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飯田哲也氏:電力自由化はエネルギーデモクラシー実現の一里塚となるか
2016-03-30 23:30550ptマル激!メールマガジン 2016年3月30日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第781回(2016年3月26日)電力自由化はエネルギーデモクラシー実現の一里塚となるかゲスト:飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長)────────────────────────────────────── 4月から電力小売りが自由化され、消費者は電力会社を選べるようになる。異業種から新規参入する新電力(PPS)各社は、あの手この手のキャンペーンで顧客の争奪戦を展開している。大手電力会社からの乗り換えが可能な新電力はエネルギー関係の他、携帯電話会社や大手コンビニ、鉄道会社、地方自治体が設立したものなど、選択肢は実に多様だ。その多くが、従来よりも電気料金が安くなることをウリにしているようで、一見、長年にわたり地域独占が続いていた電力市場にも、競争の波が押し寄せてきたかのようにも見える。 果たして、今回の電力自由化は本物なのか。確かに、消費者の選択肢が増えることはいいことだ。しかし、環境エネルギー政策研究所の代表でエネルギー政策に詳しい飯田哲也氏は、今回の電力小売りの自由化にはとても手放しで「全面自由化」とは呼べない多くのカラクリが潜んでいると指摘する。実際に電力の販売は自由化されるが、現実には参入障壁が多く、新規参入は市場の数パーセントにとどまる可能性が高いというのだ。 法人向けの大口の電力市場は既に2000年から段階的に自由化されていて、その割合は電力市場全体の6割に及んでいるが、新規参入のシェアは市場の3%程度にとどまっている。毎回「自由化」がまやかしに終わってしまう理由として、飯田氏は電力市場のうち「送電部分」が相変わらず大手電力に支配されている点に問題があると指摘する。大手電力会社は発電部門は送電網を利用するためにべらぼうに高い託送料を課すなどして、容易に新規参入を妨げることができる。実際は競争環境が全くといっていいほど整備されていない。 今回の「全面自由化」については、「既得権益に守られた大手電力会社の手の平の上で新規参入組を遊ばせるようなもの」と、飯田氏は酷評する。 とは言え、とりあえず小売りが自由化されることで、これまで空気のような存在だったエネルギーに対する消費者の意識が変化し、それが長期的にはそしてエネルギーデモクラシーの実現へとつながる可能性は十分にある。国民生活の根幹を成すエネルギー供給が、原発に代表される中央集中型から、再エネを中心とする地域分散型にシフトしていけば、日本の政治、経済、そして社会の在り方も大きく変わってくるだろうと、飯田氏は期待を込めて語る。4月から始まる電力小売りの全面自由化の本物度を、ゲストの飯田哲也氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・競争があまりにも非対称な“自由化”の実情・“料金が下がるかどうか”という論点の不毛さ・参考にすべき、デンマークの分散型システム・日本の電力を変える鍵になるのは、やはり知識社会化+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
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月尾嘉男氏:日本が生き残るための処方箋
2016-03-23 23:30550ptマル激!メールマガジン 2016年3月23日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第780回(2016年3月19日)日本が生き残るための処方箋ゲスト:月尾嘉男氏(東京大学名誉教授)────────────────────────────────────── 「そんなことをやってたら、国が滅びるぞ。」何かおかしなことが起きた時に発せられるこんなセリフは、少なくともこれまでは半分冗談で語られてきたものだった。国が本当に滅びることなんて、ありっこない。われわれの多くが、そう考えていたに違いない。 しかし、東日本大震災から5年。日本という国の統治機能が、根本的な問題を抱えていることが明らかになっている。にもかかわらず、われわれはそれらの問題を何一つ解決することができていない。そろそろわれわれはこの国の生存を真剣に心配しなければならないところまで来ているのではないか。そのような問題意識の上に、マル激では震災5周年を機に、2週にわたって、日本が存続するための条件を真剣に考える番組をシリーズで企画した。 その2回目となる今週は、日本の存続に対する危機感を表明してきた東京大学名誉教授の月尾嘉男氏と、現在の日本が置かれた危機的状況と、日本が世界地図から消えてしまわないために何をしなければならないかを議論した。 月尾氏は現在の日本の姿が、ローマ帝国に滅ぼされるまでのカルタゴや、7世紀から18世紀まで続いたベネチアといった、一時は世界に冠たる繁栄を謳歌しながら、時代の潮流に乗り遅れたために没落し、最後は消滅にいたった国々と酷似していると警鐘を鳴らす。 しかし、まだ日本にもチャンスはあると、月尾氏は言う。日本が近代以後推進してきた諸政策は、むしろ日本の伝統に反するものが多かった。近代化を実現するために、日本は身の丈に合わない西洋的な価値を無理やり日本に移植してきた面が多分にある。今、その西洋的な価値に逆転潮流が起きているのだとすれば、日本はむしろ自分たちが本来得意とする伝統的な路線に立ち戻ればいいだけではないか。近代化のために捨ててきた日本的な価値を今一度見直し、再興することが、日本が逆転潮流に乗り、再浮上するチャンスを与えてくる可能性があると月尾氏は言う。 このままでは日本は逆転潮流に乗り遅れた結果、人口は減り続け、経済的にも没落した、貧しいアジアの小国として生き残る道しか残されていない。いや、隣国に100年計画で世界支配を目論む国があることを考えると、カルタゴやベネチアのように、消滅の道を辿ることになるかもしれない。消滅国家の教訓と日本の現状を対比しつつ、これからも日本が生き残るための処方箋を、ゲストの月尾嘉男氏とともに神保哲生と宮台真司が議論した。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・震災から学ぶべきだった、道徳的連帯・繁栄しながら消滅した、カルタゴ・ベネチアと日本の共通点・「潮流逆転」に対応できていない日本・中国100年の計は、着実に進んでいる+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
■震災から学ぶべきだった、道徳的連帯
神保: 震災から5年の節目ですが、政治状況にしても何にしても、日本は何も変わっていません。これはいよいよヤバいなということで、先週に引き続き、日本という国の存続・消滅というレベルの話をきちんと考えていきたいと思います。
宮台: 先週も話したことですが、基本的に問題は、5年前の東日本大震災をどう理解するか、ということです。そこで明らかになったことを前提に、例えば街づくりをどうするのか、防災・減災、エネルギーの供給、通信のシステムをどうするのか、考えなければいけない。首都圏や大阪圏で同じことが起これば、もっと大きな災害になるわけですから。
神保: まだあれで済んでよかった、ということになる可能性もあります。
宮台: 同様の災害、あるいはそれ以上のことが起こったときに、僕たちがあのような破滅的な事態に陥らないための新しいシステムづくりをはじめなければいけなかった。つまり、「今まで乗っている船はこのままでは沈むから、新しい船を造って乗り換えよう」という話にならなければいけなかったのに、高浜原発の運転を差し止めた大津地裁の決定について、関西の経済界から「なぜ一地裁の裁判官によって、国のエネルギー政策に支障をきたすことが起こるのか」などと筋違いの批判が出ていることなどからも明らかなように、「今まで乗っていたのだから、この船でいいんだ」と言っている。
神保: 沈んでいく船のなかで、座席争いをしているということですね。
宮台: しかも、僕の考えでは、彼らは「本当にこの船は沈まない」と信じているのではなくて、「逃げきれる」と思っている。例えば自分の預金の大半をドル預金に替えるなど、そういうことを平気でやっているのです。基本的に「この船で大丈夫なんだ」と言っている連中のなかに、そのことについて責任を取れるだけの人間、責任を取ろうという覚悟のある人間、それがまったくいないと思います。
神保: 今回はいよいよ、日本の生き残り/存続のために考えなくてはいけないことは何か、というテーマでゲストの方をお願いしました。
宮台: 今回のゲストは、月尾嘉男先生です。東京大学の建築学科で都市工学を学ばれたのですが、そのあと、特に通信行政に非常に詳しいお仕事をされていて、政府に関係するようなさまざまな委員会・審議会等を歴任した先生でいらっしゃいます。
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橋爪大三郎氏:大震災でも変われない日本が存続するための処方箋
2016-03-16 22:30550ptマル激!メールマガジン 2016年3月16日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第779回(2016年3月12日)大震災でも変われない日本が存続するための処方箋ゲスト:橋爪大三郎氏(東京工業大学名誉教授)────────────────────────────────────── 東日本大震災から5年が経過した。地震、津波、そして原発事故が重なる未曾有の大惨事ではあったが、それから5年が経った今も、依然として17万人以上が避難生活を続け、原発事故は収束の目途すら立っていない。原子力非常事態宣言さえ解除できない状態のまま、政府は原発の再稼働に突き進んでいる。こんなことをやっていて、日本は本当に大丈夫なのだろうか。そろそろ日本のサバイバルを真剣に考え始める必要があるのではないか。震災から5年目の節目に、2週にわたり、日本が生き残るために何が必要かを考えてみたい。 まず今週は、東京工業大学名誉教授で社会学者の橋爪大三郎氏をゲストに、日本存続のための処方箋を議論した。橋爪氏は、5年前の震災は建物や人命に対する損害の甚大さもさることながら、日本の統治機構の根底を大きく揺さぶったと指摘。政官業の鉄のトライアングルの下、優秀な高級官僚が経済成長を実現し、政治がその利益配分を調整する戦後の日本の統治システムが、もはや完全に機能不全に陥っていることは明らかだった。 にもかかわらず震災後の日本は、その根本的な問題と向き合うことさえできていない。それどころか、復興は防潮堤や土地のかさ上げ工事など、旧態依然たる公共事業に頼り、事故の原因究明が不十分なまま、原発の再稼働を優先してしまっている体たらくだ。 国家の根幹を支える統治システムの機能不全が浮き彫りになっているにもかかわらず、それを手当てすることができないような国に未来はない。日本の未来に危機感を覚えた橋爪氏は近著『日本逆植民地計画』の中で、日本を救うための8つの処方箋を提示している。いずれも財源を必要とせず、法律や制度などのソフトを整備するだけで日本の活性化が期待できるという、これまで誰も考えなかった破天荒なアイデアばかりだ。 橋爪氏の提案は災害に弱い東京への政治・経済の一極集中を緩和し、迫り来る人口減少社会には全く新しい方法で対応していくなど、既存の枠組みに捉われない新しい考え方に基づいたものが並ぶ。その全てが実現可能かどうかはわからないが、従来の官僚機構による原状維持の殻を破り、新しい価値体系を切り開くためには、それくらいの大胆な改革が必要だと橋爪氏は言う。 日本が存続するために、われわれは何をしなければならないのか。震災5周年の節目にあたり、ゲストの橋爪大三郎氏とともに、神保哲生と宮台真司が議論した。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・日本が“救いようのない”国になった理由とは・橋爪氏が示す、新たな8つの成長戦略・「日本逆植民地計画」の全貌・“新しいゲーム”を発想するために必要なこととは+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
■日本が“救いようのない”国になった理由とは
神保: 3.11から5年という節目を迎え、忘れてはいけないこと、確認しておかなければならないことがあると思います。テレビや新聞でやることは想像がつきますから、マル激では少し違うことをしたいという思いがあり、2本立ての企画を考えました。今回はその1本目となりますが、まず、震災から5年が経過して、宮台さんは何か思うところがありますか。
宮台: 3.11の直後から繰り返してきたメッセージがあります。震災以降の東北の現実は、基本的に「システムが回らなくなると日本はどうなるのか」ということを予告している。そして、システムが回らなくなったときに人々が生き延びられるかどうかは、システムではないものにかかっているんです。この場合のシステムとはつまり、法的、あるいは行政的、市場的な枠組みです。そういう意味では、震災後の日本のようなことが今後、起こってはならないので、そのためにふさわしいような地域の再生、あるいは下支えが必要だという話になればよかったのですが、実際はとても残念な展開になっている。僕たちの記憶喪失ぶりを如実に示しています。
神保: 今回は特別なゲストをお呼びしています。宮台さんの兄弟子になりますでしょうか、東京工業大学名誉教授で社会学者の橋爪大三郎さんです。
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渡辺靖氏:偏見と憎悪に支えられたトランプ現象の危険度
2016-03-09 23:00550ptマル激!メールマガジン 2016年3月9日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第778回(2016年3月5日)偏見と憎悪に支えられたトランプ現象の危険度ゲスト:渡辺靖氏(慶應義塾大学環境情報学部教授)────────────────────────────────────── トランプ旋風が止まらない。米大統領選の民主、共和両党の候補指名争いは最大のヤマ場となる「スーパーチューズデー」で、民主党はヒラリー・クリントンが、共和党はドナルド・トランプが圧勝し、指名獲得に大きく近づいた。今回の勝利で、トランプが7月の共和党全国大会にトップで突入する可能性が非常に高くなり、残るは果たしてトランプが投票権を持つ代議員の過半数の支持を得られるかどうかに移っているとの見方もある。 今年の大統領選挙の候補指名争いは、民主・共和両党ともに、当初は泡沫候補に終わると見られていた候補が予想外の善戦を続けている。一般的にはこの現象は、硬直化した旧態依然たるワシントン政治に辟易とした有権者が、異色の候補者に惹かれた結果だと説明されているし、おそらくそれは大筋では正しい評価だろう。しかし、トランプに集まる熱狂的な支持には注意が必要だ。それは支持者たちの多くが政策そのものよりも、トランプのスタイル、とりわけ人種や宗教、性別に対する偏見や憎悪を剥き出しにした発言を憚らない演説スタイルに惹きつけられていることが、明らかになってきたからだ。 アメリカ政治が専門の渡辺靖慶応義塾大学環境情報学部教授は、アメリカの有権者の間に燻る既存の政治に対する不満が高まっていることは当初から認識されていたが、少数派に対する憎悪や偏見に支えられたトランプ現象を目の当たりにして、それがここまで悪化しているとは専門家たちも予想できていなかったと語る。 とどまるところを知らないトランプ旋風にようやく危機感を持った共和党の指導部やメディアは、ここにきてトランプ批判を強めている。しかし、ワシントン・インサイダーと見られる共和党の指導層や既存のメディアがトランプを叩けば叩くほど、トランプ支持者が増えるという皮肉な現象が起きている。 トランプ旋風なるものにこのまま勢いがつけば、11月の本選でトランプが大統領に選出されることも十分にあり得る状況だ。しかし、これだけ偏見や憎悪を振りまくことで支持を広げてきた候補者が、世界一の超大国アメリカの大統領になった時、アメリカ社会のみならず世界に与える影響は計り知れない。 トランプ旋風を支えるヘイト(憎悪)やビゴット(偏見)の正体とその背景を、希代のアメリカウオッチャー渡辺靖氏と、神保哲生、宮台真司が議論した。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・トランプ現象は、共和党の“最後のあがき”か・「インサイダー対アウトサイダー」の構図になれば、トランプは侮れない・回復不能になった、民主党対共和党の対立軸・トランプが本当に大統領になったら+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
■トランプ現象は、共和党の“最後のあがき”か
神保: アメリカの大統領選挙がただならぬ状況にあるようです。報道の中で、トランプという異色の候補が勝ってきているということは伝わっていると思いますが、なぜトランプに支持が集まっているか、という理由については言及されていない。今回はその点について議論したいと思います。
宮台: トランプブームに象徴されるような方向性が、今後増しこそすれ、緩和するだろうというように見通せません。一つの典型的な例はスウェーデンです。スウェーデンは、EU加盟国の中で最も移民、難民が多いのですが、いわゆるダーティワーク、3Kワークのほとんどすべてを彼らが担っている。つまり、社会的な差別が可視化しているのです。その結果、福祉大国スウェーデンは、結局他人のふんどしで相撲をとっていただけの話になる。そして、その“他人のふんどし”がまさに可視化したせいで、社民主義リベラルの正統性そのものが危うくなっています。
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高橋和夫氏:イランの国際舞台復帰で変わる中東の勢力図
2016-03-02 23:00550ptマル激!メールマガジン 2016年3月2日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第777回(2016年2月27日)イランの国際舞台復帰で変わる中東の勢力図ゲスト:高橋和夫氏(放送大学教授・国際政治学者)────────────────────────────────────── 中東でイランの存在感が増している。昨年7月に核開発をめぐりイランがアメリカなどとの間で合意したことを受けて、長年同国を苦しめてきた制裁が解除され、イランの国際舞台への復帰がいよいよ本格化してきた。 イランとアメリカは長年、対立関係にあった。1950年代からアメリカはイランの内政に干渉を続け、53年にはCIAが中心となってクーデターを起こさせ、傀儡政権を打ち立てている。こうした過剰な干渉がイラン国民の反発を招き、1979年、イランではイスラム原理主義革命が起こる。それ以降、イランとアメリカの関係悪化は決定的となった。経済制裁が幾度となく発動され、イランは長年にわたり、国際社会から孤立させられた上に、経済的にも苦境を味わってきた。アメリカは隣国イラクのサダム・フセインを支援し、間接的にイラン・イラク戦争まで仕掛けている。 一方、国際的な孤立を余儀なくされたイランが、その後、核開発に着手したことで、北朝鮮、イラクと並びブッシュ大統領から「悪の枢軸」とまで罵られるようになった。 放送大学教授でイラン情勢に詳しい高橋和夫氏は、イラン側にはアメリカが仕掛けたクーデターによって自分たちが選んだ政権が潰されたことへの恨みが染みついている一方で、アメリカは原理主義革命時に大使館を占拠されたことで覇権国としてのプライドをずたずたにされた経験が尾を引き、両国の和解はこれまで一向に実現しなかったという。 それがここに来て、イラン側では、強硬路線だったアフマディネジャド前大統領に代わって穏健派のロウハニー氏が大統領に就任し、アメリカ側も「悪の枢軸」演説をしたブッシュ大統領に代わり、オバマ政権が誕生したことで、ようやく関係改善の環境が整った。 しかし、国土、人口、石油資源、そして歴史とプライドと、あらゆる面で中東の盟主の条件を兼ね備えたイランが、制裁解除によって国際舞台に復帰すると、中東の勢力図に大きな変化が起きることが避けられない。特に、米・イラン関係の悪化を後目に、親米国として中東の盟主の地位を享受してきたサウジアラビアへの影響は大きい。 イランの台頭によって中東の勢力図はどう塗り変わるのか。アメリカの後ろ盾で強権的な王政を維持してきたサウジアラビアには、これからも現体制を維持できるのか。混乱するシリア情勢や中東の歴史などを参照しながら、ゲストの高橋和夫氏とともに議論した。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・イランとサウジによるアメリカの取り合い・イランの大国意識と被害者意識・アメリカとイランの憎悪の歴史・イスラエル問題はどう位置づけられるか+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
■イランとサウジによるアメリカの取り合い
神保: 今回はイランについて議論がしたくて、このテーマを設定しました。主演イラン、助演サウジアラビア、くらいの企画です。
宮台: 僕たちがマル激をスタートした直後に9.11の事件が起こりました。そして、アメリカがけっこうダメな国だという議論をする際に、例の筆頭として取り上げていたのがイランです。アメリカはモサデク政権を倒し、パーレビ傀儡王朝を作り、革命をやられて、ファナティックな「原理主義」だというレッテル貼りをして、イラクのフセインを応援して・・・というように、イランとの関係にアメリカの愚昧な政治が顕著に出ているのです。似たようなことがシリアにも言えるのではないかという気もしています。
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