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記事 4件
  • 武田俊彦氏:実効性のある「かかりつけ医」制度を実現するための条件

    2023-01-25 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2022年1月25日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1137回)
    実効性のある「かかりつけ医」制度を実現するための条件
    ゲスト:武田俊彦氏(ボストンコンサルティンググループ シニア・アドバイザー)
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     3年に及ぶコロナ禍は「かかりつけ医」の重要性と、それを持たないことのリスクを浮き彫りにした。
    コロナの流行が始まった当初、政府は発熱したらまずかかりつけ医に診てもらうよう繰り返し発信した。しかし、その段階でかかりつけ医を持つ人が果たしてどれほどいただろうか。期せずして国民の間に戸惑いや混乱が広がり、かかりつけ医を持たない人からの問い合わせが保健所に殺到。日本中で保健所機能がパンクするという苦い経験したことは記憶に新しいところだろう。
     しかし、その後、かかりつけ医制度をめぐる議論はどうなったのか。
     昨年5月、財務省の財政制度等審議会がかかりつけ医機能の法制化や認定制度などを求める建議を打ち出した。しかし、直ちに日本医師会が法制化反対の意向を示したため、その後の議論では 「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」という回りくどい表現が用いられるようになったことは、すでにマル激でお伝えした通りだ。その後、全世代型社会保障構築会議や社会保障審議会などでの議論を経て、昨年末には一応、制度化へ向けたとりまとめが行われている。
     しかし、この「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」とは何なのか。
     昨年の取りまとめでは、医療機能情報を提供する制度を利用して法律で「かかりつけ医機能」を定義した上で、都道府県が情報提供をすることや、かかりつけ医機能の報告制度を創設し地域ごとに協議をする、などとしている。しかし、そもそも「かかりつけ医」とは何なのかが国民に共有されていない中で、「かかりつけ医」と「かかりつけ医機能」の違いは何かなど、医療を受ける側の国民にとってはわかりにくい議論となっている。ここまでの議論は医師会などの医療提供者側や制度をつくる行政側の視点で議論されており、肝心の患者が置き去りにされている誹りは免れない。
     かつて厚生労働省で医療政策を担う担当部署の厚労省医政局の局長を務めていた武田俊彦氏は、かかりつけ医を巡る議論は今、重要な局面を迎えていると語る。コロナ禍で起きた医療の空白をなくし、患者が常に医療とつながっている安心感を持てるようにするためにも、かかりつけ医に相談できないためにいたずらに救急車を呼んだり保健所に問い合わせが殺到するような事態を減らし医療現場の負担を減らすためにも、かかりつけ医の議論を一つずつ整理して前に進めていく必要があると指摘する。
     いくらかかりつけ医の機能を法律で決めても、医療を提供する側の能力と意欲がついてこなければ、制度が機能しないのは言うまでもない。一方で、患者側がかかりつけ医に何を望みどう選択するかによっても、制度の意味は変わってくる。法律を変えれば医療者や患者の行動が自動的に変わるわけではない。まずは制度化によって何を目指しているのかが国民や医療関係者の間で広く共有されない限り、この制度は絵に描いた餅に終わりかねないと、武田氏は危惧する。それを避けるためには今、現場との対話が何より必要だ。
     確かに、かかりつけ医機能のハードルを上げると、担い手となる医療機関は減るかもしれない。また、逆にハードルを下げ過ぎると、患者側の不満が大きくなる可能性がある。武田氏は昨年、東京の救急搬送が過去最多になったことを指摘した上で、特に、日常的に医療のお世話になることが少ないためにかかりつけ医を持たず、結果的にコロナ禍で医療から置き去りにされた経験を持つ若い世代に向けて、かかりつけ医にどのようなメリットがあるのかをわかりやすく説明していく必要があると訴える。しかし、患者に安心感を与えられる医師がいて、様々なかかりつけ医機能を連携させて地域で担っていく仕組みをどう構築していくのかについては、まだまだ具体的な方策は見えていない。
     コロナ禍の教訓を活かす意味でも、今日本に求められるかかりつけ医制度とはどのようなものなのか、それを実現するために何をしなければならないかなどについて、医療行政に詳しく在宅ケアに携わる医療・介護関係者の信頼も厚い武田俊彦氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。
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    今週の論点
    ・そもそもかかりつけ医とは何なのか
    ・「かかりつけ医機能」は地域で担うもの
    ・枠組みを作るだけでは意味がない
    ・全世代に向けられた医療へ
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    ■ そもそもかかりつけ医とは何なのか
    迫田: こんにちは。今日は2023年1月20日の金曜日、第1137回マル激トーク・オン・ディマンドになります。
    今日のテーマは「かかりつけ医」です。コロナが流行り始めたころ、熱が出たらまずかかりつけ医に相談してください、ワクチンもかかりつけ医に相談してくださいと言われたものの、そもそもかかりつけ医ってなんだっけ、私にかかりつけ医はいるんだっけというところから始まりました。番組でも何度か扱ったテーマです。
    宮台: まず言葉の意味が分かっていない人が大半ですよね。昔は、体の具合が悪いと医師に往診してもらうことがありましたが、これがなくなってから、そういう風景の記憶は全く伝承されなくなりました。したがって、かかりつけ医というものがおらず、コロナの疑いがあればかかりつけ医に行くようにと言われても、多くの人にとっては意味不明ですよね。
    迫田: どこに行ったらいいのかも分からないということや、自分のかかりつけ医だと思っている人でも、相手はそう思っていないこともありますね。
     1980年代に「家庭医」という制度が議論されましたが、それが頓挫したこと。国民的議論はしたのだけど、それが今どのようになっているのかよく分からないということ。そういったことを今日のゲストに伺いたいと思います。
    ゲストは、元厚生労働省医政局長の武田俊彦さんです。武田さんは厚労省に入られてから医療制度にずっと関わられていて、かつ日本医師会でもいろいろなことをされたので、いろいろなステークホルダーの思惑が分かるのではないかと思います。
    武田: 今日はお呼びいただきありがとうございます。私はいろいろな意味で医療政策に携わってきて、このかかりつけ医の議論は非常に重要な局面に入っている気がします。「かかりつけ医」、「家庭医」、「プライマリ・ケア医」、「総合診療医」、「主治医」などいろいろな言葉がありますが、「かかりつけ医」というのはそもそも一般に馴染みのある言葉ではありません。
    そんな中で政府が「かかりつけ医機能の制度化」を議論しているのですから、「かかりつけ医」と「かかりつけ医機能」とで何が違うのか、「かかりつけ医」と「主治医」とで何が違うのか、多くの人はよく分からないのです。このあたりから皆で整理して理解しないと、議論はなかなか進まないと思います。 

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  • 本田由紀氏:まずは今の日本がどんな国になっているかを知るところから始めよう

    2023-01-18 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2022年1月18日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1136回)
    まずは今の日本がどんな国になっているかを知るところから始めよう
    ゲスト:本田由紀氏(東京大学大学院教育学研究科教授)
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     新年を迎えるにあたり、誰もが今年こそは明るく前向きな方向を目指していきたいと思うところだろう。これは日本に限ったことではないが、昨年は長引くコロナ禍に加え、ウクライナ戦争、そして安倍元首相の暗殺事件などの暗いニュースが多かった。そのような状況では、目の前の問題に対応するだけで手一杯で、われわれの社会が抱える大きな問題に取り組む余裕などなかなかなかったというのが実情ではないだろうか。
     しかし、そう言いながら日本は、四半世紀もの時間を浪費してしまった。まだコロナ禍も予断を許さない状況ではあるが、今年こそは、溜まりに溜まった宿題に一つずつ取り組んでいく一年にしたいではないか。
     さて、状況を改善する際に大前提となるのが、何を措いてもまずは現状を正確に把握することだ。社会全体が不都合な真実から目を背けるのが当たり前となり、メディアの機能不全も手伝って、われわれは日本が今どのような状況に陥っているかについて正しい認識を持つことが難しくなっている。
    そうした中で、東京大学大学院教授で教育社会学者の本田由紀氏が2021年に著した『「日本」ってどんな国?――国際比較データで社会が見えてくる』は、日本の様々な社会指標をOECD加盟国など世界の他の国々と国際比較しており、日本の現在地を再確認する上で理想的な手引きとなる。
     しかし、そこで紹介されている諸データは日本がまさに絶望的な状況に置かれている状況を露わにする。日本が世界でも断トツで少子高齢化が進んでいる国であることが指摘されて久しいが、依然として出生率が伸びないためにその度合いは年々深刻の度合いを増し、15歳未満の若者人口率はOECD加盟国中最下位なのに対し、65歳以上の高齢人口率は断トツの1位だ。伸びない出生率は子育てや教育に対する公的支援の貧弱さと同時に、将来に希望が持てない社会の現実をわれわれに突きつけてくる。
     問題に手当をするためにはまず、現実を知ることが必要だが、同時に、日本がなぜそのような状態になってしまったのか、その原因やその背景、構造などを把握する必要がある。本田氏はその一助となるモデルとして、「戦後日本型循環モデル」を提示した上で、それに代わる「新たな循環モデル」構築の必要性を訴える。
     本田氏の「戦後日本型循環モデル」とは、企業と家族と教育が相互にニーズを満たし合うことで、政府の公的支援を受けずに社会が自動的に回っていくような仕組みのことだ。
     しかし、冷戦の終結や人口構成の変化など、このモデルが機能する前提となる外部環境が大きく変わり、何よりも大前提となっていた経済成長が止まったことで、もはやこのモデルは完全に破綻してしまった。しかし、これまで社会を回すための手段だったはずのこのモデルが一時期あまりにもうまく機能していた(少なくとも一部でそう受け止められていた)ために、今日そのモデルの維持が自己目的化してしまい、元々それが内包していた矛盾や歪みも手伝って、むしろこのモデルの残骸が日々、新たな問題を量産しているのが現状だ。
     実際、日本では政府が長年このモデルに依存し、公共事業などで企業に公的資金を流し込みさえしていれば、後は企業が雇用と社会保障まで提供し、家庭では専業主婦の母親が家を守りつつ「教育ママ」よろしく子どもをしっかり進学させ、学校は毎年新しい労働力を企業に供給するという一見好ましい循環が繰り返されてきた。政府にとってはこの上もなく好都合なモデルだったわけだが、本来政府の役割である子育て支援や家庭関連支出や教育関連支出の分野で日本がOECD加盟国中最下位グループにいるのはそのためだった。
     好ましい外部環境や運のよさも手伝って、これまで日本が、たまたまうまく機能した社会モデルに依存し、日本は本来先進国として当然やっておかなければならないことを25年あまりサボってきた以上、遅ればせながら今からでもそれを始めるしかない。しかし、政治家や霞ヶ関官僚、大企業で働くサラリーマンなど日本で「エリート」とされる人々は、依然として「戦後日本型循環モデル」を追い求めるマインドから抜け出ることができていない。
     本田氏はわれわれが一刻も早く「戦後日本型循環モデル」がもはや破綻していることを受け止めた上で、それに代わる「新しい循環モデル」を作っていく以外に、問題を解決する方法はないと言う。その新しいモデルの特徴は、政府はセーフティネットとアクティベーションに責任を負うとともに、これまで一方向だった企業と家族と教育の関係を双方向化していくというものだ。
     国際比較から日本は今どんな国なのかを改めて確認することを出発点に、なぜ日本がそのような状況に陥ってしまったのかを考えた上で、これから日本が模索すべき新しい社会のモデルとはどんなものなのかなどを、本田由紀氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・国際比較データから見えてくる「日本はこんな国」
    ・学ぶ意味、働く意味、人を愛する意味を欠いた「戦後日本型循環モデル」
    ・戦後日本型循環モデルの破綻
    ・新たな循環モデルを構想する
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    ■ 国際比較データから見えてくる「日本はこんな国」
    神保: こんにちは。今日は2023年1月13日の金曜日、1136回目のマル激となります。
    本日のゲストは東京大学大学院教育学研究科教授の本田由紀さんです。よろしくお願いいたします。
    本田: よろしくお願いします。
    神保: 本田さんの近著『「日本」ってどんな国?』を読んだとき、これを今扱うのが大事だと思いました。他国と比較したデータが満載されていて、それを基に日本がどういう国であるかが書かれているからです。
    まず、日本人が日本をそういう国だとは思っていないのではないか、という問題点から出発したいのですが、宮台さんいかがですか。
    宮台: それはマスメディアを中心として、経済指標にばかり注目しているところに原因があります。人々は社会生活上の動機づけで経済活動をするので、社会がおかしくなると経済もおかしくなります。社会がうまくいっているかどうかを表す統計的な数値を社会指標といいますが、解釈が必要なのでマスメディアは嫌うのです。 

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  • 佐々木実氏:今あらためて巨人・宇沢弘文に学ぶ「われわれが本当に失ってはならないもの」

    2023-01-11 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2023年1月11日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1135回)
    今あらためて巨人・宇沢弘文に学ぶ「われわれが本当に失ってはならないもの」
    ゲスト:佐々木実氏(ジャーナリスト)
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     2023年最初のマル激は、長年にわたるインタビューをもとに伝説の経済学者・宇沢弘文氏の伝記を著したジャーナリストの佐々木実氏をゲストに招き、宇沢氏の思想を改めて振り返り、氏がどのような社会を展望し、われわれは今、そこから何を学ばなければならないのかなどについて議論した。
     リーマンショックや新型コロナウイルスによるパンデミックは、これまでわれわれが無批判に推し進めてきたグローバリゼーションの脆弱性を露呈させた。またロシアによるウクライナ侵攻に起因する食料やエネルギー危機によって、ボーダーレス化した世界経済はいたるところでサプライチェーンが寸断され、事実上の麻痺状態に陥っている。
     2014年に86年の生涯を閉じた宇沢氏は生前、グローバル化やその背後にある新自由主義的思想は人が生きる上で必要な「社会的共通資本(Social Common Capital)」を破壊すると主張し、これを厳しく批判してきた。社会的共通資本とは、山河などの自然環境や道路や鉄道などの社会インフラ、教育や医療などの制度資本のことで、市場経済に組み込まれない人間にとって共通の財産を指す。そして今、宇沢氏の懸念がいたるところで顕在化しようとしている。
     東京大学理学部数学科を卒業した宇沢氏はもともと数学者としての天才的な能力が注目されていたが、世の中を良くするための仕事に就きたい一心で数学者の道を捨て、経済学者に転向した。幼くして戦争を体験した宇沢氏には、社会が激動する時に暢気に数学を勉強しているのが耐えられなかったと言う。
     後にノーベル賞を受賞するスタンフォード大学のケネス・アロー教授の招きで1956年に渡米した宇沢氏はベトナム戦争に疑問を持ち、アメリカの経済学がこの戦争の理論的裏付けを提供していることに強い抵抗を覚えるようになる。例えば、同僚の経済学者たちが、限られた予算の中で一人でも多くのベトコンを殺すための「キル・レイシオ(kill ratio)」などという概念を提唱しているのを見て、その背景にある市場原理主義の危険性をあらためて再確認したという。
     1964年、宇沢氏はミルトン・フリードマンなどを擁し、当時のアメリカ新自由主義の総本山とも呼ぶべき地位にあったシカゴ大学に移っているが、それは経済学の誤った流れを変えたいと考えたからではないかと佐々木氏はいう。1968年に突如日本に帰国した理由について宇沢氏は多くを語らない。しかし、帰国後の彼は、それまでの数理経済学者としての活動とは大きく活動内容を転換させ、水俣病などの公害問題や成田空港を巡る三里塚闘争などに深々とのめり込むようになる。
     こうした宇沢氏の変節については、一時はノーベル経済学賞に最も近い日本人と呼ばれ、アメリカの経済学会でも注目されるスターだった数理経済学者が、おかしな活動家の道に入ってしまったのは残念なことだなどと言われ、酷評されることも少なくなかった。しかし、今振り返れば、帰国してからの宇沢氏は経済学者として社会的共通資本の価値を証明することこそが、彼の学者としての使命だと確信して活動していたのではないだろうか。
     宇沢氏は帰国後、日本における新自由主義思想に基づく「改革」の実践の立役者となった竹中平蔵氏とも意外なところで接点を持っていた。しかし、竹中氏の「改革」の背景にある反ケインズの思想を、より根本的な次元で批判していたのが宇沢氏だった。
     宇沢氏がアメリカで輝かしい未来を捨ててまで、経済学者として自分の人生を懸けて証明しようとしたものは何だったのか。今こそあらためて宇沢氏の主張に耳を傾け、今日本が、そして世界が、宇沢氏から学ぶべきものが何だったのかを佐々木氏とともに、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が考えた。
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    今週の論点
    ・巨人・宇沢弘文にとっての学問の原風景
    ・宇沢弘文と論敵ミルトン・フリードマンとの邂逅
    ・経済学を見渡すことのできた宇沢弘文が帰国後に選んだテーマ
    ・「大切なものを守りたい」宇沢弘文の心
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    ■ 巨人・宇沢弘文にとっての学問の原風景
    神保: こんにちは、そして明けましておめでとうございます。これが新年第1回目のマル激となります。ネタばらしをしてしまうと、これは2022年の旧年中に収録をしていますので、現場収録をする番組としては宮台さんの復帰第一戦となります。3週間ぶりに戻ってきた感じはどうですか。
    宮台: いつもいる場所なので特に大きな感慨はありません。ただ、神保さんは僕につきっきりでいてくれたので、そんなに離れた感じはしないです。
    神保: これが新年最初のマル激ということですが、マル激では新年第1回目はできれば細々としたものではなく、大きなテーマでやりたいという希望があります。2022年の最初のマル激は神野直彦先生がいらっしゃいましたが、今回は神野先生の先生について、われわれは今何を学ぶのかという番組をやりたいと思います。
    宮台: 今日のテーマは「学問は社会において何をするのか」、あるいは「知識人の社会的役割は何なのか」ということになると思います。放送の中立性と同じように学問の中立性もあり、例えばマックス・ヴェーバーの「価値自由(Wertfreiheit)」という概念は日本で完全に誤解されているんです。そのことも、学問からの倫理性の欠落に大いに貢献しています。
    神保: 中立と中道の区別がついていないということですよね。 

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  • 5金スペシャル:戦争とテロを乗り越えて仲間とともに生き抜くために

    2023-01-04 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2022年1月4日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド(第1134回)
    戦争とテロを乗り越えて仲間とともに生き抜くために
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     2022年最後となるマル激は、5回目の金曜日に特別企画を無料でお送りする5金スペシャル。今回は先週からスタジオに復帰した宮台真司とジャーナリストの神保哲生が、久しぶりの「2人マル激」で2022年を総括し2023年を展望した。
     2022年はウクライナ戦争と安倍元首相の銃撃事件という、まさに「瓶のふた」が取れたような衝撃的な出来事によって規定される1年となってしまった。世界では20世紀の遺物であるかのように考えられてきた国民国家間の全面戦争が実際に起きたことで、これまでの秩序やグローバル化に対する盲信が根底から揺らぐ一方で、日本では首相退任後も日本政界の最高権力者の座にとどまり続けていた元首相が、何と手製の銃によって暗殺されてしまった。2022年はどのような年として歴史に刻まれることになるのだろうか。
     ただし、ウクライナ戦争にしても、安倍元首相の暗殺にしても、それが何を意味しているかについての合意がいまだに存在しない。ウクライナ戦争はロシアの独裁者であるプーチン大統領が独断で仕掛けた戦争であることは間違いないが、だとしてもそもそも彼が何のために、これほど多くの犠牲を生んでまで戦争を続けているのかを明確に説明できる人はおそらく誰もいない。マル激でもさまざまな専門家を招き、それこそNATOの東方拡大脅威説からロシア民族主義説にいたるまで何度かその説明を試みてはみたが、どの専門家からも明確な答えは得られなかった。
     安倍氏の暗殺も、その意味が十分説明されたとは言い難い。犯人の動機に統一教会に対する恨みがあったことが判明すると、社会の関心は統一教会一色に染まった。確かに多くの被害者を生み続けてきた統一教会を放置してきたことは大問題だ。しかし、最高政治権力者の暗殺という歴史的な重大事件を統一教会問題だけで終わらせてしまってはならない。
     安倍氏は現在の日本が丸ごと乗っかっている「安倍政治」という一つの時代を作った人物でもあり、集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈の変更など、良くも悪くも安倍氏の元で日本は大きく歴史の舵を切っている。その安倍氏が突如として亡くなったことで、今日本には権力の空白が生じている。今後、その空白に何が入ってくるのかを、われわれは細心の注意を払ってウオッチしていかなければならない。
     一歩まちがえば第三次世界大戦になりかねない戦争の意味や、最高権力者が暗殺されたことの意味ですら、合意形成が難しくなっているのだ。個々の政策や社会問題でコンセンサスを築いていくことは容易ではない。しかし、だとしても今の日本には説明がつかないことが多すぎる。
     なぜ未だに、解雇規制によって手厚く保護された正社員と使い捨ての非正規労働者なるものが存在しているのか。日本の子育て支援や教育支援の公共支出が先進国で最低レベルのままなのはなぜか。住民税の税金の5割が返礼品と運営費に消えてしまうふるさと納税なる制度が、未だに大手を振って存在しているのはなぜなのか。ありとあらゆる不条理を抱えながらなぜ日米地位協定は一切改正できないのか。アメリカから言われたら自動的に防衛費を倍増しそれを増税で賄うのか等々。これからもわれわれが問い続けていかなければならない課題は多い。
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    今週の論点
    ・何を意味しているのか、いまだに合意が存在しないウクライナ戦争と米議会襲撃事件
    ・自立した国家になるためのチャンスを逃してきた日本
    ・安倍元首相銃撃事件が問うもの
    ・社会という荒野を仲間と生きるために
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    ■ 何を意味しているのか、いまだに合意が存在しないウクライナ戦争と米議会襲撃事件
    神保: こんにちは。今日は2022年12月27日の火曜日、これが1134回目のマル激となります。今年最後のマル激となりますが、ここ数年、一年の最後のマル激は公開収録をして、その様子を公開していました。今年も12月3日に公開収録が予定されていましたが、宮台さんが襲われる事件があり今年は延期となったので、久しぶりに「2人マル激」となりました。
     宮台さんも話したいことがいろいろあるでしょうから、今回はテーマを決めずにフリートークでいきたいと思います。まずは何から話していきましょうか。
    宮台: 今年、国外ではウクライナ戦争が大きかったし、国内では安倍元首相銃撃が一番大きな出来事でしたよね。ものすごく象徴的なことだったので、後から見たとき、2022年は特筆すべき年として記憶されるのだろうと思います。それにもかかわらず、ウクライナ戦争の背景、あるいは安倍元首相の銃撃についての意味などについては、「こういうものなのだ」という規定ができていません。
    神保: 2022年に全面軍事侵攻が本当に起きてしまったことや、現役の政治家としての最高権力者であった安倍晋三さんが銃で撃たれて命を落としたこと。これらは事態があまりにも大きすぎるために意味の規定が難しいのか、あるいはあれだけ大きなことですら合意形成ができない世の中になっているのか、その点はどうですか。
    宮台: 議会乱入事件やその他をめぐるトランプの刑事訴追に向けた準備など、アメリカの動きは特に象徴的だと思います。以前、前嶋和弘さんを交えてキャンセルカルチャーの話をしましたが、今の構造は30年以上前にはそういうふうになりうると予言されていました。 

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