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記事 4件
  • 小泉悠氏:ウクライナで戦争が起きた理由とそれがなかなか終わらない理由

    2022-12-28 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2022年12月28日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1133回)
    ウクライナで戦争が起きた理由とそれがなかなか終わらない理由
    ゲスト:小泉悠氏(東京大学先端科学技術研究センター専任講師)
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     クリスマスのイルミネーションで街は賑わっているが、世界ではクリスマスはおろかその日一日をなんとか生き延びようとしている人々が大勢いる。その一つが戦時下にあるウクライナだ。
     今日のクリスマスイブ、ウクライナはロシアがウクライナに侵攻を開始した2月24日からちょうど10か月目を迎える。発生直後は多くの人が衝撃を受け、メディアでも大きく取り上げられたこの戦争も、300日も経つうちに日本では遠い出来事のように受け取られ始めていないだろうか。
     そこで2022年の最後から2番目となるマル激では、東京大学先端科学技術研究センター専任講師でロシアの軍事問題の第一人者である小泉悠氏とともに、あの日なぜウクライナで戦争が始まり、そしてなぜそれが今も続いているのかなどを、あらためて問い直してみたい。
     この戦争が厄介なのは、なぜロシアのプーチン大統領がウクライナに軍事侵攻を行う決断を下したのかが、専門家にもはっきりとは分からないことだ。戦争が始まる前、ロシアの専門家たちがことごとく「ウクライナへの軍事侵攻はない」と断言していたのを見てもわかるように、この戦争はロシアにとってリスクが大きい割に、得るものが少ないため、常識的に考える限り、本来は起きるべき戦争ではなかった。なぜ戦争が始まったのかが分からないので、どうすれば終わらせられるのかも見えてこない。
     しかし、ここまでのロシアの戦いぶりやプーチン大統領やロシア政府関係者の発言などを通じて、おぼろげながらロシアが軍事侵攻に至った背景やプーチンの真の動機などが見えてきた。
     この戦争の原因については、これまで色々なことが言われてきた。中でも一定の説得力を持って受け止められてきたのは、NATOの東方拡大を脅威に感じたロシアが、ウクライナのNATO加盟だけは阻止しなければならないと考え、最後の手段に出たというものだ。しかし、小泉氏はNATO問題だけでは今回の軍事侵攻は説明がつかないと指摘する。
     小泉氏によると、NATO問題はロシアが言い訳としてあげている面が強く、元々ソ連時代は同じ国を形成し、ロシアと民族的にも文化的にも同質性が高いウクライナが、ロシアに背を向け西側陣営の一員になってしまうと、西洋化、そして民主化の波がいよいよロシアにも及ぶかもしれないことへの恐怖心がプーチンにはあり、それがウクライナを軍事的に支配しなければならないという結論にいたった背景にあったのではないかと小泉氏は言う。日本に住むわれわれにとっては、ロシアもヨーロッパも西洋の一部だが、ロシアにとってはヨーロッパ的なるものは自分たちとは異なる文化だとの意識が強いのだという。
     しかし、この戦争のもう一つの謎は、いざ戦争が始まれば、軍事力で圧倒するロシアが短期間でウクライナを倒し早期に戦闘は終結するだろうという当初の予想が全く外れてしまっていることだ。それどころか今年の後半にはウクライナが反転攻勢に出て、一度は失った国土を次々と奪還しているという。
     小泉氏はウクライナ軍の予想外の強さを、19世紀の軍事学者カール・フォン・クラウゼヴィッツの「三位一体」論を引き合いに出して説明する。クラウゼヴィッツの三位一体論とは、近代国家間の戦争は「国家」、「軍隊」、「国民」が三位一体になったものという考え方で、今回の戦争ではロシア側は国民の支持が弱く三位一体が成立していないのに対し、自国を侵略されたウクライナにはこの条件が揃っているため、武器や装備で劣っていても、予想外の強さを発揮しているという。
     また、小泉氏はロシア側にいくつかの大きな誤算があったことも指摘するが、それにしても一方的に正当性に疑義がある戦争を始めた挙げ句、想定外の苦戦で戦争が泥沼化する中で、ウクライナでは国土が荒廃し人々は塗炭の苦しみを味わい続けなければならない一方で、ロシアも嵩む戦費と国際的な経済制裁によって日に日に国力を落としていくという、誰にとっても不幸な戦争はいつまで続くのだろうか。
     プーチンの戦争の究極的な目的が、小泉氏が指摘するようなウクライナを政治的、文化的にロシア勢力圏に留めておくことだとすれば、それはウクライナにとっては到底受け入れられない条件となる。だとするとこの戦争は軍事的に勝敗が決着するか、どちらかの国で政変が起き、政治体制が変わる以外には、出口が見えてこない。独裁体制を築いたプーチン政権が倒れる可能性というのは今のところ考えにくいが、アメリカを始めとする西側陣営としても、ウクライナが負け、軍事侵攻したロシアが得をするような結末は、中国を始めとする他の拡張主義的な国々に対して過ったメッセージを送ることにもなり、到底容認できない。それではどん詰まりだ。残念ながらこの戦争の出口が未だに見えてこない。
     プーチンは何のために軍事侵攻を強行したのか、軍事力では優位なはずのロシアがなぜここまで苦戦しているのか、どうすればこの不毛な戦争を終わらせることができるのかなどについて、小泉氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮代真司が議論した。
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    今週の論点
    ・ロシアはなぜ軍事侵攻までしなければならないのか
    ・圧倒的に優位なはずのロシアがなぜここまで苦戦しているのか
    ・どうしたらウクライナ戦争は終わるのか
    ・国民不在の防衛3文書改定
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    ■ ロシアはなぜ軍事侵攻までしなければならないのか
    神保: 今日は2022年12月24日の土曜日です。クリスマス・イブであると同時に、宮台さんが目黒のスタジオに戻ってきてから最初の収録になりますが、どうですか。
    宮台: 全然戻ってきた感じはしないです。ただ、神保さんにかなりお世話になっているおかげで日常が成り立っているので、全体として普通に戻るのにはかなり時間がかかる可能性があります。
    神保: 今日のテーマはロシアのウクライナ侵攻の現在地の確認ですが、侵攻が始まったのが2月24日だったので、今日でちょうど10カ月が経ちます。300日も経つと、興味のある人は事細かに武器のフォローをしている反面、ほかの方々にとっては遠くで起きていることのようになり、両極化しているところもあるのだと思いますけど、今日はそもそもの「WHY」の部分から話をお伺いできればと思います。
     ゲストは東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠さんです。よろしくお願いいたします。
    小泉: よろしくお願いします。
    神保: いろは的ですが、ウクライナ戦争の3つの謎、1)ロシアはなぜ軍事侵攻までしなければならなかったのか、2)圧倒的に優位なはずのロシアがなぜここまで苦戦しているのか、3)どうしたら終わるのか、これらは今さら聞けないような感じもするのですが、やはりまだ答えられていないと思っていました。 

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  • 柳澤協二氏、川田篤志氏:戦後の防衛政策の大転換が増税論争にかき消されてしまう不思議

    2022-12-21 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2022年12月21日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド(第1132回)
    戦後の防衛政策の大転換が増税論争にかき消されてしまう不思議
    ゲスト:柳澤協二氏(国際地政学研究所理事長)
    川田篤志氏(東京新聞(中日新聞)政治部記者(防衛省担当))
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     どうも腑に落ちない。国家にとって最重要といっても過言ではない防衛政策が抜本的に変わろうとしているというのに、なぜか議論の焦点が財源論や増税論に集中し、一体全体何がどう変わるのかが一向に見えてこないのだ。
    政府は12月16日、いわゆる防衛3文書の改定を閣議決定したが、これは岸田首相自身が「戦後の日本の安全保障政策の大きな転換」であると語っているように、日本にとっては戦後、国是として守り通してきた専守防衛や軽武装といった防衛政策を根本から変えようというものだ。
     防衛政策の転換というからには中身を十分に吟味する必要があることは言うまでもないが、それ以前の問題として、それほど重要な、そして国民の生活にも大きな影響を与え得る変更でありながら、その中身が有権者はもとより、国会にもメディアにもほとんどまったく説明されていないまま、「閣議決定」という形で強行されてしまった。
    防衛3文書の改定に伴って実施される防衛政策の変更の中身は、ここまで漏れ伝わってきた限りでは「敵基地攻撃能力を保有すること」「防衛費を現在のGDP1%から2%まで倍増させること」「武器輸出に対する制限を緩和すること」などが含まれているようだ。
     特に、敵基地攻撃能力は、敵が日本に対して攻撃準備に入ったと考えられる時、機先を制して敵のミサイル発射台を攻撃する能力を保有しようというもので、政府はメディアを取り込んでこれを「反撃能力」と呼ばせることでこれが「攻撃」する能力を持つわけではないかのような印象操作を熱心に行っているが、早い話が先制攻撃を前提とする敵基地攻撃能力を持とうという以外の何物でもない。これは戦後の日本が国是としてきた「専守防衛」から逸脱するものではないのか。
     政府は実際に敵基地を攻撃するとかしないとかの問題ではなく、日本がその能力を持つことが抑止力につながると説明しているが、それが誰に対してどのような抑止力になるのかについては、これまで国会でも記者会見でも説明されていない。そもそも何をもって「日本に対する攻撃の準備に入った」と判断できるのか、また日本側が勝手にそう解釈して敵基地を攻撃した場合、国際法が禁じる先制攻撃にならないのかなど、まだまだクリアしなければならない論点も山積している。
     また、そうした中身の課題もさることながら、そもそもそれに先立つものとして、日本はどのような状況を想定し、何のために攻撃能力を持ったり、軍事費を倍増させなければならないと考えているのかがさっぱりわからない。首相やその周辺からは「日本をめぐる安全保障環境は激変している」などといった一般論は聞こえてくるが、それが何を指しているのかは今一つはっきりしない。
     さらに過去50年にわたり概ね1%の水準を守ってきた日本の防衛費の対GDP比を順次増額し、5年後には現在の2倍の約2%にまで引き上げるという議論も、NATO諸国が自らに課している2%基準をそのまま適用しているだけで、特定の状況を想定した上で、それに対処するために必要な装備などを積み上げた結果打ち出された数字ではないようだ。
     NATOが2%なのでとにかく日本も2%にしようということで、金額だけが決まっていて中身は決まっていないということになれば、各方面から予算のぶんどり合戦が始まるのは目に見えている。
     しかし、世界第3位の規模のGDPを持つ日本が防衛費をGDPの2%にまで引き上げれば、現在世界第9位に位置する日本の防衛費はアメリカ、中国に次いで世界で3番目に躍り出ることになる。憲法9条で軍事力の放棄を謳い、自衛隊という「自衛力」の保持をギリギリのところで守ってきた日本が、核を保有するロシアやイギリスやフランスを大きく抜いて、世界3位の軍事大国になってしまうのだ。
     防衛省OBで小泉、麻生政権などで内閣官房副長官補を努めた柳澤協二氏は、戦後、日本は日米安保体制を基盤としながら独自の防衛力は抑制してきたが、今回の転換によっていよいよ米軍との軍事的一体化を進め、日本自身のより攻撃的なポジションを明確にすることになると指摘する。また、これまで特定の敵を作らない方針でやってきた日本にとって、今回の政策転換により中国包囲網に積極的に加担していくことになるだろうとの見方を示す。
     問題はそれらの政策転換によって、日本に住むわれわれがより安全になるのかどうかということだ。そこの議論や説明が十分なされないまま、負担だけを強いられるというのは、どう見てもおかしい。
     実際に、敵基地攻撃能力を担保するものとして、巡航ミサイルのトマホークを500発購入するというような勇ましい話が飛び交っているが、旅客機なみの速度しか出ないため現在の技術では容易に迎撃ができてしまうトマホークに通常弾頭を装填したミサイルをいくらか保有しただけで、敵基地攻撃能力を持ったことになるのか、あるいはそれで敵からの攻撃を抑止するだけの威嚇になるのかは、はなはだ疑問だ。
     東京新聞で防衛省を担当する川田篤志記者は、直近で防衛省、自衛隊が保有しようとしているミサイルでは抑止力としては不十分かもしれないが、抑止力を持つことを目標とする限り、今後より破壊力の強いミサイルを保有する方向に向かっていくことは必至で、やがて歯止めが利かなくなることが懸念されると語る。
     何のために日本は戦後の防衛政策を大転換しようとしているのか。その転換とは何から何への転換なのか。その転換によってどんなメリットがあり、新たにどんなリスクが生じるのかなどについて、柳澤氏と川田記者とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・日本の防衛政策の何がどう変わるのか
    ・「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」にすり替える政府とマスメディア
    ・理念なき防衛政策の転換
    ・防衛3文書の改定はパンドラの箱か
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    ■ 日本の防衛政策の何がどう変わるのか
    神保: 今日は2022年12月15日木曜日、1132回目のマル激となります。今日はお二人のゲストにスタジオに来ていただいて、宮台さんともリモートでつないで、4人で番組を進行していきます。一人目が、防衛省のOBで内閣官房副長官補なども務められ、現在は国際地政学研究所理事長でいらっしゃいます柳澤協二さんです、よろしくお願いします。
    柳澤: よろしくお願いします。
    神保: もうひとり、現在東京新聞政治部で防衛省を担当している川田篤志さんにも議論に入っていただこうと思います。私は普段から川田さんの記事をすごく参考にさせていただいており、御用記事みたいなものが多いなと思うなかで、とがった記事を書いているので、お会いしたいということもあり、ご出演いただきました。
     今日のテーマは言うまでもなく日本の防衛政策の転換ですが、本来は防衛政策の転換という論を立てて、中身がどうなっているかという話をしなければならない段階なのに、世の中は増税に賛成反対、あるいは自民党の中でも割れているみたいな話になっています。中身が分からないまま金額が出てきて、今度は財源論に入っているということで、なんだか一足飛びに話が進んでしまっているようで、今日はまず、そもそも何のために、なぜ今、何をしようとしていて防衛政策が転換されるのかという基本中の基本を議論したいと思います。 

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  • 佐藤寛氏:サプライチェーンの人権尊重で国際標準から乗り遅れる日本

    2022-12-14 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2022年12月14日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1131回)
    サプライチェーンの人権尊重で国際標準から乗り遅れる日本
    ゲスト:佐藤寛氏(アジア経済研究所上席主任調査研究員)
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     「サプライチェーンの人権」と言われても、すぐにはピンと来ない人も多いかもしれない。
    日本に住む私たちは今、世界中から集められた原材料でできている商品や製品、食品をコンビニやスーパーマーケットや通販などを通じて、いつでも簡単に、しかも驚くほど安価で、手に入れることができている。サプライチェーンとは、それらの商品や製品が消費者の手元に届くまでの、調達、製造、在庫管理、配送、販売、消費といった一連の流れのことを指している。
     そのサプライチェーンにおける人権尊重の促進が、国際社会の主流となっている。これはわれわれがなぜ世界中の商品をこうも安価で手に入れられるのかと密接に関連していることなので、誰もが自分事として受け止めなければならない問題のはずだ。しかし、カタールのサッカーW杯でも、スタジアム建設に関わった労働者の中に大勢の死者が出たことなどが国際的には大きな問題となったが、日本では自国チームの活躍への熱狂ぶりと比べて、この問題に対する反応はいたって鈍かった。
     日本で消費される製品や食品が製造されたルートを辿っていくと、原材料の生産や採取、加工や流通の過程で、途上国の安い労働力に頼っていることが多いことは、多くの人が何となくは知っているだろう。グローバル化した社会のなかで、安い原材料を求め流通等のコストを抑制しようとするのは企業活動としては当然のことでもある。
     しかし、そのサプライチェーンの多くが、強制労働や児童労働、奴隷のような低賃金による搾取といった人権に関わる様々な課題を抱えていることについては、気づかないか、もしくは気づかないふりをしているというのが現状ではないか。
     国際社会に大きな衝撃を与えたのが、2013年にバングラデシュのダッカ郊外にあった8階建てのビルが倒壊し1,100人以上が死亡したラナ・プラザ崩落事故だった。亡くなったのはこのビルで働いていた女性たち。各階ごとに世界的に有名なアパレルブランドの下請け工場が入っていて、低賃金、劣悪な労働環境、そして何より安全性が問題である亀裂が入っているようなビルであったことが明るみになった。
     安価で最新の流行ファッションを提供するアパレルブランドのサプライチェーンの末端で大きな人権侵害が起きていたのだ。欧米の消費者は抗議の声をあげ、ブランド店の前でデモも起きたが、日本ではそれほど大きな問題とはならなかったと、開発社会学が専門でアジア経済研究所の佐藤寛氏は指摘する。
     グローバル企業が網の目のようにサプライチェーンを伸ばしていくなか、国際社会としてのルールづくりもこの10年で大きく動いている。国連は2011年にビジネスと人権に関する指導原則を策定、人権を擁護する国家の責務と企業の責任を明記した。またOECDも多国籍企業行動指針に人権における原則と基準を加えている。
     日本政府もようやく今年になって経産省内に検討会を設け、この9月にサプライチェーンの人権問題についてのガイドラインを公表した。そのなかで重視されているのが、「人権デュー・ディリジェンス」という考え方だ。それは自社が扱う製品のサプライチェーンのなかで人権侵害が起きていないかを調べ、その防止・軽減のために取り組み、その結果を公表するというプロセスの実施を、日本で活動するすべての企業に求めるというもの。
     しかし、現実にはガイドラインをすべて実施する余力がある企業はごく一部で、これまでなかった基準を求められることに対して戸惑いを隠せない企業も多いという。
     しかし、国際NGOなどの活動にも詳しい佐藤氏によれば、国際社会ではNGOと連携して人権問題にとりくむグローバル企業も増えているという。この問題は利潤追求が最優先される企業だけにまかせておくのではなく、消費者や投資家が同じ考えのもとに行動することが重要で、国際社会ではすでにそうした土俵で企業活動を繰り広げようとされているなか、日本が乗り遅れていることが懸念される。サプライチェーンの人権を考慮した選択が、消費者にも求められているのではないか、と佐藤氏は指摘する。
     40年近く途上国の課題に取り組み国際開発学会の会長も務めた佐藤寛氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。
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    今週の論点
    ・搾取の温床としてのサプライチェーン
    ・ビジネスと人権のルールづくり
    ・外国人技能実習制度と企業の人権意識
    ・サプライチェーンの人権問題に世界はどう対応しているのか
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    ■ 搾取の温床としてのサプライチェーン
    迫田: こんにちは。今日は2022年12月9日、マル激トーク・オン・ディマンド第1131回になります。今日、宮台真司さんはリモート出演です。復帰第一弾になりますが、お怪我のほうは大丈夫でしょうか。
    宮台: 基本痛みはもうありません。痛み止めを飲んでいるのですけどね。
    迫田: 長丁場になりますが、何か途中でありましたらおっしゃってください。さて、今日のテーマは「サプライチェーンの人権問題」ということで、グローバルな話の人権を考えようということなんですが、宮台さんはこのテーマを今どんなふうに捉えられていますか。
    宮台: グローバル化というのは、ヒト・モノ・カネの移動の自由化です。したがって、調達ネットワーク、サプライチェーンが世界中に広がるのは当たり前のことですよね。ただ、サプライチェーンが広がれば広がるほど消費者から見えない領域がどんどん広がっていき、相対的な問題ではあるけれど、それが度を越してくると、公平や正義という、最近ますます高まっている概念とバッティングしてしまいます。 

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  • 吉弘憲介氏、三木義一氏:なぜ「ふるさと納税」が国家の根幹に関わる大問題なのか

    2022-12-07 20:10  
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    マル激!メールマガジン 2022年12月7日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド(第1130回)
    なぜ「ふるさと納税」が国家の根幹に関わる大問題なのか
    ゲスト:吉弘憲介氏(桃山学院大学経済学部教授)
    三木義一氏(青山学院大学名誉教授)
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     年末商戦たけなわの師走。テレビではふるさと納税に関連したサービスのCMが盛んに流れている。
     ふるさと納税は「ふるさと」の名を冠しているが、要するに自分が住む自治体とは別の自治体を好きに選び、そこに「納税」すると、ほぼそれと同額の住民税が免除されるというもの。しかも、多くの自治体が少しでも多くのふるさと納税を集めたいがために、返礼品と称する魅力的な商品のお返しをしてくれる。
     利用者にしてみれば、自分が住む場所以外の自治体に「納税」すると、全体としての納税額は変わらないのに、肉だと魚だのといった各地の豪華な名産品が事実上ただで手に入る制度なので、これを利用しない手はない。
     案の定、利用者は2008年の制度開始から年々増加の一途を辿り、その金額も2021年は8,302億円にのぼる。12月末が今年分のふるさと納税の締め切りとなるが、今年は総額が1兆円を越える勢いだそうだ。日本の年間防衛費が5兆円あまりであることを考えると、この金額がいかに莫大なものかがわかるだろう。
     そのような制度が正式な国の制度として存在する以上、これを利用することには何の問題もない。また、そこから派生する様々なサービスが登場するのも当然のことだろう。さらに、自分が生まれ育った「ふるさと」や旅で訪れてファンになった地域などに、住民税の一部を回したいとの思いを持つのも自然な感情だ。しかし、その制度があまりにも堕落していて、しかも国家の根幹を揺るがしかねない重大な問題を孕んでいるとすれば、これを放置することはできない。
     ふるさと納税が国の根幹を揺るがす大問題を孕んでいると指摘するのは、桃山学院大学経済学部の吉弘憲介教授だ。吉弘氏は、ふるさと納税が未来のために使うはずだった税金が返礼品に消えている制度であることを理解する必要があると語る。
     当初は金額の制限がなかったふるさと納税の返礼品は、行き過ぎた返礼品競争に歯止めをかけるべく2019年から納税額の3割という上限が設けられ、一応は地域に縁の深い商品に限定されるというルールも設けられているが、とはいえ住民税の納税額が多い人ほど多くの返礼品を受け取る権利を有していることに変わりはない。
     つまり、高額納税者=高所得者ほどこの制度のメリットを享受できる「垂直的不公平」という問題が内在しているのだ。本来、所得再分配の手段であるべき税が、この制度によって高所得者をより優遇する逆進性を伴っているということだ。
     計算式はやや複雑になるが、ふるさと納税は概ね住民税額の約2割までの範囲で自由に金額を決められる。その範囲であれば、ふるさと納税を行う対象自治体の数にも制限はない。
     これまで縁もゆかりもなかった自治体に納税しても、まったく問題はない。利用者はカタログショッピングやオンラインショッピングさながらに、いろいろな業者が発行している返礼品カタログを見ながら、欲しい商品を提供している自治体に上限額まで「納税」していけば、肉だの魚だのといった各地の名産品が次々と届けられる。返礼品には食べ物のほか、旅行券や食事券、宿泊券、宝飾品、家具、スポーツ用品などを提供している自治体もある。
     しかも、ふるさと納税された「税金」は3割が返礼品に使われるほか、カラフルな返礼品カタログの作成やウエブサイトの運営などにも使われるため、実際は納められた税金の半分程度しか対象自治体の手元には残らない。
     税制の権威で元政府税調の専門委員でもある三木義一・青山学院大学名誉教授は、税とは無償で出すことを通じて社会をよりよく運営していくために使われるもので、拠出することに具体的な見返りを期待する性質のものではないことが理解される必要があるという。総務省は、ふるさと納税の意義として「税に対する意識が高まり、自分ごととしてとらえる機会になる」ことを挙げているが、大半の人が見返りを目当てに利用しているふるさと納税は、むしろ税の基本的な考え方を歪めてしまっている。
     そもそも「ふるさと納税」は、「税」の名が付いているが税金ではない。自分が住んでいるわけではない地域に住民税を納めさせることは、応益負担の原則に反するため法的に正当化することが困難だった。そのためふるさと納税は法律上は「寄付金」という位置づけになっている。自分が好きな自治体に寄付を行うと、それとほぼ同額の住民税が控除、つまり割り引かれるという建て付けになっているのだ。しかし、見返りを前提とする寄付は「寄付」の概念にも反する。
     要するにふるさと納税というのは、呼称は「税」、法的には「寄付」扱いとなっているが、その実態は税でも寄付でもない、人口の多い都市部から人口の少ない地方の自治体への歳入移転の手段に他ならない。ただし、それを実現するために税の基本原則を歪めた上に、寄付額の約半分が返礼品と運営費に消えるという対価を伴う。
     今やこの制度は740万人もの国民が利用しており、利用者数も年々増えている。それだけの人が既にそのメリットを享受しているため、これを批判したり問題点を指摘すると不人気となることが必至だ。これでは政治家もこの制度を廃止しろとは言いにくい。また、ふるさと納税を仲介したり、豪華返礼品を紹介するなどさまざまな派生サービスも立ち上がっており、テレビCMも盛んに流れているため、メディアが積極的にこの制度の問題点を指摘する動機は起きにくい。
     そのため結果的に国が実施している公的な制度としては税の基本原則に反し、著しく運営効率も悪い邪悪な制度が、そのまま生き残るばかりか、その規模は年々膨らむ一方だ。
     この制度の問題点を解消するためには、何をおいてもまず、返礼品制度を廃止するしかない。返礼品制度を廃止し、豪華返礼品目当てではなく、本当にふるさとを支援したいと考える人が、住民税の一部をそちらに回すことで、その分税金の控除を受けられる制度にすればいいだけのことだ。元々それが制度本来の趣旨でもあった。
     しかし、ここまで制度が膨らんでしまった今となっては、言い出しっぺであり問題のある制度の導入を自らの政治力で強行した菅前首相自身がその口火を切るか、もしくはこのまま制度が膨脹を続け、国家の根幹を揺るがすほどの大問題にならない限り、この制度をあらためるのは困難かもしれない。しかし、できればそうなる前に何とかしたいではないか。
     そもそもふるさと納税とはどんな制度でどんな問題を孕んでいるのか、またそれが現実にはどのように運営されているのかなどを、ふるさと納税の問題点を積極的に発信している数少ない財政と税の専門家である桃山学院大学経済学部教授の吉弘憲介氏と、暴漢に襲われ現在入院中の宮台真司のピンチヒッター役を務める税の権威で青山学院大学名誉教授で弁護士の三木義一氏、ジャーナリストの神保哲生が議論した。
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    今週の論点
    ・ふるさと納税の現実
    ・豪華な返礼品を負担しているのは誰なのか
    ・間違いだらけのふるさと納税から抜け出すには
    ・納めることに皆が同意できるような税のシステムを作るために
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    ■ ふるさと納税の現実
    神保: こんにちは。今日は2022年12月1日木曜日です。マル激のスタートとしてはちょっと寂しい感じですが、私のワンショットから番組が始まります。マル激の視聴者の方は皆さんもうご存知かと思いますが、二日前、11月29日に私と一緒に21年間司会を務めてきている宮台真司さんが大学で暴漢に遭って切りつけられるという考えられないような事件がありまして、事件の詳細については私もTwitterで発信していますが、そのせいで今度の土曜日のマル激の公開収録が延期になりました。それについてはビデオでみなさまに謝罪及びご報告を昨日したところです。
     とはいえ、世の中もどんどん進んでいて、悪いことが色々起きている最中に宮台さんにはとにかく早く治ってもらうしかありませんが、さすがの宮台真司もあれだけ全身を傷つけられたら、少なくとも一、二週間くらいは大人しくしていた方がいいだろうということで、ただ昨日のビデオでも言いましたが、いっぱい切られて痛いはまだ痛いんじゃないかと思いますが、本当に致命傷ではなかった。
     まず命に別状がない、そればかりか神経や太い血管、内臓など、後遺症が残るような傷口が、あれだけ深く切られた割には不思議と一つもなくて、私が病院に駆けつけてお医者さんの説明を聞いた時に、そういうのが奇跡的に全くなかったのは本当に良かったと言っていました。
     ですから意外と早く戻ってくるんじゃないかと思います。じっとしていられる男でもないのですが、少なくとも今週来週ぐらいは宮台さんのいないシフトで、しかし番組の方はしっかりと行ってきたいと思います。宮台節は出ないかもしれませんが、今日は別の形で十分に価値のある番組をお届けしたいと思います。
     今日のテーマは、もともと宮台さんとやろうと思っていたのですが、「ふるさと納税」です。ふるさと納税は、真面目に考えないと日本を滅ぼしかねない重大な問題をはらんでいるということをきちんとやりたくて、12月末が今年の締め切りだということもあり、はやめにやろうということで番組を企画しました。もうふるさと納税をやってしまったという人はしょうがないですし、やることを止めはしませんが、やるからには、どういうことになっているのかを一応分かった上での方がいいのではないかなと思います。 

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