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  • 田澤耕氏:独立を強行したカタルーニャは何を求めているのか

    2017-11-29 23:00  
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    マル激!メールマガジン 2017年11月29日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第868回(2017年11月25日)独立を強行したカタルーニャは何を求めているのかゲスト:田澤耕氏(法政大学国際文化学部教授)────────────────────────────────────── 世界ではイギリスのスコットランドやイラクのクルド人自治州など、ざっと見たたけでも40~50の地域で何らかの独立運動が起きているが、実際に独立宣言まで強行するケースはほとんどない。その意味で、スペイン北東部のカタルーニャ自治州がスペイン政府の反対を押し切って今年の10月1日に独立を問う国民投票を行い、圧倒的な賛成多数を受けて独立宣言にまで踏み切ったことは、近年では希なケースとして特筆されるだろう。特定の地域で独立機運が高まった時、中央政府との間に大きな摩擦が生じる。憲法で、一部の州や地域の独立を認めている国は恐らく世界には一つも存在しないだろう。そもそも憲法というものは、国を一つにまとめるために存在するものだからだ。ということは、どんな国でも独立宣言=(イコール)憲法違反ということになる。 現在カタルーニャ州は独立宣言以前に持っていた自治権も停止され、中央政府の直接管理下に置かれている。独立を強行することのリスクがもろに顕在化した形だが、それにしてもカタルーニャはなぜそれだけのリスクを冒してまで、独立にこだわったのだろうか。 地中海に面し、フランス国境にそびえるピレネー山脈の通り道に位置するカタルーニャは、歴史的には15世紀にスペイン王国の一部となったが、独自の言語と独自の文化を持ち、住民たちの間にも元々スペイン人としての意識が希薄な地域だった。しかも、一般的なスペイン人と比べると勤勉で、芸術などの面でも優れた人材を多く輩出し、経済的に繁栄していることもあり、むしろカタルーニャ人はスペインに対して優越感を持っていたと、カタルーニャ文化に詳しい法政大学国際文化学部の田澤耕教授は語る。 カタルーニャを自らの管理下に置いたスペイン政府は、12月21日に自治州の議会選挙を行うことを発表している。しかし、世論調査によると現時点では独立推進派が僅かに優勢だという。当面はこの選挙の成り行きが注目されるが、カタルーニャの独立問題が解決するまでにはまだしばらく時間が必要になりそうだ。 元々、相当の自治を認められていたカタルーニャが、ここに来てあえて独立宣言に踏み切ったことに、どのような意味があるのか。これはウエストファリア体制として知られる国民国家の時代の終わりの始まりなのか。世界の他の地域へはどんな影響があるのか。田澤氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・カタルーニャが享受したかつての栄華・再び豊かになり、「金の亡者」と疎まれることに・独立宣言に正統性はあるのか・かえって溝を深める現政府の対応と、今後の注目点+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■カタルーニャが享受したかつての栄華
    神保: 今回は僕らがあまりきちんと見てきていなかったテーマを勉強も含めて掘ってみようと考え、カタルーニャの独立を取り上げようと思います。
    宮台: 独立と言うと、最近ではユーゴスラビアの領土だったコソボだったり、ボスニア・ヘルツェゴビナだったり、またセルビアなどに多くの問題がありました。それを見ていると、独立することには、多くの場合、血が流れてしまうのだなと。それほどの犠牲を払ってまで独立する、というのは、日本で普通に暮らしているとわからない。単なる自治州ではなく、独立を勝ち取ろうとするのはなぜなのか、という素朴な疑問がずっとありました。
    神保: 植民地と宗主国のように、支配/被支配という関係になっているのであれば、独立したいというのも理解できます。
    宮台: 1960年代にはそういうことがありました。しかし、特に冷戦が終わって以降の民族紛争はそうではないですね。よく言われることですが、むしろ社会主義のある種の強力な権力のもとで抑圧されていた民族の自治自決の意識が高まって……みたいなことが言われたりします。
    神保: 今回のカタルーニャの独立、国民投票の動きというものは、これまでの流れのなかに位置づけられるものなのか、それともまた新たな独立機運というものの走りなのか。
     

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  • 渡辺靖氏:トランプのアジア歴訪に見るパクス・アメリカーナの終焉

    2017-11-22 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2017年11月22日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第867回(2017年11月18日)トランプのアジア歴訪に見るパクス・アメリカーナの終焉ゲスト:渡辺靖氏(慶應義塾大学教授)────────────────────────────────────── 「パクス・アメリカーナ」が、いよいよ終焉を迎えつつあるようだ。しかし、そこに一帯一路を掲げて台頭する習近平の中国は、一体どのようなオルタナティブな価値を提示しようとしているのだろうか。 先のトランプ大統領の初来日では、植民地と宗主国の関係を彷彿とさせるような日本の異様なまでの歓待ぶりが目立ったが、実はあの時、大統領は日本を皮切りに12日間にわたりアジア諸国を歴訪していた。トランプにとっては大統領就任以来最長の外国歴訪であり、最大の外交舞台だった。しかも、その中には今や世界の2大覇権国となりつつある米中の首脳外交も含まれており、世界はトランプ外交の行方とともに、米中関係の変化が今後の世界秩序にどのような影響を及ぼすかを固唾をのんで注目していた。 しかし、結論から言えば、外交の舞台に出ても、はるばるアジアまでやってきても、やっぱりトランプはトランプだった。トランプ大統領は超大国アメリカの国家元首として、行く先々で盛大な歓迎を受けたが、その一方で、アメリカ側から今後国際社会の中でどのような役割を果たしていく用意があるかについての意志表明は、ほぼ皆無だった。また、トランプは安全保障やその他のデリケートな外交問題も、ほぼ例外なくビジネスディール(取引)の感覚で受け止めていることを隠そうともしなかった。 これは選挙戦当初からアメリカ第一主義を掲げ、全てをディール(取引)と位置付けてきた不動産王のトランプとしては、至極当然のスタンスだったのかもしれない。 しかし、アジア諸国を歴訪中に、例えば中国やフィリッピンでは人権の問題に全く触れず、行く先々でどれだけのビジネス取引を成立させたかばかりを勝ち誇るトランプの姿からは、アメリカという国がもはや自由主義陣営の盟主の座はおろか、その普遍的な価値を守っていく気概さえも失ってしまったことを感じ取らずにはいられない。 一方の中国は、これまでアメリカを始めとする欧米の自由主義陣営の国々から、民主主義や人権の分野での遅れを常に指摘されてきた。しかし、今回、アメリカからそのような問題提起がなかったことに加え、むしろ欧米諸国の政治が軒並み機能不全に陥っている様を横目に、民主主義に対する懐疑的な考え方にむしろ自信を深めているようだ。 ちょうど共産党大会とトランプ訪中のタイミングに1か月あまり北京大学に滞在していた慶応大学の渡辺靖教授は、中国の共産党エリートのみならず、中間層の間にも、欧米が主張するような民主主義に対する懐疑的な見方が広がっているとの印象を受けたと語る。それは現在の中国の共産党による支配体制に対する自信にもつながり、中国には中国の独自の国家モデルがあり、何も欧米のモデルを真似する必要はないじゃないかという風潮が強まっていると渡辺氏は言う。 古くはローマ帝国から、元、オスマントルコ、大英帝国等々、これまで世界には覇権を握る超大国が一つ存在し、その国を中心に国際秩序が形成されてきた。として、少なくとも20世紀以降は、自由、人権、民主主義などの普遍的価値をベースに圧倒的な経済力と軍事力でアメリカが世界の覇権を握ってきた。 アメリカは経済規模や軍事力では依然として世界で群を抜く超大国だが、一方で、そのモラルオーソリティ(道義的権威)はトランプ政権の発足以後、大きく傷ついている。このアジア歴訪でそれがいよいよ決定的になったとの見方もある。これは、1世紀ぶりに世界が新たな秩序の模索を始めたことを意味するが、その中で中国がどのような役割は果たすようになるのかは、依然として未知数だ。 また、そうした新たな世界秩序の下で、日本の唯一の外交戦略は今のところ「何があってもアメリカについていく」以上のものが見えてこないが、それで本当にいいのか、そこにどんなリスクが潜んでいるのかも気になる。 希代のアメリカウオッチャーとして知られる渡辺氏の目に、トランプを迎える中国はどう映ったのか。アメリカが覇権を失った世界の秩序は、どう推移していくのか。中国から帰国したばかりの渡辺氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・カリスマ化する習近平と、トランプ訪中に対する“勝利”・民主主義の限界 規範性の高い指導者はどこから生まれるか・トランプ政権で後退した、“覇権国”としてのアメリカ・トランプ全面歓迎の日本への評価は?+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■カリスマ化する習近平と、トランプ訪中に対する“勝利”
    神保: 先々週、トランプさんが来日しましたが、今回は政権誕生後、最も大型の海外歴訪でした。日本にとってどういう意味があるのか、ということは当然考えなければなりませんが、今回は何と言っても中国に行き、国賓級の扱いを受けている。世界が米中というG2の時代に入ったなかで、アメリカが中国、アジアとどう向き合うのか、ということを占う上で、世界的に重要な外交イベントだったのではないかと思います。
    宮台: まず、アジアはヨーロッパと違って、中国以外の国はアメリカと国力の差から常識的に考えて、面従腹背しかないですよね。しかし日本は、面従腹背できているのかと考えると、「面従服従」じゃないのかという疑惑がある(笑)。またそれとの兼ね合いで、首脳同士の会談の時間を始めとして、トランプの日本と中国に対する扱いに、ずいぶん大きな差があるなと。中国と日本の国力の差は随分開いていて、少なくともアメリカから見ると「そういうこと」なんだな、ということですね。その2つがすごく印象づけられました。
    神保: 今回は、いつもこの番組に出演していただいている慶應大学の渡辺靖さんが、実はトランプさんの訪中期間も含めて、長期で北京大学の方に行かれていたということで、そのときの中国の感じや、アメリカの専門家が現地で見た中国とは、ということをぜひ伺いたいと思い、ゲストにおいでいただきました。最初に、特にトランプさんが来ているときの北京の偉い方々、そして街の感じは、一言でいうとどんな感じだったんですか?
    渡辺: 街を歩いている分には、「本当に今日、アメリカの大統領が来ているのか?」と疑問に思うくらい、普通の日常が繰り広げられていました。中国にいて強く思ったのは、国力に対する自信というものが、この数年と比べてもずいぶん強くなってきたな、ということです。その背景にあるのは、まず、西側の民主主義が決してうまくいっていないじゃないかということです。あるコメンテーターの方が言っていましたが、民主主義社会というのはまさに資本主義と同じで、目先の短期的な利益ばかりを求めなければならないんだと。つまり、選挙に勝たなければいけない。だから迎合的なことばかりを言って、大きな決断が下せない。それと比べると、共産党というのは非常に長期的に、20年、30年というスパンで戦略を練れると。中国のようなシステムにはこれが向いているんだ、というようなロジックが、いろんなところから聞かれました。それからもうひとつは、トランプ大統領になってから、アメリカというものが国際社会から身を引いていると。だから今後秩序を担っていくのは中国だという気概みたいなものがひしひしと伝わってきました。
    神保: 外交面、ロシアゲートの細かい話などをウォッチしていると、トランプさんには相当ヤバいところがあるわけですが、日本ではあまり認識が広がっていないように思います。中国はトランプ、あるいは彼を選んだアメリカをどういう認識で見ているのでしょうか?
    渡辺: 一般の人たちはあまり興味がないですね。ただ、政治のプロの世界になっていくほど、かなり細かくアメリカの動きをフォローしていて、いまのトランプ大統領の言動が中国にどういうインパクトをもたらすのか、本当に任期をまっとうできるのか、できなかった場合にはどういうシナリオを用意しておけばいいのか、というあたりを冷静に見ている感じはしました。
     

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  • 安里和晃氏:外国人技能実習制度の「適正化」で問われる日本社会のカタチ

    2017-11-15 23:00  
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    マル激!メールマガジン 2017年11月15日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第866回(2017年11月11日)外国人技能実習制度の「適正化」で問われる日本社会のカタチゲスト:安里和晃氏(京都大学准教授)──────────────────────────────────────外国人技能実習制度の対象職種に「介護」を加える新たな法律が11月1日に施行された。 外国人技能実習は外国人が働きながら日本の技術を学ぶという触れ込みで農業や製造業を対象に1993年に始まった制度。現在もおよそ23万人がこの制度の下で、技能実習を受けている。建前上は日本の技術移転を目的とする国際貢献の一環となっているが、実態としては単純労働者を受け入れない政府の方針の抜け穴として、主に低賃金分野の人手不足の解消に寄与してきたという現実がある。 11月から施行される「技能実習適正化法」では、かねてより人手不足が深刻化していた介護の分野まで技能実習の対象を広げる一方で、実習生を劣悪な条件で採用する人権侵害に対して罰則を設け、監視を強化することなどが定められている。また、実習の期間も条件付きながら、現在の3年から最長で5年に延長される。介護分野は技能実習の対象分野としては初の「人へのサービス」となる。 外国人技能実習制度をめぐっては、建前の「実習生」と実態の「労働力」というダブルスタンダードの下で、賃金の未払いや不当な雇用契約など数々の問題が表面化していた。事実上、単純労働者の受け入れ制度として機能してきた面があるが、それは日本と対象国の間に経済格差があることを前提としている。実際、この制度の下で日本に技術を学びに来た外国人が、本国でそれを活かせていないケースも多いとされ、制度的には果たして今回の微修正で本質的な問題解決につながるかどうかは疑問も多い。 この問題は最終的には、今後も少子高齢化が進む日本が、どういう社会を作っていきたいのかという問いにぶつかる。外国人労働者を利用すべき労働力としてしか捉えないような制度を続けていけば、本来の目的と実態が益々乖離していくことが避けられないだろう。 技術移転そのものを否定しないが、労働力確保という意味では、日本は技能実習のような弥縫策に頼らずに、移民の受け入れを含めた日本の労働市場のあり方全般について、日頃から議論を積み重ねていく必要があるだろう。また、ひいては日本の社会をより多様性に富んだ社会にしていくことの是非についても、より活発な議論が必要だろう。 技能実習制度の制度改正を機に、外国人労働者の受け入れのあり方や、日本が今後、目指すべき社会像などについて、社会福祉や移民問題が専門で外国人技能実習制度にも詳しい京都大学の安里和晃氏と、ジャーナリストの迫田朋子と社会学者の宮台真司が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・研修・技能実習制度の歴史と、「介護分野」というポイント・「国際貢献」という建前と、「人身取引」に至る例もある現実・送り出し国と受け入れ国のアンマッチングをどう解消するか・日本がダイバーシティを受け入れるために+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■研修・技能実習制度の歴史と、「介護分野」というポイント
    迫田: 今回のテーマは、「外国人労働者政策」です。この11月に外国人の技能実習の適正化法というものが施行になりました。新たにそこに介護職というのが加わります。この「技能実習」は一応、国際貢献という仕組みですが、基本的には、人材不足の人助けにもなっているかもしれない、という状態です。ただ、日本は建前として、外国人労働者の受け入れはしていないということで、「技能実習」「国際貢献」みたいな形になっており、なおかつ、そこに人材不足が深刻な介護分野、福祉人材導入ということで、実質的な開国とも言われています。宮台さんは、このテーマをどう捉えていますか?
    宮台: 中国人などの技能実習生が、「技能実習」という名のもとで事実上、正当な賃金を払われずに搾取をされている――ということがずっと話題になってきました。経済界では、第2次安倍内閣のもとで、やはり生産人口が減っていくこと。にもかかわらず、生産力あるいは潜在生産力が先進国のなかでは非常に悪い方に張り付いたままで、回復が望めそうもない。そのなかで、生産人口の減少を食い止めるためにはどうしたらいいのか、という問題設定のもと、定年延長とか、女性の活躍とか、ただそういう流れで、外国人労働力を使おうという話になっていることは明らかですね。
    迫田: 実体と建前が乖離した状態になっており、きちんと議論しなければならないと思います。ゲストをご紹介します。社会福祉や移民問題にお詳しい、京都大学准教授の安里和晃さんです。
     

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  • 前嶋和弘氏:トランプが変えたアメリカと世界の今

    2017-11-08 23:00  
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    マル激!メールマガジン 2017年11月8日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第865回(2017年11月4日)トランプが変えたアメリカと世界の今ゲスト:前嶋和弘氏(上智大学総合グローバル学部教授)────────────────────────────────────── トランプ大統領が来日する。 昨年の11月8日の世界に衝撃を与えたあの大統領選の勝利から約1年。人類史は「トランプ前」と「トランプ後」に分類されるようになるだろうと言われるほど、トランプ政権の誕生とその後の政権運営は、アメリカのみならず、世界の民主主義に対する見方に大きく影響を与えている。インターネット全盛の21世紀、自由や民主主義の行き過ぎがトランプのような指導者の台頭を生んでしまうのだとしたら、われわれはこれまで無条件に尊いものと考えられてきた自由や民主主義を、もう少し制限すべきではないかという議論まで、真剣に交わされるようになっている。 予想通りと言えば予想通りかもしれないが、トランプ政権の10か月は、アメリカ史のみならず世界の民主主義の歴史の中でも、いまだかつて経験したことがないような異常な10か月だった。選挙戦では暴言を繰り返すことで人気を博してきたトランプだったが、いざ大統領になればもう少し大人しくなるだろうという玄人筋の期待を見事に裏切り、トランプ政権は発足当初から数々の波乱に揺れまくった。 ホワイトハウスの側近は、選挙戦でのロシアとの不適切な接触などが取り沙汰され、次々と辞任した。今やトランプ政権は無条件の忠誠心が期待できる親族と、どんなに不満があっても規律を守ろうとする軍人によって、辛うじてその機能を維持しているような状態だ。 また、トランプ政権は議会との調整能力の乏しさゆえに、法案らしい法案は何一つ通せていない。しかし、この間トランプは、議会の承認を必要としない大統領令を連発することで、選挙戦での公約のいくつかを実行に移している。その中には移民や難民の流入制限やTPPからの離脱、NAFTAの再交渉、パリ協定からの離脱、イラン核合意の破棄、ユネスコからの脱退など、国際社会に影響の大きいものが多く含まれている。 また、国内向けには、オバマ前大統領が作った医療保険改革「オバマケア」の廃止に躍起になるものの、なかなか代替案を提示できず右往左往してきたが、その間も、人種差別や白人至上主義に寛容な姿勢を示すなど、トランプに対して多くの識者たちが抱いていた懸念は、ほぼ丸ごと的中してしまった。 既存の政治システムに対する未曾有の不信感が、トランプ政権を生んだと説明されることが多いし、恐らくそれはそれで正しい分析なのだろう。しかし、トランプが既存の政治秩序を次々と破壊する中、その代わりにどのような理念に基いたどのような政治体制が立ち上がってきているのかが、依然として見えてこないところが気になる。 また、各国の首脳がトランプの言動に苦言を呈する中、日本の安倍首相だけがトランプとツーカーの関係を維持していることにも注意が必要だ。人種差別や性差別を容認し、人権を軽視すると見られている大統領と仲睦まじくゴルフに興じる日本の首相の姿が世界に報道される時、日本という国の品位や人権感覚にまで世界から疑いの目が向けられる恐れは十分にある。 トランプ政権の誕生でアメリカの社会や世界とアメリカの関係はどう変質したのか。日本はこのままトランプ政権と一蓮托生の道を歩んでいて本当に大丈夫なのか。アメリカ政治が専門の前嶋氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・史上最悪の大統領に見えて、支持が底堅いトランプ・政治的人脈がないトランプの“中小企業運営”・何もつくらず、壊し続ける・日本が“ポチ“であり続けることのリスクとは+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■史上最悪の大統領に見えて、支持が底堅いトランプ
    神保: 本日は11月1日、4日にトランプ大統領の初来日を控えるなかでの収録です。今回はトランプ政権でアメリカがどう変わったか、というテーマで議論していきますが、まず宮台さん、トランプさんの来日ですが、一外国首脳が来る、という扱いを超えていますね。シャレではなく、日本はアメリカの属国だ、と言われるようなところを地で行っている感じがします。
    宮台: EU諸国のメディア、あるいはメルケルさんを含めたEUの首脳たちのトランプさんに対する扱いを見ると、決して高くないどころか、そうとう低いことが伺われます。つまり、単にアメリカの大統領を迎えるということでなく、世界的に不人気というか、非常に懸念を抱かれている存在を呼ぶということに対して、何も考えていないのが悲しいというか、力が抜ける感覚です。この歓迎ムードはチキン/エッグではなく、メディアがお祭り騒ぎを作り出しているんだと明確に思いますね。
    神保: イヴァンカさんも含めて、話題がたくさんあって数字も取れる、ということでしょうか。
    宮台: その通りで、お祭りになればトピックの数も増えるし、政治的・批判的スタンスではなく、お祭り的スタンスに一辺倒になるのは、メディア的には合理的です。
    神保: なるほど。問題は、それで何が隠れてしまうのか、ということだと思います。最後にはやはり、世界のなかで得意なポジションにある日本が、トランプと一蓮托生でいいのか、ということも考えたいと思います。ゲストをご紹介いたします。上智大学総合グローバル学部教授でアメリカ政治がご専門の前嶋和弘さんです。前回はスーパー・チューズデーの前(2016年2月6日・第774回「米大統領選に見る米国内に鬱積する不満の正体」)に来ていただきましたが、ほかのアメリカ専門家と同じように、前嶋先生も、さすがにこれは続かないだろう、という見方でしたね。
    前嶋: そう思っていました。
    神保: それが、まさかの大統領と。専門家の皆さんがあり得ないと思っていたことが、あり得てしまった理由を総括していただくと、いまはどう考えていますか?
    前嶋: ふたつあると思います。ひとつは、やはりアメリカがそもそも割れているということです。民主党と共和党のそれぞれに固定票があり、そのなかでほんの少し多く稼げば勝てる、という。そのほんのちょっとしたところで、トランプさんがうまく稼いだ。 ふたつ目の理由は、やはり選挙直前のメール問題です。FBIの再捜査で、そんなに強くなかったヒラリー支持が崩れてきたと。あのときは本当に衝撃的でした。RealClearPoliticsという、アメリカでさまざまなニュースや世論調査をまとめたサイトがあり、予測が出ていたのですが、2~3時間ごとにヒラリー支持の数値が崩れていく。ホラー映画を観ているようで、それでも最後には常識が通る、と思っていたら、そうなりませんでした。
    神保: いまさら持ち出すのも古い話ですが、FBIのジェームズ・コミー長官――この間、トランプといさかいがあって辞任しましたが、なぜあのタイミングで彼が再捜査と言い出したのか。結局、何だったということになっているんですか?
    前嶋: アメリカの普通の言説で行くと、コミーさんのもとに情報があって、隠しておくのは耐えられなかった、と。言っても黙っていても、大統領選挙の結果に影響をもたらしてしまうなら、言わざるを得ないということだ、とコミーさんからも説明がありました。さまざまな陰謀説もあるわけですが、それを抜きにしても、本当に状況を変えてしまいましたね。
     

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  • 小林良彰氏:与党大勝の総選挙で明らかになった本当の民意とは

    2017-11-01 14:00  
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    マル激!メールマガジン 2017年11月1日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第864回(2017年10月28日)与党大勝の総選挙で明らかになった本当の民意とはゲスト:小林良彰氏(慶應義塾大学法学部教授)────────────────────────────────────── 安倍首相が「国難突破」選挙と位置付けた総選挙が10月22日に行われ、自民・公明の連立与党がほぼ現有議席を維持して勝利した。 今回の選挙は最大野党の民進党が事実上解党し、選挙の直前になってバタバタと新党が立ち上がる異例の選挙となった。戦後初の政権交代となった1993年の「政治改革」選挙でも選挙直前に相次いで新党が立ち上がる政局があったが、その時は自民党が分裂した結果の新党ブームだったのに対し、今回は野党の分裂が原因だった。 現行の小選挙区を主体とする選挙制度の下では、政党が細かく分かれれば分かれるほど死票が多くなり不利になる。この選挙でも、比例区の野党の総得票数は自民党を大きく上回っていたが、議席は自民党が全体の74%を獲得している。 結果的に選挙で大勝したにもかかわらず、安倍首相を始めとする自民党の重鎮たちの選挙後の表情が一様に重々しかったのは、選挙結果には反映されない自党の党勢の低迷に対する危機感があったからだった。 投票行動の分析で定評のある政治学者の小林良彰・慶應義塾大学法学部教授は、比例区での野党の総得票数が与党のそれを上回っていたことも重要だが、より注目すべきは自民党の絶対得票率が長期低迷傾向だと指摘する。自民党が大敗し民主党に政権を明け渡した09年の総選挙で、自民党2730万票を得ているが、その後の選挙では自民党は議席数こそ毎回過半数を大きく超えるものの、得票数は一度も09年選挙を超えることができていない。 別の見方をすると、野党が低迷し投票率が下がったために、より少ない得票で自民党の獲得議席が増えているというのが実情なのだ。ちなみに民主党が政権を奪取した09年の総選挙の投票率は69%を超えていた。今回は53.6%。前回は史上最低の52.6%だ。 実際、自民党の得票率は毎回5割を割っている。つまり、得票数では野党が自民党を上回っているのだ。自民党の今回の得票率の48%に、全体の投票率の53.60%を掛け合わせた「絶対得票率」は約25%にとどまる。これが日本の全有権者のうち、実際に自民党に投票した人の割合だ。 これは、自民党が過去5年にわたり政権を維持できているのは、国民の過半から支持を受けているからではないし、また自民党への支持が野党に対する支持を上回っているからでもないことを示している。野党がお家騒動や分裂を繰り返したことで、自民党が選挙制度上の漁夫の利を得た結果であることを、このデータは示している。 これまで何度も指摘されてきたように、現行の選挙制度の下で民意をより正確に反映させるためには、野党陣営が一つにまとまるしかない。しかし、今回の希望の党のような政策や理念を無視した離合集散に対しては、国民の間に強い拒否反応があることもまた、この選挙で明らかになっている。 今後は野党第一党となった立憲民主党が、野党を一つにまとめられる大きな翼を広げることができるかに注目が集まるが、自民党よりも保守色の強い議員が多い希望の党や維新の会から共産党までがひとつにまとまるのは容易ではなさそうだ。しかし、それが実現しない限り、自民党が有権者の4分の1の支持で国会の4分の3を支配する状態が続くだろう。 選挙直前の有権者に対する調査データをもとに詳しく分析した小林氏とともに、この選挙が明らかにした民意の中身と現行選挙制度の問題点などを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・自民党勝利も、改憲にはまだハードルがある・得票率と議席率の乖離 民意は反映されていると言えるのか・安倍政権の“見事”なアジェンダ・セッティング・日本が選んだのは「現状維持」であり、「損得」である+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■自民党勝利も、改憲にはまだハードルがある
    神保: 今日は2017年10月26日(木)、衆議院総選挙後の初めてのマル激ということになります。宮台さん、選挙について冒頭で何かありますか。
    宮台: みなさんの評価はおそらく、2つの焦点があって、ひとつは自民党が絶対得票率では低いにもかかわらず、284もの議席を取るのはどういうことなんだと。もうひとつは、野党の分裂により票が割れて自民党を勝たせたのだけれど、それがいいことだったのか、悪いことだったのか。つまり、自民党の議席が増えたのはある意味、悪かったかも知れないが、しかしこれまで烏合の衆であった野党のなかに、保守リベラルというフォーカスが明確に浮かび上がったという意味では、いいということになる。特に後者の面が、今後の日本の政治を考えるときにポイントになるかなと。
    神保: 特に希望の党について、連日ワイドショーで取り上げられており、1993年の政治改革のドタバタを見る思いでもありました。ただ、当時は自民党内の分裂選挙でしたが、今回は野党陣営の分裂選挙だったと。これは少なくとも、僕にとっては初めての経験でした。今後にそれがどう生きるかということも含め、いろいろ議論をしていきたいと思います。 ゲストをご紹介します。選挙後の恒例となり、「当然、今回もやってくれるんでしょう?」というリクエストも多く届いています、慶應義塾大学法学部教授の小林良彰さんです。さっそくですが、さまざまなデータをもとに、ずっと選挙分析をしてきた小林先生としては、今回の選挙をどうご覧になりましたか?
    小林: さまざまな見方があると思いますが、私は民進党が分裂したのはよかったと思います。民進党のままでは、やはり将来がなかった。これはやはり、3年3ヵ月に対する総括を、民進党自身がやっていないことが一番の問題でした。その結果として、小選挙区制のマジックで与党が多く議席をとったということがありますが、結果的には、もうこれがすっきりした。「協定書」にサインをした人としない人ではっきり分かれたのは好ましく、これが選挙後に民進党にまた合流しようというのは、最悪な選択だと思います。
    神保: 宮台さんも、再合流はあり得ないと。
    宮台: あり得ないというか、それをしたら、みんなもう政治を見限ってしまいますよ。
     

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