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記事 4件
  • 稲場雅紀氏:新型コロナワクチンは国際公共財として考えるべきだ

    2021-04-28 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2021年4月28日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1046回)
    新型コロナワクチンは国際公共財として考えるべきだ
    ゲスト:稲場雅紀氏(アフリカ日本協議会国際保健部門ディレクター)
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     変異ウイルスの世界的な感染拡大が続くなか、遅ればせながら日本でもようやくワクチン接種が始まった。
     世界の感染状況は、変異ウイルス出現の度合いやワクチン接種の進捗状況によって、日々変化している。現時点ではワクチン接種が進んでいるイスラエルやイギリスで感染が抑えられている一方で、インドやモンゴルなどで感染者が急増している。
     WHOのまとめによると、ここまで中国のシノバク、英国のアストラゼネカ/オックスフォード大、アメリカのモデルナ、そしてファイザー/ビオンテックの4種類のワクチンが承認され実際に接種されている。それに加えて臨床試験の最終段階に入っているワクチンが80種類あまりあり、その中にはロシアやインド、キューバなどで開発されているものも含まれている。自国のワクチンを積極的に他国に提供するワクチン外交も、今後ますます盛んになるだろうと、国際保健の分野で市民社会の側から活動を続けてきたアフリカ日本協議会国際保健部門ディレクターの稲場雅紀氏は語る。
     日本は先進国でありながら、現時点ではファイザー社からしかワクチンの供給を受けられていない。モデルナ社とアストラゼネカ社とも正式契約はしているものの、まだ日本国内の承認プロセスが終わっていないため、正式な認可がおりていない状況だ。
     国境を無視して広がる新型コロナウイルスには、自国中心の「ワクチンナショナリズム」の発想では、地球規模のパンデミックには対応できない。アメリカはトランプ政権からバイデン政権への政権交代以降、大きく国際協調路線に舵を切っており、新型コロナ対策も同様だ。4月16日に行われた日米首脳共同声明でも「グローバルな新型コロナウイルス・ワクチンの供給及び製造のニーズに関して協力する」とし、日米両国はCOVAXへの支援を強化するとしている。
     COVAXとは、WHOや国際機関が協働するワクチンの製造・供給の国際的な仕組みだ。日本も多額の拠出金を出しているが、日本ではそのことはあまり知られていないと稲場氏は嘆く。今年2月にガーナを皮切りにワクチンの提供を開始し、現在、他の途上国でもワクチン接種が始まっているのは、この仕組みによるものが多い。
     ただし、COVAXの仕組みで供給されるワクチンの量は全体の2割とされており、これだけでは不十分だ。そこで現在議論されているのが、新型コロナワクチンに関する知的財産権の保護を一時的に免除する案だ。去年10月にインドと南アフリカ政府がWTOに提案して、現在57か国が共同提案国となっている。日本を含む先進国は反対の立場をとっているが、ここへきてバイデン政権がどう対応するかに注目が集まっていると稲場氏は言う。4月15日には、175人の世界各国の元首相やノーベル賞受賞者が、バイデン大統領にこの提案に賛同するよう書簡を送っている。
     そもそもワクチン開発を行っている製薬企業には、各国政府や国際機関が拠出した多額の公的資金が投入されている。だからこそ、コロナワクチンは国際公共財として考えるべきではないのかという発想が背景にある。新型コロナワクチンをどう扱うかをきっかけに、これまでの国際的な薬の流通の枠組みが大きく変わる可能性もあると稲場氏は期待を滲ませる。
     国際保健分野で医薬品のアクセスの問題に長く取り組んできた稲場雅紀氏と、新型コロナワクチンの供給についてどう考えるか、社会学者・宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。
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    今週の論点
    ・変異ウイルスによる感染拡大とワクチンの効果
    ・遅々として進まない、日本のワクチン承認
    ・立場を変えつつあるアメリカと、メガファーマの抵抗
    ・周回遅れどころか、スタートもしていない日本
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    ■変異ウイルスによる感染拡大とワクチンの効果
    迫田: 今回のテーマは新型コロナウイルスのワクチンについて。日本の状況としては、まず4月25日から4都府県で緊急事態宣言が出されました。
    宮台: 大阪はほとんど変異ウイルスに置き換わった状態で病床がパンクしており、疫学的には1ヶ月遅れで東京でも爆発することが確実視されている状態ですから、従来のような措置で、従来期待できたような効果があるとは到底考えられません。感染が終わらない限りウイルスはどんどん変異していくわけで、これを抑えるには「ウィズコロナ」ではダメで、台湾や中国がそうしてきて、いま世界の多くの国が向かっている「ゼロコロナ」しかない。日本はまだ寝ぼけたことを言っていて、非常にまずい状態です。
    迫田: ワクチンはゼロコロナに向かうひとつの手段ですが、日本はそれすら非常に遅れています。
    宮台: テクノロジカルには、変異ウイルスの遺伝子配列が確定したら4日でワクチンは作れます。しかし、それがどういうふうにして認可のプロセスを辿るのか、というところが、社会的なファクターとしてレジスター、抵抗になってしまう。
    迫田: しかも日本のことだけを考えていればいい状況ではないので、今回は世界的な視点でワクチンの問題を考えたいと思います。ゲストは、国際保健の分野で市民社会の側から活動を続けてこられた、アフリカ日本協議会国際保健部門ディレクターの稲場雅紀さんです。
    稲場: よろしくお願いします。前提として、日本ではあまり言われないことですが、コロナに対して国際的には「みんなが安全でなければ誰も安全ではない」とよく言われます。そういうことが世界の問いかけとして存在していることをまず押さえていく必要があるのかなと。 

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  • 大島堅一氏:汚染水を海に捨ててはならないこれだけの理由

    2021-04-21 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2021年4月21日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1045回)
    汚染水を海に捨ててはならないこれだけの理由
    ゲスト:大島堅一氏(龍谷大学政策学部教授)
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     三重水素とも呼ばれるトリチウム水の分子構造は水とほとんど変わらないため、人体にそれほど重大な影響は及ぼさないと政府はいう。しかし、分子生物学者はむしろそれは逆だという。ほとんど水と変わらないがゆえに、トリチウムは微量でも体内に長期間とどまり、その間人体を内部被ばくにさらし続ける危険性があるのだという。
     福島第一原子力発電所に放射性物質を含む汚染水が蓄積され続けている問題で、菅政権は4月13日、東京電力がこれを福島県沖の太平洋に放出する計画を承認した。
     福島第一原発では破壊された原子炉内の核燃料デブリを冷却するために海水が使われているが、冷却の過程で発生する汚染水からほとんどの放射性物質はALPS(Advanced Liquid Processing System=多核種除去設備)と呼ばれる装置などによって取り除かれている。しかし、水素の同位体で陽子1つに中性子2つを加えただけの、きわめて水素と分子構造が似ているトリチウム水はALPSを持ってしても水と分離することが難しいのだという。
     政府が承認した計画では、この汚染水の放射能レベルを飲料水と同じ水準まで希釈してから海に放出する予定で、2年後から放出を開始し、その後数十年かけてすべての汚染水を海に投棄するというもの。
     しかし地元の漁協や住民が一貫して海洋放出に反対の意を明らかにしているほか、近隣の中国や韓国などもこの計画を批判している。むしろ、日本人のわれわれがこれに強く反対しないのが不思議だ。
     菅政権は汚染水の海洋放出が引き起こす「風評被害」に対しては全力で対策を行うとしているが、この決定はそれ以前のところで大きな問題がある。汚染水を海洋投棄することの問題点は単なる風評被害にとどまるものではない。
    有識者会議はトリチウムの生体への影響としてマウスやラットで発がん性や催奇形性が確認されたデータの存在を認めながら、ヒトに対する疫学的データが存在しないことを理由に、トリチウムが人体に影響を及ぼすことを裏付けるエビデンスはないとの立場をとり、海洋投棄を正当化している。しかし実際には故ロザリー・バーテル博士などによってトリチウムの人体への影響はこれまでも繰り返し指摘されてきた。
     日本の放射性物質の海洋放出の基準は1リットルあたり6万ベクレルで、これはICRP(国際放射線防護委員会)の勧告に則ったものだ。しかし、分子生物学者の河田昌東氏はICRP勧告はトリチウムのOBT(Organically Bound Tritium=有機結合トリチウム)としての作用を明らかに過小評価していると指摘する。トリチウムは水とほとんど変わらない分子構造をしているため、体内の組織に取り込まれやすい。体内に取り込まれたトリチウムは取り込まれた組織の新陳代謝のスピードによって体内にとどまる時間は異なるが、長いものでは15年間も体内にとどまり、その間、人体を内部被ばくにさらし続ける場合がある。
     原子力市民委員会の代表として原発問題に取り組んできた経済学者の大島堅一龍谷大学教授は、放射性物質を環境へ放出すること自体も問題だが、そもそも今回の決定には社会的な合意形成のための手続きが踏まれていない点を問題視する。また、実際に海洋放出を行う東京電力や政府に対する不信感が払しょくされないなかで、日本国民のみならず国際的に大きな影響を与える可能性のある決定を強行することにも大きな問題があると指摘する。
     そもそも汚染水問題とは何なのか。本当に他の選択肢も十分に検討されたうえで、海洋放出が決定されているのか。実際に海洋放出が行われたとき、そのような問題が起こり得るのか、なぜ政府は社会的な合意形成を図ることができないのかなどについて、大島氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・汚染水は「風評被害」ではない
    ・まったく議論されなかった有効な代替案
    ・政府が安全だという「トリチウム水」はなぜ危険なのか
    ・マスメディアはせめて「拡声器」の役割を果たせ
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    ■汚染水は「風評被害」ではない
    神保: 今回は通常と違い、土曜日の収録となっています。というのも、政府が汚染水の海洋放出を決定し、それ自体もさることながら、決め方があまりにもひどかった。原発問題が風化しているような印象も受け、やはりこれはきちんと見ておかなければならないだろうと。これはわれわれにも責任があり、司法委員会がアリバイ的に行った議論の内容をリアルタイムでモニターしていれば、簡単にこの結論にはならなかった可能性があります。ただ申し訳ないけれど、とてもすべては見切れなかった。
    宮台: そうですね。委員会の構成メンバーは役人が決めるので、事実上、利害相反がある人間がたくさんいる。最初から結論が決まっており、できるだけ国民に福島を思い出してほしくない、という意図が見え見えです。
    神保: そういうことも議論したいと思いますが、まずはそもそも海洋放水のどこに問題があるのか、ということを整理したいと思います。ゲストは龍谷大学政策学部教授の大島堅一さんです。
     大島さんは原発事故の直後、当時は立命館大学にお勤めでしたが、原発のコストをものすごく細かく計算され、それまで普通に通っていた「原発が安い」という主張が嘘であるとされました。 

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  • 松本悟氏:ミャンマー危機における日本の責任を考える

    2021-04-14 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2021年4月14日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド(第1044回)
    ミャンマー危機における日本の責任を考える
    ゲスト:松本悟氏(法政大学国際文化学部教授)
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    ミャンマー国軍によるクーデターから2ヶ月余りが過ぎ、軍や警察治安部隊による市民への弾圧は日に日にエスカレートの度合いを増しているようだ。犠牲者の数は既に600人を超え、携帯通信は遮断され、現地ではインターネットも近々使えなくなるとの情報が出回っているという。
     しかし、過去の民主化運動を武力で早期に抑え込んできたミャンマー国軍も、今回ばかりは市民の抵抗に手を焼いていると見える。過去10年にわたり部分的とは言え自由と経済的繁栄を享受してきた市民は、静かな非暴力の抵抗を続ける一方で、クーデターによって放逐された「国民民主連盟(NLD)」はネット上に事実上の亡命政府となるバーチャル政府CRPH(連邦議会代表委員会)を起ち上げた上で、憲法改正草案を発表して国際社会に支持を訴えかけるなど、非暴力ながら徹底抗戦の構えを崩していない。
     日本政府も先進国の一員としてクーデターを批判し、民主主義の価値を訴えてはいる。しかし、ミャンマーに対する最大の援助国として深くミャンマーに関与してきた日本としては、これだけの殺戮を目の当たりにしても、「制裁」に対しては依然として及び腰のようだ。
     実際、日本はミャンマーが民政に移行して以降の経済開発には深々と関わってきた。ODAの供与国として世界最大であるばかりか、ミャンマーの民主化の進捗をしっかりと監視することを条件に、2000億円もの債務帳消しにも応じてきた。日本政府は国民の税金が大量に注ぎ込まれた対ミャンマー債務を帳消しにする条件として、ミャンマーの民主化の進展をしっかりとモニターすることを約束してきた以上、本来それを日本の国民にも説明する義務があったはずだ。
     NPO「メコン・ウォッチ」の元代表理事で東南アジア地域の開発問題に詳しい松本悟・法政大学教授は、日本は単に西側諸国の一員として軍事政権に対する制裁に加わるのではなく、ミャンマーの現政権に対してそれ以上に強い影響力を行使する手段を持っている数少ない国の一つだと指摘する。にもかかわらず、それをやっていないし、それをやろうともしてないところに問題があるのではないか。
     日本のマスコミもミャンマーでどんなにひどいことが起きているかを盛んに報じるのも結構だが、そもそも日本が過去に国民の税金を大量にミャンマーの開発援助に注ぎ込んでおきながら、それを焦げ付かせた上で、それを帳消しにする条件としてミャンマーの民主化が正しく進んでいることをモニターすることになっていたことくらい、きちんと報じたらどうだろう。ここにきてミャンマーの民主化が大きな壁にぶち当たっていることは、日本政府にとっても、そしてそのために多額の税金を注ぎ込んできたわれわれ日本国民にとっても、決して他人事ではないのだ。
     今週はミャンマー危機をめぐり、まずリモートで現地のキンさん(仮名)に現地の最新の様子を聞いた上で、ミャンマーの歴史に詳しい上智大学総合グローバル学部の根本敬教授に今回のクーデターやその後の市民に対する弾圧の意味を聞き、ゲストの松本悟氏と、2011年の民政移行後に日本がミャンマーとどのように関わってきたのかを確認した上で、現在のミャンマー情勢に対する日本政府、日本企業、そしてひいては日本国民の責任とは何かを、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司と議論した。
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    今週の論点
    ・軍が市民に迷わず銃口を向ける、ミャンマーの現状
    ・日本がミャンマーに対して負っている責務とは
    ・日本はミャンマーに対して「制裁」をすべきか否か
    ・時間をかけても過去のミャンマー支援を見直すことが必要
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    ■軍が市民に迷わず銃口を向ける、ミャンマーの現状
    神保: 今回はミャンマーの問題をきちんと取り上げたいと思います。現地でどんなことが起きているか、という断片的な情報は多く出ていますが、マル激ではそれだけではなくもっと大事なこと、つまり日本が本来どういった立場なのか、ということを議論したい。戦前戦後の話をしていると時間が足りませんが、最近だけでも実は日本は、ミャンマーに対して重大な責任を負っています。
    宮台: 政治的な対立は「白か黒か」という風に単純化すると、時間軸が消えてしまうということがいつも重要です。例えば、アメリカは冷戦体制下では独裁政権をむしろ支持していたし、政治的な対立は文脈をきちんとたどりながら、ある種の複雑性を削ぎ落とさないようにして見なければいけません。
    神保: また、いまの日本に独自外交なるものが可能なのか。 

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  • 天野惠子氏:性差医療の視点から見た新型コロナで男性の死亡率が高いわけ

    2021-04-07 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2021年4月7日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1043回)
    性差医療の視点から見た新型コロナで男性の死亡率が高いわけ
    ゲスト:天野惠子氏(医師、日本性差医学・医療学会理事)
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     新型コロナウイルスの感染が再び拡大している。政府の分科会会長の尾身茂氏は第4波に入りつつあるとの認識を明らかにしている。
     感染拡大でもっとも注意しなくてはならないのは、飲食店の時間短縮でも会食の制限でもなく、重症化を防ぎ、死亡する人を出さないことだ。どういう人の死亡するリスクが高いかはすでに様々なデータからわかっており、その対策がもっとも重要となる。
     その一つとして言われているのが、男性のほうが女性より死亡率が高いことだ。日本ではすべての死亡者の性別がわかっているわけではないので一概には言えないところがあるが、判明している限りでは、80歳以下では男性のほうが2~3倍死亡率が高い。男女別の感染者数や死亡率などのデータをまとめている海外のサイトによれば、ほとんどの国で男性の死亡率のほうが高くなっている。ただしこのサイトには、日本のデータは掲載されていない。
     男性の死亡率が高い理由として真っ先にあげられているのが喫煙率の高さだ。その他、免疫に関する遺伝子がX染色体上にあることで、X染色体が1本しかない男性のほうが不利なことや、女性ホルモンが感染に対して抑制的に働くことで女性のほうが重症化しにくい、といったことが指摘されている。
     性差医療の第一人者で医師の天野惠子氏は、死亡率の男女格差は生活習慣と大きく関係していると指摘する。新型コロナウイルスは宿主のACE2受容体に結合することが知られており、このACE2受容体は心疾患、高血圧といった血管系の病気で発現量が多くなる。不健康な生活習慣による血管へのダメージが、50歳~60歳の男性が新型コロナウイルスに感染した際の重症化に関係している可能性があると天野氏は言う。一方、女性は閉経期の50歳前後までは女性ホルモンで守られており、70歳代くらいにならないと同じような状況にならないのだそうだ。
     そもそも性差医療とは、医療は生物学的な男女の差や社会的・文化的な差を考慮して行われるべきではないかとの考えの上に立つもので、1980年ごろからアメリカで広まり始めた。これまで一般的な薬の量は男性を対象に行われた治験データに基づいて定められてきた場合が多いことに対して、すべての年齢の女性において女性に特有な病態について生物医学的研究が行われるべきであり、臨床治験の対象数の半分を女性にすることが望ましいと考えるのが性差医療だ。循環器が専門だった天野氏も、男女で病態が異なることに気づき、性差医療を推進してきた。
     現在、新型コロナウイルスのワクチン接種が進められているが、果たして接種量は男女で同じでよいのか。アナフィラキシーが女性に多く報告されているのは、免疫反応が女性のほうが強いことと表裏の関係にあるのではないかと天野氏は指摘する。すべてのひとに一律に行われることがよいのかどうか、副反応や効果も含め、今後、考慮する必要が出てくるかもしれない。
     日本における性差医療の第一人者である天野惠子氏と、新型コロナウイルス感染症の課題から健康教育の在り方まで社会学者の宮台真司氏とジャーナリストの迫田朋子が議論した。
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    今週の論点
    ・なぜ男性は重症化しやすく、死亡率が高いのか
    ・アメリカで進展してきた性差医療と、日本の状況
    ・性差とワクチンによる副反応の関係性
    ・日本は「健康教育」の充実を
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    ■なぜ男性は重症化しやすく、死亡率が高いのか
    迫田: 今回も新型コロナ感染症をテーマにお送りします。特になぜ男性の死亡率が高いか、重症化するかという視点から取り上げていきますが、相変わらず感染者が増えており、リバウンドは確実だという状況です。
    宮台: 日本は東アジアではコロナ対策の完全な負け組です。人口あたりの死亡率で比べると台湾の91倍、中国の9倍、韓国の2倍くらい。なぜPCR検査をクラスター追尾の範囲内でやり続けているのか。
    迫田: もう感染拡大から1年も経って、論文も山ほど出て多くのことが分かってきているのに、なぜまだこの状態なのかと。
    宮台: 無症候感染者からの感染が非常に多いと考えられている中で、症状が出た人に関する「マスクしていたか、していないか」による濃厚接触者の認定により、実際には感染者の3割以下しか出ていなくても飲食店がターゲットになるという、政策的なデタラメがまだ続けられている。飲食店は現在、夜9時以降の営業ができていませんが、東京で電車に乗れば、終電が早いこともあって満員です。本当にチグハグで、おそらく菅総理も何をどうしたらいいのか、戦略が立てられない状態でしょう。
    迫田: 問題は感染者が重症化し、あるいは亡くなってしまうことをどう防ぐかです。
    宮台: その意味で、20代あるいは10代それ以下はコロナは風邪とあまり変わらないという状況がはっきりしているので、行動を制限することの意味がよく分からない。普通に考えれば、むしろ彼らが持病を持つ方や高齢者と接触しないように、つまり弱い方のゾーニングが重要だということです。こんな状況になっているのは、COVID-19というウイルスのせいではなく、統治権力のせいだというほかない。
    迫田: そんな中で、今回はなぜ男性の方が重症化しやすく、死亡率が高いのか、それをどう読みといたらいいのか、ということを中心にお話を伺いたいと思います。ゲストは医師で、日本性差医学・医療学会理事の天野恵子先生です。もとは循環器内科医で、日本性差医学医療を創設されました。どうぞよろしくお願いします。 

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