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記事 4件
  • 会田弘継氏:トランプのアメリカで起きている歴史的な変化を見誤ってはならない

    2024-12-25 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2024年12月25日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1237回)
    トランプのアメリカで起きている歴史的な変化を見誤ってはならない
    ゲスト:会田弘継氏(ジャーナリスト・思想史家)
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     年が明けるとトランプ政権が始動する。既に関税の大幅引き上げや百万人単位の違法移民の一斉送還、そして自分を訴追した勢力に対する飽くなき報復を公言するなど、トランプ2.0に対してはアメリカのみならず世界中が戦々恐々としている。
     トランプといえば、数々の差別発言や刑事裁判にもなっている数々の事件などのために、どうしてもトンデモ政治家とのイメージがついて回る。ジャーナリストでありアメリカ政治思想史の研究者でもある会田弘継氏は、再びトランプを選んだアメリカで起きている歴史的な変化を決して甘くみてはならないと警鐘を鳴らす。
     なぜならば、トランプはアメリカの格差や分断、民主主義崩壊の原因ではなく、その結果に過ぎないからだと会田氏はいう。つまりトランプ現象というのは、トランプ自身が引き起こしたものではなく、アメリカの歴史の必然として早くは1970年代から燻っていたところに、たまたま究極のポピュリストであり世論を掴むことに天賦の才を持つドナルド・トランプというキワモノ的キャラクターが登場したというのが、会田氏の見立てなのだ。
     それは今回の大統領選挙で民主党が負けた原因とも関係がある。本来は低所得層や労働者、少数民族の代弁者であったはずの民主党が、今やすっかり富裕層エリートのための政党になってしまった。そうした中で民主党から見捨てられ自分たちの代弁者を失ってしまったと感じる人々の怒りや絶望が新たな階級闘争に発展し、そのような分断状況を敏感に見て取ったトランプが見事なまでに不満層の支持を汲み上げることに成功し大統領選挙に勝利したのだと会田氏は言う。
     その背景にはアメリカにおける産業構造の大転換がある。1970年代以降、アメリカの製造業は急速にサービス産業に転換していった。その過程で、アメリカの工場は次々と海外に移転し、工場で働いていた多くの人々が行き場を失うことになった。
     サービス業は、金融やITなど知識集約型のエリートと、宿泊・小売・運輸などエリートのために奉仕する低賃金労働の2極に分かれるが、学歴や特殊技能を持たないかつての工場労働者たちのほとんどは、後者の低賃金労働に就くしかなかった。いや、低賃金でも職にありつける人はまだましな方で、失業した人も多かった。彼らとエリートとの間には激しい貧富の格差が生じ、低所得層や失業者の間では日に日に不満が高まっていた。
     かつての支持母体だった労働者が民主党から離れて徐々に共和党支持にシフトする中、民主党は1985年、民主党指導者会議 (DLC)を設立し、労働者に依存せず金融やIT企業と手を結ぶ新たな方針を表明した。そこで民主党はニューディール以来の党のアイデンティティを放棄し、富裕層ばかりを見ている政党になってしまったと会田氏は言う。バーニー・サンダースのようにそうした民主党の変質に異を唱える勢力もあったが、民主党の指導層はそうした勢力の挑戦を退け、エリート路線を邁進していった。
     新たに現出した階級闘争にいち早く気づき、不満層を取り込んでいったのがトランプでありトランプを担ぐ勢力だった。
     しかし、もし共和党やトランプが階級闘争における弱者の味方になろうとしているのだとすれば、なぜトランプは女性や黒人や移民など弱い立場にいる人々に対する差別発言を繰り返すのか。会田氏は、トランプの一連の暴言はトランプ現象には不可欠の要素なのだと言う。
     その理由はこうだ。トランプに票を投じる人の多くは、女性や非白人やLGBTQの権利向上は、いずれもグローバルエリートが自分たちにとって都合のいい主張をしているだけだと受け止めている。それはシリコンバレーのIT企業やウォールストリートのグローバル企業が、世界中から高い教育を受けた人材を集める必要があるため、文化もジェンダー観も宗教観も全く違う人々にうまく折り合いをつけてもらう必要があるからだ。
     しかし、生まれた時から住み慣れた地元で働き、昔ながらの生活を守りたいと思っている人々にとって、エリートが上から目線でポリティカルコレクトネス(PC)を主張するのを見ても、偏った価値観の単なる押し付けにしか感じられない。トランプが人種やジェンダーや宗教などでともすれば極端に差別的ともとれる発言を繰り返すのは、こうした人々の違和感や疎外感を代弁するためであり、そうすることで彼らの不満を自分への支持につなげていこうという意図が隠されているのだと会田氏は言う。
     だとすると、トランプ現象はもはや一過性のものではない。トランプを推すアメリカの保守思想家たちは、新しいアメリカの形についての議論を始めていると会田氏は言う。その中で例えばピーター・ティールのような新しいタイプの思想家は「われわれは空飛ぶ自動車の代わりに140語を得た」とし、製造業の発展ではなく、民主党の資金源にもなっている環境問題やITや金融業ばかりが発展し、X(旧ツイッター)に人々が振り回されている今のアメリカの発展の方向は間違っていると断じている。
     トランプ自身は自分がそうした思想のシンボルになっていることをどこまで自覚できているかは疑問だが、ティールを信奉しているイーロン・マスクがトランプ陣営に莫大な資金を提供することでトランプ2.0の立役者となり、次期トランプ政権でも入閣することが確定的となった今、これまで放置されてきた労働者たちをこれからどうするのかは、アメリカにとっても大きな政治的課題となってくる可能性が高い。
     今後アメリカが製造業を再興させることで、ITや金融分野ばかりが歪に発展してきたアメリカの社会や経済の形が、今後大きく変わっていく可能性もあるし、そのような試みが大失敗に終わる可能性ももちろんある。
     トランプはなぜ支持されるのか、その背景にはどのような歴史的・思想史的な流れがあるのか、次期トランプ政権はどのようなものになるのかなどについて、思想史家の会田弘継氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・アメリカで本格化する階級闘争
    ・1970年代から始まっていた労働者階級の共和党支持
    ・労働者の支持を集める共和党と利権政党になり果てた民主党
    ・グローバルエリートの欺瞞の結果として誕生したトランプと、その先の未来図
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    ■ アメリカで本格化する階級闘争
    神保: 今日のゲストはジャーナリストで思想史家の会田弘継さんです。来年1月20日からトランプ政権が始まりますが、聞きたいことがたくさんあり、絞りかねています。会田さんが今、トランプについて一番話したいことは何でしょうか。
    会田: 一番大きいのは、右派階級闘争とは何かということです。階級闘争は左派のものだと思われていましたが、アメリカで起きているのは右派による階級闘争です。左派の人はのんべんだらりんと文化闘争ばかりしていて、気がついたら大変なことになっていたというのが今の状況です。もちろん右派階級闘争は日本でもありましたが、アメリカでも初めて本格的に起きていると思います。
     ポピュリズム運動は左右ともに起きるので、アメリカ史の中でもそういうことはあり、その中で移民排斥や人種差別的な動きが出てきます。言い方は良くないかもしれませんが、そういうエレメントが入ってくるのはナチュラルな動きです。ヨーロッパで起きていることについても、単純にこれは何なのかということをもう少し違うフェーズで捉えなければ分かりません。それはある局面だけに注目していると見えてこないものです。例えばヨーロッパにおけるソ連、あるいはマルクスなき後の階級闘争だという見方もできますよね。 

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  • 永濱利廣氏:「日本病」による失われた30年をいかに取り戻すか

    2024-12-18 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2024年12月18日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1236回)
    「日本病」による失われた30年をいかに取り戻すか
    ゲスト:永濱利廣氏(第一生命経済研究所首席エコノミスト)
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     見事なまでに経済が成長しないまま30年の月日が過ぎる間に、日本は先進国のみならず新興国にも経済的に抜かれ始め、1990年代の世界トップの経済大国から今や先進国の地位さえも失おうかというところまで転落している。
     なぜこのような事態に陥ったのか。いや、より深刻なのは、なぜそのような状態からいつまでたっても抜け出すことができないのか。
     かつてパックス・ブリタニカの名を戴き、何世紀にもわたり世界の盟主として君臨しながら、1960年代以降、経済が停滞し、世界の盟主としての地位を失ったイギリスの状態は「イギリス病」と呼ばれた。それは主に「ゆりかごから墓場まで」で知られ世界の垂涎の的だった社会保障の肥大化に起因する経済不調だった。
     しかし、1990年代から30年の間に世界のトップから先進国の地位から転落するところまで落ち続けた日本の状況も、世界では今、「日本病」(Japanification)と呼ばれるようになっている。要するに世界の多くの国にとって日本は反面教師であり、「われわれはああはならないようにしましょうね」という、わかりやすい失政の実例になっているというのだ。
     第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏は、著書『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』の中で、日本病とは低所得・低物価・低金利・低成長の「4低」が続く状況のことだとしている。
     そもそも日本が長期にわたる日本病に陥った最初のきっかけは、バブル崩壊後の政策上の失敗だったと永濱氏は指摘する。まず、日銀が金融緩和に着手するのが遅かった。バブル崩壊が始まった1990年初頭から日銀が利下げに転じるまで1年半、さらにゼロ金利に下げるまでには9年もかかっており、その間に日本はデフレに陥り、国民の間にデフレマインドが定着してしまった。経済が不況になると財政状況も悪くなり、取れる政策の選択肢も狭まってしまった。
     バブル崩壊で資産価格が下がったために、日本、とりわけ金融機関は大量の不良債権を抱えることとなった。しかし政府・日銀が迅速な金融緩和や財政出動で財政出動経済をテコ入れし落ち込んだ資産価格を引き上げることをしないまま不良債権処理を優先したことで、ますます経済が傷んでしまった。これは明らかに政策的なミスだったと永濱氏は言う。
     また、バブル後の初動で失敗した上に、日本は長らく経済低迷下にあっても、財政規律を重んじる財務省の抵抗で、思い切った財政出動ができなかった。更に、財政出動をしても、補助金や助成金で既得権益セクターを支えるばかりで、イノベーションを引き起こす新規産業への投資はほとんど行えなかった。明らかに指導層にそのための知恵や歴史観が足りなかったのだ。
     どこの国でも財務当局というのは財政規律を重んじる傾向がある。しかし、それでも他の先進国は必要とあらば大胆な財政出動を行ってきた。しかし、日本は官僚に対して政治の力が弱いため、財政規律を重んじる財務省の抵抗を政治の力で乗り越えることができなかったと永濱氏は指摘する。
     また、更に遡ると、日本のバブルは1985年のプラザ合意で突如として円高を受け入れざるを得なくなり、そこから日本は一気に内需拡大に舵を切ったところにその遠因があった。その意味で、日本の失われた30年の発端となったバブル処理の失敗の背景には、日本の政治が霞ヶ関にもアメリカにも抗えないという、何とも情けない問題があったということだ。
     しかし、日本病の発症の原因がそこにあったとしても、なぜ日本はその後30年もの間、そこから抜け出せないでいるのか。永濱氏は日本の経済停滞がある程度続いた結果、国民の間にデフレマインドが広がってしまったことにその原因があると指摘する。今、日本は世界的な資源価格の高騰と日米金利差に起因する円安によって、物価が上がり、事実上のインフレ状態になっている。
     しかし、にもかかわらず、国民がデフレマインドから脱却できていないため、物価が上がる局面になっても、もっと高くなる前に買っておこうではなく、できるだけ節約して再び物価が下がるのを待とうと考えるようになってしまった。一度良い生活を経験してしまうと元の生活水準に戻れなくなることをラチェット効果というが、長期にわたるデフレのせいで、消費を抑えて節約しても生活できると思ってしまう逆ラチェット効果が起きていると永濱氏はいう。
     今の状況を打開するためには、とにかく個人消費を活性化させる必要がある。その方法の一例として永濱氏は韓国のキャッシュレス決済の所得控除のような、お金を使った人が得をするような政策を打つ必要性を唱える。韓国は物を買うときにキャッシュレスで決済をすると、税金の控除を受けられるような仕組みを導入し、消費の活性化に成功したという。日本ももっと消費を喚起する施策を実施する必要がある。
     日本でも先月、石破政権が経済対策を発表しているが、相変わらず電気・ガスやガソリンの補助金、住民税非課税世帯への給付など、一時的な補助金や給付など旧態依然たる施策が多い。永濱氏によると、それでは事業規模だけは39兆円と金額を積み上げている割には消費刺激の効果は薄いのではないかと言う。
     そもそも日本はなぜ日本病に陥ったのか、日本病から脱却するために誰が何をしなければならないのか。なぜいつまでたっても日本の政治は必要な施策を実行することができないのかなどについて、第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・「日本病」のきっかけとなったバブル崩壊後の政策ミス
    ・デフレマインドから脱却できない日本人
    ・与党の立場が弱い今の政治状況は良い兆しなのか
    ・「失われた50年」にしないために
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    ■ 「日本病」のきっかけとなったバブル崩壊後の政策ミス
    神保: 今日は「日本病」と呼ばれるものについて話していきます。かつて英国病と呼ばれるものがありましたが、現在、日本のようになってはいけないという意味で使われるJapanificationという言葉があり、これを真正面から取り上げたいと思います。
    本日のゲストは第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣さんです。永濱さんは2022年に『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』という本を出されました。海外では日本が悪い模範としてあり、日本病という言葉が使われています。日本病という言葉は英語のJapanificationと同義だと考えて良いのでしょうか。
    永濱: そうですね。Japanizationと言う人もいますが、世界共通で認識されていることです。
    神保: 永濱さんが唱える日本病は4つの「低」で、低所得、低物価、低金利、低成長が続いてしまう状況とされています。日本の現状を示す指標として、日本、アメリカ、中国を比較すると、2000年には日本の名目GDPは世界の14.55%でしたが、2023年には3.99%になりました。途上国が伸びたということもありアメリカも相対的には下がっていますが、2000年は30.03%、2023年は25.95%です。中国は3.53%から16.80%になっているので、中国は2000年には日本の4分の1だったのですが今では4倍になっているということです。
    永濱: 日本病の根底にはバブル崩壊後の経済政策に失敗したということがあります。リーマンショックは欧米のバブル崩壊のようなものなので、その時は日本の失敗を見ていたのでうまくデフレを克服することができました。日本でも足元では物価、賃金、金利も少しずつ上がってきているのですが、海外と比べたら全然低く、まだまだ日本病は続いています。
     日本病はデフレ脱却という話と並行で語られるのですが、私が違和感を覚えていることは、岸田政権の時から、物価はもう上がっているのにデフレ脱却を確実なものにすると言っていることです。そもそも経済学的には物価が2年以上下落することをデフレというので、これはデフレではありません。何が問題なのかというと、デフレから脱却しているのにもかかわらず国民がデフレマインドから脱却していないということです。
    したがって政府は「デフレ脱却」ではなく、「国民のデフレマインドからの脱却」と言うのが正しいと思います。デフレマインドが根底にあるということが日本病というものなのかなと思います。 

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  • 小島延夫氏:マイナ保険証の根本的な問題は何一つ解決されていない

    2024-12-11 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2024年12月11日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1235回)
    マイナ保険証の根本的な問題は何一つ解決されていない
    ゲスト:小島延夫氏(弁護士)
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     マイナ保険証の本格運用が始まった。しかし、根本的な問題は何一つ解決されていない。
     12月2日をもって紙の健康保険証の新規発行が停止となり、マイナ保険証に移行することになった。いつの間にか、皆保険制度のベースとなる健康保険証が、任意取得のはずのマイナンバーカードに一本化されようとしている。
     現行の保険証も最大1年間はそのまま使い続けることができるが、これから1年の間に、各人の持つ保険証の有効期限が切れ始める。マイナ保険証の登録をしていない人や高齢者には「資格確認書」という保険証とそっくりなものが、市区町村や各健康保険組合から送られてくることになっているが、既にマイナ保険証を登録した人は、登録を解除しない限り、基本的にマイナ保険証を利用せざるをえなくなる。
     マイナ保険証は、医療機関を受診するたびに窓口でそれを提示して、医療機関が設置したカードリーダーに読み込ませなくてはならない。その際は顔認証を使うか、暗証番号を入力しなければならない。健康でこうしたカードの扱いに慣れている人にとっては何でもないことかもしれないが、障害があったり病気だったりしてカードリーダーをうまく操作ができなければ、さまざまなトラブルが起きる。車いすユーザーは受付台の上に置かれたカードリーダーでの顔認証は難しいし、発熱があり感染症の疑いがある場合はどうするのだろう。
     そもそもマイナンバーという秘密情報が記載されたカードを持ち歩くことは想定されていなかったはずで、それを本人確認用に使うということ自体が大きな矛盾であり問題だと、行政法が専門の小島延夫弁護士は主張する。
     しかも、マイナ保険証の導入や現行保険証の廃止が、十分に議論された上で決まったことなのかどうかも怪しい。
     保険証廃止の方針は岸田政権下の2022年10月に閣議決定された。翌年の4月には、保険診療を行う医療機関にオンラインによる資格確認が義務付けられたが、この決定は国会での審議議論を経た法律の改正という形ではなく、厚労省が内部的に決められる省令によるものだ。その後、マイナンバーカードの紐づけのトラブルなどが多く報道されたことも記憶に新しいはずだ。
     マイナ保険証のメリットとして政府が繰り返し伝えているのは、患者が情報提供の同意をすれば、これまで受けた診療の内容や薬の履歴などがわかるので、結果的に医療の質の向上が期待できるという点だ。しかし、それを実現するためになぜマイナンバーカードと保険証を一体化させる必要があるのか、その議論も十分とは言えないと小島氏はいう。
     逆に、医療情報というセンシティブな情報は保護されるべきものであって、現在のマイナ保険証利用の際の同意取得の方法は極めて不適切であり、日本も認定を受けているEUのGDPR(一般データ保護規則)にも抵触する可能性があると、小島氏は指摘する。
     こうした根本的な問題を解決しないまま、この12月からマイナ保険証の本格運用が始まったわけだが、今後マイナ保険証はどうなっていくのだろうか。
     保険証そっくりの資格確認書は現行の保険証と異なり、各保険者に発行が義務付けられているわけではない。また、マイナンバーカードの電子証明書は5年で更新手続きが必要になる。いざ病気やけがで医療にかからなくてはならなくなったときに、資格確認書を持っていなかったり、マイナンバーカードの期限が切れていたりすれば、結果的に本人確認ができず、保険医療が受けられないというトラブルがいつ起きてもおかしくない。ひとたび医療情報の漏洩が起きれば、取返しのつかない問題となるおそれもある。
     法的には任意であるマイナンバーカードの普及を進めるために、誰もが必要としている保険証とマイナンバーカードを無理矢理結びつける政府の手法に果たして正当性はあるのか。その強権的な手法はどのような問題を孕んでいて、今度どのような問題を生み出す恐れがあるのか。この問題を契機に10数人の弁護士と「地方自治と地域医療を守る会」を立ち上げた小島延夫氏と、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。
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    今週の論点
    ・なぜマイナンバーカードと保険証の統合という無理筋がまかり通るのか
    ・マイナ保険証が抱える法的な問題点
    ・個人情報の取扱いに関する大きなリスク
    ・ここまで来てしまったマイナ保険証を巻き戻すためには
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    ■ なぜマイナンバーカードと保険証の統合という無理筋がまかり通るのか
    迫田: 今日のテーマはマイナ保険証です。12月2日から紙の健康保険証の新規発行が停止となり、マイナ保険証に移行することになりました。この先色々な混乱が予想されるということで、今日は弁護士の先生と一緒に法律の観点から考えていきたいと思います。ゲストは弁護士の小島延夫さんです。問題はたくさんあると思いますが、端的にはどこに問題があるのでしょうか。
    小島: 端的に言うと、マイナンバーカードは元々、保険証として使うことを全く考えられずに作られたものだということです。マイナンバーカードの裏面には、個人番号という人に見せてはいけない情報が書いてあります。見せてはいけない番号が書かれているものを持ち歩き、人に示すという使われ方はまったく想定されていないのですが、それを持ち歩き保険証として使うというのは制度設計としてあり得ません。 

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  • 5金スペシャル映画特集:不条理だらけの世界を当たり前としない生き方のすすめ

    2024-12-04 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2024年12月4日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1234回)
    5金スペシャル映画特集
    不条理だらけの世界を当たり前としない生き方のすすめ
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     月の5回目の金曜日に特別企画を無料でお届けする5金スペシャル。今回は映画特集をお送りする。
     今回取り上げた映画やドラマは次の7作品。どれも、多くの人が自明だと信じて疑わない社会の「当たり前」に疑問を投げかける秀作だ。
    ・『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(アレックス・ガーランド監督)
    ・『ザ・ディプロマット』(リザ・ジョンソン、サイモン・セラン・ジョーンズ監督)
    ・『ラストマイル』(塚原あゆ子監督)
    ・『哀れなるものたち』(ヨルゴス・ランティモス監督)
    ・『憐れみの3章』(ヨルゴス・ランティモス監督)
    ・『トナカイは殺されて』(エレ・マリア・エイラ監督)
    ・『ロスト・チルドレン』(オーランド・ボン・アインシーデル監督)
     『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、内戦状態のアメリカで取材に奔走するジャーナリストたちを描いている。ジャーナリストたちは戦場で命を危険に晒されながらも、前線に近づくにつれむしろ生き生きとし、高揚感に心を震わせる。映画は「そんなに戦争がしたいならすればいいではないか」と唆すようだが、それは、戦争をすれば破滅に向かうだけだが本当にそれでよいのかと問うメッセージの裏返しでもある。今の平和が当たり前ではないという現実を、平和ボケしたわれわれに突きつける。
     ドラマシリーズ『ザ・ディプロマット』は、イギリスの保守派がスコットランドの独立を阻止すべく画策した自作自演の戦艦爆破事件を巡り、米、英、ロシア、イランとの外交と米英両国の国内権力闘争が交錯するさまをスリリングに描く。誰が本当の味方で誰が本当の敵なのか分からなくなる、今日の世界の政治状況が投影される。
     『ラストマイル』はグローバル化された物流サービスとその下で過酷な労働環境で働かされている運送業の労働者、そしてアメリカ本社からの指示を受けてそれを差配する日本人幹部達が抱える葛藤などが描かれている。しかし、荷物を届ける物流の最後の区間であるラストマイルに携わる人々に過大な負担をかけている張本人は物流会社幹部ではなく、即配サービスを当たり前のように利用しているわれわれエンドユーザーであるという現実も浮かび上がる。
     頼んだ翌日に物が届くことが当たり前になった世の中を維持するために、どこに負担のしわ寄せが集まっているかをあらためて考えさせられる。
     『哀れなるものたち』と『憐れみの3章』はギリシャ出身のヨルゴス・ランティモス監督のギリシャ悲劇を現代風にアレンジした作品。『哀れなるものたち』は、赤ちゃんの脳を移植された女性が成長していく物語。社会の仕組みを何も知らない状態の赤ちゃんが取る奇想天外な行動は、われわれが当たり前と思っていることには実はほとんど何の意味もないことを思い知らされる。
     『憐れみの3章』は、上司のおじいさんに人生の全てを支配される男、自分の妻を偽物ではないかと疑う男、死者を蘇らせる力を持った女性を探す女という3つの物語からなる。服従や自己犠牲、妄信という欲望に翻弄される人々が描かれており、人間の本質とは何かを問う作品だ。
     狩猟民族の少女が主人公の『トナカイは殺されて』には、差別する定住民と差別される非定住民の対立が描かれている。日々狩猟採集を行い、移動しながら生き生きと生活する非定住民を見れば、定住民の生活がいかにつまらないものかがよく分かる。
     『ロスト・チルドレン』は飛行機事故によりアマゾン密林で行方不明になった子どもを捜索するドキュメンタリー。GPSを使っても見つからなかった機体を先住民の子どもは見つけることができた。多くの日本人が信じる近代的な合理性より、先住民の合理性の方が正しいことを示している。
     複雑化した社会でわれわれが当たり前だと思っていることがいかにでたらめなのか。7つの映画作品についてジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
     なお、番組の冒頭では、政治資金収支報告書のデータベース化の現状について議論した。
     石破首相は29日、臨時国会で所信表明演説を行い、政治資金収支報告書の内容を誰でも簡単に確認できるデータベースの構築の議論を進めると述べた。しかし党内には政治資金の収支がすべてガラス張りにされることに対する抵抗が早くも始まっている。その切り札が「個人のプライバシー」を言い訳に、データベース化される情報の範囲をできるだけ狭くしようという動きになって現れている。
     26日に行われた政治改革に関する与野党7党の協議の場で、自民党の・政治改革本部長を務める渡海紀三朗衆院議員はデータベース化される対象を政党本部と国会議員関係団体に限定する意向を表明している。
     そもそも政治資金収支報告書は今もPDFでウェブ公開され、そこには個人寄付者の名前もすべて公表されている。しかし、それがデータ化されていないために検索やソート(並び替え)などが容易にできず、それが結果的に膨大なページ数にのぼる政治資金収支報告書を詳細にチェックすることを事実上不可能にしている。
     単に、これまでPDFで公開されてきた情報をデータ化し、データベースを構築することで検索が可能な状態にすることが、石破首相が28日の所信表明演説で明言した「誰でも確認ができる」政治資金収支報告書のデータベース化の要諦であることを忘れてはならないだろう。
     それをなし崩し的に無力化しようとする抵抗勢力の巻き返しには、今後も目を光らせていく必要がある。
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    今週の論点
    ・政治資金収支報告書のデータベース化はどこまで進むのか
    ・現実味を帯びるアメリカの「シビル・ウォー」
    ・止まらない便利なサービスへの欲求と労働者の搾取
    ・哀れなるものとは他でもない「あなた」のことである
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    ■ 政治資金収支報告書のデータベース化はどこまで進むのか
    神保: 今日は5金スペシャルということで映画を扱いたいと思いますが、冒頭で話したいことがあります。今日から臨時国会が始まり、石破首相が所信表明演説をしました。今回われわれがこだわった一方でマスメディアがなぜかあまり注目していない点として、政治資金収支報告書のデータベース化の問題があります。石破首相は所信で言及しているのですが、さっそく巻き返しとも潰しとも思われる動きが出てきているので、皆さんへの注意喚起も含めて取り上げたいと思います。
    石破さんはデータベース化については前回の記者会見でも話しており、事実上総理が約束しているということで、行政や党に対する一種の命令ということで動き出してはいます。 

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