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記事 4件
  • 福井健策氏:TPP交渉で知財分野は日本の完敗だった

    2015-10-28 23:30  
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    マル激!メールマガジン 2015年10月28日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第759回(2015年10月24日)TPP交渉で知財分野は日本の完敗だったゲスト:福井健策氏(弁護士)────────────────────────────────────── TPP交渉が、大きな節目を迎えた。 2010年3月に始まった太平洋にまたがる8億人の自由貿易経済圏を目指したTPP拡大交渉は、13年7月から日本も参加し、難産に難産を重ねた結果、10月5日に大筋で合意に達した。5年半に及んだ交渉は終結し、今後は参加12か国の間で細部を詰めた上で、各国が国内的な批准プロセスを行い、合意内容に沿った形で国内法を整備していくことになる。 TPP交渉の責任者を務めた甘利明TPP担当相は、10月20日の日本記者クラブの講演の中で、日本がリーダーシップを発揮して大筋合意に漕ぎ着けることができたと自画自賛した上で、交渉結果は日本にとって最善のものとなったとの認識を示している。しかし、TPPが対象とする31分野の中でも、最も重要といっても過言ではない知的財産分野、とりわけ著作権の分野では、「日本は落第点だった」と弁護士の福井健策氏は厳しい評価を下す。 著作権分野の重要3点セットと呼ばれ、ここまでの交渉で日本が反対してきた「著作権保護期間の70年への延長」、「非親告罪化」、「法定賠償制度の導入」の3点はいずれも今回の大筋合意に含まれてしまった。甘利氏が胸を張る「日本にとっての最善の結果」という評価には、どう考えても首を傾げざるを得ない。 また、忘れてはならないのは、現段階で知財分野における日本の譲歩ぶりが露になっているのは、たまたま知財分野の合意文書だけが、ウィキリークスによって公開されたからに他ならない。農業を含む他の分野で日本がどれだけ大きく譲っていたかは、合意内容が発表されていない現状ではわからないのだ。 自由貿易が島国日本にとって恩恵をもたらす要素が大きいという主張は分からなくはない。しかし、交渉の結果が、明らかに日本に不利な条件であれば、TPPがもたらす恩恵よりも、その損害や悪影響の方が大きくなる恐れも十二分にあり得る。著作権は明らかにその恐れがある分野の一つと言わねばならないだろう。 TPP大筋合意の知財分野の合意内容を、リークされた合意文書を元に検証し、日本が手にしたものと失ったものを明らかにした上で、今後、国内法の整備に入る際にわれわれが何を注視していかなければならないかなどを、ゲストの福井健策氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
    +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・日本の交渉は「100点満点で20点」・著作権侵害の非親告罪化に関する、日本政府の不正確な説明・日本の文化や社会のあり様に影響を与えかねない、巨額賠償の導入・TPPに先行して法整備を進める日本の危うさ+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■日本の交渉は「100点満点で20点」
    神保: 今回のテーマはTPPです。10月5日に「基本合意」「大筋合意」し、10月9日にはウィキリークスにその全文とみられる合意文書が上がりました。ニュース的には農業分野のことが主に出ていて、それもやらなければなりませんが、われわれは著作権の問題に注意を払ってきました。TPP交渉は「アメリカの制度にどれだけ残りの交渉国が合わせるか」という面が多分にあり、著作権などまさにそうかもしれない。
    宮台: ニュージーランドその他の国による強力な反対により、結果として「アメリカの言うとおり」にはなりませんでしたが、著作権に関してはなぜこれほどまでにアメリカの交渉力が強いのか、と思いました。
    神保: 新聞報道を見ると、朝日新聞は「世界の成長を引っ張る、アジア・太平洋の新たな基準」、読売に至っては「経済活動の自由度が高まり、生産拡大や雇用創出などの恩恵が享受できる」、また日経は「GDPを2%分押し上げる効果がある」など、みなさん大持ち上げです。ただ、このTPPに関しては宇沢弘文さんほどの経済学者が、亡くなる前に「日本の社会を破壊する」とまで強く言っておられました。これを遺言のように受け止め、その影響をしっかり考えなければと肝銘しているところです。 さて、著作権の問題はずっとこの方と一緒に取り上げてきましたので、いまさらご紹介の必要もないかもしれませんが、ゲストは知財分野に詳しい弁護士の福井健策さんです。
     

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  • 渡辺靖氏:米大統領選でダークホースが台頭する背景

    2015-10-21 23:30  
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    マル激!メールマガジン 2015年10月21日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第758回(2015年10月17日)米大統領選でダークホースが台頭する背景ゲスト:渡辺靖氏(慶應義塾大学環境情報学部教授)────────────────────────────────────── 来年11月の米大統領選に向けた序盤戦で、ちょっとした異変が起きている。民主・共和両党で、いずれも泡沫、あるいはダークホースと見られていた候補者が大健闘をしているのだ。共和党の指名争いでは、アメリカの不動産王として知られる大富豪のドナルド・トランプ氏が、行政経験が皆無で、また人種差別や性差別的な発言を繰り返し、暴論に近い政策論をまき散らしているにもかかわらず、支持率でトップに躍り出ている。また、世界的な外科医として有名なベン・カーソン氏が、やはり行政経験はなく、政策も一貫性を欠いているにもかかわらず、支持率で堂々の2位につける予想外の健闘ぶりだ。 一方の民主党でも、ヒラリー・クリントン元国務長官が、思わぬ苦戦を強いられている。全米の世論調査では辛うじてトップを維持しているものの、自らを民主社会主義者と公言し、富裕層への課税強化などを訴えるバーニー・サンダース上院議員が猛烈な追い上げを見せ、州によっては支持率がクリントン候補を上回るところまで出てきてる。 トランプ氏やサンダース氏が予想外の高い支持を集めている背景について、アメリカ研究が専門で、大統領選挙の動向にも詳しい慶應義塾大学の渡辺靖教授は、アメリカの有権者たちの間で広がるワシントンの既存の政治に対する幻滅や怒りの存在を指摘する。何かを変えてくれるだろうと期待したオバマ政権は共和党に議会を握られたこともあり、期待に十分応えられていない。もはや既存の政治には期待できないとの思いが、トランプ氏のようなアウトサイダーへの期待という形で現れていると渡辺氏は言う。 とはいえ、大統領選挙は長丁場だ。2010年の最高裁判決でスーパーPACと呼ばれる政治団体を通じた無制限の政治献金が可能になったことで、大統領選を勝ち抜くためには最低でも10億ドル(1200億円)の資金が必要になっていると言われている。それを自己資金で賄える大富豪のトランプ氏には資金の問題はないかもしれないが、サンダース氏やその他の候補にとってはこれが今後死活問題となってくる可能性は高い。 大統領序盤戦でダークホースが台頭した背景には、アメリカの有権者のどのような政治的意思が反映されているのか。この選挙では何が問われ、それはアメリカの歴史上、どのような意味を持つのか。今後の日米関係への影響も含め、米大統領選の序盤線の戦況について、渡辺靖氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
    +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・アメリカに広がる、“ワシントンのインサイダー”への不信感・民主党:バーニー・サンダースの台頭が示すこと・共和党で注目される、トランプ、ルビオ両候補の政策・アメリカにとって、今回の大統領選は何を意味するか+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■アメリカに広がる、“ワシントンのインサイダー”への不信感
    神保: 今日は久々にアメリカの大統領選挙についてとりあげます。選挙戦自体はまだまだ予備選なども始まっていないし、本選の投票日は来年2016年11月8日なのですが、すでにかなりニュースになっていて、討論会なども開かれています。そういう意味では羨ましいです。大統領選で投票するアメリカ国民は長丁場の選挙戦を通じてそれだけいろいろなことを聞くことができるわけですから。しかし、この序盤は、大統領選挙戦線異状アリといった様子です。宮台さんはどう見ていますか。
    宮台: おっしゃるとおり、大統領選挙のたびに羨ましいなと思います。それは人々がいろいろなものを共有できるチャンスだということですが、そもそも共有できるのは大統領選が「お祭り」だからです。人類学者のラドクリフ=ブラウンが、宗教の機能について論じる時に、やはり祝祭や儀式による社会統合の意味合いが大きいということを言っていました。そういう意味では、アメリカの社会統合の非常に重要なチャンスが大統領選挙なのだと思います。
    神保: さて、2008年大統領選のあと、オバマが選ばれた意味について番組でも議論を重ねましたが、
     

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  • 湯之上隆氏:東芝粉飾問題に見るモノづくり大国日本の終焉

    2015-10-14 23:00  
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    マル激!メールマガジン 2015年10月14日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第756回(2015年10月10日)東芝粉飾問題に見るモノづくり大国日本の終焉ゲスト:湯之上隆氏(技術経営コンサルタント)────────────────────────────────────── 日本がモノづくり大国と呼ばれて久しい。しかし、東芝による「不正会計事件」は、モノづくり大国を支える日本の製造業の土台が、すでに過去のものとなっている実態を浮き彫りにしてしまった。かつて1970~80年代に世界を席捲した日本の製造業が、苦境に陥っている。海外の電気店では外国製品、とりわけサムスンやLGなどの韓国メーカーの商品が幅を利かせ、日本製のテレビや家電製品は隅の方で埃をかぶっている状態だという。なぜ日本の製造業はここまで凋落してしまったのだろうか。 元日立製作所の半導体技術者で、日本の製造業の事情に詳しい、ゲストの湯之上隆氏は、今回の東芝問題の根底に、日本の製造業が直面する問題の本質が潜んでいると指摘する。東芝ほどの名門企業が粉飾に手を染めることになった背後には、社内外に向けられた歪んだ対抗意識や過剰な自負、傲慢なプライドなど様々な要素がある。しかし、更にそれを掘り下げていくと、日本の製造業に共通した重大な問題が見て取れると、湯之上氏は言う。 それは、現場で「技術」が過剰に信奉され、それが経営にまで影響を及ぼしている問題だという。確かに日本の技術は世界でも最高水準にあり、それが70年代、80年代に日本の製造業が世界を席巻する原動力だったことはまちがいない。 しかし、この技術に対する過信と高品質主義ゆえに、日本の製造業の現場では売れるあてもないまま不必要なほどハイスペックな製品を作り続けることが当たり前になってしまったと湯之上氏は言う。そこに、そこそこの品質で低価格な韓国や台湾など海外の製品が登場した時、日本製は必要以上に高品質、高スペックで、そして当然のこととして不必要に高価なために、売れない商品となってしまった。 また、日本の技術信奉の背後には、日本のメーカーがマーケティングを軽視したこともあると湯之上氏は言う。その国の消費者がどのような機能を持った、どのくらいの価格の製品を求めているかを無視して、単に作る側の思い込みだけで「高品質」「高価格」な製品を作っても、売れるはずがなかったのだ。 東芝粉飾事件が露にした日本の製造業の現場の荒廃ぶりと、その背後にあるモノづくり神話の崩壊の原因、そしてそこから脱するために日本がしなければならないことなどを、湯之上隆氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
    +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・不正会計を生んだ東芝の企業体質・日本メーカーはなぜ凋落したか・本当のイノベーションを阻害する「技術革新」という誤訳・処方箋:自動車産業に見る“ピン”の人材育成+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■不正会計を生んだ東芝の企業体質
    神保: 日本はいわゆる「モノづくり大国」などと言われて久しいのですが、それが本当なのかと思われるようなことが頻発しています。そして、もしかしたらその神話が逆にわれわれの足を引っ張っているのではないか、ということを今日は少し考えていきたい。 入り口として、東芝の不正会計事件を扱います。東芝はもともとモノづくりで、重電の雄として代表格でした。そこであのようなことが起きた。それが単に、一企業の体質的問題からくるものなのか。実はより大きな問題があるのか――こうしたモノづくりをめぐる問題は、結構、宮台さんが好きなテーマですよね。
    宮台: そうですね。僕は1983年から86年の、東大の助手になる前にマーケット・リサーチの会社に取締役としてかかわっていました。高度成長時代は73年のオイル・クライシスぐらいまでに終わり、いわゆる資源不況の時代が続くのですが、その後、日本が80年代に入るくらいまでにはジャパン・アズ・ナンバーワンと言われるくらいに盛り返した。それでアメリカでは80年代の半ばには、ホワイト・ハウスの前で日本車を打ち壊すというようなことをやっていました。従来の高度成長路線は、安くてそこそこのモノを大量に作って売るという路線だった。ところが80年代になると、それとは違うステージに入ります。例えば自動車のマーケティングにおいては、「どうすれば市場のニーズをつかむことができるか」というのが重要な依頼事項となるのです。しかし当時は、ある製品が売れても、「たまたま売れた」としか言えなかった。ですから、よく「柳の下の二匹目のドジョウを狙う」ようなこともよくやるのですが、ブランディングという観点からすると非常にかっこ悪く、買われずに大失敗ということもありました。今日出てくるであろう話は、当時からあったと思います。
    神保: ゲストをご紹介します。元日立製作所の半導体の技術者で、現在は半導体分野をはじめ技術経営に関するコンサルタントとして活動されている湯之上隆さんです。
     

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  • 玉野和志氏:創価学会が公明党を見限る日は来るか

    2015-10-07 23:00  
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    マル激!メールマガジン 2015年10月7日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第756回(2015年10月03日)創価学会が公明党を見限る日は来るかゲスト:玉野和志氏(首都大学東京都市教養学部教授)────────────────────────────────────── 平和を最大の理念に掲げる創価学会は、集団的自衛権の片棒まで担いでしまった公明党をどこまで支え続けるつもりなのだろうか。 先の国会で、違憲の烙印を押されながらも採決を強行して可決した安保関連法は、公明党こそが最大の功労者だったといっても過言ではない。自民党は参院では単独で過半数を持たない。安保関連法は公明党の全面協力なしでは成り立たない法案だった。 しかし、戦後政策の最大の転換と言っても過言ではない、集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈の変更を公明党が率先して行ったことについて、平和を最上級の理念に掲げる創価学会は、どう考えているのだろうか。公明党は安倍政権と一体となって安保法制の可決に向けて邁進してきた。しかし、これに対して支持母体の創価学会の中から、この法制に反対する声が上がり始めた。最近は安保法制に対する抗議集会やデモの参加者の中に、創価学会の赤、黄、青の三色旗を振る人が見られることも珍しくなくなっている。 著書『創価学会の研究』の著者で社会学者として創価学会を研究してきた首都大学東京の玉野和志教授は、今回の学会内で安保法制への反対の動きがあることについて、「もっと早く起きていてもおかしくないことだ」と言う。創価学会が、とりわけ婦人部が平和に対する強い思いを持っていることは周知の事実だ。また、創価学会という団体は一枚岩の組織であるという一般のイメージとは異なり、組織内部で上層部への批判などは日常的に行われている体質を持っていると玉野氏は言う。 玉野氏は、公明党は野党時代に自民党が池田大作現名誉会長を国会に証人喚問しようとした時のトラウマがあり、下駄の雪と言われようが、そういう無茶をやりかねない自民党には何が何でもくっついていく基本方針に変わりはないという。仮に自民党が両院が過半数を取り、多数派形成のために公明党との連立が必要なくなっても、選挙で学会の支援は絶対に必要な以上、自民党も公明党を手放すことはないだろう。 安保法制をきっかけに表面化した創価学会と公明党の間の微妙な関係は今後どうなっていくのか。創価学会が公明党を見限る日は来るのか。創価学会の歴史を参照しながら、創価学会の現在の状況や公明党との関係、自民党の連立政権による功罪などについて、玉野和志氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・「もうひとつの地域」だった創価学会・創価学会は本当に池田大作の独裁なのか・出来レースに映る“公明党的努力”をどう捉えるか・社会的つながりから派生する政治的活動が、創価学会周辺にしかない日本の現状+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■「もうひとつの地域」だった創価学会
    神保: 今年に入ってからずっと大きな案件として安保法制を取り扱ってきましたが、今日はその中における公明党について扱います。最初に、衆参両院の政党別勢力図を見ていただきましょう。
     

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