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前嶋 和弘氏:コロナで20万人が死んでいても大統領選挙が接戦になる理由
2020-10-28 20:00550ptマル激!メールマガジン 2020年10月28日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激・トーク・オン・ディマンド 第1020回
コロナで20万人が死んでいても大統領選挙が接戦になる理由
ゲスト:前嶋 和弘氏(上智大学総合グローバル学部教授)
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アメリカの大統領選挙がいよいよ10日後に迫った。
今回の大統領選は当初から民主党のジョー・バイデン候補が世論調査で現職のトランプ大統領に対し10ポイント前後リードを保ち、バイデン有利の下馬評の中で選挙戦が進んできた。しかも、選挙戦が佳境に入る10月に入ってトランプが新型コロナに感染するというアクシデントに見舞われるなどしたため、アメリカの既存メディア上ではトランプが絶体絶命な状態に追い込まれているとの報道が多く見られる。
アメリカではすでに850万人が新型コロナに感染し、22万人以上が死亡しており、感染者、死者ともにアメリカが世界で最も多い。これは誰がどう見ても、アメリカのコロナ対策が大失敗していることの証左だといわざるを得ない。しかも、マスクも着けずに日常の政治活動を行ってきたトランプ大統領は、自分がコロナに感染したにもかかわらず、コロナから快復し選挙戦に復帰すると、マスクの必要性を否定し連日、大規模な支持者集会を開催するなど、コロナ対策の失敗などまったく意に介さないという体で選挙運動を続けている。
なぜこのような全米史上類を見ない最悪の感染爆発下で行われる選挙で、現職の大統領が惨敗しないのか。
アメリカにおける民主党支持層と共和党支持層の断絶は非常に深刻な状態にあり、もはや両者の間には議論では到底埋められないほどの大きなギャップが生まれていることが各種の世論調査で明らかになっている。共和党の支持者はどれだけコロナが蔓延しようが、またファクトチェックの結果、トランプがどれだけデタラメなことを言っているかが明らかになろうが、民主党支持に転向することはほぼあり得ないようになっている。それは民主党についても同じ状況だ。
そのような背景から、大統領選挙は伝統的なレッドステート(共和党支持の州)は何があっても共和党の候補を支持するし、伝統的なブルーステート(民主党支持の州)も、何があっても民主党の候補を必ず支持するようになっている。結果的に大統領選挙は多く見積もっても8州、より厳密に見ると5州ほどのパープルステート/スイングステートがどちらに傾くかによって、選挙の帰趨が決まるという状態が既に20年以上も続いている。ウイスコンシン(選挙人数10)、ミシガン(同16)、オハイオ(同18)など、その大半は中西部の五大湖周辺に集中している。この3州に大票田のペンシルべニア(同20)とフロリダ(同29)を加えた5州の動静次第で、毎回大統領選の勝者が決まっているといっても過言ではない。
このような分断の結果、アメリカでは明らかにおかしなことがいくつか起きている。まず、2000年以降大統領になったブッシュ、オバマ、トランプの3人の大統領のうち、2人の大統領が対立候補よりも少ない得票数で大統領に当選するという、米国政治史上かつてなかった珍事が起きてしまった。それもそのはずである。パープルステートを除いた他の州で一般投票で誰が何票獲得しようが、それは選挙戦の帰趨にはまったく関係してこないのだ。
もう一つの副作用は、大統領選挙後もアメリカ政府の政策がその6州の利害に大きく振り回されることだ。如何せんその6州で不人気になれば、大統領選挙には勝てないし、現職の大統領は再選が覚束なくなる。その一方で、恒常的にブルーの州やレッドの州で多少不人気になることをやっても、その州の色が変わることはまずあり得ない、つまりその州の選挙人を失う恐れは事実上皆無なのだ。
民主主義制度の下では、選挙制度に明らかに不備があっても、その選挙で勝ち抜いてきた勢力が権力を掌握するため、選挙制度を変えようという動機が起きにくい。しかし、この20年で2度までも一般投票の得票数で共和党を上回りながら大統領選挙に敗北する苦い経験をした民主党が、今回もしかするとホワイトハウスと上院と下院の全てで勝利する、いわゆるブルーウエーブが起きる可能性も取り沙汰されている。もしそれが本当に実現すれば、その時、民主党政権と民主党議会は長年アメリカ政治の課題だった選挙制度、とりわけ選挙人投票制度 に手を着ける可能性は十分にあると考えられているが、果たして今回、選挙の神様はどちらに微笑むのだろうか。
進むアメリカ社会の分断と、明らかに時代遅れとなっている選挙人制度という2つの視点から、大統領選挙直前の状況とその見通し、また選挙結果が紛糾し、法廷闘争に持ち込まれる可能性と、その際の最高裁の保守とリベラル間のパワーバランスとの関係などについて、上智大の前嶋氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・一般の投票は意味をなさず、スイングステートで決まる大統領選
・政策すらスイングステートに左右される現状
・アメリカの命運がかかる、ノースカロライナの上院選
・アメリカの混乱から、日本は何を学ぶべきか
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■一般の投票は意味をなさず、スイングステートで決まる大統領選
神保: 11月3日、アメリカの大統領選挙が投票日を迎えます。宮台さん、冒頭に何かありますか。
宮台: 本日、2回目の討論会を見ましたが、前回よりはまともなものの、必ずしもバイデンがうまくしゃべっているようには見えないのが印象的でした。副大統領の8年間、何をやっていたのかと。
神保: ケンカは100対1くらいでトランプの方が上手ですね。 -
橋本健二氏:だから安倍・菅路線では日本は幸せになれない
2020-10-21 20:00550ptマル激!メールマガジン 2020年10月21日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第1019回(2020年10月17日)
だから安倍・菅路線では日本は幸せになれない
ゲスト:橋本健二氏(早稲田大学人間科学学術院教授)
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著書『アンダークラス 新たな下層階級の出現』や『新・日本の階級社会』などを通じて、日本にも「一億総中流」の合言葉とは裏腹に高度経済成長の直後から経済的格差が広がり始め、近年にいたってはそれが日本に「下流階級」なる新たな社会的階層を生んでいる実態について警鐘を鳴らしてきた早稲田大学人間科学学術院の橋本健二教授が、月刊誌『世界』11月号にとても興味深い調査結果を発表していた。それは橋本教授自身が東京近郊に住む約5600人を対象に(そのうち有効回答数は約2300人)、2016年に行った調査の結果をまとめたもので、調査対象者に政治的課題や社会問題に対する様々な質問を行い、そこで得られた回答をもとに、経済格差の拡大が人々の政治的なスタンスにどのような影響を及ぼしているかを分析するというものだった。
調査に答えた約2300人の回答を精査した結果、回答者を一定の共通性を持った3つの集団(クラスター)に大別できることが明らかになったと橋本氏は言う。それは「新自由主義右翼クラスター」と「穏健保守クラスター」と「リベラルクラスター」の3つだ。全回答者に占める新自由主義右翼の割合が10.2%、穏健保守が38.9%、リベラルが50.9%を占めていた。
回答者のクラスター別支持政党を見ると、数の上では全体の1割に過ぎない新自由主義右翼の63%が自民党を支持していた。これに対し、数的には過半数を超え、他のクラスターを凌駕してもおかしくないリベラルクラスターのなんと7割が、「支持政党なし」と回答していた。現在の自民党が、数の上では少数派に過ぎない新自由主義右翼クラスターの圧倒的な支持に支えられている政党であり、自民党が彼らの存在を無視して選挙に勝つことがあり得ない立場に立たされていることが浮き彫りになった。その一方で、野党、とりわけ旧民主党勢力が、数的には過半数を占めるリベラルクラスターの支持をほとんど得られていないところに、現在の政治が閉塞したままになっている原因があることも露わになった。
しかし、問題は小さな政府を標榜する新自由主義者の主張に沿って規制緩和を進め、経済を市場原理に委ねれば、自ずと格差は生まれる。それと並行して富の再配分が行われなければ、格差は確実に拡大を続け、貧困層に落ちる人の数は日増しに増えていく。しかし、自民党が数の上では少数派の新自由主義右翼クラスターに引っ張られている限り、規制緩和が進む一方で、再配分は一向に期待できない状況が続くことが避けられそうもない。
これはひとえに、本来自民党内の多数派を形成しているはずの穏健保守クラスターと、自民党の対抗勢力を後押ししなければならないはずのリベラルクラスターが、「支持政党なし」などと暢気なことを言っている間に、数の上では圧倒的に少数派であるはずの新自由主義右翼クラスターに、日本の政治が自民党もろとも乗っ取られてしまったことを意味している。新・立憲民主党が「支持政党なし」と答えたリベラルクラスターからの信頼を取り戻すことができるかどうかも、今後の日本の針路を占う上で重要なカギを握る。
いずれにしても、他の多数派クラスターが暢気に構えている間に、数としては全体の1割に過ぎない、いやむしろ少数派だからこそ、かなり極端な主張と他のクラスターには見られない高い熱量を持った勢力に引っ張られる形で、必ずしも大多数の日本人が好ましいとは考えていない政策が実行に移され、結果的に経済的にも社会的にも、そして政治的にも延々と閉塞状態が続く現在の状況は、決して好ましいものとは言えないだろう。
格差の現状とそれが生み出している政治状況を検証した上で、そこから抜け出すための方策などについて、格差や貧困問題の専門家で今回の調査を行った橋本教授と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・格差に関する調査で明らかになった「3つのクラスター」
・“釣り”にかかりやすい、新自由主義右翼
・金持ち優遇、まさに格差を広げるための政策を振り返る
・格差是正の鍵は「主婦」へのアプローチにあり
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■格差に関する調査で明らかになった「3つのクラスター」
神保: 今回は楽しみな内容で、「なぜこのままの路線で行くと日本は幸せになれないのか」という話を、「階級社会」の専門家に伺います。宮台さん、格差や中流の崩壊など、今回のテーマについて冒頭に言っておきたいことはありますか。
宮台: 1980年代に村上泰亮さんという有名な経済学者が『新中間大衆の時代―戦後日本の解剖学』という本を出して、非常に有名になりました。その直前には一億総中流化という言葉もあり、当時は日本の経済状況として内需が非常によくて、まさに新中間層の人たちの購買力も非常に高かった。その状態が、どうしていまのような正規/非正規への分断とか、社会の下半分の困窮という状態になったのか。僕のような世代から見ると、1980年代とこの2020年前後の現在との落差があまりにも劇的なので、その理由をどうしても知りたくなります。 -
村上祐介氏:政権中枢の思想と新自由主義に振り回され続けた教育改革
2020-10-14 20:00550ptマル激!メールマガジン 2020年10月14日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第1018回(2020年10月10日)
安倍政権の検証(6)
政権中枢の思想と新自由主義に振り回され続けた教育改革
ゲスト:村上祐介氏(東京大学大学院教育学研究科准教授)
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安倍政権の検証シリーズ第6弾は、今後長期にわたって影響が響いてくるであろう教育分野を取り上げる。
教育再生を政権の柱の一つとして掲げ、第一次政権で念願だった教育基本法の改正を実現した安倍政権は、2012年に再び政権の座に返り咲くと、直ちに教育再生実行会議を起ち上げて、第一次政権で志半ばにして中断していた教育改革の再開に取りかかった。これまで教育分野における政府の方針を決定してきた中教審(中央教育審議会)はこの実行会議の下に置かれる形になり、党の教育再生実行本部長を務めてきた下村博文衆院議員が、そのまま文部科学大臣兼教育再生担当大臣に就き、従前より提唱してきた道徳の教科化や大学入試の見直しなどの「改革」を矢継ぎ早に実施に移した。
自民党が長年にわたり主張してきた道徳の教科化は安倍政権の下で、一昨年から小学校で、去年からは中学校で実際に始まっている。昨今話題になっている日本学術会議が今年6月、「道徳科において『考え、議論する』教育を推進するために」と題する報告書の中で、現在の道徳教育が国家主義に傾斜していて自由や権利が強調されていない点や、特定の価値の押しつけが行われており、社会の多様性への理解が不十分なことなどを問題点として指摘している。この報告書が今回の任命拒否にどう影響しているかはわからないが、主体的に学ぶ力をつけるという教育の大目標と照らし合わした時、現在の教科としての道徳が強調する特定の価値の注入との間には明らかな矛盾がある。それが子供たちに対し、ある種の思考停止を要求する結果を生むのではないかと、東大准教授で教育行政学が専門の村上祐介氏は危惧する。
特定の価値を前面に押し出す一方で、安倍政権下の教育改革は新自由主義的な色合いも強い特徴を持つ。世論の強い反対に遭い最終的には撤回されたものの、当初は大学入試への民間試験の導入が決定されていた。村上氏はこれを、「カネをかけない教育改革」を進めようとした結果だったと指摘する。実際、安倍政権下では国の予算が全体的に大きく膨らむ中、文科省予算は5兆3000億円台とほぼ横ばいか、もしくは漸減が続いている。教育改革を旗印にしている安倍政権が、予算的には文科行政を蚊帳の外に置いているのが実態だ。
もともと日本は先進国中、最も公的な教育支出が少ない国だ。今年9月に公表されたOECDの最新データによれば、2017年の大学と高専を含めた日本の公的教育支出の総額は対GDP比で4%に届かず、OECD平均の4.9%を大きく下回る。他の先進国ではノルウェーの6.7%を筆頭にアメリカ、イギリス、フランスなども軒並み6%を超えており、日本は韓国やトルコ、メキシコよりも低い水準にある。安倍政権はそれを更に削ろうとしていたのだ。
日本学術会議の任命拒否問題とも関わってくることだが、そもそも教育行政がその時々の政権の意向やその思想的傾向に容易に左右されてしまって良いのだろうか。仮に教育行政に政治が関与する余地があるとすれば、どこまでの介入が許されるべきなのか。一政権の枠を大きく超えて、末永く国の将来に影響を与えることになる教育政策は、より中立的な立場から議論され、決定される必要があるのではないかと、村上氏は問題提起する。
現在、教育行政への政治的関与の国際比較研究のために米・カリフォルニア大学バークレー校教育大学院にビジティング・スカラーとして所属している村上祐介氏とリモートで結んで、社会学者・宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。
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今週の論点
・「主体性」と「思考停止」の矛盾を孕んだ安倍政権の教育改革
・“お金をかけない教育改革”が生み出した現状とは
・多忙な状況にとどめ置かれる、現場の教員たち
・専門性が軽視された結果、バランスを欠いた「政治主導」に
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■「主体性」と「思考停止」の矛盾を孕んだ安倍政権の教育改革
迫田: 今回は安倍政権の検証シリーズ、第6回をお送りいたします。テーマは教育についてです。長くさまざまな影響が続く、大きなテーマの一つだと思います。ゲストとして、教育行政学がご専門、新進気鋭の研究者である東京大学准教授の村上祐介さんをリモートでお呼びしています。村上先生は現在、教育行政への政治的関与の国際比較研究のため、米・カリフォルニア大学バークレー校教育大学院にビジティング・スカラーとして所属されています。そちらはどんな状況ですか。
村上: 日本より厳しい状況だと思います。 -
三木由希子氏:公文書管理と情報公開のできない政権は歴史の審判に値しない
2020-10-07 20:00550pt
マル激!メールマガジン 2020年10月7日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第1017回(2020年10月3日)
安倍政権の検証(5)
公文書管理と情報公開のできない政権は歴史の審判に値しない
ゲスト:三木由希子氏(情報公開クリアリングハウス理事長)
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安倍政権の検証をシリーズで行ってきたが、恐らくその中でも今回こそが一番重要なテーマだと言っても過言ではないだろう。なぜならば、他のすべての問題が今回のテーマに依存しているからだ。
安倍首相は辞任を表明した2020年8月28日の会見で、歴代最長となった自らの政権のレガシーを問われ、「歴史の検証に委ねたい」と語った。しかし、政権の実績を評価するためには正確な記録が残され、それが公開されていることが大前提となることは言うまでもない。
長年、公文書の情報公開に取り組んできたNPO法人情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長は、そもそも日本では政権の意思決定過程を公文書として記録に残さなければならないという概念自体が希薄なところにもってきて、安倍政権以降の官邸一強体制の下で、内閣人事局などで一元管理されるようになった幹部官僚たちが政権に忖度するようになったため、後に政治家、とりわけ官邸にとって不都合になる可能性がありそうな公文書はなるべく残さないようにしようという雰囲気が益々強くなってしまったと指摘する。
加計学園問題では総理を始めとする政府の高官がいつ誰と会ったかを記録した面会記録が1日で廃棄されていたり、首相や官房長官の日程が記者会見や国会出席など1日あたり3~4件しか書き込まれていないものしか公文書としては残されていないという衝撃的な事実も明らかになった。アメリカでホワイトハウスの入退出記録が詳細に記録されていたり、大統領や政府高官の日程が詳細に公文書に記録されているのと比較すると、日本の公文書管理と情報公開は50年以上も世界から後れを取っていると言わざるを得ない状況だ。
安全保障上の理由やプライバシー、刑事捜査に絡む情報など、もしそれが今、公開されれば国益が損なわれるような情報なのであれば、何でもかんでも今すぐに全てを公開しろとまでは言わない。しかし、それでも公文書としてきちんと記録に残した上で、情報公開法の基準に則り一定期間、部分的、あるいは全体を非公開にするという手段もある。しかし、今の日本の政府が記録を残したくない、あるいは残そうとしない理由は残念ながら、そんな崇高な次元の話ではないように見える。それは単に、その役所や官僚自身にとって不都合なものだったり、特に安倍政権以降は、政権にとって不都合だからだったり、記録に残しても恥ずかしくないような十分な根拠や合理性、正当性のない恣意的な意思決定が至る所でなされているからというのが実情なのではないか。
課題は山積しているが、何をおいてもまず公文書管理と情報公開の後進国から卒業しなければ、日本の民主主義は「任せておいてブーたれる」だけの「おまかせ民主主義」から一向に脱皮することができない。その卒業のために一丁目一番地となるのが公文書管理と情報公開だ。現行の公文書管理法と情報公開法は不備も多いが、少なくともその精神を徹底し法律を順守するところから始める必要がある。ところが官僚教育の中で、公文書管理や情報公開の重要性を真剣に教えているという話は終ぞ聞かない。
安倍政権下で明らかになった公文書管理と情報公開の問題点と今後の課題などについて、同分野の一人者で数々の情報公開請求訴訟を今も続けている三木由希子氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・理由も経緯も残っていない、日本学術会議問題
・総理大臣がいつ誰に会ったのかも検証できない日本
・日本には「政治が記録を通じて説明責任を果たす」という前提がない
・公文書が残らず、「創作」されていくレガシー
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■理由も経緯も残っていない、日本学術会議問題
神保: 今回は安倍政権の検証の第5弾です。僕はこれが一番大事で、これさえしっかりしていればさまざまな問題があっても、最後はなんとか改めることができるのでは思っています。つまり、公文書管理と情報公開がテーマです。ゲストはこの問題で何度もお世話になっています、情報公開クリアリングハウス理事長の三木由希子さんです。
せっかくなので最初に伺いたいのですが、菅政権が発足して間もなく、日本学術会議の問題が起きました。さまざまな論点がありますが、今回、学術会議側が推薦してきた6人の新会員候補について、政府が任命を拒否したと。そして、うち5人が特定秘密保護法に反対の意思を表明してきた人で、お一人は共謀罪に反対をしてきた人でした。仮にそれが理由であれば、議論の場ではっきりと意思表明されれば、いいとは言いませんが、まだわかります。しかし、いまの日本では、この6人がダメになったときに、その理由が記録に残りません。
三木: 自分たちが言えること、言いたいことしか言わないという世界なので、広報や会見というものも、本当に何があったかということを知る機会としては、もともとあまり成立していないと思います。説明する側、情報を持っている側がある程度、出すものをコントロールすることはどうしても起こる、という前提で動いていると思いますが、それがすべてになってはいけない、というのが基本的な政府のあり方のベースになければいけません。
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