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  • 鴨志田祐美氏:時代錯誤の再審制度のままでは冤罪被害者を救えないではないか

    2023-06-28 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2023年6月28日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1159回)
    時代錯誤の再審制度のままでは冤罪被害者を救えないではないか
    ゲスト:鴨志田祐美氏(弁護士、日弁連再審法改正実現本部本部長代行)
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     長期の勾留や密室の取り調べによって冤罪のリスクが極めて高いといわざるを得ない日本の前時代的人質司法がそう簡単に変わらないのであれば、せめて新たな証拠が出てきた時にあらためて裁判を受ける権利を保障する再審制度くらいはきちんと整備して欲しいものだ。しかし、残念ながら日本の再審制度は、中世の異名を取る刑事司法制度に輪をかけて遅れた前時代的なもののままだ。
     今月5日、大崎事件の第4次再審請求が棄却された。現在96歳の原告、原口アヤ子さんは事件発生時から一貫して無罪を主張し続けており、弁護団は最高裁に特別抗告した。これまで第1次請求の地裁、第3次請求の地裁・高裁と、3度にわたって再審の開始が決定されたにもかかわらず、そのたびに検察官がことごとく抗告を繰り返した結果、上級審ではことごとく再審決定が取り消され現在にいたる。
     大崎事件は1979年、鹿児島県大崎町の牛小屋の堆肥の中から男性の遺体が見つかり、義理の姉である原口アヤ子さんと兄2人が殺人・死体遺棄、甥が死体遺棄で逮捕、起訴され有罪になった事件だ。20年間以上アヤ子さんの再審請求弁護団の事務局長を務めてきた鴨志田祐美弁護士は、事故死の可能性を排除し殺人事件と決めつけて捜査が行われたことや、知的障害のある証人の自白のみを証拠として有罪にされたことなど、原判決には重大な問題がいくつもあったと語る。
     今年3月には袴田事件で再審開始が決定したが、一方で、日野町事件や名張毒ぶどう事件、飯塚事件など、有罪とされた本人が亡くなってもなお再審請求が認めらない事件が多くある。袴田事件も、再審開始が決定したとはいえ1966年に袴田さんが逮捕されてから57年が経過しており、失われた時は取り戻せない。なぜ日本では再審のハードルがこうも高いのだろうか。
     刑事訴訟法の435条から453条に定められているいわゆる再審法の規定は、「再審の請求は、有罪の言渡を受けた者の利益のためにすることができる」と明記されており、被告人の不利益になる再審はできない。しかし、再審開始の要件は厳しく、元の罪より軽い罪を認めるべき「明らかな」「新しい」証拠が提出されなければ、再審は認められないとされている。
     問題は「明らかな」新しい証拠というのが、どの程度「明らか」でなければならないかという、多分に裁判所の解釈が介在する余地があることだ。裁判所の胸先三寸といった方がいいかもしれない。実は1975年に、一時その解釈を緩める最高裁判決が出されたことがある。「白鳥決定」と呼ばれ、新証拠だけで無実を証明できるほどの力がなくても、確定判決に合理的な疑いが生じるレベルの新証拠が出されれば、再審を認めるべきだとの判断が下された。
     元々、刑事裁判は検察が合理的疑いを差し挟む余地がないほど有罪を立証できているかどうかを裁判所が判断する場なので、合理的な疑いが生じ得る新証拠が見つかれば再度審理を行うのはごくごく当たりの事だ。至って真っ当な基準だったと言えるだろう。
     ところが、白鳥決定のあと80年代に入って、新たな再審基準に基づいて免田、財田川、松山、島田の4つの死刑確定事件が立て続けに再審に付され、いずれも無罪が確定してしまったことで、裁判所は再び再審に対する態度を硬化させてしまう。死刑確定事件の再審無罪が続けば、裁判所の権威が根底から揺らぐとでも考えたのだろうか。
     それにしても裁判所の都合で再審基準が厳しくなったり緩んだりするのも大問題だが、実際そのおかげで1987年の島田事件の再審確定から2023年に袴田事件の再審開始が確定するまで、36年間、確定死刑事件の再審は一件も認められなかった。
     日弁連の再審法改正実現本部で本部長代行を務める鴨志田氏は、日本の再審は通常の裁判に比べて制度改革が遅れていると指摘する。通常の裁判では、2016年の刑事訴訟法の改正で弁護側が証拠の一覧表を請求できるようになった。
     全ての証拠の開示が求められるドイツなどと比べれば、一覧表というのはいかにも不十分だが、再審請求や再審公判では一覧表の開示さえ義務づけられていない。証拠開示命令を行うかどうかは、裁判所の裁量に委ねられている。つまり、検察が実は被疑者・被告に有利になる証拠を持っていたとしても、それを弁護側が入手して再審請求に利用することはできないのだ。
     証拠開示の欠如と並んで日本の再審を困難にしているのが、裁判所の再審決定に対して検察官の抗告が認められていることだ。先の大崎事件でも、裁判所は3度にわたり再審を認める決定をしているが、検察がそのたびに抗告を繰り返したため、上級裁判所で再審決定がことごとく覆されてきた。裁判所が再審を決定し、検察が再審公判で有罪立証のために懸命に汗をかくのではなく、再審公判そのものをやらせないように妨害する権利を日本の検察に与えているのが現在の日本の再審制度なのだ。
     なぜ日本ではこれほどまでに再審のハードルが高いのか。鴨志田氏は戦後GHQが刑事訴訟法だけは近代法に書き換えたが、再審法まで手が回らなかったため、再審法は戦前の裁判所の職権主義のままになっていると説明するが、仮にそうだとしても戦後70年以上が経過した今、再審法を改正し、進駐軍ではなく日本人自らの手で近代的な再審制度を作ることができないはずがない。
     現在の再審法の実態と、冤罪被害者を救済する最後の砦としての再審制度をまともに機能させるために何が必要かなどについて、日弁連再審法改正実現本部本部長代行の鴨志田祐美弁護士と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・国際的に見ても遅れている日本の再審制度
    ・なぜ再審のハードルを高くするのか
    ・大崎事件の不条理な再審却下
    ・社会を変えていく原動力は「合理的な怒り」にある
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    ■ 国際的に見ても遅れている日本の再審制度
    神保: 今日は2023年6月22日の木曜日で、これが1159回目のマル激となります。今日は司法の問題を取り上げます。司法が機能しているのかどうかという問題は、われわれの社会が正義を貫徹できているのかどうかということに関わります。社会には色々な嫌なことがありますが、その上で最後には正義が勝つと思いながら生きるのか、あるいは正義が勝つなんてことを考えてはいけないと思いながら生きるのかということはとても重要です。
    宮台: 僕は裁判ものの映画がとても好きで、そのきっかけは『十二人の怒れる男』でした。裁判所ではそういった「最後に正義が勝つ」といったことが行われていると思い、大学院以降にいくつかの裁判を傍聴しましたが、あっと驚きました。「こいつが検事なのか」と思うようなヘタレ官僚ぶりがオーラで分かりましたし、裁判官にしても、僕が裁判所のあり方について意見を述べたら激昂した人がいました。
    神保: 司法は本当に変わらないですよね。またメディアが完全に捜査機関に依存している状態も問題で、その分、そういったところに依存していないわれわれがしっかり取り上げる必要があります。 

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  • 大西連氏:孤独・孤立対策推進法が成立した今こそ政府の本気度が問われている

    2023-06-21 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2023年6月21日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1158回)
    孤独・孤立対策推進法が成立した今こそ政府の本気度が問われている
    ゲスト:大西連氏(認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長)
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     問題の多い法案が次々と流れ作業のように成立している今国会だが、重要で意味のある法案もいくつか成立している。その一つが5月末に可決・成立した、社会で孤独を感じたり孤立している人を支援する孤独・孤立対策推進法だ。同法は5月31日に、与党に加え立憲、維新、国民、共産など超党派の賛成で成立している。
     約3年続いたコロナ禍では人と会う機会が減り、誰もが家に引きこもる時間が多くなった。それに呼応するかのように、このところ減少を続けていた自殺者数が、コロナ感染拡大のなかで増加に転じている。家族や地域とのつながりを失い、孤独・孤立に陥ることで引き起こされる生きづらさの問題は以前から指摘されていたが、コロナ禍でそれがあらためて顕在化している。
     政府は2021年2月、内閣官房に孤独・孤立対策担当室を設置し担当大臣を置いた。5年前に世界で初めて孤独担当大臣を設けたイギリスに次ぐ対応で注目を集めたが、では実際にその後、どのような施策を行ってきたのか。実は、担当室を設置した後、NPOで生活困窮者支援にあたっている自立生活サポートセンター・もやい理事長の大西連氏が2021年6月から政策参与となり、施策の推進に当たってきた。担当室ではNPOとの連携強化のほか、実態調査、支援情報などをWEBサイトに掲載し、今年5月31日には孤独・孤立対策推進法の成立まで漕ぎ着けた。
     2021年度、2022年度と続けて行われた実態調査では、全体の約4割が一定程度の孤独を抱えていることが明らかになり、孤独・孤立問題がもはや一部の特別の人だけの問題ではないこともわかってきた。
     しかし、この問題固有の難しさもある。支援を必要としている人は、孤立しているがゆえに社会との接点を持たず、他人とのコミュニケーションをとることができていない場合が多い。自身の孤独・孤立問題を相談することのハードルも高い。そのスティグマを社会で取り除くことも重要だと大西氏は言う。
     とは言え、今回法律ができたことで、その時々の政権の思いつきではなく、政府全体の問題として継続的に取り組むことが可能になった。法案成立を受けて、総理大臣を本部長とする孤独・孤立対策推進本部も設置される。
     施策の推進には官民連携が欠かせない。これまでのように、単に政府や自治体がNPOなどの支援団体に委託するのではなく、官民が対等な立場で意見を交換しながら、ともに取り組む姿勢を持てるかがキーポイントとなる。
     問題はより深刻さの度合いを増している。大西氏によると、毎週土曜に新宿の都庁下で行っている食料支援を受け取りに来る人は、大西氏が3年前にマル激に出演したときよりさらに増え、過去最多を記録しているという。相互に支え合うことができるような人と人とのつながりを生む社会を作るには、われわれ一人ひとりに何ができるのか。長年生活困窮者支援に尽力してきた大西連氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。
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    今週の論点
    ・政策によって人とのつながりや仲間を作る難しさ
    ・社会の雰囲気が変わらなければ、孤独に悩む人は増え続けるばかり
    ・機能的な支援にとどまれば根本的な解決にはならない
    ・引き受けて考えることが最初の一歩になる
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    ■ 政策によって人とのつながりや仲間を作る難しさ
    迫田: 今日は2023年6月15日の木曜日、第1158回のマル激トーク・オン・ディマンドです。国会は最終盤で、明日内閣不信任案が出るということですが、解散はなさそうだと報道されています。
     今日は孤独・孤立対策ということで話を進めていきます。これについては法律が通っていますが、実際に何を目指すのかといった話を伺いたいと思います。本日のゲストは、認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの理事長でいらっしゃる大西連さんです。大西さんは孤独・孤立対策の推進法に深く関わっていました。
     大西さんには、コロナがひどくなり始めた3年前、マル激にリモートで主演していただいていますが、その時はコロナ禍で生活困窮者が大変な状態にあるという話をしました。その翌年の2021年に、内閣官房の孤独・孤立対策担当室の政策参与になられ、政権の中に入る側になりました。
     そして先月、孤独・孤立対策推進法という法律ができました。この間、どういうお考えで政策参与になられ、状況をどう見ておられ、現在はどういうふうに動いていらっしゃるのかという話を聞かせていただきたいと思います。
    宮台: 孤独死が話題になったのは2005年です。あるテレビ局が『ひとり団地の一室で』というタイトルで、年間40名弱くらいが孤独死で亡くなっていた常盤平団地の状況をドキュメンタリーにしました。これをきっかけに人々は孤独死という言葉を知りましたし、「まさかこんな現実があるのか」ということも知りました。当時においても、いわゆる高齢者というよりは65歳未満の人の方が孤独死は多かったんです。 

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  • 城所岩生氏:時代遅れの著作権解釈が四半世紀も日本を停滞させてきた真犯人だった

    2023-06-14 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2023年6月14日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1157回)
    時代遅れの著作権解釈が四半世紀も日本を停滞させてきた真犯人だった
    ゲスト:城所岩生氏(米国弁護士、国際大学グローバルコミュニケーションセンター客員教授)
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     まさか真犯人が著作権だったとは。
     1990年代まで日本はあらゆる経済指標で世界最高水準にあった。国民一人あたりGDPにしても然り。産業競争力にしても然りだ。ところが1997~98年頃を境に、日本は世界から後れを取り始める。それから四半世紀後、日本はほとんどの経済指標で先進国中30位前後の最下位クラスに落ちていた。わずか25年でトップからビリまで落ちるには、何かよほど大きな失敗をやらかしているに違いないと誰もが思うことだろう。しかし、その主要な要因が著作権にあったとは、一体どれだけの人が考えただろうか。
     しかし、次のようなデータを突きつけられると、その指摘に反論することはかなり難しい。
     まず、日本の転落が始まった1997年~98年というのは世界的にインターネットの普及が始まり、世界でIT革命が一気に始まった時期と重なる。そこでまず、日本がインターネット革命に乗り遅れたのではないかという仮説を立ててみたい。
     その上で、今の世界経済を牽引している企業の実態に目を向けると、現在の世界の時価総額トップ企業はいずれもインターネット関連サービスを提供する企業だ。実際、世界のトップ10社のうち7社がアップル、マイクロソフト、アマゾン、アルファベット(旧グーグル)などのネット関連企業だ。もちろんその中に日本企業は一つもない。日本でトップのトヨタは世界の58位に甘んじていて、その時価総額は世界1位のアップルの15分の1しかない。ちなみに1989年には世界の時価総額トップ10のうち、何と7社を日本企業が占めていた。
     一方、現在日本で時価総額トップ10の企業を見ると、ネット関連企業は一つも入っていない。そればかりか、日本のトップ10は1位のトヨタを筆頭にメーカーが半分を占め、10社はいずれも1980年以前に創業された古い事業者ばかりだ。
     つまり、現在、世界経済を牽引しているのはIT関連企業であり、そこに日本の姿はまったく見られないということ。そして、日本では時代の潮流に合わせた産業構造の改革がまったくといっていいほど進んでいないこと。この2つの事実は受け入れざるを得なさそうだ。
     確かに日本でもインターネットは広く利用されている。しかし、それはほとんどの場合、海外の企業が提供しているサービスを利用しているだけで、日本におカネは落ちてこない。しかし、そのことと日本の著作権の解釈にどのような関係があるのだろうか。
     アメリカの弁護士資格を持ち、長年にわたり日米の著作権ビジネスをウオッチしてきた城所岩生氏は、日本の前時代的な著作権解釈が日本発のネットサービスの芽をことごとく摘んできたと指摘する。例えば、かつて日本でもYahooやグーグルのような独自の検索サービスを開発しようという試みがあった。
     しかし、日本はアメリカが早々と導入した著作権の「フェアユース」という解釈を最後まで採用しなかった。そのため検索エンジンのロボットに無数のウェブサイトを読み込ませる必要がある検索サービスを日本で提供するためには、サービス提供者はすべてのウェブサイトの所有者からサイトのデータを読み込む許諾を得なければならなかった。旧来の著作権法の解釈では、検索サービスを提供する目的であっても、無許可でサイトのデータを読み込む行為は著作権侵害に問われる可能性が高いからだ。
     フェアユースとは、利用目的に公共性が認められるなど一定の条件を満たす場合、著作権者の許可を得ずに著作物に利用が認められるという考え方だ。著作権者の権利を守ることは重要だが、社会に便益を提供することも重要だ。その両立を図るために導入されたのが、フェアユースという考え方だった。
     そもそも著作権というのは著作者の権利を守ることによって、文化の発展を図るために存在する。そのことは、日本の著作権法の第1条にも明記されている。もちろん著作者の権利の保護はとても重要だ。著作者の権利が守られ、正当な報酬が支払われなければ、著作者は著作物を創作する意欲を失ってしまう。これもまた、文化の発展には大きなマイナスとなる。
     しかし、著作権の権利を守るために著作権用の解釈を極度に厳しくしてしまうと、社会がその著作物の価値を十分に享受できなくなり、結果的に著作権の究極の目的である文化の発展が妨げられてしまう。アメリカでは、引用部分の全体に占める割合が少ないことや、元の著作物と市場で競合しないことなどの条件を満たす場合、このフェアユースが適用され、旧来の著作権解釈では著作権侵害に当たる行為が許されるようになったことで、様々なネット関連サービスが花開いたと城所氏は語る。
     ところが日本はフェアユースを採用しなかったため、旧来の著作権の解釈がことごとくインターネット産業の発展を阻害してきた。Winnyの開発者の金子勇氏が著作権法違反の幇助で逮捕され、村井純氏をもってして「10年に一度の画期的なソフト」と言わしめたWinnyが世界的なプログラムへと開花していく道を閉ざされたことは5月6日のマル激で報じたばかりだが、Winnyの例を見るまでもなく、日本はネット関連の新しいサービスをことごとく著作権法の旧来の解釈で縛ってしまった。
     例えば、アメリカでは1992年にリバースエンジニアリングがフェアユースとして認められたが、日本がそれを合法化したのはなんと2019年に入ってからだった。画像検索サービスについてもアメリカでは2003年にフェアユースが適用されているのに対し、日本は2010年まで待たなければならなかった。
     実は日本でも遅ればせながら2018年に著作権法が改正され、著作物の価値を「享受」することを目的としていなければ、著作権侵害にあたらないことがようやく明文化された。これによってフェアユースに一歩近づいたことは評価すべきだろう。しかし、城所氏はこの法改正ではまだアメリカのフェアユースと同じレベルにはなっていないため、「日本版フェアユース」とは呼べないと指摘する。
     それにしても、なぜ日本では旧態依然たる著作権の解釈がこうまで維持され続けたのだろうか。そして未だにフェアユースを完全に導入できないのはなぜなのだろうか。城所氏からその裏事情を聞くと愕然とする。
     城所氏によると、著作権の運用を審議する文化庁の文化審議会著作権分科会が、権利者団体の出身者によって過半数が占められているため、日本の著作権の解釈は過度に権利者の保護に偏る傾向があるのだという。実際、分科会のメンバーを見ると、27人のうち少なくとも15人を、日本音楽著作権協会(JASRAC)、日本書籍出版協会、日本レコード協会といった錚々たる権利者団体の代表者が占めている。
     業界団体に支配された審議会の意向を受け、行政ばかりか検察や裁判所までもが、著作権法の厳格な運用を自ら率先して実践しているのが日本の実態なのだ。ちなみにWinnyで金子氏らを告発したのも権利者団体だった。そこには著作物の利用者は国民であり、著作権法の究極的な目的が権利者の保護ではなく文化の発展にあるのだという視点が欠けているように思えてならない。
     ChatGPTの登場でAIが俄然注目されるようになった。ChatGPTがこちらからの問いかけに対し即座に絶妙な回答を返してくるのは、ChatGPTの運営者が予め膨大な量のデータと文章をChatGPTに読み込ませ学習させているからだ。しかし、もしフェアユースが採用されず旧来の著作権法の解釈が維持されれば、サイトの所有者からの許可なくサイト上のデータを読み込ませる行為は著作権侵害に問われる可能性がある。
     日本は2018年の著作権法の改正で「人の知覚による認識を伴わない利用」については利用が可能となったため、AIの学習はこの中に含まれると考えられ、現時点ではAIの学習はセーフと考えられている。しかし、AIの学習というのはAIが勝手に読み込んでいるのではなく、人が何を読み込ませるかを決めた上でAIに読み込ませているものだ。日本発の画期的なサービスが出てきた時、Winnyの時のように突如として警察・検察や裁判所の時代錯誤の法解釈が顔を出さないか、不安は残る。
     現に、先月、文化庁が「写真を学習させて映像を作る場合、元の写真を享受することも含まれるので、著作権者の許可が必要」などとして、2018年に改正した著作権法のAIに関する条文を骨抜きにさせかねない動きも見られる。
     日本の停滞の少なくとも一要因が時代錯誤の著作権解釈にあったことが否定できない以上、この問題には日本の将来がかかっているといっても過言ではない。日本がフェアユースを認めなかったことで、どれだけのビジネス機会が失われたのか、Web3やAI新時代が到来した今、日本が同じ過ちを繰り返さないためにはどうしたらいいのかなどについて、米国弁護士の城所岩生氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・インターネット革命を境に日本の凋落が始まった
    ・厳しすぎる著作権保護が日本の音楽文化の発展を妨げている
    ・なぜ日本ではフェアユースを導入できないのか
    ・AIでも同じ失敗を繰り返すのか
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    ■ インターネット革命を境に日本の凋落が始まった
    神保: 今日は2023年6月9日の金曜日、これが1157回目のマル激です。今日は日本の停滞の真犯人探しのようなことをするつもりです。ゲストは、アメリカの弁護士資格をお持ちで、国際大学グローバルコミュニケーションセンター客員教授の城所岩生さんです。城所さんは日本やアメリカの著作権問題に詳しく、著作権についての本を何冊も書かれています。『国破れて著作権法あり』というご著書は、以前番組でWinny事件を扱った際に参考にさせていただき、特にフェアユースに関してとても重要なことが書かれています。
     今日の前提になるところから始めたいと思います。なぜ日本がこんなことになってしまったのかを改めて確認するためにいくつかのデータを見ていきます。1人あたりのGDPは、1997年くらいまでは主要国の中では一番でした。その後はずっと横ばいで、その間に他の国が成長してきたので、今ではビリです。
    宮台: 現時点でアメリカのほぼ半分だと思って良いと思います。 

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  • 清水勉氏:あの手この手でマイナンバーカードの取得を強制すればするほど政府の信用は落ちていく

    2023-06-07 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2023年6月8日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1156回)
    あの手この手でマイナンバーカードの取得を強制すればするほど政府の信用は落ちていく
    ゲスト:清水勉氏(弁護士)
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     改正マイナンバー法が昨日6月2日、自公と維新、国民の賛成多数で参院で可決、成立した。立憲、共産、れいわが採決自体に反対する中での成立だった。
     法案の成立を待たずに政府は2024年秋までに現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに一本化する方針を打ち出していたが、今回の法改正により、国会審議を経ずに省令のみによってマイナンバーカードに新たな個人情報を紐付けることが可能になる。現在進行形で進む健康保険証との一体化と合わせて、今後マイナンバーカードに紐付けられる個人情報は大きく膨らむことが予想され、法律上は選択制であるはずのマイナンバーカードの事実上の義務化に、さらに拍車がかかることになりそうだ。
     それにしても、今このタイミングでマイナンバーの機能を拡大する改正マイナンバー法を通すというのは、どういう了見なのだろうか。このタイミングというのは、マイナンバーカードをめぐるトラブルが全国で噴出しているまさにその最中に、という意味だ。
     これまで明らかになっているだけでも、マイナ保険証の医療情報の誤登録が7,312件、コンビニでの証明書の誤発行が16件、公金受取口座の誤登録が21件と、医療情報や口座など特に取扱いに注意すべき個人情報の漏洩が相次いで起こっている。他人に自分の戸籍や住民票を見られてしまうのも大きな問題だが、とりわけ保険証の誤登録によって医療機関で保険への加入が確認できなければ、その患者は全額自費負担となるなど、影響は深刻だ。
     法案に反対した立憲民主党の杉尾秀哉参院議員は、一連のトラブルはマイナンバーカードの構造的な問題を反映しているものであり、保険証との一体化は中止すべきだとマイナンバーカードを管轄するデジタル庁の河野太郎デジタル担当相に質したが、河野氏はここまで明らかになったトラブルはあくまで人為的なミスによるもので、マイナンバー制度そのものの問題ではないとして、杉尾氏の批判を一蹴している。しかし、本当にそうだろうか。
     ここでいう「構造的な問題」というのは必ずしも技術的な問題だけを指しているわけではない。2013年のマイナンバー法制定時からこの問題に関わってきた弁護士の清水勉氏は、マイナ保険証には根本的な問題があり、それを放置したまま制度化をごり押ししても、必ず失敗すると語る。その理由はこうだ。
     言うまでもなくマンナンバーカードを持つか持たないかは任意、つまり個々人の自由となっている。しかし、住基ネットで失敗した苦い経験を持つ政府は、今度ばかりはメンツにかけてもマイナンバーカードの普及を進めたい。そこで、マイナポイントだの補助金だのとあの手この手を使って国民にマイナンバーカードを無理矢理取得させようとしてきた。
     そして、ついに健康保険証と一体化させ、来年秋には現行の健康保険証自体を廃止するという強行策にまで手を染めてしまった。あくまで申請主義に基づいて発行されるマイナンバーカードが、国民皆保険という国家的制度と一体化することで、今後様々な矛盾やトラブルが発生することは避けられそうにない。
     清水氏は、マイナンバーカードを持つか持たないかは個々人の自由意思に基づくことなので、クレジットカードと同じように、持つか持たないかを自由に選択できるようにしておかなければならないという。自分にとってメリットがあると思う人は持てばいいし、それほどメリットはない、あるいはデメリットが大きいと思う人は持たなければいい。また、一度は持ったとして、持つのをやめるという選択肢を与えられている必要がある。クレジットカードならそうだ。
     銀行口座のみならず、戸籍や医療情報までも紐付いているマイナンバーカードを持つリスクが大きいと考える人には、持たないという選択肢が用意されていなければならない。しかし、健康保険証と一体化した上で、保険証の方は来年には廃止されるということになれば、多くの人にとってはマイナンバーカードを持つことは是も非もないものとなる。
     つまり、メリットがあると思う人が自由意思に基づいて持つのではなく、持たないことによって大きなデメリットが生じるような制度にすることによって、仕方なく持たざるを得なくなる人が大量に出るということになる。このような制度設計は根本的に間違っていると清水氏は言う。
     無理を通せば道理は引っ込む。既にマイナ保険証を事実上強制することに対して、医療現場や介護現場などから強い反対の声が上がっている。そもそも国民にとっても医療機関側にとっても、保険証をマイナンバーカードに一体化することのメリットはない。それどころか、マイナ保険証は保険組合の方から郵送されてくる現行の保険証とは異なり、本人が役所の窓口で申請しなければならないため、申請漏れや申請遅れによって無保険者扱いされる人が急増するおそれがある。
     また、介護施設や高齢者施設の入所者の多くは、これまで施設に保険証を預けていた実態があるが、銀行口座や戸籍とも紐付いたマイナンバーカードを代理人に預けるわけにはいかなくなるという問題も指摘されている。
     医療DX(デジタル化)の推進は重要だ。それはそれで是非進めるべきだ。しかし、それが銀行口座や戸籍とも紐付いているマイナンバーカードに一体化されなければならない理由はどこにも見当たらない。既存の保険証をデジタル化すればいいだけのことだ。結局、本来一体化することに合理性がないものを無理やり一体化するから、政府の真の動機は国民の利便性を向上させることではなく、マイナンバーカードを強制的に普及させるためだと思われるのは当然のことだ。
     マイナンバーカードを普及させるために政府は既にマイナポイントなどで2兆円以上の予算を費やしてしまっている。それでもマイナンバーカードがなかなか普及しなかったのは、そもそも国民の多くが政府を信用していないからだ。政府を信用していなければ、政府がどれだけメリットを強調しても、マイナンバーという共通番号の下に自身の個人情報を次々と紐付けされ、それを政府に握られることに抵抗を感じるのは当然のことだ。
     世界の多くの国が共通番号を導入しようとして失敗しているのも同じ理由だ。その一方で、スウェーデンなどの北欧諸国では共通番号制度が普及している。しかし、それらの国々では国民の政府に対する信頼度も、情報公開を始めとする政府の透明性も、市民が政治に参加するチャンネルの多様さも、どれをとっても日本とは比べものにならないほど高い。
     政府がどれだけDXの旗を振り利便性を強調しても、国民の政府に対する信用がなければ、共通番号制度などまともに機能しないのだ。今回、政府がマイナンバーカードを健康保険証と結びつけることで、事実上カードの保有を強制したことによって、カードの普及自体は進むかもしれないが、そのようなやり方は政府に対する信頼度を益々低下させることになるだろう。
     なぜ日本のマイナンバー制度はうまくいかないのか。保険証との一体化はどこに問題があるのか。今回の政府による強行策はどのような結果をもたらすことになるのか。清水弁護士とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・マイナンバーカードの普及には政府のメンツがかかっている
    ・保険証廃止による事実上のマイナカードの強制
    ・ここにきて噴出するマイナカードをめぐるトラブル
    ・理念なき電子政府化のリスク
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    ■ マイナンバーカードの普及には政府のメンツがかかっている
    神保: 今日は2023年6月2日の金曜日、これが1156回目のマル激となります。今日のメインテーマはマイナンバーカードです。その中でも、保険証の廃止を強行したためにどんなことが起きるか、なぜそんなことが起きてしまったのかといったことを見ていきたいと思います。法案は今日成立しましたが、幸か不幸か、政府が根拠もなく言っていた保険証の廃止は2024年の秋とされています。それまでになんとか被害を最小限に留められたら良いと思います。
    また、電子政府化や医療のDX化などの正当性についても見極めたいと思います。
     ゲストは弁護士の清水勉さんです。清水さんはマイナンバーに限らず個人情報の保護問題に通じておられ、マイナンバーが最初にできた時に、『「マイナンバー法」を問う』という本を出されています。本ではマイナンバーの危うさについて書かれていますが、結局法律が通りマイナンバーは付与されました。ただ、今回無理やりマイナンバーと保険証を結びつけようとする動きの根底には、マイナンバーカードがなかなか普及しなかったことがあります。
    マイナンバーは否応なしに付与されていますが、マイナンバーカードは任意です。現在は累計で9,000万枚が交付されていますが、これまでマイナンバーカードがなかなか普及しなかった原因は何でしょうか。 

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