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角谷浩一氏:国民の命を守れない政治家がなぜ権力を握り続けているのか
2021-08-25 20:00550ptマル激!メールマガジン 2021年8月25日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1063回)
国民の命を守れない政治家がなぜ権力を握り続けているのか
ゲスト:角谷浩一氏(政治ジャーナリスト)
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新型コロナの感染拡大が止まらない。特に重症者が急増し、自宅療養、自宅待機などの名目で自宅に放置されたままになっている感染者の数が3万人を越えている東京は、もはや医療崩壊状態にある。しかも、感染拡大は東京から全国に波及し始め、政府は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象地域を徐々に全国に拡げているが、それでも感染拡大の勢いはまったく衰えていない。
そうした中で、日本は来月末には首相が自民党総裁としての任期末を迎え、再来月下旬には衆議院の任期が満期を迎える。つまり、日本は新型コロナ感染症の流行が始まってから安倍、菅といった歴代政権が明らかにその対応に失敗するのを目の当たりにする中で、アメリカの大統領選挙に優るとも劣らない重大な政治的選択を下すことになるのだ。
にもかかわらず、総裁の任期が切れ、菅総裁の続投なり、新たなリーダーの選出なりを決めなければならない自民党内には、出馬への意欲を表明する政治家は散見されるが、どれもひも付きの候補者ばかりで、現政権とは明らかに異なるコロナ対策の新機軸など打ち出す候補者は、とんと見当たらない。緊急時に対応し得る政治体制が必要ということで、過去四半世紀にわたり重ねてきた「政治改革」が今の自民党政権下で完成し、政治権力の所在を政治家個人から政党へ、官僚から首相官邸へと集中させてきた政治体制が、現実の緊急事態に直面した時にまったくの機能不全に陥るというのは、あまりにも話が違いすぎないか。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏は、現在の政治の体たらくは、これまでどんな失敗をしても一切責任を取らなくていい政治を許してきたことのツケがいよいよ回ってきたものだと指摘する。2012年の安倍政権の発足以来、実際には多くの政治的ミスがあった。実際に選挙公約がきちんと果たされたことの方が少なかったし、あからさまな身内の優遇や既得権益の保護に加え、統計の捏造や公文書の改ざんなどというあり得ないこともあった。しかし、有権者の多くは2009年に国民の絶大な期待を背負いながら最終的にはその期待を裏切る結果となった民主党政権のトラウマを抱え、本来は厳しい審判を下すべき局面でも安倍政権に選挙での勝利を与え続けた。理由はどうであれ過去7年間、自民党は勝ち続け、安倍政権そして菅政権は首相官邸に一極集中したこの国の権力を握り続けた。
まさに一連の政治改革や一極集中の真価が問われたのが、今回のコロナ危機だった。
実際の政治状況を見てみると、安倍政権、菅政権と安定的に政権を維持しているように見える自民党だが、過去の選挙での小選挙区や比例区における総得票数などのデータを詳細に見ると、確実に支持基盤を細らせてきている。結局は野党の敵失によって権力を維持してきた側面が多分にある。決して自民党の権力基盤も盤石とは言えない状況にある。
日本はコロナ対策さえまともに打てない政治勢力といつまで付き合うつもりなのか、このまま心中する覚悟はあるのか、そもそもこの状況に物申す人が自民党内に出てこないのは一体なぜなのか、野党は今、何をやっているのか、具体的に総裁選と総選挙の見通しはどうなっているのかなどについて、「大連立」という誰もが度肝を抜かれるようなウルトラCのシナリオも含め、希代の政治ウオッチャーの角谷氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・一切の責任を取らなくなった政府
・「やれたらいいな」のマニフェストと、諦めからスタートする国民
・知恵を失い瓦解しつつある自民党と「大連立」の可能性
・有権者に求められる「選球眼」とは
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■一切の責任を取らなくなった政府
神保: 先週のコロナ対策に関する議論は面白かったですね。
宮台: だいぶ話題になっています。
神保: 日本ではいまだに「ゼロコロナ脳」のような言葉が横行しているので、早くそれを卒業できるといいなと思います。しかし、そうこうしている間に政府が結局、ゴールポストの位置を変えようという話になってしまった。要するに、これまでの基準だといまはずっとステージ4で、このままだと緊急事態宣言は9月どころか年末まで解除できず、選挙にも勝てっこない。だから基準を変えればいいんだと。先週、一気にはできないがそれしかない、という「ゼロコビッド」に向けた議論をしましたが、その手があったかと思いました。
宮台: 笑いました。
神保: 今回はこのように、コロナを入り口に政治のことをしっかり見ていきたいと思います。ゲストは僕の古くからの親友で、政治ジャーナリストの角谷浩一さんです。政治が機能不全に陥っているなかで、「菅政権はもうダメだ」と自民党内で別の人が動き出すようなこともまったく起きないような状況で、一体何が起きているのか、ということを最初に伺いたい。
角谷: 荒っぽくいえば、この8年、安部政権・菅政権のなかで、責任を取らないという仕組みが出来上がったということです。それは官僚も同じで、例えば中国から習近平さんが来るから、春節で中国人が来日することを止めない。つまり国民より習近平さんに来てもらうことの方が優先だと。また、東京オリンピックについても、1年の延期が決まるまではコロナについて触れたくないから、重大な問題になりつつあることに対して頰被りしていました。
神保: ある意味では検査数も絞ってきたわけですよね。
角谷: 「できない」と言い続けた。ところが、国民は志村けんさんが亡くなった衝撃を政府の説明なんかよりもずっと身近に感じたんです。
宮台: 岡江久美子さんもそうでしたね。
角谷: そう、著名人が亡くなったことで、国民はコロナを極めて身近に感じた。ところが政治家は「習近平さんが来るから」「オリンピックを開催するから」という都合の話ばかりで、それまでは知らんふりをしていた。いまもラムダ株が出ていることを隠していましたね。
宮台: オリンピック関係者が持ち込んだことを隠していた。
角谷: オリンピックとは因果関係がないと言い続けていますが、問題はこのように責任の所在を曖昧にすることで乗り切るという知恵を、自民党がこの8年間で覚えてしまったことです。 -
徳田安春氏:ウィズコロナからの転換を図らなければ感染は抑えられない
2021-08-18 20:00550ptマル激!メールマガジン 2021年8月18日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1062回)
ウィズコロナからの転換を図らなければ感染は抑えられない
ゲスト:徳田安春氏(医師・群星沖縄臨床研修センター長)
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日本はどこでコロナ対策を間違えたのだろう。
元々日本は感染症対策の大原則として、「感染源の排除」、「感染経路の遮断」、「宿主抵抗力の向上」の3つを「感染対策の3原則」として掲げ、少なくとも過去の感染症はうまく凌いできた。この原則は今でも厚生労働省のウェブサイトに掲げられている。今回のコロナ禍で、その原則に沿って感染の抑え込みに成功している多くの国が採用しているのが、前述の3原則をコロナに転用した、「感染源の特定」「感染源の隔離」「水際の強化」のコロナ3原則だ。
日本も単にそれをしっかりやればいいだけ・・・・のはずだった。特に日本のような島国は隣国と陸続きになっている国と比べると3原則の3つ目にある「水際対策」を徹底する上で、決定的に有利な立場にある。コロナの抑え込みに成功している筆頭格として常に名前が挙がるニュージーランドや台湾が島国であることは、決して偶然ではない。
しかし、今回ばかりは日本は明らかに感染症の抑え込みに失敗している。群星沖縄臨床研修センター長で世界のコロナ事情にも通じている徳田安春医師は、今や日本が世界のコロナ感染症の「エピセンター(震源地)」に躍り出ていると指摘する。
感染源の特定・隔離も水際対策も徹底せずに、感染症が抑えられるわけがない。ただそれだけのことだ。そして日本は辛抱強い国民の自粛と、なぜか単独で槍玉にあげられることになってしまった飲食業界の多大な犠牲の下で、少なくとも最近までは欧米ほどの感染爆発を経験せずにきた。しかし、ここに来て従来株よりも遙かに感染力が強いデルタ株の登場によって、遂にごまかしがきかなくなった。かつて日本より遙かにひどい感染に喘いでいた欧米諸国の多くがワクチン接種で先行する中、感染対策が不徹底の上にワクチンでも出遅れた日本で感染爆発が起きることは避けられないことだった。
徳田氏は今こそ感染症対策の基本に立ち返り、徹底した検査による感染源の特定と隔離、そして水際対策の強化を図りつつ、ワクチン接種を迅速に進めていく以外に、日本が現在のコロナ袋小路から抜け出る道はないと語る。厚労省も掲げる感染症対策の基本原則は英語ではゼロ・コビッド(zero covid)政策やエリミネーション政策(排除政策)と呼ばれるもので、日本ではこれが「ゼロコロナ」などと呼ばれてコロナ撲滅計画であるかのように大いに誤解されているが、ゼロ・コビッドというのは要するに、感染源の特定と隔離を徹底させ、水際強化によって国外から新たに感染源が流入してくることを防ぐことで、市中感染を限りなくゼロに近づけて行こうという、至って常識的な政策のことだ。
無論、ここまで市中感染が拡がった今、ここからゼロ・コビッドに持って行くのは容易なことではない。しかも、敵は感染力の強いデルタだ。今後、更に強力な変異種が現れないとも限らない。しかし、もし「ウィズコロナ」なる政策が感染症対策と経済の両立を図ることを目的としているのであれば、ゼロ・コビッドこそその両立を図る最良にして唯一の策だと徳田氏は言う。なぜならば、市中感染をゼロにできれば、国内の経済活動はほぼ平常通り行うことが可能になるからだ。また、いざ市中感染ゼロが実現できれば、検査も通常はサーベイランス検査のみで十分となる。いわゆる社会的調査だ。そして、万が一水際でチェック漏れがあり再び市中感染が発生した場合、徹底した検査によっていち早くそれを察知し感染源を特定し、国際基準で定められた濃厚接触者の定義に則り、対象を隔離することで、市中感染ゼロを一刻も早く取り戻すよう努める。
それを実現するためには、検査体制の整備と水際対策の大幅強化、そして感染者と濃厚接触者を一時的に隔離するための施設が必要になるが、中途半端な両立策で延々と緊急事態宣言を出し続けるよりも、その方がはるかにコスト面でも優位性があると徳田氏は言う。
日本のコロナ対策はどこが間違っているのか。コロナの抑え込みに成功している国が採用している「ゼロ・コビッド」もしくは「エリミネーション」とはどのような政策なのか。今からでも日本はそちらに舵を切り直すことが可能なのか、もしそれをしなければどのような結末が待っているのか、などについて、徳田氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・島国ゆえ、水際対策で有利なはずの日本
・「ゼロコロナ」という言葉に対する誤解
・ワクチンで各国に遅れをとるなか、得意な「検査」への注力を
・個人でできる有効な対策:CO2メーターと抗原検査
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■島国ゆえ、水際対策で有利なはずの日本
神保: 今回はあらためて、日本のコロナ対策をテーマにお送りします。ゲストは医師で群星沖縄臨床研修センター長の徳田安春先生です。さっそくですが、沖縄もいま、新型コロナ、特にデルタ株が猛威を振るっていると聞いています。どんな状況なのでしょうか。
徳田: この数週間、陽性者数がかなり増えて、全国でもトップレベル、この1年半のなかでも最高レベルに達しています。あらゆる部門で医療の逼迫状態が続いているという状況です。
神保: 厚労省のホームページを見ると、人口あたりで東京と比較したときに、沖縄の方が悪いくらいの状況だと。沖縄では9日までの直近1週間の人口10万人当たり新規陽性者数が256.09人となり、これは世界のなかでもかなりひどい水準で、アメリカ全体と比べてもずっとひどい。
徳田: そうなんです。欧米諸国はワクチン接種のペースが早いので、その分、感染者数が減っています。最近はデルタ株の影響でまた増えてはいますが、それでもいまの日本の状況はかなり深刻です。アジアのなかでも、日本はマレーシアやインドネシアとともに、地球上のエピセンター(発生源)とも言われています。 -
新田國夫氏:自宅療養で医療の空白を作ってはならない
2021-08-11 20:00550ptマル激!メールマガジン 2021年8月11日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1061回)
自宅療養で医療の空白を作ってはならない
ゲスト:新田國夫氏(医師・日本在宅ケアアライアンス理事長)
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デルタ変異株による新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。東京では1日の新規陽性者数が5,000人を超えたために医療体制が逼迫し、自宅療養者の数が1万7,000人にのぼったほか、さらにもう1万人が入院調整中として自宅に留め置かれている。
こうした状況を受けて政府は8月2日、医療逼迫を理由に、重症化リスクのない感染者は入院させずに自宅で療養する方針を一度は打ち出したものの、医療界をはじめ批判や不安の声が噴出、しまいには与党内からも反対の声が上がり、軌道修正を余儀なくされている。5日の参院厚労委で田村厚労大臣が、中等症は入院させる方針を明言するなど、政府の方針は二転三転しているが、大臣が何と言おうが、現在の日本の脆弱な医療体制では増え続ける感染者数を支えきれないことは明らかだ。
厚労省が作成した新型コロナ「診療の手引き」では、人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)を必要とする状態が「重症」と定義され、それ以外は呼吸不全があり酸素吸入が必要でも中等症とされる。しかし、たとえ軽症でも、いつ肺炎症状による呼吸困難に陥るかわからないため、医療を受けられない患者の不安は大きい。にもかかわらず、東京で無症状・軽症者の健康観察を委ねられているフォローアップセンターはなかなか電話がつながらず、これでは「自宅療養」ではなく「自宅放置」ではないかという声があがるのも当然のことだ。
東京で30年近く在宅医療に取り組んできた医師の新田國夫氏は、今年4~5月の第4波の際に大阪や神戸で起きたような、入院ができないまま自宅で亡くなるコロナ感染者が続出する医療危機の可能性を危惧する。
在宅ケアを担う医療関係者で構成され新田氏が理事長をつとめる一般社団法人・日本在宅ケアアライアンスは、やむを得ず自宅療養する際に医療の空白を作らないために、自宅療養中の患者に医療を提供する医師のための「医療提供プロトコール」を今年5月に作成した。このプロトコールでは、神戸や大阪で実際に在宅医療を提供した医師たちの経験を元に、必要に応じてステロイド投与や酸素吸入を行うことなどが明記されている。在宅患者を診る医師に在宅医療に対する十分な知識があれば、中等度の患者が必要とする医療サービスを提供することは可能なのだ。
ただし、これはやむをえない場合であり、このプロトコールさえあれば誰でも自宅療養が可能というわけではない。感染者に高齢者が多かった関西の第4波の時は、入院して人工呼吸器を装着した高齢者が、コロナの快復後も寝たきりになってしまう懸念があるため、その観点からは自宅療養のメリットも考えられたが、40歳代や50歳代にまで感染が広がっている第5波の現状では、まずは可能な限り入院治療が優先されるべきだと新田氏は語る。
もう一つ、新田氏が懸念するのは、保健所の情報が地域の医師に伝わってこないことだ。地域医療を担う医師たちは、発熱外来などで患者のコロナ陽性が確認されると保健所に連絡をすることになっている。しかし、その後その患者は保健所の管理下に入るため、入院調整やその後のフォローアップなどに関する情報が地域の医師には入ってこない。保健所の機能がパンクした場合、民間でその受け皿を作ることが求められるが、まだそれだけのインフラが築けていない地域も多く存在すると語る新田氏は、コロナによって、少しずつできあがってきた地域医療の基盤が壊されるようなことがあってはならないと強調する。
デルタ株の感染拡大が東京から全国に広がる中、今後、地域医療や在宅医療が重要になることは間違いない。東京・国立で地域医療に取り組みながら、在宅ケアの体制作りのための活動を続ける新田國夫氏と、在宅医療のあり方などについて社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。
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今週の論点
・地域医療と保健所の間で断絶する、患者の情報
・「重症以外は自宅療養」のおかしさ
・指摘され続け、しかし変わらない保健所の問題
・雑談もできる「かかりつけ医」を持とう
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■地域医療と保健所の間で断絶する、患者の情報
迫田: 今回は新型コロナをテーマにお送りします。今週は本当にバタバタしましたね。
宮台: 重症患者だけを入院させる、という風にアナウンスさせてしまい、特に公明党と自民党の議員さんは「選挙間近なのに何を言っているんだ」ということで、票目当てでギャーギャーと騒ぎ出しました。 -
5金スペシャル映画特集 「罪」と「責任」の違いと韓国ドラマのすごさ
2021-08-04 20:00550ptマル激!メールマガジン 2021年8月4日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1060回)
5金スペシャル映画特集
「罪」と「責任」の違いと韓国ドラマのすごさ
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月の5回目の金曜がある週に特別企画を無料でお届けする5金スペシャル。
今週は劇映画を1本、アニメを1本、テレビドラマを1本取り上げたのに加え、マル激史上では初となる韓国ドラマ大特集をお送りする。
最初に取り上げた映画は7月30日公開の『アウシュヴィッツ・レポート』。
ホロコーストをテーマにした映画は毎年のように作られるが、この映画はスロバキア、チェコ、ドイツ3か国の合作によるもので、歴史を記録し伝え続けることの重要さを、実話を基に力強く表現した作品だ。
本編で描かれている、アウシュヴィッツに収容された2人のスロバキア系ユダヤ人の命を賭した行動と、彼らを逃がすためにいかなる懲罰をも厭わない勇気ある囚人仲間達の犠牲がなければ、今日われわれは「ホロコーストなどフィクションだ」といった言説に容易に流されてしまっていたかもしれない。それを身を以て痛感させてくれる。
ナチス政権下のドイツは歴史上類を見ない非人道的罪を犯したが、単に一度謝罪して当事者が訴追されればその罪から開放されるのではなく、未来永劫その責任(responsibility)を取り続ける姿勢を見せることによってのみ、自分たちの過去から解放され、国際社会の尊敬を集めることができると説いたヴァイツゼッカー元大統領の演説の意味を想起した時、こうして毎年のように質の高いホロコースト映画が作られ続けていることの意味を日本人としても改めて考え直してみたい。
その他、今人気公開中の『竜とそばかすの姫』、元々テレビで放送され現在Netflixで公開されている『微笑む人』を通じて、日本のアニメやドラマの現在地を確認した。
さらに今回はマル激としては初めて、韓国ドラマを取り上げた。コロナの「ステイホーム」によって自宅で映画を見る習慣が急速に広がった2020年、Netflixで人気トップ10に何と韓国ドラマが5作品もランクインした。『愛の不時着』、『梨泰院クラス』、『サイコだけど大丈夫』、『青春の記録』、『キム秘書はいったい、なぜ?』の5つだ。2021年の通年ランキングはまだ出ていないが、今年に入ってからも既に『ヴィンチェンツォ』、『わかっていても』などが大ヒットを飛ばしていてランク入りは間違いない状況だ。韓国語をマスターしていない日本人にとって韓国ドラマは字幕を読む手間もかかる。Netflix上には欧米、とりわけ今や大物俳優を惜しみなく起用するようになったハリウッド映画も数多くあがっている。もちろん日本でヒットしたテレビドラマなども多数ある。そうした中にあってなぜ韓国ドラマがこれほどまでに人気を博しているのか。
実際にこれらの作品を見てみると、単純に作品としての完成度が高いことに加え、ストーリー構成の巧みさ、一見くだらなそうに見えて誰もが思わず笑ってしまうようなギャグの挟み方の絶妙さ等々、確かに韓国ドラマのレベルは高い。問題はなぜ韓国がここまで質の高いコンテンツを提供できているのに、日本がそれに太刀打ちできる魅力的な作品を作れていないのかだ。2020年のNetflixのランキングを見ても、トップ10入りした日本の作品は「嵐」の活動を追ったプロモーショナルなドキュメンタリーとアニメ3作品と「テラスハウス」だけで、ドラマや映画は一つも圏内に入っていない。
今週の5金スペシャルではジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が、『アウシュヴィッツ・レポート』、『竜とそばかすの姫』、『微笑む人』の3作品と、韓国ドラマ特集として『愛の不時着』、『梨泰院クラス』、『ヴィンチェンツォ』の3作品を取り上げて、それぞれの作品の評価と日本の映画やドラマの現在地について議論した。
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今週の論点
・『アウシュヴィッツ・レポート』に見る「罪」と「責任」の違い
・『竜とそばかすの姫』の“届かない説教”
・ラスト以外よくできた『微笑む人』と、韓国ドラマのすごさ
・韓国にできて、日本にできないのはなぜか
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■『アウシュヴィッツ・レポート』に見る「罪」と「責任」の違い
神保: 本日は「5金」の映画特集です。最初に取り上げるのは『アウシュヴィッツ・レポート』というチェコ、スロバキア、ドイツの合作映画で、メジャー作品という感じではないのですが、実はアカデミー賞候補になっています。アウシュヴィッツやホロコーストをテーマにした映画は、本当に数多くありますね。
宮台: 毎年出てきます。
神保: それこそ『シンドラーのリスト』などいろいろとあるわけですが、この映画は若干ユニークと言いますか、そこで起きたことをなんとか外に伝えようとする人間たちと、それを逃すために自ら犠牲になる収容所の仲間たちの物語で。もちろん残虐性というものは例によって十分に描かれているのですが、テーマは「伝えること」であって、僕なんかからすると、自分の職業にも関係してきます。いまだにそこで起こったことを否定する人は多くいるわけで、命を賭してそれを伝えた彼らがいなかったら風にかき消されたかもしれない。
宮台: エンドロールで、そういうリアルなボイスが流れます。
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