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小河光治氏:今こそ子どもの貧困対策に真剣に取り組んでほしい
2022-01-26 20:00550ptマル激!メールマガジン 2022年1月26日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1085回)
今こそ子どもの貧困対策に真剣に取り組んでほしい
ゲスト:小河 光治氏(公益財団法人「あすのば」代表理事)
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1月17日に始まった通常国会。首相の施政方針演説では様々な施策が総花的に語られたが、子どもの支援にあたっている関係者の間では、「こども家庭庁」の創設をきっかけに、今度こそ子ども対策が真剣に議論される国会になってほしいとの期待が高まっている。
これまでの日本の子ども政策が家庭任せ、親任せの自己責任を前提としていることは、これまでマル激でも繰り返し問題視されてきた。日本の子ども支援に関連した社会関係支出は、対GDP比で1.73%と、OECD加盟国(先進国)の平均を大きく下回る。さらに子どもに関連した国の施策は厚労省、文科省、内閣府の縦割り行政の壁のために、結果的に本来の目的である子どものためになっていない問題も長らく指摘されてきた。
そうした中、昨年12月21日に閣議決定された「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」では、こども家庭庁を司令塔として「こどもまんなか社会を目指す」ことが謳われている。子どもの貧困対策センター公益法人あすのば代表理事の小河光治氏は、こども家庭庁が創設されるのであれば、人と予算をつけ、保護者の所得などに左右されずにすべての子どもと若者への支援を拡充してほしいと語る。
かつてあしなが育英会で遺児支援にあたっていた小河氏は、2009年に政府が初めて子どもの貧困率を公表した時、日本人の7人に1人が貧困状態にあることを知り、とても驚いたという。その後、子どもの貧困対策法もできたが、それだけでは何も変わらないと考えた小河氏は、民間の立場から子どもの貧困対策に取り組むために市民団体「あすのば」を2015年に立ち上げ、政策提言や子どもへの直接支援活動などを続けている。
子どもの貧困率は現在も依然として13.5%(2019年)と高い。しかも、これは3年ごとの国民生活基礎調査から算出される数値なので、2021年に行われた調査の結果が出ると、コロナ禍の影響で状況はさらに悪化していることが懸念されている。実際「あすのば」が2020年度に行った「入学・新生活給付金」には通常の数倍の応募が殺到し、緊急支援を合わせて約8000人、金額にして3億円余りの給付が行われた。受給したこどもたちからは、「母親の仕事もコロナでなくなり、学校代が払えなかったのが一番ショックだった」(17歳)、「祖母と2人家族で、高校生の私が3つバイトを掛け持ちしてなんとか生活しています。しかし、コロナ禍でシフトが減ったり営業停止したりで収入が減少して困っていました」(17歳)といった声が届いているという。
政府はひとり親世帯、低所得の二人親世帯、10万円の子育て世帯臨時給付など、子育て世帯向けの施策を打ち出してはいるが、別居中の母子には支援が届かないなど、子ども政策の基本方針にある「誰一人取り残さず、抜け落ちることのない支援」には必ずしもなっておらず、場当たり的な印象は拭えない。
こどもまんなか社会のためには何が必要なのか、その実現を阻んでいるものは何か、コロナ禍で子どもの貧困の実態が見えてきたことを、子ども政策の転換を図る契機にすべきと語る小河氏と、社会学者・宮台真司とジャーナリスト迫田朋子が議論した。
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今週の論点
・「自己責任=自業自得」の呪縛にかかった日本の貧困対策
・「役人」という壁と、子どもたちへの温かな支援
・本当に困っている人がこぼれ落ちない、ユニバーサルな施策を
・すべての子ども・若者への支援拡充のために
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■「自己責任=自業自得」の呪縛にかかった日本の貧困対策
迫田: 今回は「子どもの貧困対策」をテーマに議論を進めます。通常国会で「こども家庭庁」が議論されていますが、本当に何が必要なのか。日本の子ども政策については、まだ柱がきちんとしていないと思います。
宮台: それは世論の支えが小さいからです。民主党政権の時代もそうでしたが、「独身者の金を子どもがいるやつにつけるのか」という話になり、つまり子どもが社会の資産である、というふうにまったく考えられていない。
迫田: そして一方では「少子化が問題だ」と言う。
宮台: しかし、家族を作れというプレッシャーがかかると「ハラスメントだ」という言い方が出てきます。日本は本当に微妙な社会になってしまっている。
迫田: 日本では7人に1人の子どもが貧困のなかにあるというデータもあります。今回は公益財団法人「あすのば」の代表理事でいらっしゃいます、小河光治さんにお越しいただきました。2015年に立ち上げられた、子どもの貧困という問題を正面に据えた財団ということですね。
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中井治郎氏:夫の私が妻の姓を選んでわかったこと
2022-01-19 20:00550ptマル激!メールマガジン 2022年1月19日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1084回)
夫の私が妻の姓を選んでわかったこと
ゲスト:中井治郎氏(社会学者、龍谷大学社会学部非常勤講師)
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日本は1996年に法務大臣の諮問機関である法制審議会が、夫婦が別姓を選択できる制度の導入を答申して以来、強制的な夫婦同姓を定めた民法750条は、国連の差別撤廃委員会から繰り返し勧告を受けたり、多くの違憲訴訟が提起されるなどしてきた。しかし、政治の動きはいたって鈍く、最高裁も現行法の下での夫婦同姓の合憲判断を繰り返したため、法制審議会の答申から26年が経った今も、日本では厳然たる夫婦同姓制度が続いている。
一方で世界に目を向けると、夫婦同姓制度を維持している数少ない国の一つだったタイが2005年に、オーストリアとスイスが2013年にそれぞれ選択的夫婦別姓を導入したことで、世界で夫婦に同姓を強いている国は日本だけになってしまった。
先の総選挙では、日本記者クラブで開催された党首討論会において「次期国会で選択的夫婦別姓を認める法案の提出」への賛否を問われた際、自民党の岸田総裁を除く全党の党首が、これに賛成の意思を表明した。自民党だけが依然として選択的夫婦別姓に否定的な態度を続けている状態だ。
自民党内では夫婦同姓制度が日本の伝統的な結婚や家族制度を維持する上で欠かすことのできないものであると主張する保守勢力が政策決定に強い影響力を持っているため、選択的夫婦別姓の導入に向けた議論は進んでいない。現在は保守派の重鎮でもある高市早苗政調会長を中心に、旧姓を通称として使い続けることに法的な根拠を与えるための法改正に向けた議論が進んでいる。これは結婚を機に主に女性が苗字を変えなければならないことによって生じるデメリットを抑えつつ、戸籍上の夫婦別姓だけは何が何でも認めないという考え方が根底にあるものだ。戸籍上の同姓制度が日本の家族制度を支えていると本当に考えているのだろうか。
社会学者の中井治郎氏は、自身が次男であり妻が3人姉妹の末妹だったことから、2019年に結婚した際、それほど強いこだわりもなく妻の旧姓を名乗る選択をした。しかし、いざ戸籍名を妻の姓に変えてみると、不都合なことがとても多いことに気づかされたという。
中井氏は結婚後も社会的には旧姓の中井を使い続けている。つまり「中井治郎」という名前は現行法の下では「通称」ということになる。当初、中井氏としては、戸籍に関わる問題以外は妻の姓を名乗ることにそれほど大きな影響はないと考えていたそうだ。しかし、税金関係や健康保険、銀行口座、パスポートなどにはいずれも戸籍名を書かなければならず、それが中井氏が通常使っている名前と同一人物であることを証明するのが容易ではないことに、後になって気づかされたという。
また、中井氏の親族内、とりわけ結婚して中井姓を名乗ることになった女性の親族の間に、中井氏が中井姓を捨てることに対する反対論が強かったことが、中井氏にとっては意外だったという。むしろ男性の親族の方が、中井氏の決定に理解を示したそうだ。中井氏は女性親族から、男性は元々苗字を変えなくてもいいという特権を持って生まれているのに、なぜみすみすそれを放棄しなければならないのかと言われ反対されたのだという。
世界の趨勢や世論の動静も、一律に夫婦に同姓を強制することが難しくなる中、自民党が現在検討している通称利用の法制化は妥当な解決策といえるのか。長らく選択的夫婦別姓が導入できなかったのは、党内の保守派の影響力が強いからだが、自民党内には別姓の容認論、推進論も根強く残っている。岸田政権が脱安倍を果たし真に自前の政権へと脱皮する上で、この法案の扱いが大きな試金石となるだろう。恐らく今年7月の参院選でも選択的夫婦別姓導入の是非は自民党と他の野党とを分かつ境界線になる。日本では結婚に際して96%が男性の姓を名乗っているという実態に鑑みて、日本が女性に大きな犠牲を強いる現在の強制的な夫婦同姓制度をいつまで続けるのかが注目されている。
結婚に際して自身が妻の姓を名乗る選択をしたことで、苗字を変えることのさまざまな負担や、通称と戸籍上の名前が異なることの弊害を身をもって経験している中井氏と、日本の選択的夫婦別姓をめぐる現状やその実態について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・妻の姓を選択するとき、なぜ女性親族が反対したのか
・「苗字」の歴史と、いまだに「入籍」という言葉が使われる理由
・姓を変えることの不都合――女性にハンディキャップを押し付けている現状
・保守陣営が不安の埋め合わせのために維持している夫婦同姓
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■妻の姓を選択するとき、なぜ女性親族が反対したのか
神保: 今回は選択的夫婦別姓、もしくは夫婦別姓同姓問題というものを取り上げます。というのも、僕はこれを岸田政権が本当に脱安倍にかかれるか、ということの試金石になっていると見ているんです。選択的夫婦別姓は当然だろう、という声が強いのに、安倍政権で非常に力を持っていた自民党内の保守派、その代表格として高市早苗さんが現在、政調会長として入っていますが、そこが頑として動かない状況。今回はこの問題をきちんと整理しようと考え、ゲストに社会学者で龍谷大学社会学部非常勤講師の中井治郎さんをお招きしました。
『日本のふしぎな夫婦同姓 社会学者、妻の姓を選ぶ』という本をお出しになっており、副題の「社会学者」というのは、中井さんご自身のことです。2019年に結婚されて、日本は同姓にしないと入籍できませんから、奥様の方の姓に変えられたと。民法上、いまはどちらの姓にしてもいいことにはなっていますが、96%が男性の方に合わせており、実質的に女性が名字を放棄しなければいけないという法律になっているなかで、そうした選択をされたということです。本を読むと、親族からは反対されたと書かれていますね。
中井: そうですね。僕自身が次男であることが大きく、特に差し支えないだろうと高を括ってしまっていました。妻の方は3人姉妹で、最後の独身の女の子だったので、苗字を変えてしまうと、向こうの家の姓がなくなってしまう、というところで。妻に言われたわけでなく、最初から「治郎さんが変えるのは大変だしね……」と、最初から諦めていたような感じだったことに、なにかカチンと来てしまったんです。そこで、勢いで「それなら自分が変えるよ」と、思いつきで決めたのですが、思ったより大変だった、ということを本に書いています。
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神野直彦氏:真っ当な「新しい資本主義」のすすめ
2022-01-12 20:00550ptマル激!メールマガジン 2022年1月12日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1083回)
真っ当な「新しい資本主義」のすすめ
ゲスト:神野直彦氏(東京大学名誉教授・社会事業大学学長)
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「新しい資本主義」が、グローバルよりローカルを、単純な市場原理よりも社会の保全を優先する、「分かち合い」の方向へ向かうかどうかが問われている。
岸田政権の旗印が「新しい資本主義」だという。行き過ぎた資本主義が格差を生み、人類の生存にも関わる気候変動問題にもブレーキがかからないなど、数々の問題を生じさせていることは確かだ。何らかの軌道修正が必要なことは間違いないだろう。キャッチフレーズとしては悪くないのかもしれない。
しかし、岸田政権の新しい資本主義の中身を具体的に見てみると、キャッチフレーズこそよく練られているものの、結局のところ成長戦略としては何ら目新しいものは見当たらない。かと思えば、分配戦略としては「賃上げ機運の醸成」「男女間賃金格差の解消」など、新鮮さもなければ具体性もないメニューが並ぶばかりで、これのどこが「新しい資本主義」なのか、皆目見当が付かない内容だ。岸田政権は「古い資本主義」のどこに問題があると考え、それをいかにして解消しようというのか。その根底をなす考え方が見えないのだ。
「新しい資本主義」の具体的な内容は「新しい資本主義実現会議」なる会議で議論するということだが、ここまで3回開催された同会議は、何をもって新しい資本主義とするのかをめぐる堂々巡りの議論で迷走するばかりだったと聞く。岸田政権も安倍政権と同様、官邸官僚の多くを占める経産官僚が得意とするキャッチフレーズ内閣で終わってしまうのではないかという懸念が、早くも頭をもたげ始めている。
しかし、せっかく日本の総理大臣が「新しい資本主義」を掲げたのであれば、ぜひともこの際、ここまでの資本主義の問題点を真剣に議論し、本当の意味での新しい資本主義を志向してみてはどうだろうか。少なくともその方向へ一歩を踏み出さない手はない。
経済学者として一貫して分かち合いの経済政策の必要性を訴え、その方向への経済政策の転換を提唱してきた東京大学名誉教授の神野直彦氏は、岸田政権の「新しい資本主義」には何ら新しい要素は見いだせないとしたうえで、現在の資本主義が置かれている状態に以下のような認識を示す。
それは、20世紀末に資本主義vs社会主義の戦いにおいてソビエト型社会主義が崩壊することで資本主義が一時的に勝利を収めたところまでを第1幕とすると、第2幕では社会主義に勝った西側資本主義を支えた戦後の福祉国家モデルも程なく終焉し、そして第3幕で小さな政府を主張する新自由主義的なアングロ・アメリカン(英米型)モデルの資本主義と、EUの社会統合モデルが登場したたが、その両者がリーマンショック後に共倒れとなり、現在世界は第4幕が開かないまま混沌とした状態にあるというものだ。
世界が新しい資本主義の形を模索する中で、大上段から「新しい資本主義」を掲げる以上、岸田政権はそうした世界的な潮流の中で日本がどのような資本主義を提案しようとしているのかが問われると神野氏は語る。
さらに神野氏は人間社会は過剰な豊かさと貧しさとによって壊滅的な打撃を受け、今日の世界は歴史の方向性に対する喪失感を感じている危機的な局面にあるとした上で、20世紀初期の大恐慌がケインズを登場させたように、今回の危機も新しい経済思想を要請していると指摘する。
第4幕を模索しながら混沌とする世界にあって、SNSやメタバースを通じて権威主義やポピュリズムが人々の寂しさに付け入る隙を虎視眈々と狙う今、時代が要請している新しい経済思想とはどんなものか。日本が「新しい資本主義」に取り入れなければならない要素とは何なのか。一貫して新自由主義を批判し、分かち合いの経済を提唱してきた神野氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・思想とビジョンが感じられない「新しい資本主義」
・共倒れしたアングロアメリカンモデルとヨーロッパモデル
・行き着く先は国民国家時代の終焉か
・実存を忘れさせるメタバースに対抗するために
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■思想とビジョンが感じられない「新しい資本主義」
神保: 一年の最初の放送ということもあり、今回は細かい話より、大きなテーマでお送りしたいと思います。「新しい資本主義」というのは一応、岸田政権の多分に電通的なキャッチフレーズです。
宮台: 僕も「新しい資本主義」などという本を書きたいですよ。思い切ったタイトルで、岸田が資本主義をどれだけわかっているのか、ということが疑問になります。資本主義の定義とは、と聞かれて彼は話せるのか。
神保: 逆にいうと、わかっている人はとてもではないが怖くてつけられないようなネーミングです。ただ、資本主義、民主主義がさまざまな意味で曲がり角に来ているなかで、コロナの問題が生じ、この1〜2年は四の五の言っている場合ではなかった、ということもある。だからここで、ポストコロナに向けたひとつの大きなテーマとして、「新しい資本主義」というものを真剣に考えてみたいと思います。
ゲストをご紹介いたします。この番組には3度目のご登場となります、東京大学名誉教授の神野直彦さんです。さて、「岸田さんのいう新しい資本主義」と、「本当の新しい資本主義」と分けたとき、後者に重きを置きたいと思いますが、まずは前者から、財政学がご専門の経済学者として、このようなキャッチコピーを謳う政権が出てきたことをどう思われましたか。 -
5金スペシャル 年末恒例マル激ライブ コロナ後の世界で権威主義とメタバースに取り込まれないために
2022-01-05 20:00550ptマル激!メールマガジン 2022年1月5日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1082回)
5金スペシャル 年末恒例マル激ライブ
コロナ後の世界で権威主義とメタバースに取り込まれないために
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5回目の金曜日に無料で特別企画をお送りする5金スペシャル。2021年最後となる5金は、12月に東京・大井町の「キュリアン」で約1000人の観衆を前に開催された「年末恒例マル激ライブ」の模様をお届けする。
2021年は前年に続いてコロナに明け暮れた。一時は1日に2万人を越える新規感染者を出しながらも東京五輪を強行した菅政権は、安倍政権と同様、コロナ禍に対する有効な手立てを打ち出せないまま迷走を繰り返した挙げ句、9月末に退陣に追い込まれた。皮肉なことに後を引き継いだ岸田政権が誕生する頃には、日本国内の新規感染者の数は一気に減少に転じ、2021年の終盤にはコロナの直接の脅威は一頃に比べるとかなり低下した感があるが、海外では今まさにオミクロン変異種が猛威を奮っていることもあり、まだまだ予断を許さない状況が続いている。
ところが、収束とまではいかないにしても、コロナの危機的な状況がひとまず落ち着いてくると、そこには決してバラ色とは言えない日本や世界の現実が待っている。
コロナ後の世界はどのようなものになり、その世界を生き抜く上で、何が鍵となるのだろうか。
今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は中国の武漢から感染拡大が始まったとされるが、その一方で、コロナの感染爆発のような国家規模の危機に対する対応能力という意味では、必要に応じて政府が権威主義的な権力を行使できる中国が、西側先進国と比べていち早くコロナの抑え込みに成功したことが世界の注目を集めた。新型コロナ流行の原因を作ったとされる中国を褒める気にならない気持ちはわかるが、中国のコロナ対策の成功は、民主主義の危機が叫ばれて久しい欧米の民主主義陣営にとって実はとてもショッキングな出来事だった。
一方、中国の権威主義に対して民主主義陣営の盟主たるアメリカは、日本とは比べものにならないほどの大規模なコロナの流行にのたうち回る中、鎮静効果のあるオピオイド系麻薬の過剰摂取による死者の数が年間10万人を越えたことが報道されている。また、アメリカでは同時に、医療用ではなくレクリエーション目的での大麻利用を合法化する州も日一日と増えるなど、特に白人の間で麻薬常習者の数が年々増えていることが報告されている。
かつてSNSでそうした不安層・不満層の取り込みに成功しビジネスで大成功をおさめながら、民主主義の破壊者として政治的な批判に晒されたフェイスブックが、社名を「メタ」に変更し、次なるビジネスチャンスを仮想現実のメタバースに見出していることは、決して偶然ではないだろう。
今世界には「権威主義対民主主義」とほぼ平行する形で、「ユニバース対メタバース」のせめぎ合いが起きているのではないか。それはコロナが流行するかなり前から社会の底流を流れていた対立軸だが、コロナによってその対立軸がより顕著になったと言えるだろう。
ますます権威主義と大衆迎合主義への傾斜と、麻薬やメタバース的仮想現実への取り込みが横行するコロナ後の世界において、そうしたものにかすめ取られずに生き抜くために、われわれは何をしなければならないか。
今年最後の5金スペシャルは、人々の不安や不満に付け入る形で忍び寄ってくる権威主義や大衆迎合主義に騙されないためのキーワードが「仲間」にあるという立場から、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が、2021年を総括し2022年を展望する。
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今週の論点
・メタバースの時代に生き残るのは、中国のような権威主義か
・“大ボス”がおらず、ゆえに変わらない日本の構造
・宮台真司があらためて語る、加速主義と孤独死問題
・「リアル対ゲーム」から「いいゲーム/悪いゲーム」を識別する時代に
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■メタバースの時代に生き残るのは、中国のような権威主義か
神保: 大ホールがこんなにいっぱいになるとは思っておらず、うれしい限りです。宮台さん、マル激のライブは2年ぶりになってしまいました。本当は1000回記念に何かやろうと話していましたが、2020年の5月〜6月はコロナでホールも貸出されていない状態で、感染リスクというより、イベントをすることによる社会的なリスクが明らかに大きかった。テレビの収録も感染対策というより、社会からの批判対策が優先されていた頃ですね。
宮台: イタリアの哲学者、ジョルジョ・アガンベンの「尊厳ある生」という話を引きながら、僕は「命さえあればいい」という生き方を批判しました。渋谷で料理屋の2階を借り切って、ゼミ生とパーティをやったりしていましたね。大学の要請には反しているので、「もちろん来たくなければ来なくていい。来たら共犯だぞ」と。特別な理由がない限りは集まるな、ということでしたが、不要不急の集まりでみんなで楽しむ、というのは特別な理由でしょう。
僕は今回、日本の行政、あるいは政治家の頭の悪さが露呈したという気がします。尊厳ある生と、むき出しの生。人間はただ生きてさえいればいい、という存在ではないなんて、当たり前のことではないですか。だから、不要不急の振る舞いをするんです。セックスをして感染するかもしれなくても、するというのはヨーロッパでいう自己決定の問題です。
神保: セックスはダメでも、経済活動がある程度は大目に見られるのは、経済が滞ると場合によっては人が死ぬから、不要不急ではないということ?
宮台: そこが何も考えていないご都合主義の典型なんです。マスメディアもそこに突っ込まなければいけないのに、くだらないコメントを垂れ流す、頭の悪いコメンテーターが勢揃いしている。
神保: うちの制作費はテレビ番組の100分の1ですが、中身は100倍でいきましょう。さて、宮台さんはこの2年間で、日本の何が変わったと思いますか?
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