ですかゲスト:小黒一正氏(法政大学経済学部教授)────────────────────────────────────── 日本は軽減税率とかやっている場合なのだろうか。 1月12日に成立した今年度の補正予算では、中小企業が軽減税率に対応するための相談窓口設置などの費用として170億円が計上された。さらに安倍首相は1月22日の施政方針演説で、2017年4月の消費税率の10%への引き上げと、その際に酒類と外食を除く食品については増税の対象とはしない意向を明言した。政府は本気で軽減税率を導入する気のようだ。 元々「軽減税率」が導入されることの根拠は、消費税の逆進性の緩和だった。しかし、法政大学教授で経済学者の小黒一正氏は、軽減税率では消費税の逆進性は緩和されないと指摘する。特に食品に対する税率の据え置きでは、むしろ低所得者より高所得者を利することになり、低所得層救済の目的とは逆行するという。 そもそも日本の財政は、軽減税率などと言っている場合ではない。内閣府が発表した「中長期の経済財政に関する試算」では、政府が目指す2020年の基礎的財政収支は、軽減税率の導入によって当初予定を3000億円上回り、6.5兆円の赤字となるという。しかも、これは実質2%以上の経済成長が続き、税収が大幅に増えることを前提としたバラ色の試算だ。 ここまでは1600兆円とも言われる個人金融資産を持つ日本人が国債を買い支えてきたために、まだ日本は危機的な状況には陥らずに済んでいる。しかし小黒氏は、現在のペースで借金が増え続ければ、単純計算でも10年程度で政府の借金が日本人の金融資産を上回り、国債の買い手がつかなくなる可能性が高いという。 現在の日本の政治状況では、負担増も福祉の削減も非常に難しい。それは過去の日本の政治が、高度成長の果実を国民にばらまくことで「ポリティカル・キャピタル(=政治的資産)」を稼ぎながら、少しずつ国民に不人気な政策を受け入れさせるというバーター取引の形態をとってきたからだと小黒氏は言う。取引の材料がなくなった今、政府は未来に借金を付け回すことで政治的資産を稼ぎ、それを安保法制や憲法改正といった必ずしも絶大な支持を受けていない政策の実現のために消費している状態と見ることができる われわれはいつまで未来世代に借金のつけ回すことで、政権による政治資産稼ぎを許すのか。軽減税率導入の問題を入り口に、日本の財政の危機的状況や各国の国民負担の現状、未来世代へのつけ回しで問われる現役世代のモラルの問題を議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・日本経済に迫る本当の危機と、楽観説が蔓延する理由・軽減税率導入を阻止すべき理由とは・消費増税の景気への影響は、それほど大きくない・注目すべき「特例公債」の行方+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■日本経済に迫る本当の危機と、楽観説が蔓延する理由
    神保: 甘利明・経済財政担当相の金銭スキャンダルがニュースを賑わせていますが、これにかき消されるような形で、本当に重要な問題に手がつかず、あるいは逆行してしまっているような状況です。
    宮台: 基本的に政治は社会を観察しながら動くのですが、その政治システムが社会を観察できていない、あるいは観察した結果を行動につなげることができない状態になっているので、社会の動きと政治の動きの間に何の整合性もないように感じられます。別の角度から言えば、それは民主主義がほとんど機能していないということでもある。民意がお門違いなところに反応するので、それに呼応するような政治を行うことで票が集まったりします。その意味で言えば、やはり政治を支える人々が自分たちの社会をモニタリングできていない、ということでしょう。
     

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  • 上村達男氏:不祥事続きのNHKの根底に横たわる日本の病理

    2016-01-20 23:00  
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    マル激!メールマガジン 2016年1月20日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第771回(2016年1月16日)不祥事続きのNHKの根底に横たわる日本の病理ゲスト:上村達男氏(早稲田大学法学部教授・元NHK経営委員)────────────────────────────────────── NHKがおかしい。1月10日には現役のアナウンサーが、危険ドラッグ所持で逮捕され、新年早々、籾井勝人会長が衆院予算委員会で陳謝する事態となった。既に今年に入ってから子会社「NHKアイテック」で架空発注による500万円の着服が明らかになっているが、昨年同社ではカラ出張や架空発注などで2億円を超える着服が発覚したばかりだった。 インターネットの登場で既存のメディアが軒並み苦戦を強いられる中、潤沢な受信料収入で独り勝ち状態にあるわれわれの公共放送局に、今、一体何が起きているのか。 コーポレートガバナンスの専門家で、昨年2月までNHK経営委員会の委員長代行としてNHKの経営にかかわってきた早稲田大学法学部教授の上村達男氏は、NHKはトップにある籾井会長が問題発言や不祥事を起こしても責任を取らないために、組織としてガバナンスの危機に陥っていると指摘する。 上村氏によると、そもそもガバナンスとは組織の正当性を意味する言葉で、突き詰めていけば社内に向けてトップが権力を行使する際の正統性の有無を意味している。明らかにそれをはき違えている人物が、NHKのトップの座に居座っていることが、不祥事が起きやすい体質を生んでいると上村氏は指摘する。 会長に権力が集中する一方で、内部統制は甘い制度になっている。またこれだけ影響力のある企業には、通常、監督官庁にも一定の監督権限が与えられているが、NHKは言論機関であるという理由からその権限は限定的だ。そのためいざトップが暴走を始めたり内部統制が崩れると、それを修正する機能が働きにくいという構造上の欠陥がある。 そのような欠陥を内包しながらも、これまでは国会が全会一致の原則を守り、社員一人ひとりの自律的な公共意識もある程度機能していたため、NHKは何とか公共放送としての一定の信頼と評価を得ることができていた。しかし、安倍政権の下で、数々の不文律が破られた上、その結果として深刻な資質上の問題を抱える会長が相次ぐ不祥事にもかかわらず会長の座に居座り、権勢を振るい続けるという異常事態となり、ついに内部統制が崩壊する事態に至ってしまった。 NHK問題を通じて見えてくる公共放送のあり方や、そこから見えてくる日本の現状について、ゲストの上村達男氏とともに、神保哲生と宮台真司が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・NHKは「上から腐ってきている」・会長人事で揺らぐ、経営権の正統性・NHKの不可解な経営体制・われわれが公共性を取り戻すために+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■NHKは「上から腐ってきている」
    神保: 今回はNHKの問題を取り上げます。直近では、NHKで現在出演中のアナウンサーが危険ドラッグ所持の疑いで逮捕されました。そう言っている間にも、タクシー券の使用流用という報道もあり、不祥事が頻発している。その一方で、籾井勝人会長はまだ辞任されていないのです。「政府が右と言うことを左というわけにはいかない」と就任で言ってから、あれだけ問題になっても普通に居座っている。 このような状態でNHKがガバナンスを維持することができるのか。やはり、NHKの問題というのは、いち法人の問題とは違います。少なくとも、TBS問題やテレビ朝日問題、朝日新聞問題などとは違う。この問題をわれわれはどう受け止めればいいのか。
     

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  • 平川克美氏:経済成長だけでは幸せにはなれない

    2016-01-13 23:00  
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    マル激!メールマガジン 2016年1月13日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第770回(2016年1月9日)経済成長だけでは幸せにはなれないゲスト:平川克美氏(立教大学大学院特任教授)────────────────────────────────────── 2016年、マル激は「前提を問い直す=why not?」を年間のテーマに据え、社会が回るための前提を継続的に再確認してみたい。 その第一弾として新年最初の収録では、「小商いのすすめ」や「消費をやめる」などの著作を通じて、成長一辺倒の資本主義の病理を問い続けてきた平川克美氏を迎え、なぜ先進国では経済成長が真の豊かさをもたらすことができなくなっているのかを議論した。 ここ数年、日本経済は安倍政権の下、アベノミクスを通してデフレ脱却を目指してきた。アベノミクスに対する評価は分かれるが、金融緩和による円安効果や原油安の助けもあり、その間、株価は上昇。大手企業の業績も改善を見せるなど、少なくとも数字上アベノミクスは一定の成果をあげてきたと言われる。しかし、その一方で、われわれの多くが、景気の上昇はもとより、豊かさや幸福感さえ実感できないでいるのも事実だ。 平川氏は高度成長期から安定成長期への移行期に日本では大きな価値の転換が起きたと指摘する。「心」から「物」へと主導権が移行したのだ。高度成長期はわれわれは生きるために働いた。しかし、その報酬としての豊かさを享受したことで、われわれの働く目的が、好きなものを買ったり、余暇を楽しんだりする「消費」のためのものへと変わった。 生活と労働が一体だった時代は、生活のモラルがそのまま労働にも持ち込まれた。真面目に働くことが、そのまま真面目に生きていることの証だった。しかし、消費中心の経済の下では、欲望の拡大再生産が必要となる。しかし、物の消費をどれだけ繰り返しても、より大きな豊かさや幸せが得られるわけではない。 戦後一貫した追求してきた経済成長が、もはや豊かさをもたらさないとしたら、これからの日本は何を目標にして進んでいけばいいのだろうか。平川氏は、日本は経済の規模を無理やり成長させなくても、社会を上手く回して循環させていくことで安定的な豊かさを享受できるような、「定常経済」のモデルを導入すべき時期に来ていると言う。定常状態とは、経済規模自体の拡大を目標とはしないが、世代交代や資本の更新を続けながら、新陳代謝を繰り返しつつ安定的に推移していく経済のことだ。 「物」を中心とする規模の拡大から、倫理や心を重んじる新しい経済システムへ移行するための処方箋を、ゲストの平川克美氏とともに、神保哲生と宮台真司が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・GDPは“豊かさ”を意味しない・「株式会社」は死んだ・古くから予見されていた、現在の定常経済・「うまく生きる」のではなく「まともに生きる」+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■GDPは“豊かさ”を意味しない
    神保: 2016年を考えるにあたって、マル激ではこのような言葉を考えました。
    ///////////////////////////////////////////前提を問い直す→Why Not?///////////////////////////////////////////
    神保: これは宮台さんと議論を進めてきて思うようになったことです。つまり、いろいろと前提が間違っているのではないか。あるいは所与のものと思われているものの前提が変わっているのに、同じようなことをやろうとして失敗しているのではないか。資本主義や民主主義といった大きな話もそうですが、これまではあえて前提を問わないでもいい、条件のいい時代が続いていたけれど、実は条件が変わっているのに、変わらない前提に乗っかったままボケている、ということがあるように見えます。そして、自分なりにそれを発展させると、「Why」を問うのはすごく大事なのだけれども、「Why Not」=「そうじゃなくてもいいじゃないか」ということが重要だと思うのです。ロバート・ケネディが1968年のカンザス州立大学でのスピーチで、「Why Not」を問うたことは有名です。実際は、バーナード・ショーの戯曲からの引用だったようですが、それを少し思い出しました。今年はそのようにして、いろいろな大きな前提を問い直す年として据えてみたいと思っています。宮台さん、最初に何かありますでしょうか。
     

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  • 小幡績氏、萱野稔人氏:2016年、われわれを待ちうけているもの

    2016-01-06 23:45  
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    マル激!メールマガジン 2016年1月6日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第769回(2016年1月2日)2016年、われわれを待ちうけているものゲスト:小幡績氏(慶應義塾大学大学院准教授)、萱野稔人氏(津田塾大学学芸学部教授)────────────────────────────────────── 前年から引きずってきた難しい世界の情勢は、今年もますます難しくなりそうだ。 2016年最初のマル激はこの番組ではお馴染みの経済学者・小幡績氏と哲学者・萱野稔人氏を招き、今年1年、日本と世界がどこに向かっていくのかについて考えてみた。 今年2016年はオリンピック・イヤーであり、アメリカの大統領選挙の年でもある。今回の大統領選挙はオバマ大統領の2期8年の任期満了を受けての選挙となるため、新しい大統領が誕生する。そして、日本では5月に伊勢志摩サミットが、7月に参院選挙が予定される。政治的には非常に盛りだくさんの年だ。 世の中を大きく変えるチャンスの年となるはずだが、実際は重苦しい空気が拭い切れない。安倍政権が2017年4月の実行を公約した消費税増税の凍結を問う形でダブル選挙に打って出て、衆参両院で与党が大勝する可能性が高いからだ。それにもかかわらず、野党はいまだに足並みが揃わない。メディアは新聞が軽減税率という餌に食いついてしまったために、増税凍結を批判することが難しい。このままダブル選挙に突入すれば、野党協力もメディアのチェックもないところで、不戦勝に近い形で与党が大勝する可能性が極めて高い。  国外に目を転じると、経済面でも軍事面でもアメリカの影響力の凋落ぶりがより顕著になってきた。当面は中国の、そしていずれはそれにインドが加わる形で、世界の覇権の軸が大きく動き始めていることはもはや否定のしようがない。そうした中にあって、日本は今のところ、影響力が低下しているアメリカを軍事的・経済的に補完することで、中国と対峙し、国際社会における自らの地位を確保する外交路線を選択している。これについて萱野氏は、第二次大戦で日本は、ドイツが連合国に勝つと考え、ドイツ側に付いた結果、国民に大変な災禍を招くこととなったことを忘れてはならないと警鐘を鳴らす。 一方で、小幡氏は安倍政権はまた「GDP600兆円」や「1億総活躍」などの日本経済の強化策を打ち出すが、今のところ成長戦略に実効性のあるものは見られないため、2016年はアベノミクスの副作用が顕在化する年になる可能性が高いと指摘する。実質所得が増えていない大多数の国民の生活はより困難になっていると小幡氏は言う。 2016年、われわれの前に横たわる難問とそれを解決する手段、そこに辿り着く経路を、経済学者の小幡績氏、哲学者の萱野稔人氏とともに、神保哲生と宮台真司が議論した。++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・アメリカの覇権が低下し、バランス・オブ・パワーの時代に・覇権の行方と、注視すべきロシアの動向・安倍政権への警鐘になるのは唯一「株価が落ちて行き詰まる」こと・社会がよくなければ人生は暗い、という発想を捨てる+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■アメリカの覇権が低下し、バランス・オブ・パワーの時代に
    神保: 2016年最初のマル激ということで、今回は少し大きく、ロングレンジな話をしたいと考えています。ゲストをご紹介する前に、宮台さんから何かありますか。
    宮台: 基本的に停滞局面で、先進各国では停滞にどう適応するのかということが非常に大事な時代です。柄谷行人さんが面白いことを言っていました。帝国主義的時代と自由主義的時代は絶えず交代しており、ちょうど帝国主義的時代にカントが出てきて、自由と恒久平和についての議論をした。しかし、同時代にそれが実現することはなくて、その後、覇権国家の出現により、つまりナポレオンがヨーロッパに覇権を広げることによって、初めてカント的な発想が展開した。これをヘーゲルは「理性の狡知」と呼んだ。しかし、それも覇権国家が衰退することによって長くは続かず、覇権を巡る争いが絶えない状態になる。そして実はそれが帝国主義の時代になるのだ、という議論です。その意味では、今は帝国主義的な時代なのだと。この見取り図は、非常に大掛かりな図としては面白い。 また見田宗介先生がずっと前から言っているのですが、どのような生物にも爆発的に個体数が増える時期があって、その後プラトー(一時的な停滞状態)のステージに入る。しかし、9割の種はこのプラトー段階にうまく適応できずに死滅するのです。そして、人類は明らかに第一期から爆発的増加の第二期を経て、現在は第三期のプラトーの時期に入っている。 柄谷さんが指摘する帝国主義と自由主義の循環という時間的なサーキュレーションとして考えられる部分と、見田先生が言うような時間的な軸で考えられる部分と、この両方で今を捉えると面白い。いずれにしても、僕らが若い頃に思っていたような、未来が明るいとか、天井知らずの成長であるとか、政府的な新しいステージがやってくるという意味での政治は永久にやってこないということです。
     

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