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  • 山岸暁美氏:災害関連死を防ぐ被災地支援には現場のニーズの吸い上げが不可欠

    2024-08-28 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2024年8月28日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1220回)
    災害関連死を防ぐ被災地支援には現場のニーズの吸い上げが不可欠
    ゲスト:山岸暁美氏(在宅看護専門看護師、慶應義塾大学医学部講師)
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     能登半島地震からまもなく8カ月が経とうとしているが、当初から懸念されていた災害関連死が100人を超え、申請中の件数を含めると今後も増えることが予想されている。石川県災害対策本部の発表では8月21日午後2時時点で災害関連死は110人、死者の数は339人(行方不明者3人)となった。既に全体の3分の1が震災後に亡くなっている。
     災害関連死は市町村が医師や弁護士などの専門家と協議して認定するもので、統一した基準があるわけではないため、認定されるまでに一定の時間がかかる。そのため現時点での災害関連死の数がそのまま被災地の現状を反映しているわけではない。しかし、現在も被災者の多くが震災当初と変わらないほど深刻な状況に置かれていると、能登町小木地区で開業をしている医師の瀬島照弘氏は指摘する。
     ビデオニュース・ドットコムでは震災発生から間もない1月中旬に、瀬島氏に同行し支援の手が届いていない老老介護の在宅避難の状況をお伝えしたが、瀬島医師が訪問している被災者の中には、今も電気も水もない半壊の自宅で暮らす高齢女性がおり、熱中症や感染症が懸念される状況にあるという。バスが復旧していても運行されている本数が少ないため、実際には医療へのアクセスが困難だったり、精神的疲労などで家に引きこもっている被災者もいる。
     阪神・淡路大震災以降、幾度となく震災を経験してきた日本は、さまざまな災害関連死を防ぐ取り組みを行い、支援の仕組みもできてきた。しかし、避難所や仮設住宅などの支援はあっても、ケアを必要とする在宅被災者に対する支援は未整備だ。この20年ほど国は、地域で最期まで暮らすことを目的に地域包括ケアシステムの構築を進めており、医療・介護・福祉の制度は在宅ケアにシフトしてきているが、こと災害支援については、いまだに病院・救急医療が中心の制度になっているのが実情なのだ。
     こうしたなか、災害支援の経験があり厚労省の在宅医療関連の部署に勤務したこともある在宅看護専門看護師の山岸暁美氏は、コミュニティケアを推進してきた訪問看護師やケアの専門職を派遣するDC-CAT(Disaster Community-Care Assistance Team)を起ち上げ、全国の700人近い仲間とともに能登半島地震の被災地支援を行っている。発災直後は避難所支援、その後は福祉施設のスタッフの支援など、時が経つにつれてニーズが変わる被災地の現状に合わせて、地域に根ざしたケアのあり方を模索してきたという。
     避難所の被災者のケアに関する公的支援が終了したあと、山岸氏は被災者が夜間に相談できる電話相談を始めた。仕事を再開したり、日中自宅の片付けなどをして避難所に戻った被災者が夜間に体調不良を訴えても、避難所には相談する場がなく、救急車を要請する前に相談できる#7119という制度も石川県になかったのだ。
    そのため今も、全国の看護師が当番制で被災者の相談に乗っているという。現在は新たな仕組みとして、看護師が被災者のもとに寄り添ってかかりつけ医とオンライン診療を行い医療へのアクセスを確保できるような仕組み作りを、各自治体と相談しながら進めている。
     被災地の状況が変わっていく中でどういう支援が必要になるかは、現場に入って地域の人たちと話をして一緒に考えながら進めていかなければわからないと山岸氏はいう。災害関連死のリスクは現在被災者が置かれている生活の中にあり、その状況を理解しないと対策も立てられないのだ。
     さらに、こうした支援を進めるためにも、災害法制に福祉の視点がないことが問題だと山岸氏は指摘する。全国社会福祉協議会も同様の視点で提言を行っており2年前にまとめられた「災害福祉支援活動の強化に向けた検討会」報告書では災害救助法第4条「救助の種類」に福祉を追記するよう求めている。
     コミュニティケアの視点で被災地支援を続けるために何が必要か、今も能登半島の現場に足を運び続けている山岸暁美氏と、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。
     
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    今週の論点
    ・能登半島地震の災害関連死をこれ以上増やさないために
    ・看護やケアの専門家集団DC-CAT
    ・有事は平時の延長線上にある
    ・人の繋がりと知恵がわれわれの最大の武器である
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    ■ 能登半島地震の災害関連死をこれ以上増やさないために
    迫田: ニュースでは自民党の総裁選や立憲民主党の代表選が取り上げられていますが、今回のマル激では能登半島地震の被災地の話をしようと思います。被災地の暮らしをどういうふうに支援していくのかということで、今日は実際に支援をされている看護師の方から被災地がどうなっているのか、被災地で暮らしている方がどんな思いでいらっしゃり、どんな課題を持っているのかということを伺いたいと思います。
    ゲストは在宅看護専門看護師で慶應義塾大学医学部講師の山岸暁美さんです。山岸さんは1月8日から被災地に入られていて、これまでも様々な災害支援にあたってこられました。山岸さんの目から見て現在はどんな状態ですか。
     
    山岸: 被災6市町という呼ばれ方がされますが、各市町でそれぞれ状況が違ってきているということが浮き彫りになっている感じがします。災害ハネムーン期を終え、一段落してこの先どうしようかということで気持ちが落ち込む方も増えてきています。酒量が多くなる方や、持病が悪化しつつあっても医療へのアクセスが悪い方が増えているという状況です。
     
    迫田: 広域避難によって多くの人が外に出てしまったので、高齢者に対する色々なサービスも少なくなっています。課題がたくさん出ているのですが、それに手がつけられていないという印象があるのですが、これまでの災害と比べてどうなのでしょうか。
     
    山岸: 能登半島全体でかなり広域に被害があったということは特徴だと思います。特に珠洲と輪島では家屋も損壊していますし、一度市外に出た若い方が戻ってきていません。2007年と2023年にも地震があったので、この先住み続けられるのかどうかという不安や、仮設住宅は建てられても復興住宅については建てられる土地があるのかといった先が見えない不安が大きくあります。
    その中で、医療介護の専門職も住民の1人なので、ここに残って仕事を続けるのか、家族の安全を考えて離れるべきなのか、その葛藤が大きいということを感じます。
     
    迫田: 全国的な感覚で言うと、広域であるという感覚があまり持てておらず、能登半島のある限定的な地域での被害だと思っています。実際には非常に広域で被害を受けていて、それぞれが全然違うということですよね。 

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  • 筧裕介氏:人口減少社会をいかに豊かに「デザイン」していくか

    2024-08-21 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2024年8月21日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1219回)
    人口減少社会をいかに豊かに「デザイン」していくか
    ゲスト:筧裕介氏(NPO法人issue+design代表、慶應義塾大学大学院特任教授)
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     岸田首相が唐突に総裁選不出馬を表明したことで、日本にも9月末には新しい政権が誕生することとなった。メディアはまるで競馬の予想でもするかのように次の総理探しに忙しいが、誰がなっても日本が大きく変わりそうもないことを国民は既に見透かしているのか、報道量の割には総裁選への関心は必ずしも高くないように見える。
     裏金に統一教会との癒着と深刻な政治スキャンダルが続き、日本は今、未曽有の政治不信のただ中にある。その一方で、「失われた30年」と呼ばれるほど、日本は過去30年にわたりほとんど経済成長ができず、あらゆる経済指標で先進国の最下位グループに沈んでいる。しかも、人口減少に拍車がかかるのをよそ目に、産業の効率化や生産性をあげるための産業構造改革もほとんど手つかずで、このままでは日本がますます貧乏になっていくことは避けられない。
     にもかかわらず、新しい総理候補の中で、ストレートにこうした問題に対応してくれそうな政治家が見当たらないとなれば、競馬予想程度の関心しか集まらないのは当然と言えば当然かもしれない。そもそも総理の首をすげ替えれば支持率が戻ると考えているとすれば、もはや自民党政治は終わっているとしか思えない。
     そもそもの問題は、現在の厳しい政治、経済、社会状況の下で市民一人ひとりが豊かさや幸福を守っていくためには、日本はどうすればいいのかという具体的なデザインが示されていないことだ。豊かな未来像がイメージできなければ、期待の持ちようがない。
     ソーシャルデザインが専門でNPO法人issue+designの代表を務める筧裕介氏は、自身が各地で行ってきた町おこし・村おこしプロジェクトの経験から、国レベルで何かを変えようとすると大変だが、より小さなユニットであれば変革は十分に可能だと語る。実際、筧氏のNPOはこれまで高知県佐川町や岐阜県御嵩町、和歌山県新宮市など、主に過疎化が進む20の中山間地で村おこしのプロジェクトを実施してきた。
     筧氏の下に持ち込まれる住民や首長からの依頼は多岐に渡るが、例えば人口減少を食い止めたいという相談があれば、若者がその町や村に居続けたいと思えるような仕事や人間関係や文化を再発見したり再構築するなどを、住民からのボトムアップ方式で実現してきたという。また、雇用と同時にかつては豊かだった人間関係をいかに再構築するかも、町や村の再興にとっては重要になると筧氏は語る。
     元々広告代理店の博報堂でデザインの仕事をしていた筧氏は、ソーシャルデザインやコミュニティデザインを考える上で「デザイン」が需要なキーワードとなると言う。元々「デザイン」は日本語では「意匠」と訳されており、外形的なものを指していたが、今は一般的には「設計」という意味で使われている。
     しかし筧氏はもう少し狭い意味でデザインを定義しており、それは「人の共感を生んで人の心を変える美しさと楽しさを伴う行為」のことだという。どんなに自分たちに影響があることでも、つまらなければ人は興味を持つことができない。逆に、人の共感を呼ぶことができれば、行動も変わっていくという。
     日本を変えていくためには、日本の将来のデザインが多くの日本人の間で共有される必要があり、そのためにはまず人々の共感を生みやすい身近なところのデザインから取り組む必要がある。人口の少ない町に力のある首長が登場し、若者が入って行動すれば、その町や村が劇的に変わることを何度も目の当たりにしてきたと言う筧氏は、遠回りなようでも、自ら政治に関わりたいと思える人を増やすことから始めるしかないと語る。
     なぜ日本には将来のデザインが見えないのか。日本の未来像をデザインできる政治家はいるのか。人口減少局面にある日本の未来をどうデザインしていけば、多くの日本人が豊かさや幸福さを失わない社会を作っていけるのかなどについて、デザイナーの筧裕介氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・底が知れている総裁選、変わる可能性を秘めた地方自治体
    ・地域復興の動機は人の繋がりの中から生まれる
    ・デザインとは美しさと楽しさで人の心を変えること
    ・身近な社会をいかに豊かにデザインしていくか
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    ■ 底が知れている総裁選、変わる可能性を秘めた地方自治体
    神保: 今週はお盆の週で比較的ゆっくりなのかと思いきや、8月14日に日本の総理大臣が突然思いついたように退陣表明をしました。正確には、NHKが退陣の意向を抜いてしまったので慌てて会見をしなければならなくなったということなので、実際にこのタイミングで発表したかったのかどうかは分かりません。
    端的に言えば、日本の総理大臣が9月末で変わるということです。アメリカの大統領選挙が11月にあるので、日本の総理大臣はそれよりも早く変わることが決まりました。アメリカはカマラ・ハリスが大統領になるかトランプが大統領になるかで政策的に大きな変化があります。
    宮台: 天下分け目の決戦になるということですよね。ただ日本の総裁は、どう変わろうが天下分け目の決戦にはなり得ないので、お祭りにもなり得ません。
    神保: 何の分け目なのかも分かりませんよね。
    宮台: テレビの露出頻度もアメリカ大統領選挙についての情報が圧倒的に多いという状況です。
    神保: 政治部の人たちは、誰が誰と会ったとか、誰が誰と密談しているといった政局しか取り上げません。結局、誰が総理大臣になっても政策も路線も何も変わらないのなら、国民は興味を持ちませんよね。 

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  • 久江雅彦氏:現行の選挙制度のままではいつまでたっても日本は変われない

    2024-08-14 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2024年8月14日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1218回)
    現行の選挙制度のままではいつまでたっても日本は変われない
    ゲスト:久江雅彦氏(共同通信社特別編集委員)
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     日本が停滞したまま身動きが取れなくなっている根本原因の一つに、もしかしたら選挙制度の問題があるのではないか。
     言うまでもなく選挙は民主政の根幹を成す要素だ。選挙が正常に機能しなければ、政治も正常に機能しない。民意が正しく政治に反映されなくなるからだ。そして、政治が機能しなければ、経済も社会も立ちゆかなくなる。なぜならば、結局のところ日本という国の意思決定は政治の場で行われているからだ。
     日本は衆議院が小選挙区比例代表並立制、参議院は選挙区制と比例代表制という制度を採用している。特に衆議院の小選挙区比例代表並立制という選挙制度は、リクルート事件や東京佐川急便事件などの大型疑獄事件の反省の上に立ち、カネのかからない政治、政策主導の政治、政権交代が可能な政治という触れ込みで1994年の政治改革の一環として導入された。
     しかし、小選挙区制を中心とする新しい選挙制度の下では、投票率は低迷を続け、政権交代も結局30年間で1度しか起こらなかった。
     そもそもなぜ日本は小選挙区制を導入したのだろうか。当時の関係者への取材結果をこのほど編著『証言 小選挙区制は日本をどう変えたか』にまとめた共同通信特別編集委員の久江雅彦氏は、現在の選挙制度が導入された1994年当時、小選挙区制に反対する人は守旧派のレッテルを貼られ誰も反対できないような空気が作られていたという。元々小選挙区制はアングロサクソンの国々が得意とする選挙制度で、歴史も文化も大きく異なる日本でこれがうまく機能すると考える根拠は必ずしも多くはなかった。
    そのため当初、小選挙区制の導入を提唱する人は決して多くはなかったが、自民党を飛び出し細川連立政権の立役者となった小沢一郎氏と、朝日新聞を始めとする大手メディアがこぞって小選挙区制こそが政治改革の本丸であるかのような主張を展開した結果、気がついた時は世論も小選挙区制一辺倒になっていた。
     久江氏は同著の中で小選挙区制が導入された際の当事者だった細川護熙首相(当時)や河野洋平自民党総裁(当時)にもインタビューしているが、現在の選挙制度制定の当事者である両氏ともに、現在の選挙制度は誰も望んでいなかったものが妥協の産物としてできあがってしまったものであることを認めているという。
     議会で過半数を占めるためには同じ選挙区に同じ政党から複数の候補者を擁立しなければならない中選挙区制の下では、候補者間で政策的な違いを出しにくいため、得てしてサービス合戦に陥り、それが利権政治の温床となっているという説明から小選挙区制が導入されたが、その説明も小選挙区になれば問題が解決されるとの考えも、今となってはとても浅はかなものだったかもしれない。
     現行の選挙制度には数々の欠陥があることは明らかだ。有権者の投票行動が議席配分に過大に反映され、僅かな票の移動で容易に政権交代が起きる小選挙区制と、それを相殺する比例代表制がブロック制という中途半端な形で組み合わされたことによって、実際には政権交代は起きにくいことに加え、少数政党が生かさず殺さずの生殺し状態に置かれるようになっている。現行の制度では比例区のおかげで野党は生き残れるが、決して政権を担えるような規模にはなれない。
    また、小選挙区で落選した議員が比例区で復活当選することが可能になっていることで、有権者がますます白ける制度になってしまっている。これでは投票率が先進国の中でも最低水準に低迷するのも無理はない。
     また小選挙区制の下では最初から強固な支持基盤を持つ世襲議員や特定の業界団体の支持を受けた族議員や組織内議員が圧倒的に有利になっている。
     これでは政治にも日本にも新陳代謝など起きるわけがない。しかも、300億円を超える政党交付金が、毎年議席の多い与党により多く配分され、与党にはパーティ券を通じて企業や業界団体からふんだんに政治資金が流れ込んでくる。そのような政治状況で日本で政治にも経済にもまったく変革が起きないのはいわば当然のことだったのではないか。小選挙区制の導入と日本の失われた30年が同時期に始まっていることは決して偶然ではなかったと考えるべきだろう。
     しかし、ここで拙速な選挙制度の変更には慎重を期する必要があるだろう。30年前の失敗は政治腐敗をすべて選挙制度、とりわけ中選挙区制のせいにして、選挙制度さえ変えれば問題が解決するかのような安直かつ短絡的な考え方で国全体が動いたことだ。
     現行の選挙制度に問題があることは間違いないが、今回もそれを丸ごとすげ替えれば今の政治が直面する問題がすべて解決するかのような主張には注意が必要だ。むしろ現行の選挙制度の下で、明らかに問題があると思われる比例復活やブロック比例の問題などを個別に再検証し、小選挙区の特性を活かしつつ、その弊害を最小化する方法を模索する方法も考えるべきだろう。選挙制度がその国の民主政の根幹を成すことを考えれば、30年程度でその制度が根幹からコロコロ変わるのは、決して褒められたことではない。
     今の選挙制度は民意を反映するものになっているのか、失われた30年の根底には選挙制度の問題があるのではないかなどについて、共同通信社特別編集委員の久江雅彦氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・与野党の妥協の産物としての小選挙区比例代表並立制
    ・国民の支持分布が議席に反映されにくい現行制度
    ・選挙制度改革の方向性
    ・制度を根幹から変えることのリスク
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    ■ 与野党の妥協の産物としての小選挙区比例代表並立制
    神保: 今日は政治の話、特に選挙制度の話をしたいと思います。ゲストは共同通信社特別編集委員の久江雅彦さんです。久江さんは7月に『証言 小選挙区制は日本をどう変えたか』という、選挙制度の改革に関わった錚々たるメンバーのインタビュー集を出されました。非常に示唆に富んでいて面白かったです。今このタイミングで小選挙区制の本を出されたのはなぜですか。
    久江: 共同通信は去年1年間かけて「選挙制度改革の残像」という通年企画を加盟社に配信しました。今年の1月で河野洋平さんと細川護熙さんの合意から30年経つので、それに先立って1年前にこれを取り上げようということでした。それに追加取材などをして本にしたという経緯です。
    たまたまというか必然なのかもしれませんが、統一教会の問題や、自民党安倍派を中心とする派閥の裏金問題が企画の最中に起きました。さらに言えば、われわれは日常的にあの政党が良いとか悪いとか様々な政治の話をしますが、全ての根底には選挙制度の問題があるのではないのかということを何年も前から考えていました。
     サラリーマンは立憲がだらしないとか自民党が酷いなどと言いますよね。民意をなるべく反映する民主政治で選ばれた政治家がこの国のまつりごとをやるという前提に立てば、下半身たる国民の支持層分布と政治家・政党の分布は思いきり不整合を起こしています。
    下半身と上半身を繋ぐものが選挙制度なのですが、そこに大きなひずみがあり、そこに着眼せずにあれこれ言うことには違和感がありました。簡単には変えられませんが、問題提起して論点を多くの人の知ってもらいたいと思い本にしました。
    神保: 90年代の政治改革の中で選挙制度の改革にまで至った前提に、政界を揺るがす大スキャンダルのリクルート事件と東京佐川急便事件が連続して起きたということがありました。政治とカネの問題はもっと遡ると田中金脈問題などがあり、長年の課題が最後に火を噴き、選挙制度にまで手を付けなければもたないような感じになりました。実際、一時的でしたが政権交代もありました。
     選挙制度は、その制度で選ばれた人たちが制度を変えるという自己矛盾をもっています。下手に変えさせるともっと自分たちに有利になるようにする可能性もあり、実際当時も気が付いたら比例復活ができ、小選挙区と比例の議席の配分も変わりました。またブロック比例になるのか全国比例になるのかで全然違うのにもかかわらずブロック比例になりました。それもおそらく自民党と社会党の意向だったのだと思います。今回、選挙制度をいじるという機は熟しつつあると思いますか。
    久江: 全然熟していませんね。当時は小渕さんや竹下さんなど、経世会の権力闘争が大きかったことは確かです。結局リクルート事件でも佐川急便事件でも、こういう疑獄事件が起きるのは、中選挙区で同じ政党同士なのにやれ香典、やれサービス合戦だということで政治にお金がかかるからでした。それならば選挙制度を変えれば良いということになりました。 

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  • 西山隆行氏:ハリス対トランプはアメリカに何を問うているのか

    2024-08-07 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2024年8月7日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1217回)
    ハリス対トランプはアメリカに何を問うているのか
    ゲスト:西山隆行氏(成蹊大学法学部教授)
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     日本にも世界にも多大な影響を与えるアメリカ大統領選挙の行方が混沌としてきた。
     一時は「もしトラ」から「ほぼトラ」、そして暗殺未遂事件の後、一時は「確トラ」とまで言われていたトランプ前大統領の勢いが、バイデン大統領の不出馬宣言で新たな民主党の筆頭候補に躍り出たカマラ・ハリス副大統領の登場で、ほぼ振り出しに戻ってしまったようなのだ。
     共和党を完全に掌握したかに見えるトランプ対アメリカ初の女性大統領に挑戦するハリスの選挙戦は、いろいろな意味で今後のアメリカの、そして世界の針路の分岐点となる可能性がある。
     アメリカの大統領選挙は一般投票ではなく、州ごとに割り当てられた選挙人の過半数を取った候補が当選する仕組みになっている。そのため全米レベルの支持率は勝敗には直接関係がなく、結局のところ6つか7つのスイングステート(接戦州)を取った候補が勝利する。接戦州を除いた40余りの州は、投票する以前からほぼ民主、共和どちらの候補が勝つかが決まっているからだ。
     ここに来て、79歳の白人男性のトランプと59歳の黒人女性のハリスの一騎打ちとなったことは、今のアメリカの分断をそのまま反映する構図となった。ハリスはまだ副大統領候補を指名していないが、トランプ陣営が副大統領候補に同じく白人のJ・D・バンスを指名したことで、そのコントラストは更に際立っている。トランプ陣営のスローガン「MAGA(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)」が復古主義的な色彩を持つとしても、そこで取り戻したいアメリカが「誰にとってのどんなアメリカ」を意味しているかは、人それぞれ受け止め方は異なるからだ。
     少なくとも銃撃事件は、トランプにとって大きな追い風となった。成蹊大学法学部教授でアメリカの政治や文化が専門の西山隆行氏は、前々回2016年の大統領選でトランプを勝たせた福音派と呼ばれる宗教右派は、妊娠中絶の禁止などを容認した最高裁判決が2022年に下されたことで、トランプを支援すべき理由を失っていたが、この銃撃事件の後にトランプが神に感謝する発言を繰り返したことで、再び宗教右派の支持を得られる可能性が出てきたと言う。
     しかしバイデンが撤退し、ハリスが登場したことで、トランプ陣営は戦略の根本的な見直しを求められる事態となった。全国レベルの支持率ではまだトランプがハリスを上回っているが、接戦州7州(ウィスコンシン、ミシガン、ネバダ、アリゾナ、ジョージア、ペンシルベニア、ノースカロライナ)では、ブルームバーグなどの世論調査によると4州でハリスの支持率がトランプを上回っている。
     カマラ・ハリス副大統領はジャマイカ出身の父親とインド出身の母親の間に生まれ、幼いころから黒人向けのキリスト教の教会とヒンドゥー教の寺院に通い、両方のアイデンティティーがあるという。大統領に当選すれば、アメリカで初の女性大統領となる。
     今のところトランプ陣営はハリスの出自を攻撃したり、ハリスをカリフォルニア極左政治家呼ばわりするといったレッテル貼りに注力しているようだが、ハリスが必ずしもヒラリー・クリントンやバイデンのような民主党エリートではなく、人種的にも少数派の黒人であることから、トランプがもっとも得意とするエリートを揶揄しこき下ろす口撃が使いにくい。
     しかし、ハリスにも死角がないわけではない。カリフォルニア大学の法科大学院を卒業後、2018年に上院議員になるまで一貫して司法、とりわけ検察畑を歩んできたハリスは、警察の暴力に抵抗するアメリカの黒人を中心とする運動のブラック・ライブズ・マター(BLM)などからは未だ警戒される存在であることも間違いない。
     また、不法移民問題もハリスのアキレス腱となり得る。ハリスはバイデン政権で不法移民問題を担当してきたが、必ずしも目立った成果を上げられずにいる。バイデン政権になって以降、メキシコ国境を越えてくる不法移民の数は確かに激増している。国境に壁を建設し、不法移民は無条件で送り返すとしているトランプに対し、人道的観点から難民としての受け入れを許容するハリスの移民政策が、どの程度アメリカの有権者、とりわけ接戦州の有権者から評価されるかは、依然として未知数だ。
     しかし、もう一方のトランプも、4つの刑事事件で起訴されていることに加え、もしハリスと直接討論会に臨むようなことになった場合、トランプの十八番と言ってもいい黒人や女性を蔑視した差別発言が止まらなくなる可能性がある。3カ月後に大統領選挙を控え、まったく予断を許さない状況となっていることだけは間違いない。
     トランプが再選されれば日本も世界も多大な影響を受けることになる。トランプは指名受諾演説で、不法移民を入れないための国境線の強化とインフレ解消のための石油の増産を強調した。西山氏は、トランプが再選されたときに予想される政策のうち、EV普及策の撤回やパリ協定の離脱などは、たとえトランプが実行に移したとしてもカリフォルニア州などは州ごとに個別にEV化や気候変動対策を進めることが予想されるため意外と影響は小さいと語る。しかし、ウクライナ支援の停止などは特に影響が大きいと考えられる。
     相変わらずの暴論や刑事事件にもかかわらずなぜトランプはこうも支持されるのか、「ハリスではトランプに勝てない」は本当か、トランプ現象の深層とハリス大統領候補が持つ歴史的な意味などについて、成蹊大学法学部教授の西山隆行氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・共和党はトランプ党と化してしまったのか
    ・カマラ・ハリスの登場は大統領選の構図をどう変えるのか
    ・わずかな票を取り合うアメリカ大統領選
    ・民主主義のコンセンサスがないアメリカ大統領選挙はどうなってしまうのか
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    ■ 共和党はトランプ党と化してしまったのか
    神保: トランプが正式な民主党の大統領候補となり、バイデンが撤退しカマラ・ハリスが民主党の有力候補になったという状況からアメリカのことを取り上げていなかったので、今日のテーマはアメリカ政治です。
    宮台: 民主党大会のぎりぎりになってカマラ・ハリスが後継者の有力候補になったのは遅すぎたかというと、そうではなく、溜めを作って後継者を決めたことで、普段まとまらない民主党がまとまったとも言えます。
    神保: 予備選挙や討論会を通じて世の中の関心を集め、その中の誰かが有力候補として出てくるというのが1つのパターンですし、そのメリットはあるのですが、そもそもカマラは副大統領なので知名度については問題なく、その意味ではメリットの方が大きかったのかもしれません。しかしこれまでには、色々なことがありました。まず、AR-15から発された弾丸がトランプの耳をかすめる暗殺未遂がありました。
    宮台: 傷を負った英雄という神話的な価値を獲得した可能性もあります。
    神保: 今日はアメリカで何が起きているのかということや、バイデンの撤退で一躍有力候補に躍り出たカマラ・ハリスという人物について話していきたいと思います。最初はハリスで勝てるのかという声が大きかったのですが、ここにきて支持率が拮抗しています。本日のゲストは成蹊大学法学部教授で、アメリカ政治がご専門の西山隆行さんです。西山さんは特に移民問題やアメリカ文化に詳しく、過去に2回トランプ政治について伺いました。
     この1カ月は、アメリカ専門のアカデミズムではどういうふうに位置づけてられているのでしょうか。共和党大会の直前にトランプが狙撃され弾が耳をかすめるという大事件がありました。その背景も非常にお粗末で、狙撃犯がいることが分かっていたのに死角になっていて撃てなかったとか、見に行ったけれど銃を向けられて慌てて屋根から落ちてしまったとか。しかしそれによってトランプの支持率は大きく上がりました。
    RealClearPoliticsによると、トランプは7月頃から支持率がどんどん上がってきていて、バイデンは45%を割り込むところまで下がっていましたが、7月21日に民主党候補がハリスになってからは支持率が上がり続けています。大統領選はあまり全国の支持率には意味がない部分もあるのでこれだけで決まるわけではありませんが、今は両者が拮抗し始めています。 

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  • 渡邊啓貴氏:なぜヨーロッパの右傾化が止まらなくなっているのか

    2024-08-06 20:00  
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    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1216回)
    なぜヨーロッパの右傾化が止まらなくなっているのか
    ゲスト:渡邊啓貴氏(帝京大学法学部教授、東京外国語大学名誉教授)
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     ヨーロッパの右傾化が止まらない。
     欧州議会選挙に続いて、フランスの下院総選挙でも極右勢力が軒並み躍進を遂げた。ヨーロッパはこのまま右傾化していってしまうのか。それともこれは一時的な現象なのか。
     また、ヨーロッパの極右政党の主だった政治的主張は、現在大統領選挙の佳境を迎えつつあるアメリカのトランプ前大統領が主導する「MAGA(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)」の主張とも酷似している。欧州と米国の両方で右傾化や極右化が進めば、日本にもその影響が出ないはずがない。
     6月に行われた欧州議会選挙における右派の躍進に危機感を覚えたフランスのマクロン大統領は6月9日、唐突にフランス下院を解散し総選挙の実施を宣言した。6月30日と7月7日の2回に渡ってフランス全土で実施された総選挙では、マクロンの思惑とは正反対の結果が出てしまった。元々単独では過半数に届いていなかったマクロン大統領の支持基盤である与党連合は、78議席を失い168議席まで減らす大敗を喫した。
     しかし、極右政党国民連合の伸張に危機感を覚えた29以上の勢力から成る左派が力を結集し、与党連合と200以上の選挙区で候補者の一本化を図った結果、最終的には全577議席中左派連合が最多の182議席を獲得し第1党となり、国民連合は54議席増の143議席にとどまった。
     結果的に左派が大きく議席を伸ばすことにはなったが、それもこれも国民連合の躍進を阻止するために左派が小異を捨てて大同についた結果だった。
     フランス政治に詳しい渡邊啓貴氏は、フランス総選挙は2つの意味でマクロンの完敗だったと断言する。1つ目はマクロンが率いる与党連合が大きく議席を減らしたこと。また、もう1つは極右勢力の議席獲得を防ぐために与党連合と左派連合が選挙協力した結果、マクロンと敵対するメランションの率いる急進左派政党「不服従のフランス」などが、第1党になってしまったことだ。
     フランスでは当面パリ五輪とバカンスシーズンということもあり政争は休戦に入るが、首相に誰を据えるかも含め、マクロン政権は政治的に困難な舵取りを求められることは必至だ。
     渡邊氏は今回の選挙で急進左派を含む左派連合と極右勢力が議席を伸ばしたことについて、右派も左派もポピュリズムに訴えて支持を伸ばしてきた点を指摘する。フランスでは移民の急増に対する反発と、コロナ後の収束やウクライナ戦争以降のエネルギー価格の高騰による高いインフレが問題となっており、低所得層や生活困窮者にとっては、いずれも看過できない問題となっている。極右政党も急進左派政党もいずれもこの争点を掲げて選挙戦に臨んできた。
     移民の急増やインフレによる生活困窮などが起きた時、市民は将来不安を覚える。元々、右派も左派もそこに訴えかけるのがポピュリズムだ。ポピュリズムは市民の熱狂を巻き起こしやすいのに対して、極端な政策を掲げない中道は支持が集まりにくい。そもそも「中道ポピュリズム」というものは成り立ち難いからだ。
     一方、それくらい脅威になるほど、近年のフランスでは極右勢力が伸びてきていることも確かだ。2012年には2議席だった国民戦線(現・国民連合)の下院の議席数は、2017年に8議席、2022年に89議席、そして今回の選挙では143議席に達している。このまま党勢を増せば、時間の問題で過半数の289議席に到達すると見る向きもある。
     そして、極右政党が勢力を伸ばしているのはフランスに限ったことではない。EU圏内ではすでにイタリアやハンガリーで、極右政党が国のトップの座についているし、ドイツやオランダ、スウェーデンでも極右政党が勢いを増している。
     そしてアメリカでもトランプ現象だ。バイデン大統領の選挙戦からの撤退で大統領選挙の方はまだ先行きが見えなくなっているが、少なくともここまでは全体としてトランプ陣営に勢いがあることは明らかだ。
     ヨーロッパでもアメリカでも、これらの政治勢力はほぼ例外なく自国第一主義を掲げ、反グローバリゼーション、反移民・難民、反イスラム、反気候変動対策などを主張している。そして、特にフランスではEU懐疑主義は急進左派にも共通した政策となっている。右派も左派も伝統的な経済政策を維持することが難しくなり、いずれもがポピュリズムに訴えることで支持基盤を広げる道を選んだ結果と考えられる。
     ヨーロッパの極右勢力の台頭にはどのような背景があるのか、ヨーロッパはこのまま右傾化していくのか、それは世界や日本にどのような影響を及ぼすのかなどについて、帝京大学法学部教授の渡邊啓貴氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・欧州の極右勢力の伸長-欧州議会選挙とフランス総選挙
    ・欧州の右派ポピュリストとトランピズムの共通点
    ・世界的な右傾化は一時的な現象なのか
    ・日本に保守化の流れが輸入されるとどうなるか
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    ■ 欧州の極右勢力の伸長-欧州議会選挙とフランス総選挙
    神保: 今日はヨーロッパの政治情勢や右傾化の話をテーマに選びました。アメリカのポピュリズムとの共通点や相違点を見て、それが日本でも起きるのかどうかについても考えたいと思います。
     今回は大きく分けて2つの選挙を取り上げます。1つは、6月6日から9日まで行われた欧州議会選挙です。改選前は過半数を切っていた右派の政党が全体の過半数を占めました。右派が伸びてその分左派が縮んだという状況になっていて、この選挙の結果を見てフランスのマクロン大統領が解散総選挙をしました。
    その結果、フランス下院では左派連合が前回の2022年の選挙で142議席だったものを182議席に増やし、右派連合も89議席から143議席に増やしました。それによってマクロン大統領の支持基盤である与党連合は246議席から168議席まで数を減らしました。欧州議会選挙では特に極右が非常に伸び、また欧州議会選挙におけるフランスの結果を見ても右派が過半数を取っているように見えます。
    渡邊: 右左という分け方をするとそうなりますが、それよりもEU統合に賛成か反対かというところが重要です。欧州議会選挙では、中道右派の欧州人民党(EPP)はキリスト教的要素が入っているので思想的には保守になるのですが、欧州統合には賛成派です。
    欧州議会もフランス議会も、何を見るべきなのかといえばEU統合に賛成か反対かという軸になります。しかし左派政党の全てがEU統合に賛成しているのかといえばそうではなく、極左政党には反対している人が多い。そうなると、EU統合については極左と極右がくっついてしまいます。
    宮台: 欧州議会とは何なのかと思う人もいるかもしれないので説明すると、EUに属する国は国民国家なのですが、その主権の一部がEUに移譲されているという補完性の原則に基づく建付けがあります。したがって、日本やアメリカのように国家が自由に金融政策を決められるようにはなっていません。
    渡邊: 主権の移譲と言うと反発が起きるので、最近は右でも左でも主権の共有という言葉を使います。ブリュッセルにある本部が中心でもその他の国や地方が勝手にやっていい部分もあるわけで、両方から見た補完性なんです。中心でやっても足りないところは地方でやり、地方でやりたいことを中央からカバーしてもらいながらやるということで、そういう意味で主権の共有という少しごまかしのような言葉を使っています。
    しかしそれはいけないと主張するのが極右と極左の人たちです。主権とはブリュッセルの高級官僚のエリートたちのものではないんだという発想になります。
    神保: EUを作った段階で一部の主権を共有し、EUが自分たちの行動を制約するということは分かっていたわけですよね。しかしEUに入るメリットも大きいので、嫌なことがあったとしても十分にメリットがあると考える人が多かったものが、今は段々とそれが逆転してきてしまったということなのでしょうか。あるいは何か状況が変わってしまいEUに対する風当たりが強くなったということなのでしょうか。
    渡邊: 主権にも色々な種類があります。市場の問題としての主権、文化的な主権、政治的な主権、理想はこういうものを合わせて一つの国家のようになることで、経済から順番にやってきました。市場経済についてはこれがグローバリゼーションの波だと考えると、皆すとんと腑に落ちるんです。
    しかしそこで問題になるのは、勝ち組と負け組が出てきてしまうということです。厳しい状況に置かれている人は当然反発します。すると、市場経済や経済的な合理主義は幻想だと考え、EU統合そのものに反対する人たちが出てきます。 

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  • 青木理氏:公益通報者を逮捕し報道機関にまでガサ入れをする鹿児島県警をどう裁くべきか

    2024-08-06 20:00  
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    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1215回)
    公益通報者を逮捕し報道機関にまでガサ入れをする鹿児島県警をどう裁くべきか
    ゲスト:青木理氏(ジャーナリスト)
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     日本には本来は先進国であれば必ず備わっていなければならない警察の犯罪を中立的な立場から捜査する仕組みが存在しないことをご存じだろうか。
     鹿児島県警は警察関係者の犯罪を内部告発した元幹部を逮捕し、その情報提供先となったネットメディアの事務所に家宅捜索に入った。どんな組織にでも多少は身内贔屓はあるかもしれないが、これはもはやそんな次元を超えた、公益通報者保護制度の破壊であり、報道の自由の侵害に他ならない。
     鹿児島県警は今、2つの内部通報に揺れている。1つは元県警生活安全部長の本田尚志氏が警察による隠蔽が疑われる事件について告発文を送ったというもの。もう1つは同じく県警元巡査長の藤井光樹氏が不正捜査が疑われる事案について資料などを提供したというものだ。
     いずれも警察の不正を内部から告発するもので、福岡県をベースにネットでニュースを配信している「ハンター」とそこに寄稿しているフリーのジャーナリストに情報は提供されていた。これはいずれも組織内の違法行為を告発するもので、明らかに公益通報の範疇に入るものだったが、鹿児島県警は内部告発者を逮捕し、ハンターの事務所を家宅捜索した。
     藤井氏は県警の「告訴・告発事件処理簿一覧表」などの資料をハンターに提供したとして4月8日、地方公務員法違反(守秘義務違反)の疑いで逮捕され、5月20日に起訴されたが、その処理簿には2021年の強制性交事件に関する情報などが含まれていた。これは医師会の職員による看護師に対する強制性交事件で、被害者の度重なる訴えにもかかわらず事件化されていなかったが、その職員の父親は鹿児島県警所属の警察官だった。
     藤井氏は7月11日に鹿児島地裁で行われた初公判で起訴内容を認め、争わない姿勢を示しているが、同時に強制性交事件の捜査に疑問を感じたことが告発の動機だったとも述べている。この問題を取材しているジャーナリストの青木氏は、藤井氏の行動は公益通報以外の何物でもないと指摘する。
     県警はハンターの事務所を家宅捜査した際に、パソコンやハンターの代表者である中願寺純則氏の携帯電話を押収しているが、その中にあったデータから藤井氏の他にも内部告発者がいることを突き止め、藤井氏に続いて元生活安全部長の本田氏が逮捕された。
     本田氏もまた鹿児島県警の職員によるストーカー事件や盗撮事件に関する情報を提供していたが、いずれの事件も事件化しておらず、警察による身内の隠蔽が疑われるものだった。本田氏は告発文の中で「闇をあばいてください」と訴えていた。
     今回露呈した問題は大きく分けて3つある。まず警察官による犯罪は県警のトップである本部長の直轄案件となるため、本部長自らが隠蔽を指示していた疑いが濃いということ。犯罪の隠蔽、しかも被害者が存在する犯罪の隠蔽ということになれば、身内贔屓で済まされる問題ではない。加えて、今回の強権発動は警察という組織では決して内部告発は許さないという強い意志を示すことが目的だと思われるが、そのために内部告発した警察職員を様々な理由をつけて「あれは公益通報には当たらない」と決めつけ逮捕までしていること。
     そして、3つ目が、内部告発者を特定する目的で情報の提供先となったメディアに強制捜査にまで入ったことだ。言うまでもなく1つ目は警察という組織の信頼の根幹を揺るがすものだし、2つ目は公益通報者保護制度を根底から破壊する行為、そして3つ目は報道の自由を侵害する憲法違反に他ならない。
     実際、警察官による犯罪が疑われる行為は表沙汰になったものだけでも非常に多い。一般市民で得られない情報を得られる立場にあり、強大な権力を持った警察官は、よほど規律を厳しく徹底しないと、容易に犯罪に手を染めかねない立場にいる。しかも、警察が警察官を逮捕することは希だし、仮に捕まっても自身の経歴に傷を付けたくない県警本部長の温情と身内贔屓の体質故に、罪に問われずに処理されてしまう場合が多い。
     しかし、今回鹿児島で起きたような内部告発が許容されれば、どこの警察にも正義感を持った警察官が多少なりともいるだろうから、下手をすると日本中の警察で内部告発が乱発され、収拾が付かなくなるおそれがある。少なくとも鹿児島県警の野川明輝本部長がそう考えたとしても不思議はないだろう。
     今回、警察の内部告発者2人が、記者クラブに加盟する数多ある大手メディアではなく、小さなネットメディアを通報先に選んだことを、既存のメディアは深刻に受け止める必要があるだろう。藤井元巡査長も本田元生活安全部長も、記者クラブに加盟する大手メディアに情報を提供しても報道されないばかりか、下手をすると彼らの情報提供の事実が警察に通報されることを恐れた。
     警察の内部事情や日頃の警察と記者クラブとの関係をよく知る元警察官だからこそ、警察官の犯罪を告発する対象としては既存のメディアがまったくあてにならないことを熟知していたはずだ。実際に今回内部告発者の警察官が逮捕された事件も、一部で報道はされているが、事態の深刻さを考えると、その報道量はまったく足りていない。
     極めつけは藤井氏がハンターに提供した一連の情報の中にあった、警察内で回覧されている「刑事企画課だより」という資料だ。これには、事件記録を速やかに廃棄するよう促す内容が記された上で、「再審や国賠請求において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません!!」などと書かれていた。後に警察に不利になりそうな資料はあらかじめ全部廃棄しておけという警察内の指令だ。一体、警察はどこまで腐ってしまったのだろうか。
     一連の事件が露わにしているものは、警察の隠蔽体質はもとより、そもそも犯罪を取り締まる立場にある警察の犯罪は誰が取り締まるのかという問題が日本では未解決となっていることだ。泥棒に泥棒が捕まえられるわけがない。日本では本来は国家公安委員会と各都道府県に設けられた公安委員会がその任にあたる立場にあるが、歴史的に公安委員会は警察によって骨抜きにされ、本来の機能を期待すべくもないお飾りの組織に成り下がっている。
     しかも、青木氏によると、年収2,000万円を超える公安委員会の委員には大手報道機関のOBにまで指定席が用意されているという。警察の腐敗も深刻だが、警察とメディアとの癒着も底なし沼だ。
     鹿児島県警で今何が起きているのか、警察の身内の犯罪の隠蔽や内部告発者の逮捕、メディアへの介入を許していいのか、警察の犯罪は誰が取り締まるべきなのかなどについて、この問題を取材しているジャーナリストの青木氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・明るみに出た鹿児島県警の数々の不祥事
    ・内部告発者をこれ以上出さないための見せしめ逮捕
    ・鹿児島県警だけの問題では済まされない
    ・関西生コン事件にも通じる警察・検察の暴走問題
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    ■ 明るみに出た鹿児島県警の数々の不祥事
    神保: 本日のゲストはジャーナリストの青木理さんです。 今回は鹿児島県警のあまりにもひどい隠蔽体質の話を伺いたいと思いますが、まずは問題のあらましを話していただけますか。
    青木: 僕は長い間、事件取材も含めて警察に取材してきましたが、こんなに出来の悪い警察小説のようなあからさまな権力犯罪はそうそう記憶にありません。鹿児島県警の最高幹部である前生活安全部長が定年退職をした後、不祥事が隠蔽されているということを匿名でフリージャーナリストに手紙を送って告発しました。しかし鹿児島県警はメディアに強制捜査をして生活安全部長が告発をした事実を掴み、生活安全部長を守秘義務違反で逮捕してしまいました。
    この生活安全部長が告発した内容である、県警のトップである本部長を筆頭として不祥事を隠蔽したということが事実であれば公益通報になります。公益通報者を、警察が持っている最高の権力である逮捕をして捕まえたということは口封じではないのかという問題があります。
    もう一つは、メディアに強制捜査をしてメディアにとって最も大事な取材の情報源を割り出し、その情報源であった人物を捕まえたということが許されれば、ジャーナリズムの根幹的な価値が警察によって完全につぶされるということになります。
     今日は色々な話が出てくると思いますが、鹿児島県警がひどいという話で終わらせてはいけないと思います。生活安全部長は鹿児島県警で採用されたノンキャリアの職員の最高到達点なので、こういう人物を逮捕するという判断は鹿児島県警だけでできるはずがありません。警察庁にお伺いを立て、ゴーサインが出たから捕まえているということです。
    当然のことですが、生活安全部長が内部情報を流出させていたことを特定した経過も含めて、警察庁がゴーサインを出したのであれば、これは鹿児島県警だけの問題ではなく、日本の警察組織全体の問題だと捉えるべきだと思います。
    神保: 警察には歴然とキャリアとプロパーの違いがあります。叩き上げという言い方が良いかどうかは分かりませんが、地元で上がってきた人の最高到達点は生活安全部長や刑事部長になります。その上に、中央から2年か3年の任期で来た県警本部長がいます。この人は警察官僚で、いろいろなところを渡り歩いて出世していきます。
    鹿児島県警では、中央から送られてきた本部長の野川明輝さんが隠蔽を行ったということを前生活安全部長である本田尚志さんが主張しました。本田さんは現職の時に情報を漏らしているのですか。
    青木: 本田さんは定年退職をし、その後札幌で活動している小笠原淳さんというフリージャーナリストに手紙を送り告発をしました。なぜ小笠原さんという人に送ったのかといえば、福岡に「ハンター」というネットメディアがあり、ハンターは一生懸命鹿児島県警の不祥事を追及していて、小笠原さんもハンターで記事を書いていたからです。
    本田さんはハンターに送ろうと思ったのですがサイトに住所が書いておらず、代わりに小笠原さんの住所があったので、そこに送ったということです。 

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  • 安里和晃氏:新しい「育成就労」制度の下で日本は外国人労働者に定着してもらえる国になれるのか

    2024-08-06 20:00  
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    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1214回)
    新しい「育成就労」制度の下で日本は外国人労働者に定着してもらえる国になれるのか
    ゲスト:安里和晃氏(京都大学大学院文学研究科准教授(国際連携文化越境専攻))
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     日本で働く外国人労働者の数が去年200万人を超えた。
     人手不足が続く日本で、長期間産業を支える人材を確保するためには、外国人労働者が不可欠なことは誰の目にも明らかだろう。
     外国人労働者については、これまで人権侵害や失踪者の増加など多くの問題が指摘されていた従来の技能実習制度を廃止し、新たな制度を設ける法律が作られた。技能実習制度は建前上は国際貢献を目的としていたが、実際には労働力不足を補うために利用されるなど、実態と目的が解離していた。しかもこの制度の下では、年間1万人近い人が失踪するなど、外国人労働者の人権が蔑ろにされていることがたびたび問題視され、アメリカ国務省の報告書では人身取引とまで批判されてきた。
     新たな法律の制定で技能実習制度はようやく廃止となる。
     入れ替わりで導入されるのが、人材確保と育成を目的とする「育成就労」制度と呼ばれるもので、原則3年の就労を通じて特定技能1号水準の人材を育成することを目的とするなど、技能実習制度と比べれば少なくとも目的に即した制度となることが期待される。
     また、旧制度では転職が認められていないことが人権侵害やハラスメントなどの原因となっていたが、新たな制度では一定の条件の下で転職も認めている。受け入れ対象分野も、建設、農業、介護、外食業など、その後の在留資格と合わせてキャリアアップの道筋がより見えやすい形となることが期待されている。
     技能実習制度など外国人労働の実態に詳しく、実際に外国人労働者の相談にも乗ってきた京都大学の安里和晃氏は、新たな制度の導入によりこれまで単純労働と高度人材に二極化していた外国人労働者の扱いが、ある程度はしごをかけた形になることに一定の評価をしつつも、長らく問題が指摘されてきた制度の改正にここまで時間がかかったことを問題視する。安里氏はその背景に、外国人労働者は主に出入国管理庁の管轄下に置かれてきたために、労働者として扱われずに来た経緯があると指摘する。
     また、新たな制度の下でも家族の帯同は認められていない。安里氏は、これを労働力としての外国人は欲しいが、移民は受け入れたくないという政府の身勝手な姿勢の表れだとして、これをダブルスタンダードだと批判する。これでは日本は外国人労働者に来てほしいのかほしくないのかがはっきりせず、働く人から見れば長期的に安心して働くことができない。
     実際に介護の現場で働く外国人の例などを交えながら、新たな育成就労制度の下で外国人労働者の人権を守りつつ、労働力の確保が可能になるのか、グローバルな人材獲得競争のなかで日本が生き残る道はどこにあるのかなどを、安里和晃氏と社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。
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    今週の論点
    ・育成就労制度で外国人労働者の権利は守られるのか
    ・介護に携わる外国人労働者の現状
    ・渡航にかかる費用と失踪率の関係
    ・日本は選ばれる国になれるのか
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    ■ 育成就労制度で外国人労働者の権利は守られるのか
    迫田: 今回は、先月終わった国会で成立した法律の1つである、外国人労働者の働く仕組みを取り上げます。今までは技能実習制度がありましたが、これは失踪者が多かったり、働く人の人権がなかなか守られないといった問題があったので、それを廃止して「育成就労」という新しい制度ができました。育成という言葉自体も不思議な感じがしますが、外国人労働者が一緒に働く仕組みについて専門家の方に伺っていきたいと思います。
    宮台: はっきり言って能天気ですよね。円の価値はドルに対して半分以下になりましたし、僕たちの購買力は1970年代の水準にまで落ちました。しかし70年代の国民負担率は2割台前半でしたが、現在は5割です。
    したがって可処分所得で見ると70年代よりも貧乏になっているのですが、なぜ貧乏感がないのかといえば、地下鉄、新幹線、高速道路やバイパス、通信網、放送網などのインフラ整備が昭和時代に進んだからです。今はそれらのメンテナンスに非常にお金がかかっていて大変ですが、ユーザー側からすればそんなことは関係ないので貧乏感がありません。
    迫田: 今は人材不足が問題で、外国人労働者に来てほしいと思っているんですよね。
    宮台: ただ、日本に来る意味はないので、ヘッドハンティングと同じで有能な人材は取ってこなければなりません。
    迫田: 今日のゲストは京都大学大学院文学研究科准教授の安里和晃さんです。安里さんは日本で働く外国人に対する様々な支援活動をされていて、コロナ禍では食料配布などもされていました。
    安里: 色々な相談事があったので、フードバンクと提携して希望があるところを中心に配布をしていましたが、段々と口コミが広がり、東京まで来たこともありました。
    迫田: 安里さんは日本に働きに来る外国人の様々な相談にも乗っておられ、実際の制度にも詳しいのでお越しいただきました。日本の人手不足については、2040年までに1,200万人の生産年齢人口が減少するということを厚労省が発表しています。
    宮台: その上、現在は65歳以上が人口の3分の1を超えています。また200人の親世代からは120人くらいしか子どもが産まれず、120人からは70人しか産まれないという予測が出ていて、これからは人口逆ピラミッドの頭でっかち具合がどんどんすごいことになっていくので、生産年齢人口が減少するだけではなく、将来的な国民負担率の増大は5割以上に広がっていきます。
    しかし、同じような国民負担率の国と比べれば教育費や医療費は無償化されていません。そんな国に誰が来るのでしょうか。
    迫田: そもそも技能実習制度に問題があったということですが、育成就労制度について安里さんはどのように評価されていますか。 

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  • 佐々木実氏:脱法的な神宮外苑乱開発を止めようとしない小池都政の責任を問う

    2024-08-06 20:00  
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1213回)
    脱法的な神宮外苑乱開発を止めようとしない小池都政の責任を問う
    ゲスト:佐々木実氏(ジャーナリスト)
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     ここまで問題だらけの乱開発が止まらないのが、不思議でならない。神宮外苑の再開発計画のことだ。
     明治神宮の外苑として第一号の風致地区に指定され、有名ないちょう並木などが都民の憩いの場として親しまれてきた神宮外苑を大幅に再開発し、神宮球場と秩父宮ラグビー場を建て替えるほか、景観を守るためにこれまで厳しい高さ制限がかけられてきたその地区に40階建てと38階建ての高層オフィスビルを新たに建設するという、超大型再開発プロジェクトが、今まさに始まろうとしている。この総工費3,400億円といわれる開発工事が本格化すると、神宮外苑一体は2036年までフェンスに覆われたビル建設の工事現場となる。
     明日投開票が行われる都知事選でもこの神宮外苑の再開発は争点の1つにはなっている。しかし、このプロジェクトは読売新聞を始めとする複数のメディア企業が参加していることもあり、メディア報道は非常に限られていて、必ずしも選挙の大きな争点にはなっていない。
     しかし、この計画は多くの樹木を伐採することになる計画自体が自然環境や景観上の重大な問題を孕んでいることに加え、この手の大型プロジェクトが認可される上で求められている環境アセスメント法や都市計画法に則った様々な手続きが、多くのすり替えや誤魔化しによって事実上骨抜きにされている。そして、この計画はまた、今後日本の首都東京の開発がどのように行われ、この街が今後どのように変わっていくかを占う上でも、とても重要な意味を持っている。
     東京都の都市計画審議会が神宮外苑の再開発計画を認可したのは2022年2月だが、実際はそれより十年以上前から、外苑再開発の計画は水面下で動き始めていた。2020年の東京五輪の招致に成功し、国立競技場の建て替え案が浮上した時は、既に外苑の再開発計画の策定が始まっていた。本来は無理筋の計画を押し通すために、東京五輪が徹底的に利用された形だ。
    老朽化した国立競技場の建て替えが必要という理由で、風致地区や都市計画公園に指定されている地区の高さ制限が解除されたが、多くの日本人は「東京五輪のために国立競技場の建て替えが必要なのであれば、高さ制限の解除は仕方ない」と考えただろう。しかし、高さ制限の解除は最初から外苑の再開発を念頭に置いたものだったことが、その後明らかになっている。
     計画を認可する権限を持つ東京都の小池都知事は外苑再開発の認可について「法令に則って適切に行っている」といった説明を繰り返している。しかし、実際に認可のプロセスを具に検証すると、環境アセスメント法上も都市計画法上も、この計画は脱法的なやり方で推し進められてきたことは明らかだ。
     まず、環境アセスメントに重大な不備があったことが多くの専門家らによって指摘されている。ユネスコの日本国内の諮問機関である「日本イコモス国内委員会」は、評価書に必要な植生図がなかったり、樹木の分類に明らかな誤りがあったりするとして58項目の不備を指摘してきた。しかし小池都知事はイコモスの指摘を一顧だにせず、事業者が提出した評価書をそのまま承認してしまった。
     建築制限の緩和も脱法的だった。都は1970年、条例で外苑地区に15mの高さ制限を設けた。しかし2012年末に新国立競技場のザハ案がJSCのコンクールで最優秀賞に決定すると、そのおよそ半年後、東京都は最大80mまで高さ制限を緩和した。これに便乗して、JSCの本部ビルが高層ビルに建て替わったり、代々木にあった岸記念体育会館が移転するなど、既に多くの高層ビルが建てられている。しかし、それだけではまだ40階建ての高層ビルは建てられない。
     そこで都は2013年に、「公園まちづくり制度」というものを創設した。これは、公園区域に指定され厳しい建物制限がかけられている区域の中で、長期間公園として利用されてこなかった場所の公園指定を外すことで、高層ビル建設を含めた再開発が可能になるという制度だ。都はこの制度を利用し、外苑地区の一部の公園指定を解除して高層ビルを建てることを可能にしている。
     しかし、その制度を利用するに際し、秩父宮ラグビー場の周辺がラグビーの試合が行われていない平日などはカギがかかっていて普通の人が入れないという理由で、これを利用されていない「未供用区域」に指定し、無理矢理「公園まちづくり制度」の対象とするような脱法的なことを行っている。
     また、外苑の再開発には中央政界からの政治介入があったことも明らかになっている。共産党東京都議団の情報公開請求などにより明らかになった都の幹部と政治家との面談では、早くも2012年の段階で都の幹部と森喜朗元首相の間で外苑再開発が俎上に載せられていた。「五輪が招致できなかった場合はどうなるのか」と問う森元首相に対し、都の幹部は「それでも外苑の再開発はやる」と答えていることが公開された文書などで明らかになっている。
     更にこの再開発には東京都と工事の受注者である三井不動産の間の深刻な癒着や利益相反の存在も明らかになっている。特に東京都の幹部14人がその後、三井不動産に天下っていたことをしんぶん赤旗が報じ、大きな問題になっている。三井不動産は神宮外苑だけでなく、築地市場跡地の再開発や、東京五輪選手村(現・晴海フラッグ)の再開発、日比谷公園の再整備など東京都の大型再開発事業の工事主体となっている。
     また、三井不動産の岩沙弘道会長が神宮外苑の土地所有者である明治神宮の総代に就いていることから、土地所有者である明治神宮と工事受注業者である三井不動産、そして認可主体の東京都の三つ巴の癒着関係が疑われているのだ。
     この問題を取材してきたジャーナリストの佐々木実氏は、この計画を進めていく上では東京都知事の協力が不可欠だったことを改めて強調する。佐々木氏によると、当初この計画が持ち上がった時の都知事だった石原慎太郎氏は、外苑の再開発には否定的だったが、その後、東京都が五輪の招致に成功し、森喜朗元首相やその意を受けて東京都との交渉に当たった萩生田光一元文科相などが介入してくる中で、計画が強行されていったという。
     外苑再開発計画のどこに問題があり、いかにして五輪の名を借りながらこのような無理筋の計画が実行されていったのか、それを止めようとしない小池都知事の責任とは何か、このままでは東京はどのような街になってしまうのかなどについて、佐々木実氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
     また、番組の冒頭では、日米で先週と今週に相次いで出された3つの重大な司法判断を取り上げた。
     1つ目は黒川弘務元東京高検検事長の定年延長を巡る政府文書の情報公開訴訟で、「定年延長は黒川氏のために行われたものであることは明らか」と断じた大阪地裁の判決。2つ目は旧優生保護法を違憲とした上で、国の除斥期間の主張は「著しく正義と公平の理念に反する」とまで断じた最高裁判決。3つ目はトランプ元大統領の刑事裁判に関連し、米国史上初めて、大統領には公務における免責特権があることを認め、反対派の最高裁判事が少数意見の中で「この判決で大統領は法の上に君臨する王になった」とまで言わしめた米最高裁判決。
     この3つは歴史的にも大きな意味を持つもののため、その内容を解説した上で、その意義を同じく佐々木氏、神保、宮台が議論した。
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    今週の論点
    ・全貌が見えにくい神宮外苑再開発の問題
    ・都が自ら建築制限を緩和して可能になった再開発
    ・三井不動産と都の癒着
    ・神宮外苑再開発の裏にある政治的介入
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    ■ 全貌が見えにくい神宮外苑再開発の問題
    神保: 今日は都知事選の直前ですが、神宮外苑問題があまりにもひどいので、小池都政の責任を問うという意味を込めてこのテーマを扱っていきたいと思います。同じようなことが築地市場跡地、葛西臨海水族園などでも起こっており、また東京以外でも起こっているので、神宮外苑を典型的で最悪の例として取り上げたいと思います。
    いったい何が悪いのか分からない人も多いと思うので、今回の都知事選では必ずしも大きな争点にはならなかったところもあるかもしれません。ですが、あまりにも脱法的なことが行われているのに放置されてきました。この問題を取材してきた佐々木さんは、外苑再開発問題の根本的な問題は何だとお考えでしょうか。
    佐々木: これは全体像を掴むことが難しい問題だと思います。メディアでこれを一番追いかけているのはおそらく東京新聞で、今年に入って連載をやっていました。それが一番詳しいくらいかもしれません。
    神保: しんぶん赤旗や日刊ゲンダイも報じていますね。
    佐々木: そうですね。まず神宮外苑の再開発を非常に巨大なプロジェクトとして立ち上げるために、できるだけ国立競技場を大きくしたいということで、いきなり8万人収容の競技場を建てることが前提というような話で始まっていきました。
    再開発計画の始まりはどこかという疑問がありますね。東京都知事だった石原慎太郎氏は保守でした。景観についてはかなり力を入れていて、例えば聖徳記念絵画館から2kmくらい離れたところで高層マンションを建てる計画があった時は、景観を損ねるという理由で低くさせていました。しかしある時から2kmどころではない場所にどんどん高い建物が建ち始めていきます。
    どういうきっかけでこの巨大プロジェクトが立ち上がってきたのか。そもそも国立競技場の建て替えではなく、神宮外苑一帯を再開発しようという議論が出てきたのはいつで、なぜなのかということが十分解明されていないと思います。
    この再開発問題を大きく見た時にどういう側面があるのかと言うと、1つはスポーツ利権で、スポーツもビジネスだということでスポーツ基本法ができたりスポーツ庁ができたりしました。スポーツ勢力が政治に伸びていき、その大イベントがオリンピックでした。そこである意味担ぎ出されたのが森喜朗なんですね。 

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  • 谷誠氏:間違いだらけの水害対策

    2024-08-06 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2024年7月3日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1212回)
    間違いだらけの水害対策
    ゲスト:谷誠氏(京都大学名誉教授)
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     間違った水害対策が続く限り、水害はなくならないし、行政と住民の対立や住民間の対立もなくならない。
     折しも日本列島が梅雨前線の影響とみられる豪雨に襲われているが、最近では台風のシーズン以外でも、線状降水帯による豪雨がいたるところで発生し、日本中で河川の氾濫や土砂災害が毎年のように発生し、物的損害はもとより犠牲者まで出すようになっている。
     毎年大きな被害をもたらす水害に対して、河川管理者である国はどのような対策をとっているのか。
     これまで国の水害対策は、ダムや堤防による改良工事を基本としてきた。場所ごとに大雨の最大規模をこのくらいと定め、洪水の時にダムなどで調節した分を差し引いた川の流量である「計画高水流量」を定め、それを超えなければ被害は未然に防げるはず、という考え方だ。それを根拠に国は日本中の川という川にダムを作り、堤防をかさ上げしたり川の幅を広くするなど、夥しい数の土木工事を行ってきた。
     しかし、水文学の専門家で京都大学名誉教授の谷誠氏は、そもそも「計画高水流量」を決め、その範囲の流量までの水を貯めるために次々とダムや堤防ばかりを作る考え方が、根本的に間違っていると語る。自然を相手にしている以上、川に流れ込む水の量は人間の都合で決められるものではない。また、そこで予想した流量を超えてしまえば、既存のダムや堤防では水害を防げない。
     いわば恣意的に「計画高水流量」を決め、そこまでの流量を貯められるようにダムなどでキャパシティを増強する工事を何が何でも押し通すやり方は、役人の考え方ではやむを得ない面もある。水害が起きる恐れがある以上、これを放置することはできない。また自然が人間の予想を超えることがままあるからといって、対応を決めるためには何らかの想定は必要だ。
     しかし、谷氏はこの考え方が、住民を巻き込んだ治水や水害対策の構築を困難にしてきたと指摘する。役所は「水害対策」の名で自分たちが策定した計画をゴリ押しすることになるため、移住を強いられるなどして事業による影響を受ける住民と行政の間に深刻な対立が生まれる。また、住民の中にもその事業によって利益を得る人と損害を受ける人が出てくるため、住民間にも対立を生んでしまう。
     だが、行政としては強権的に事業計画を推し進め、反対運動を抑え込むためには、ダムや堤防などの効果を喧伝する必要が出てくる。事業を正当化するための理論武装が必要になるのだ。そこで使われるのが「計画高水流量」だ。これは「何百年に1度の大雨にも堪えられる」などと表現されることが多いが、それはあくまで理論上の話であり、実際には明日その水量を上回る雨が降ってもおかしくないという代物だ。
     また、いざ水害が起きると国は裁判で訴えられる。裁判で国が「水害は不可抗力だった」ことを裁判官に認めてもらうためには、国としてはまず想定された妥当な「計画高水流量」が存在し、その範囲であれば水害は防げる妥当な対策を取ってきたことを主張する必要がある。その想定を上回る雨が降ったのだから仕方がなかったということにするしかない。
     谷氏はそのような理由から続いている「計画高水流量」を前提とし、容量を増やすことで水害を防ごうとする「改良追求型」は限界に来ており、「維持回復型」の水害対策へ移行する必要があると言う。
     実際、国は2020年、新たな水害対策として「流域治水」を進めると発表した。これは水害対策に関わってきた国や県などの河川管理者だけでなく、川の周辺の企業や住民も協力し、流域全体で受け止められる雨の量を増やすという考え方で、改良追求からより維持回復に近い考え方だ。
     ただし、流域治水の具体例として川の上流で田んぼなどにあえて水を溢れさせる案などが検討されているが、これは上流を犠牲にすることで下流の水害を防ぐ考え方であり、問題だと谷氏は言う。強者の利益を守るために弱者を犠牲にする考え方につながり、新たな対立を生むことになるからだ。
     ダムについても、ダムは効果があるので必要だという意見と、環境保全の立場からできるだけダムを作らない方がよいという意見が対立している。双方の意見はどちらも妥当性があるので、意見をぶつけ合っているだけでは妥協点が見いだせない。このような二項対立図式から抜け出すには、われわれの水害に対する考え方を根本的に変えなければならないと谷氏は言う。
    まずは自然を相手にしている以上、水害を完全に根絶することはできないという事実を受け止め、少しでも被害を減らすために何を選択するかを河川管理者だけでなく流域の住民も含めて話し合うことが必要だと谷氏は言う。
     水害が頻発する昨今、日本は妥当な水害対策を取っているのか。また、日本の水害対策はどのような考えに基づいて行われているのか、改良追及型の水害対策にはどのような問題があるのかなどについて、京都大学名誉教授の谷誠氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・日本の水害対策の基本はダムや堤防建設などの改良追及工事
    ・そもそも「計画高水流量」に根拠はあるのか
    ・緑のダムのメカニズム
    ・実効性のある水害対策に向けて
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    ■ 日本の水害対策の基本はダムや堤防建設などの改良追及工事
    神保: 今日は水害の問題を扱います。Yahoo!の防災速報がすぐに見られるよう設定していると、梅雨入りしたということもあり、ここ1週間ほぼ毎日のように防災速報が入ってきます。2024年に入ってから、6月26日までの段階で大雨注意報が9,707回、大雨警報が1,304回、洪水注意報が4,895回、洪水警報が567回、土砂災害警戒情報が145回も出ています。
    このように毎日のように日本のどこかで水害の危険性がある中で、日本では妥当な水害対策が行われているのかというのが今日のテーマです。水害は避けられないかもしれませんが、被害を最小化するための合理的な対策が取られているのか、また災害が起きたとしてもある程度納得するしかないと思えるような状況ができているのかなどについて見ていきたいと思います。
    宮台: 東日本大震災の時に、防災か減災かという2つの考え方が問題になりました。つまり、災害を起こさないようにするのか、起きたとしても被害を最小化するのかということです。後者に関しては群馬大学の片田敏孝さんに来ていただいて、昔からの考え方は基本的に減災なのだということを伺いました。災害を防ぐことには限界があるから、それに対応することが重要だということですね。
    防災対策を厳格化してしまうと、人々は「津波てんでんこ」のような減災の知恵を伝承する必要を免除されたと感じてしまいます。このように、減災には住民の知恵が不可欠です。だからダムや堤防を作ったから大丈夫というのは問題ですね。
    神保: もちろん、ダムがあったからこそ水量を一定の水準にまで抑えられていたということはあるかもしれませんが、一定量を超えてダムが放水を始めると水量が急増してしまいます。流域の人たちが、昔は少しずつ水が上がってきたので家財道具を2階に上げる余裕があったが、今はダムが放水すると一気に水量が上がってしまうのでそういう余裕がないと言っているのを聞いたことがあります。
    ダムの意義を全否定することはできませんが、その負の側面もやはり考えなくてはならないでしょう。今回の番組は、日常的に水害が起きている中で考えなくてはならないことがあるのではないかということで企画しました。ゲストは京都大学名誉教授で森林水文学が専門の谷誠先生です。水文学というのはどのような学問なのでしょうか。
    谷: 陸水学という学問がありますが、これは水質などを扱うもので理学的です。水文学は水資源や災害などに近い学問で、工学や農学や理学、さらには社会科学にまでまたがる非常に学際的な分野です。日本の大学では、水文学は筑波大学にしかありません。AGU(アメリカ地球科学連合)では水文学が一番メジャーですが、日本では比較的弱いんです。 

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  • 白鳥浩氏:空疎な「政治とカネ」論争の裏で国家100年の計に関わる重大な法律が次々と作られている

    2024-08-06 20:00  
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    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1211回)
    空疎な「政治とカネ」論争の裏で国家100年の計に関わる重大な法律が次々と作られている
    ゲスト:白鳥浩氏(法政大学大学院公共政策研究科教授)
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     通常国会が6月23日に閉会する。
     この国会は自民党の裏金スキャンダルに端を発する政治改革、とりわけ政治資金を巡る論議に多大な時間とエネルギーが費やされ、メディア報道も自ずと政治とカネ問題に集中した。しかし、その裏では国家100年の計に関わると言っても過言ではない重要な法律が、さしたる審議も経ずに次々と成立していた。
     国民の生殺与奪に関わる意思決定を行う政治が国民の信頼を得ているかどうかは、民主主義の国にとっては死活問題ではある。しかし、その論議に目を奪われて、その間に国民の生殺与奪に関わる重大な意思決定がさしたる審議も経ずに次々と下されてしまうのは、まったくもって本末転倒だ。ましてや史上最低水準の支持しか得ていない政権に、そのような重大な決定を委ねて本当にいいのだろうか。
     悪法も法なり。法律ができてしまえば、それは善し悪しにかかわらず執行される。また、一旦作られてしまった法律や制度は一度走り出してしまえばそう簡単には変えられないものも多い。その意味で、今国会で可決したいくつかの重要法案は、できるだけ早くその危険性や問題点を十分に周知させ、修正が必要なものは速やかに修正する必要がある。
     今回のマル激では改正された政治資金規正法、経済安保情報保護法(セキュリティクリアランス法)、次期戦闘機条約、自衛隊統合作戦司令部設置法、農業基本法の改正と食料困難対策法、地方自治法と入管法の改正、共同親権を導入した民法の改正、日本版DBS法、NHKのネット業務を必須事業に引き上げる放送法の改正などを取り上げ、
    それぞれの法律の内容とその問題点、それがなぜ国民生活に大きな影響を及ぼし、日本という国の形を変えかねない重大な法律なのかなどについて白鳥浩・法政大学大学院公共政策研究科教授とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
     また、裏金問題で複数の逮捕者まで出す一大政治スキャンダルに塗れながら、事実上ゼロ回答となる政治資金規正法の改正案しか通せない岸田政権と自民党の限界や政治資金以外の重大法案を争点化できない野党の問題意識の低さ、国の形が変わろうとしているにもかかわらず旧態依然たる政治報道を続けているメディアの体たらくについても、厳しく検証した。
     更に、6月20日に告示された東京都知事選について、明らかな売名を目的とした候補者が乱立している問題や、1期目と2期目の間の小池知事の180度の変節と経歴詐称問題との関係などについても議論した。
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    今週の論点
    ・都知事選に見る政治の劣化と軽薄化
    ・政治資金規正法改正という茶番
    ・どさくさに紛れて進む国権の拡大-経済安保情報保護法・食料困難対策法
    ・国権強化の歯止めになっていない立憲民主党
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    ■ 都知事選に見る政治の劣化と軽薄化
    神保: 今日は政治を扱います。まず都知事選が6月20日に告示され、7月7日に投開票があります。次に、国会が事実上今日6月21日で閉幕となります。そして、この国会は稀に見る酷い国会であったのではないかということですね。政治資金規正法改正案が不備だらけの状態で通ってしまった一方、他にもあまりにも問題の多い法律が、メディアや世の中の目が政治とカネの問題に向かっている裏で通ってしまいました。
    いざ法律ができると、悪法も法なりということで執行されてしまいます。今回は、それらの法律の問題点と何を覚悟すべきかをお伝えすることを目指しています。今日は法政大学大学院教授でYahoo!ニュースの公式コメンテーターも務めておられる白鳥浩さんにいらしていただきました。
     まず6月20日に告示された都知事選です。情勢としては、現職の小池百合子さんと蓮舫さんが有力とされていますが、石丸伸二さんも支持率を伸ばしています。田母神俊雄さんも、その3人と一緒に日本記者クラブでの討論会に参加しました。
    都知事選について2人にまずお聞きしたいのは、候補者についてです。今回は56人出馬しているのに掲示板が48個しか用意されておらず、最後の8人は掲示板がないから東京都の選管が無料で配布したクリアフォルダーに入れて掲示板に留めてくださいということになっています。
    また奇抜なポスターが問題になっています。立候補するとまず、ポスターと政見放送が出せます。そしてネットに詳しい人に聞くと、自分のチャンネルなどを持っていればそのページビューだけで供託金300万円は楽に元が取れるということです。日本の供託金は高すぎて立候補するためのハードルになっているという批判がありますが、300万円などはネット時代においては目ではないというわけですね。そのような候補は当選する気もなく供託金を没収されることも前提で、大勢にも影響しないでしょう。このような状況をどのようにご覧になりますか。
    白鳥: これまで立候補者数が最多だったのは前回の都知事選で、22人でした。それを考えると、今回用意した48という掲示板の数は随分多いとは言えます。ですが、事前審査の段階で50人以上が来ているのだから48人以上来る可能性はあって、足りない場合はどうするかということを選管は考えておかなければならなかったはずです。
    民主主義というときに真っ先にイメージされるのは選挙です。その選挙の時に、ある候補はちゃんとベニヤに貼ってあるが、同じだけ供託金を払って同じ選挙に出ているにもかかわらず、49番目以降は補助席みたいな扱いをされている。これは不平等です。
    民主主義にはコストがかかるということを分からなければまずいだろうと思います。49番目以降で落選した人の中には、不平等な条件を作られたから私は落ちたのだ、だから選挙は無効だと裁判を起こす人もいるかもしれません。
    宮台: 行政官僚のレベル低下は著しいと思います。それとは別に、選挙が非常に軽薄になっています。人々の共通感覚がなくなってくると、正義を語る奴はただうざいというイメージになってくる。そうすると、全体として政治がフラッシュモブ化、ユーチューバー化します。そこではビューを稼げば儲かるため、社会の構成員全体を拘束する決定を出す政治という営みにおいて、人々をどのようにまとめていくかということを考えなければならないはずが、ただの一時のお祭り騒ぎになってしまいます。 

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