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記事 5件
  • 小此木政夫氏:朴槿恵大統領罷免に見る民主主義のもう一つの形

    2017-03-29 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2017年3月29日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第833回(2017年3月25日)朴槿恵大統領罷免に見る民主主義のもう一つの形ゲスト:小此木政夫氏(慶応義塾大学法学部名誉教授)────────────────────────────────────── お隣韓国の政治が喧しい。朴槿恵(パク・クネ)大統領が友人の崔順実(チェ・スンシル)氏と通じて職権を乱用したとされる、所謂「民間人による国政壟断疑惑事件」はついに大統領の罷免と、検察による大統領への長時間の事情聴取へと至り、いつ逮捕状が出てもおかしくない切迫した状況を迎えている。 日本人の感覚からすると、現職大統領が犯罪の疑いをかけられた上に罷免され逮捕にまで至るという事態は、国家の非常事態としか思えないところがあるが、実は韓国ではこれまでも 元大統領が逮捕・起訴され有罪判決を受けるケースは数多くあった。 全斗煥(チョン・ドゥファン)、盧泰愚(ノ・テウ)、両元大統領はいずれも有罪判決を受けているし、日本ではよく知られる金大中(キム・デジュン)元大統領も親族がらみの資金疑惑で有罪判決を受けている。最近では盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が、不正資金疑惑をかけられた親族が横領や贈賄容疑で逮捕された上に、本人が検察の事情聴取を受けた直後に岩崖から投身自殺するといった衝撃的な事件も起きている。 これは韓国の政治はそこまで腐敗しているということを意味しているのか。朝鮮半島情勢に詳しい慶応大学の小此木政夫名誉教授(現代韓国朝鮮論)は、大統領が軒並み逮捕される状況を理解するためには、韓国の政治の背後にある特異な行動原理を知る必要があると説く。韓国の政治は政治主導者である大統領に忠誠を尽くす私的なネットワークである「制度圏」と、社会正義を実現するために市民、インテリ、学生らが運動を通じて政治に参加する「運動圏」の2つの行動原理で動いており、通常は両者のせめぎ合いの中で微妙なバランスを保っている。「制度圏」は歴代の政権では親族がその役割を果たしていたが、両親を暗殺され家族もいないパク・クネ大統領の場合、親の代から親しくしていたチェ・スンシル氏がそこに入り込んだ。そして、一民間人に過ぎないチェ氏に大統領が演説の原稿を事前に見せていたことが暴かれたことで「制度圏」に対する不信感に火がつき、「運動圏」の怒りが爆発したのだと小此木氏は語る。 これは韓国の政治が特別に腐敗しているとか民主主義が未熟であるというよりも、単に韓国の政治のスタイルが日本や他の国々と異なっているのだと理解するべきだと、小此木氏は強調する。韓国の政治に参加民主主義の要素が非常に強いことは高く評価すべき面がある一方で、それがあまりにも強く働き過ぎると、政治が不安定化する原因にもなり得ることを、今回の朴槿恵の事件は示しているということのようだ。 とはいえ、北朝鮮の度重なる核実験やミサイル発射などで、東アジア情勢は緊迫の度を高めている。そのような状況で、韓国に政治的空白が生じることは、東アジア全般の不安定要因となる。韓国では5月9日に大統領選挙が予定されているが、小此木氏は金日成の誕生日や北朝鮮人民軍の設立記念日にあたる「建軍節」を控えた4月の中旬から下旬に、北朝鮮が大きな軍事行動に出る危険性が高いと警鐘を鳴らす。今のところ、大陸間弾道弾(ICBM)の発射実験のような、アメリカに対する直接のメッセージとなる行動に打って出る可能性が高いと小此木氏は観測する。 韓国に今何が起きているのか。現在の政変は韓国経済や東アジアの安全保障にどのような影響を与えるのか。日本はどう対応すべきなのか。朝鮮半島情勢の第一人者の小此木氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・韓国の政治文化を紐解くキーワード、「制度圏」と「運動圏」・朴槿恵前大統領の疑惑、その根幹にあるものは・大統領の訴追が、韓国という国を維持している・韓国に「手打ち」が通用しない理由+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
     

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  • 小島美里氏:迷走する介護保険をどうするか

    2017-03-22 23:00  
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    マル激!メールマガジン 2017年3月22日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第832回(2017年3月18日)迷走する介護保険をどうするかゲスト:小島美里氏(NPO法人暮らしネット・えん代表理事)────────────────────────────────────── 2000年に介護保険制度が導入されて、この4月で17年が経つ。 当初、介護の社会化がうたわれ、家族の負担を軽減し社会全体で介護を担うための公的保険として大きな期待を集めた介護保険だったが、その後、何度も改正を繰り返すなど迷走を続け、そのたびに利用者も事業者も振り回されてきた。 そして、今国会にも介護保険法の改正案が提出されている。 埼玉県新座市で介護事業に取り組む小島美里さんは、既に介護の現場は低所得層のみならず中間層までもが、介護保険の利用ができない深刻な事態に陥っていると指摘する。利用者負担が引き上げられ重度にならないと利用ができないなど、介護保険導入時の「自宅で最期まで」という理念が失われているというのだ。 背後には介護費用の増大という問題がある。公的介護サービスは利用者の自己負担分(当初1割)を除いた介護保険給付費のうち、5割を40歳以上が負担する介護保険料と残りの5割は国と都道府県・市町村の税金とで賄う仕組みになっている。利用者の増加に伴い、これまで、軽度者のサービスを抑制したり、収入が一定額を超える人の自己負担率を2割に引き上げたりするなど、介護保険給付費を抑えるための措置が取られてきたが、それでも当初3.6兆円規模でスタートした給付費が現在は10兆円を超え、団塊の世代が75歳を迎え後期高齢者となる2025年には20兆円にもなると言われている。 安倍首相は、来年度の診療報酬/介護報酬の同時改定を、「非常に重要な分水嶺」と国会でも答弁し改革の必要を訴えるが、費用の伸びを抑えるための場当たり的な制度変更を繰り返しても、高齢者が安心できる介護制度となることは期待できない。 高齢化が進む日本で、老後を安心して過ごすための決め手となるはずの介護保険はどのような変節を経て、今どうなっているのか。介護の現場をよく知る小島美里氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・“あっても使えない”介護保険・認知症患者が支援を受けられない「軽度者切り」・専門家不在の政治が狙うこととは・当事者運動のない高齢者問題 “プレ当事者”の動きがカギか+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■“あっても使えない”介護保険
    迫田: 今回のテーマは「介護保険」です。介護保険は私も取材をしていてついていけないところがあるくらい、どんどん変質しています。そこで、現場でずっと介護保険の事業をしながら、利用者とともに地域をつくってきた小島美里さんにお越しいただきました。介護保険はだんだん使いにくくなっているという声を聞きます。制度もどんどん変わっていて、言葉もどんどん変わったりするものですから、実際にいざ介護が必要になって使おうと思うと、こんなに使いにくいのかと思う。2月に改正案が出ており、特に来年度、診療報酬(2年ごと)と介護報酬(3年ごと)、両方のお金が同時に改定されます。総理大臣もそれが分水嶺になるだろうと言っているくらいのタイミングで、高齢者のセーフティネットという意味で重要です。
    宮台: もともと医療はメディカルということだから、簡単に言うと、ご病気を治すためのシステムです。介護はそうとも限らず、医療とは無関係ではないが、体が弱ったとか、身の回りのことが自分でできなくなった人が、その分を「助けてもらう」こと。本来は概念として別であるはずだし、年をとれば多くの人がそのサービスを受けざるを得ないと考えられていることだから、介護保険ができたときにはそれなりに合理的なシステムだなと思いました。それが時とともにどんどん手厚くなり、使いやすくなるのかと思いきや・・・・ですね。
    迫田: 実際現場がどうなのか。小島さんは埼玉県の新座市でずっと介護事業をされてきました。まずはその経緯から教えてください。
    小島: 最初にボランティア活動から始めました。ただ、ボランティアで人の命を守るというのはやはり限界があり、介護保険が始まる4年前に、医療法人の中の一部門に入れていただいて介護部門をつくりました。その後に介護保険が始まり、NPOとして独立し、いまは介護保険の事業は5つ、そして障害関係の事業も2つに、配食サービス、高齢者の新しい住まい方などもサポートしながら、20年間動いてきました。介護保険の開始前から振り返ってみると、本当に激動でしたね。
     

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  • 田辺文也氏:なぜわれわれは福島の教訓を活かせないのか

    2017-03-15 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2017年3月15日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第831回(2017年3月11日)なぜわれわれは福島の教訓を活かせないのかゲスト:田辺文也氏(社会技術システム安全研究所所長)────────────────────────────────────── 2017年3月11日、日本はあの震災から6周年を迎えた。 一部では高台移転や帰還が進んでいるとの報もあるが、依然として避難者は12万人を超え、その7割以上が福島県の避難者だ。原発の事故処理の方も、いまだにメルトダウン事故直後の水素爆発によって散らばった瓦礫を取り除く作業が行われている状態で、実際の廃炉までこの先何年かかるかは、見通しすら立っていない。 ここに来て、新たに重要な指摘がなされている。それは、そもそも事故直後の対応に大きな問題があったのではないか、というものだ。 原発の安全を長年研究してきた田辺文也・社会技術システム安全研究所所長は、日本の原発には炉心が損傷する最悪の事態までを想定して3段階の事故時運転操作手順書が用意されており、ステーションブラックアウトの段階からその手順書に沿った対応が取られていれば、あそこまで大事故になることは避けられた可能性が高いと指摘する。 事故時運転操作手順書には事故発生と同時に参照する「事象ベース手順書」と、計器などが故障して事象が確認できなくなってから参照する「徴候ベース手順書」、そして、炉心損傷や原子炉の健全性が脅かされた時に参照する「シビアアクシデント手順書」の3つがあり、事故の深刻度の進行に呼応して、手順書を移行していくようになっている。田辺氏は特に今回の事故では停電や故障で計器が作動せず、原子炉の状態がわからなくなってから「徴候ベース手順書」に従わなかったことが、最悪の結果を招いた可能性が高いと言う。 以前からこの「手順書」問題は仮説としては指摘されていたが、ステーションブラックアウトに直面した福島第一原発の現場で実際に手順書がどのように扱われていたのかが不明だったために、それ以上の議論には発展していなかった。実際に手順書の内容と事故直後に東京電力が取った対応を比較すると、東電の対応は手順書から大きく逸脱していたばかりか、「そもそも手順書の概念や個々の施策の目的や意味が理解できていなかった」(田辺氏)ことが明らかになったのだと言う。 現在の事故時運転操作手順書は、スリーマイル島原発事故やチェルノブイリ原発事故の教訓をもとに作られていると田辺氏は言う。2度と同じような失敗を繰り返さないために、高い月謝を払って人類が蓄積してきた原発事故対応のノウハウが凝縮されているのが3段階の事故時運転操作手順書なのだ。 たとえ手順書通りに対応していても、もしかすると福島の惨事は避けられなかった可能性はある。しかし、少なくともあの福島の事故で、事故後の対応に過去の失敗の教訓が活かされていなかったという事実を、われわれは重く受け止める必要があるだろう。起きてしまった事故は元には戻せないが、少なくともわれわれにはその教訓を未来に活かす義務があるのではないか。 田辺氏は、今回の事故ではこの手順書の問題がきちんと検証されていないために、新たな安全基準も不完全なものになっている可能性が高いと指摘する。どんなにしっかりとした手順書を作っても、その意味を十分に理解した上で、非常時でも実行できるような訓練が不可欠と語る田辺氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・原発事故で手順書が正しく参照されなかった理由は、やはり「安全神話」か・福島原発の悲惨な現状と、合理性のない予算・手順書に沿った対応をすれば避けられた可能性がある事故・原発再稼働にかかわる保安規定認可の妥当性にも疑義あり+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■原発事故で手順書が正しく参照されなかった理由は、やはり「安全神話」か
    神保: 今回は配信日が3月11日ということで、メディアはどこも震災6周年の報道をしています。ただ、どうも原発そのものの話はもうどこもあまりやっていないような印象を受けました。4月から多くの方が福島に帰れるようになる――実際に帰れるかどうかは別として、そうなるということを受け、現地からの中継などは行われていますが、原発そのものについては、もう関心がなくなってしまったのか。
    宮台: おそらく今ドキュメンタリーをやれば、みんな観るでしょうし、新しい発見があれば興味を持つとは思います。しかし、多くは福一で事故が起こる前のノリに戻ってしまったのかもしれませんね。
    神保:この状況で原発の危険性や問題点を取り上げる企画というのは、現政権が事実上、原発を推進しているなかで、あまり得にならないと。そういう意味では、一番ビジネス・アズ・ユージュアルに戻ったのは、社会よりもメディアということになりますね。
    宮台: 東電だけでなく、日本には各地域に巨大電力会社があり、スポンサーシップの非常に大きな力を持っています。新聞社の話を聞くと、電力会社から直接クレームがなくても、営業部門が「自粛」という方向に気を使うわけですね。その意向に編集部が従う流れだと言っていました。
    神保: そこもはっきりとした命令が下るわけではなく、忖度、よく言う「あうん」です。そうなると、責任がどこにも見えなくなると。 そういうわれわれも、原発問題は度々取り上げ、いろいろやってきたつもりではありましたが、状況がまったく進まなくなってしまった。みなさんご存じかどうか、実はまだ瓦礫の撤去をしているんですよ。燃料の撤去に手を付けることすらできず、廃炉など遙か地平線の彼方の話です。線量が高く、ロボットですら壊れてしまう。そんな状態から進まず、同じことを繰り返し取り上げてもなかなか誰も観てくれないということもあって、正直、少し手をこまねいている部分もありました。そうしたなかで、6周年にして目からうろこというか、大変な事故だったから仕方がない、ではなく、実はすべて想定されていたことなのに、想定外のことをしてしまったからこのような事態を招いたのだという指摘が出てきて驚いています。ゲストをご紹介します。社会技術システム安全研究所の所長で、原子炉安全工学がご専門の田辺文也さんです。実は田辺さんが最近、雑誌などで指摘されているものを拝読しまして、なぜ今までその話が出てこなかったのかと思いました。その中身をお伝えする前に、これは発覚するまで5年もかかったんですか?
    田辺: 実は私が最初に指摘したのは、2012年の暮れに岩波から出した『メルトダウン――放射能放出はこうして起こった』という本です。そのなかで、事故対応を誤り、格納容器(ベント)を優先して、本来優先すべき原子炉の冷却をむしろ後回しにしてしまったと指摘しました。具体的に言うと、減圧して低圧注水系で炉心冷却を確保するという手順が示されているのに、どうもそれに従っていない。そのためにその場対応になり、タイミングよく減圧、低圧注水ができなかったのではないか、という説を提示したのです。
     

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  • 室崎益輝氏:東日本大震災6年後もなお山積する課題

    2017-03-08 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2017年3月8日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第830回(2017年3月4日)東日本大震災6年後もなお山積する課題ゲスト:室崎益輝氏(神戸大学名誉教授)────────────────────────────────────── マル激では震災から6年目を迎える3月4日、11日に、2週続けて東日本大震災と福島第一原発事故をテーマに番組をお送りする。 1回目は日本災害復興学会の初代会長を務めた室崎益輝・神戸大学名誉教授に、復興の現状課題を聞いた。マル激では東日本大震災からの復興の成否が、今の日本の民主主義国家としての実力のバロメーターになると指摘してきた。 そして震災から6年。政府は復興は順調に進んでいると主張するが、実際は多くの課題が残されたままだ。 いまだに10万人近い被災者が、仮設住宅やみなし仮設住宅で暮らすことを余儀なくされている。大規模な堤防の建設や高台への移転などに遅れが生じているからだ。原発事故の影響で強制的に避難させられた人々の帰還も進んでいない。去年、避難指示が解除された市町村でも、帰還した人の割合は葛尾村で8.0%、南相馬市小高区が13.6%と、帰還が順調に進んでいるとは言い難い状況だ。 阪神大震災の被災者でもあり、防災の専門家でもある室崎氏は、復興を考える際に大事な視点として、4つの「生」を指摘する。「生命」、「生活」、「生業」、「生態」の4つである。その観点から見た時に、復興は順調と言えるのだろうか。震災直後、一刻も早い復興を目指そうと、しきりとスピード感が強調されたが、逆にそれが復興の足をひっぱったかもしれないと室崎氏は話す。4つの「生」を実現するためには、移転や工事などを拙速に進めるだけでなく、どんな町作りを目指すべきかを行政と住民がじっくりと議論し、考える時間が必要だったのではないかというのだ。 その土地で暮らし、生業を営み、自然の恩恵を受けながら暮らしてきた人たちが、元の生活に戻れた時、初めて復興は成就する。4つの「生」のどれかが欠けたままでは、真の復興とはならない。無論、最初から理想的状況はそう簡単には実現しないだろう。しかし、順調か失敗の二項対立ではなく、復興を息の長いプロセスと捉え、理想に近づけていくために今からでもできることは何かを考え、少しずつでも状況を改善していく姿勢が、真の復興には不可欠となる。 これは東北だけの問題ではない。日本全体の問題であり、日本の民主主義の質が問われる問題でもある。月日が経つにつれ、われわれは被災地の惨状を見て見ぬふりをして、切り捨てるつもりなのだろうか。震災から6年、復興の現状と課題について、室崎氏とともに社会学者・宮台真司とジャーナリスト迫田朋子が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・被災地の現状――復興はまったく終わっていない・「高台移転、イエスorノー」で切り捨てられる、あるべき選択肢・物語をつくるように復興する、ということ・「復興は失敗だった」として、溜飲を下げている場合ではない+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■被災地の現状――復興はまったく終わっていない
    迫田: 3月になり、11日で東日本大震災から6年。今回は6年を迎えてもなぜ復興が進まないのか、というテーマでお話を伺いたいと思います。2週連続の企画となり、来週は神保(哲生)さんの司会で、原発技術者の田辺文也さんに福島第一原発の現状を伺います。宮台さん、あれから6年ということですが、最初に何かありますか。
    宮台: 僕の同僚に山下祐介さんという社会学者がいて、まだお若いのですが、現地に何度も足を運んでいます。いくつか重要な文書も書いており、それによれば震災復興はほぼ完全に失敗。その失敗は途中から完全に予見でき、つまり山下さんはとんでもない図式に変わりつつあるんだということを何度も警告しておられた。被災した方とも山下さんに引き合わせていただいて、いろんなディスカッションをやってきたという経緯があります。震災の2年前に、レベッカ・ソルニットという有名な社会学者が『災害ユートピア』という本を出しました。わかりやすく言うと、平時はいいが、何か重大な事件が起こったときに、システムに依存していると一巻の終わりになる。しかし、何らかの理由で共同体的なプラットフォームを少しでも残していれば、災害時にユートピアが実現するということです。つまり、それまではシステムに依存して、簡単に言うと、人間なのかロボットなのかわからないような感じだったのが、自分たちで想像力や感情を働かせながら、人間関係をつくり、維持し、実際いろんなことをみんなの知恵を集約して解決していく。そうして本当に理想的な社会が生まれるが、しかし残念なことに、復興が進みシステムが回復すると、人々はまた分断され、システムに依存した状態に戻っていくと。 震災において、僕等はそうした問題設定に気付かされていたので、3.11の後はそういう方向に向かえばいいなと思っていたら、1ミリも向かわなかったということです。
    迫田: そのあたりも含めて、議論していきたいと思います。ゲストはご自身も阪神淡路大震災の被災者であり、被災地に足を運んで復興の問題をさまざまな形で見てこられた、神戸大学名誉教授の室崎益輝さんです。まず、宮台さんがおっしゃったような問題を室崎先生も感じていらっしゃいますか。
    室崎: そうですね。災害というものは、その時代、その社会の持っているひずみや弱点のようなものを顕在化します。阪神大震災においては、少子高齢化社会の中で、高齢者が寂しく孤立をしたままに置かれているという問題、従来の家族のシステムが小さくなり、みんな一人暮らしをするような社会構造になっているという問題、また仕事が都市に集中し、郊外に人が住むという職住分離の問題など、さまざまな矛盾が表に出ました。
     

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  • 国沢光宏氏:アメ車が日本で売れないワケ

    2017-03-01 21:00  
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    マル激!メールマガジン 2017年3月1日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第829回(2017年2月25日)アメ車が日本で売れないワケゲスト:国沢光宏氏(モータージャーナリスト)────────────────────────────────────── 「アメリカでは日本車が山ほど走っているのに、東京でシボレーを見たことがない」 選挙戦当初から日本に対してこのような発言を繰り返してきたトランプ大統領が、1月23日の財界人との会合であらためて日本の自動車市場の閉鎖性をやり玉にあげたことで、日本では日米自動車摩擦の再燃が懸念される事態となっている。 日本の政府や経済界は、日本は輸入自動車に関税をかけていないことなどを理由に、日本の自動車市場は完全に開放されており、アメ車が売れないのは日本側の問題ではないと主張している。 しかし、日本の自動車市場は本当に開放されているのだろうか。だとするとなぜ日本でアメ車は売れないのだろうか。これはアメリカ側だけの問題なのか。 モータージャーナリストの国沢光宏氏はアメリカ側にも問題は多いが、日本側にも問題はあると指摘する。 特に国沢氏は、日本の大排気量の自動車に対する懲罰的な課税が非関税障壁となり、アメ車の普及の足枷になっていると語る。もともとこの制度は、日本の自動車産業がまだ十分に成熟していない時代に、国内の自動車産業を守り育成するために、アメリカ車の輸入を制限する目的で導入されたものだったが、その制度はパワフルな大排気量が魅力のアメ車の立場を不利にしていると国沢氏は指摘する。 実際、日本の自動車は現地生産分も含めるとアメリカの自動車市場全体の37%を占める一方で、アメリカ車は日本市場のシェアは0.3%にも満たないという有様だ。しかも、アメリカの自動車市場は外国車が55%のシェアを持つのに対し、日本の輸入車のシェアは6%に過ぎない。「日本でアメ車は売れていないがドイツ車は売れているではないか」と指摘する向きもあるようだが、それもあくまで程度問題で、実際のところ日本の自動車市場における輸入車のシェアはアメリカのそれとは比べものにならないほど小さい。これだけを見ると、日本の自動車市場が無条件にオープンとは言いにくい根拠もあるようだ。 確かに日本の自動車メーカーが米国の消費者の嗜好に合うようにデザインや性能を改良するなど、涙ぐましい営業努力を続けてきた一方で、アメリカの自動車メーカーは日本で本気で車を売ろうとしているようには見えないところも多分にある。 しかし、その一方で、実際は上記の税制の他にも、アメ車を日本に持ってこようとすると、日本独自の安全基準や環境基準に適合させるために大きなコストがかかってしまうなど、様々な障壁が残っていることも事実だ。そうした制度を残したままでは痛くない腹を探られ、結果的に数値目標などの無理難題を押し付けられるのがオチだ。特にトランプ大統領との親密ぶりを隠さない安倍政権としては、トランプ政権からの求めはそう簡単にノーとはいえそうにない。 アメ車が日本で売れないのはなぜか。日米間では車に対する考え方にどのような違いがあるのか。国沢氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・アメリカの乗用車は、アメリカ国内でも競争力がない・日本もシロではない――アメリカ車を締め出す非関税障壁・日本車にない、アメリカ車・ヨーロッパ車の魅力とは・日本車が世界で生き残るために+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■アメリカの乗用車は、アメリカ国内でも競争力がない
    神保: 気がつくとまたもトランプさん絡みですが、今回は自動車をテーマに取り上げます。宮台さんも好きな――というより、昭和生まれの男の子はみんな好きな話ですが、今の若い人たちはあまり興味を持たないというふうに聞きます。
    宮台: 90年代末に分水嶺があり、98~99年から車離れは急速に進んでいます。ちょうどどのころ、僕は東京モーターショーで「どうして若いやつは車に乗らないか」というスピーチをした記憶があります(笑)。
    神保: みんな車が好きで、ある種のアイデンティティーがそこに反映されていましたからね。その意味で、今回のテーマであるアメリカ車が、悪いイメージを引きずっている、という指摘もあるようですが、トランプさんがアメリカの財界人たちの前で日本を名指しで批判し、「アメリカでは日本車があれだけ走っているのに、東京でシボレーを見たことがない」と。数値目標や軽自動車の廃止を首脳会談で言われるのではないか、という話が出ていたりしましたが、何も言われなかったので、あのゴルフ外交は大成功だったという話になっています。ただ、この車の問題はいつまた噴き出すかという状況で、特に経済人は不安視しているようです。自動車についてはわれわれが知らない部分があって、軽自動車もそうかもしれないし、車検もそうかもしれないけれど、世界では実は珍しく、必ずしも合理性があるとも限らなかったりするところもある。今回はいい機会なので、そういう部分をいろいろと見ていきたいと思います。 ゲストはモータージャーナリスト、自動車評論家の国沢光宏さんです。久しぶりに日米関係で車の問題が議題に上がるかもしれない、という状況ですが、国沢さんはどうご覧になっていますか。
    国沢: そもそもで考えると、自動車産業というのは、どこの国でも非常に大きいんです。日本の場合、自動車産業でほとんどの黒字を稼いでいる。黒字というと、車を日本から輸出し、それを売ったお金で儲けている、というふうに捉えられるかもしれませんが、今は現地で製造し、それで儲けたお金を持ってきているので、非常にわかりにくい。
     

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