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兪炳匡氏:コロナ後の日本再生は欧米モデルからの脱却がカギを握る
2021-06-30 20:00550ptマル激!メールマガジン 2021年6月30日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1055回)
コロナ後の日本再生は欧米モデルからの脱却がカギを握る
ゲスト:兪炳匡氏(医師、神奈川県立保健福祉大学イノベーション政策研究センター教授)
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7月23日の五輪開会式まで1カ月を切り、菅政権が五輪開催へと突き進む中、東京では感染者数が再び上昇を始めている。特に、インドで検出された「デルタ株」の感染が拡大しているところが懸念される。
新型コロナ対策では「医療」と「経済」のバランスが重要と言われるが、残念ながら日本はそのどちらも成功していない。そもそもどちらに軸足を置いているのかさえ不明だ。国民に強く自粛を求めておきながら、都県境を越えて人が集まるオリ・パラだけは何が何でも強行するのも象徴的だが、それ以前にも日本はGoTo TravelやGoTo Eatで同じようなことを繰り返してきた。国民の努力もあり、これまで日本では幸いにして欧米ほどの感染爆発は起きていないが、その矛盾した政策故に日本は必要以上にコロナ禍に苦しむ結果を生んでいるように見える。
ワクチン接種にしても、ワクチンの開発はもとより感染者のデータ収集についても、また海外からワクチンを調達するための準備も、先進国のなかでは大きく遅れをとっていた。後手後手に回り続けてきたコロナへの一連の対応が、現在の日本の政治体制の脆弱さの反映となっていることが危惧されてならない。
医師であり医療経済学者として25年間にわたりアメリカで研究・教育に携わってきた兪炳匡氏は、日本の新型コロナ対策が世界標準から大きく遅れを取っていると指摘する。相対的に日本のコロナ病床数が少ないことは事実だが、いくら病床数を増やしても、無症状の感染者を見つけて感染の拡大を防ぐという、感染症対策の基本である「検査と隔離」が抜けていては、医療が逼迫することは避けられない。
兪氏はアフターコロナの日本の再生のためには、アメリカの真似をしてバイオベンチャーや医療イノベーションに巨大な投資を行うのではなく、実行可能な「プランB」を考えるべきだと提案する。日本には世界から有能な人材と資金を集められるような魅力的なビジネスモデルが存在しないため、国レベルでも民間レベルでも日本の国際競争力は低下している。その日本がいたずらに欧米の真似をしても、すでに劣化が進んだ日本のシステムは短期間で回復できるものではないからだ。
では兪氏の考える実行可能な「プランB」とはどのようなものか。それは医薬品や医療機器などのグローバルな競争が激しい産業で競うのではなく、医療や介護といった地域に密着した、人に関わる分野に注力することだ。産業部門別に見ると、医薬品や医療機器よりも保健や介護、医療の部門のほうが経済波及効果と雇用創出効果が高いという研究結果もある。看護師や介護士、医師など、人に投資することで地域の経済が活性化し、雇用を生みだすことが期待できるからだ。
医療費適正化が総医療費の抑制に結び付くとするこれまでの議論は社会全体の幸福度を増すことにはつながらないとして、これを厳しく批判する兪氏は、医療費高騰の犯人捜しより、新しい予防医療教育を雇用創出につなげるべきだと指摘する。
日本再生の道は「医療」「教育」「芸術」にあると語る医師の兪炳匡氏と、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。
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今週の論点
・世界から取り残された日本のデータシステム
・日本で議論されない、医療費を使うことの経済波及効果
・新薬開発より、保健衛生・介護への投資を
・「幸福度」を最大化するために
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■世界から取り残された日本のデータシステム
迫田: 本日は6月24日、あと一ヶ月もしないうちにオリンピックの開会式ですが、東京では新型コロナウイルスの感染者数が増え、リバウンドが起こっています。一方で自粛、一方でオリンピックと、リスクコミュニケーションがうまくいかないなか、矛盾したメッセージが発せられている。
宮台: 当初は酒も飲んでいいという話で、政府に国民に対してコロナからの再生というメッセージを出そうという発想がない。もう40~50年、そういう可能性が政治にあった例がなく、目標は政権を維持することだけ。マックス・ヴェーバーが言った鉄の檻問題で、本来の目標はすべて消え、自分のポジションを維持することを目的にしたゲームになってしまっている。日本はそうなりやすい国です。
迫田: そのなかで、アフターコロナの再生の道をどう考えるか。ゲストに医師で、アメリカで25年医療経済学者として研究教育をされていた兪炳匡(ゆう・へいきょう)さんをお迎えしました。 -
小原凡司氏:台湾有事の現実味と日本への影響を考える
2021-06-23 20:00550ptマル激!メールマガジン 2021年6月23日号
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1054回)
台湾有事の現実味と日本への影響を考える
ゲスト:小原凡司氏(笹川平和財団上席研究員)
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日本はただアメリカの後ろを付いていくだけで、本当に大丈夫なのだろうか。
アメリカは他国を巻き込んであからさまな中国包囲網の形成に走り、中国は「アメリカは病気だ」とこき下ろすなど、米中関係が退っ引きならない状況に来ている。特に台湾を巡る米中の睨み合いは、今年3月、米議会の上院軍事委員会の公聴会でアメリカ太平洋軍のデービッドソン司令官が向こう6年以内の軍事衝突の可能性が高いと証言するなど、日本の目の前で2つの核超大国がドンパチをおっ始める可能性が現実のものとなってきている。
しかし、当の日本は、4月の日米首脳会談でも台湾情勢を引き合いにしながら両国の懸念対象として中国を名指しにする共同宣言に署名するなど、相変わらずのアメリカ一辺倒の姿勢しか見えない。菅首相の多国間外交デビューの場となった、今週のG7サミットの首脳宣言でも、まったく同じ表現で中国が名指しにされ、そのたびに中国の報道官が激しくアメリカを罵るというパターンが半ば常態化している。そしてその間も休むことなく中国の軍備増強は続き、東アジアの安全保障は不安定の度合いを増しているのだ。
安全保障政策、とりわけ中国の軍事が専門の小原凡司氏によると、中国とアメリカでは軍事力ではまだアメリカが優位ではあるが、その差は縮まってきている。しかし、とは言え中国はまだアメリカが怖いので、アメリカとの軍事衝突は避けたいのが中国の基本的な外交スタンスだと言う。
現時点では中国はアメリカとの真正面からの衝突は避けたいし、アメリカも単独で中国と対峙する気はないことから、台湾を巡り両国が軍事的に相まみえる事態は、直ちには想定しにくいと小原氏は言うが、とは言え両国が睨み合いながらギリギリのところで現在の東アジアの軍事バランスが保たれていることだけは間違いない。何かの間違いで不測の事態に陥る可能性とは常に隣り合わせだ。また、中国はアメリカとはやりたくないが、日本は怖くないので、巧みに日米の分断を図りつつ日本にちょっかいを出してくる可能性もある。
小原氏は日本では台湾有事を想定した議論は、少なくとも政府レベルではほとんどまったく行われていないと指摘する。先週、国会も閉会してしまったが、コロナ対策と五輪対策だけで汲々としている現在の菅政権に、台湾有事まで視野に入れた外交政策の方向性を示すよう求めるのは、無いものねだりの無理筋というものなのだろうか。
しかし、そもそも台湾有事は平和安全法制で定めるところの「存立危機事態」に該当するのか。万が一台湾有事となった時、台湾に在留する2万人を超える日本人をどうやって救出するのか。台湾からの大量の避難民が日本に向かってくる可能性もある。日台関係は日本からのワクチンの贈与などで非常に良好な状態にあるとされるが、日本のすぐ裏庭で軍事衝突が起きた時に日本が無傷でいられるはずがない。議論もない状態のままで何かあった時に対応できるはずもなく、また場当たり的な対応に終始するのが関の山だろう。
平和を守るためには普段の努力が必要だ。平和にただ乗りを続ける者が増えれば増えるほど、平和は危うくなる。今週は自衛隊出身で中国の軍事問題の専門家でもある小原氏に、そもそも台湾有事の蓋然性はどれほど高まっているのかや、米中それぞれが本音で考えている事、いざ有事となった場合の日本への影響や、日本がそのために備えておくべきことは何かなどを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が聞いた。
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今週の論点
・互いを恐れる中国とアメリカ
・尖閣問題含め、日本にも危機は迫っているのか
・米中の競争が生む「新しい秩序」
・準備不足の日本と、高度に複雑化する世界情勢
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■互いを恐れる中国とアメリカ
神保: 今回は台湾情勢と米中関係、そして日本というところで議論していきたいと思います。軍事バランスの変化、香港の問題、またアメリカがトランプ政権からバイデン政権に変わり、2022年には中国の共産党大会で習近平が三選目を狙っているというところもあり、状況がこれから大きく動く可能性があります。日本に主体的なコントロールができる要素はないような感じもしますが、何かが起これば当然、大きな影響があるので、しっかりみていく必要があるだろうということです。
さっそくゲストをご紹介します。中国の軍事問題に詳しい、笹川平和財団常設研究員の小原凡司さんです。今週のG7サミットで香港もそうだし、ウイグルも含めて中国の問題が明確に指摘されました。中国の国内のことにあそこまで言及したことをどう見ればいいでしょうか。
小原: 捉え方はいろいろあると思いますが、実は中国は、公式にはあまり強く反応していません。 -
長井暁氏:NHKに再び何が起きているのか
2021-06-16 20:00550ptマル激!メールマガジン 2021年6月16日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1053回)
NHKに再び何が起きているのか
ゲスト:長井暁氏(ジャーナリスト、元NHKチーフ・プロデューサー)
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あれから20年の月日が流れた。いわゆるNHK番組改変問題だ。
これは2001年にNHKが教育テレビ(現Eテレ)で放送を予定していたETV特集「戦争をどう裁くか」の放送内容を事前に知った自民党の安倍晋三、中川昭一両議員がNHKの幹部に対して番組の内容に注文を付け、放送直前になってNHKの幹部が現場に番組内容の改変を命じたために現場は大混乱。番組を企画しNHKから制作を受注していた制作会社は、当初の企画意図とまったく異なる番組になってしまうとして改変を拒否し、NHKの現場デスクらも当初、改変に抵抗したために、放送当日になってもまだ番組の編集作業が終わらない異常事態に陥ってしまった。そして、結果的に幹部自らが編集を指揮するという異常な体制の下で番組が番組枠よりも4分も短い、事実上の「放送事故」状態のまま番組は放送されるという前代未聞のできごととなった。
しかも、その後、企画の対象となった「女性国際戦犯法廷」の主催者が、当初NHKサイドから受けていた説明とまったく異なる番組になったことに対し損害賠償を求めてNHKを提訴するという事態にまで発展し、2008年に最高裁で判決が下るまでこの問題は尾を引くこととなった。裁判自体は最高裁が、放送内容についてはNHK側に決定権があることを認める、NHK勝訴の形で決着している。
ただし、一連の騒動で露わになったのは、公共放送と銘打ってはいるものの、実際には予算と人事で国会の承認を必要としているため、いざ政権与党の中に放送内容に介入することも辞さない政治家が現れた時、その圧力に対してはあまりにも脆弱なNHKの実態だった。
そして今、そのNHKで、番組内容への権力の介入が再び常態化しているという。番組改変問題の際にNHK側の番組デスクとして改変に抵抗し、自民党議員からの圧力を受けたNHK幹部が番組内容を強制的に改変させた事実を内部告発したジャーナリストの長井暁氏は、特にオリンピックに関連してNHKが放送内容を「改変」したり、世論調査の質問内容まで政府に不都合な結果が出ないような内容に変更している事実を指摘した上で、古巣のNHKで20年前の教訓が活かされてないことを非常に残念がる。
20年前の番組改変問題の教訓はNHKが真に公益性の高い公共放送としての役割を果たすためには、経営委員の任命制度をより透明性のあるものに改革するなど、党派制を排除する仕組みを導入することが不可欠であるということだったはずだ。しかし、それがうやむやになったまま20年が無駄に過ぎた結果が、昨今のNHKのオリンピック報道であり、かんぽ生命保険不正報道であり、御用世論調査なのだ。今こそ受信料に見合った公共のあり方とそれを支える制度を再確認しない限り、公共放送としてのNHKに未来はない。
NHKを愛し、公共放送が重要だと考えるが故に16年前、現場から外されることを覚悟の上で身を挺して内部告発を行った長井氏と、今NHKに何が起きているのか、なぜ20年前から状況が変わらないのか、何を変えなければならないのかなどを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・長井氏が受けた内部告発の代償
・権力を慮る、NHKの「奴隷根性」
・官邸と一体となり、現場を踏みにじるNHK上層部
・解決すべき内部/外部の問題とは
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■長井氏が受けた内部告発の代償
神保: 今回のテーマはNHK問題ですが、なぜひとつの会社だけでこんなに何度も取り上げなければならないのか、とも思います。
宮台: ただ僕らは税金と同等の形で受信料を徴収されており、それがパブリックな使命を果たしていないのであれば、払わないか解体してもらうかどちらかです。 -
西田宗千佳氏:LINEはそんなに危ないのか
2021-06-09 20:30550ptマル激!メールマガジン 2021年6月9日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1052回)
LINEはそんなに危ないのか
ゲスト:西田宗千佳氏(フリーライター、ジャーナリスト)
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結局のところLINEはそんなに危ないのか。他のアプリと比べてどうなのか。そもそもこれはLINEに限ったことではなく、ネットを利用する限り不可避なリスクと考えるべきものなのか。もし仮にそうだとしたら、われわれはそのリスクに対する自覚が麻痺してきてはいないか。今回はそんな疑問をITライターの第一人者の西田宗千佳氏にぶつけた上で、ではどうするべきかなどを議論してみた。
今年3月、通信アプリのLINEの中国内にあったサーバーに保管されていた個人情報が中国国内で閲覧可能になっていたことを朝日新聞が伝えると、これまで無節操にLINEを利用してきた中央官庁や地方公共団体などが一斉に行政サービスにおけるLINEの利用停止を発表するなど、あたかもLINEという通信サービスが危険なものであるかのような扱いが相次いで見られるようになっている。
今回の問題発覚を受けて、LINEは全てのトークデータの保管を国内のサーバーに移すことを約束しているので、とりあえずこの先、われわれLINEユーザーの情報が、例えその一部であっても中国国内に保存されることはなくなると考えてよさそうだ。しかし西田氏は、今回のLINEの中国サーバー問題は、大きく分けて2つのより重大な問題を露呈していると指摘する。それはまず、今回朝日新聞が3月17日にこの問題をスクープした時点で、LINEの少なくとも経営陣は、どの情報がどこのサーバーで保存され管理されているかを把握できていなかったこと。また、日本ではことメッセージアプリに関しては8,800万のアクティブユーザーを抱えるLINEの独壇場となっており、LINEを使わない場合に他の選択肢が事実上無いに等しい状況になっている点だ。
今や日本では行政サービスもLINEに依存するものが多いが、LINEというサービス自体が元々、ネイバー社という韓国の大手IT企業の日本法人が提供するサービスであることは知る人ぞ知る事実だ。会社の資本や出自がどこに国にあろうが何の問題もないが、そのサーバーが一部とはいえ中国に置かれていたり、アプリケーションが中国で開発されていることなどは、われわれユーザーは説明されていない。また、現在のLINEの日本の経営陣がサーバー周りなどの技術面を正確に把握できていなかった理由は、そもそもLINEという会社が技術面では韓国のネイバー社に主導権があるところに原因があると指摘する向きも多い。
また、これはLINEに限らず、ネットを利用する限り、自分たちの情報が何らかの形で外から見られるリスクとは常に隣り合わせであることは、この際再認識しておく必要があるだろう。その意味では、アップル社がiOS14.5から導入した、アプリケーションのプロバイダーに対してトラッキング(自身の閲覧履歴の参照)の可否をユーザーに選択させるサービスを導入したことの意味は大きい。
このたびアップルがiOS14.5からこれを導入したのを受け、スマホのもう一つの雄であるアンドロイドを提供するgoogleも、アプリをダウンロードするgoogle playにおいて同様のサービスを開始する予定を発表している。(期日は未定)PCにおいてもブラウザーの「サードパーティ・クッキー」がオンになっていれば同様のトラッキングが可能だが、今回アップルがiOSでこれを選択制にしたことで、本人が知らない間に自身の行動履歴情報が売買されていたことを多くの人が知り、PCでも「サードパーティ・クッキー」をオフにする動きが顕著に見られるようになっているという。
今回のLINE問題はLINEという企業のガバナンスの問題としては重要だが、それはLINEが改善した上で社会に説明責任を果たせばいいこと。しかし、ネット上の情報漏洩という意味においては、これは特にLINEに限った問題ではなく、ネットを利用する際に必ずついて回るリスクの一環と考えるべきものだろう。いたずらにLINEを危険視しても何の問題解決にもつながらない。むしろ、今回の事件を奇貨として、自分たちが無自覚なまま自らのプライバシー情報の提供を許可している状態にあることを改めて再確認した上で、コンビニエンスとリスクは常に表裏一体の関係にあることを今一度認識する良い機会にすべきではないだろうか。
今回のLINE問題の中身とそこからわれわれが受け止めるべき教訓、アップルのトラッキング選択制度の持つ意味などについて、西田氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・日本のインフラとなったLINEに見えたガバナンスの欠陥
・韓国企業から始まったLINEのルーツ
・大きく動き始めたウェブサービスの「トラッキング」問題
・リターゲティング広告の危険性とリテラシーの重要性
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■日本のインフラとなったLINEとそのルーツ
神保: 今回はフリーライターでITの専門家の西田宗千佳さんをゲストにお迎えして、LINEの問題を取り上げます。今年3月、ユーザーの個人情報の一部が中国で見られるようになっていたということで騒ぎになり、自治体や中央官庁がLINEの使用を制限しましたが、実際に何が起こっているか、必ずしも正確に理解できていないところがあると思います。
簡単に時系列でまとめると、2018年8月〜2021年2月にかけて、中国にあるLINE Digital Technologyという会社の4人の技術者による、中国内サーバーの個人情報へのアクセスが判明。3月17日に朝日新聞がスクープし、中国では国内にあるサーバーについて、政府がアクセスできるようになっており、中国政府が望めばそのまま筒抜けになってしまうという問題が指摘されました。同19日にはLINEが外部検証委員会を設置、31日にはLINEに立ち入り検査が行われています。4月23日には同委員会がLINEに対し、業務委託先への適切な監督を求める行政指導。LINEはすべてのトークデータの日本国内への移管を発表しました。
宮台: トークデータが漏れているということは、新聞を読んでもわかりませんでした。
神保: そこはきちんと説明しないとわかりませんね。その後、総務省がLINEに行政指導を行い、データ管理やサイバーセキュリティに関する有識者会議を設立。最初にデータを紹介しておくと、LINEのMAU(マンスリー・アクティブ・ユーザー)は国内で8800万人にも及んでおり、全世界では1億を超えているといいます。本当にインフラと言っていいものになっている。
宮台: 事実上、日本の大人は全員使っているようなものですね。 -
石破茂氏:五輪開催の是非は総理自身が決断し国民に納得のいく説明を
2021-06-02 20:00550ptマル激!メールマガジン 2021年6月2日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1051回)
五輪開催の是非は総理自身が決断し国民に納得のいく説明を
ゲスト:石破茂氏(衆院議員)
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永田町では「石破はもはや過去の人」と言われているようだが、本人の話を聞く限り、どうしてどうして、政権を担当する意欲はまったく衰えていないようだ。
安倍政権下で長らく次期総理候補の筆頭にあげられながら、昨年9月の自民党総裁選で菅官房長官(当時)に大敗し、政治的には大きく傷ついたとされる石破氏はその後、将来に向けた自らの去就を明確には語っていない。政権批判も最近はとんと鳴りを潜めるなど、一頃の政治的な野心は衰えているかに思われていた。
しかし、どうやらそれは、メディアの石破氏に対する扱いが変わったことの影響という側面が大きかったようだ。少なくとも石破氏はそう感じているという。石破氏自身は自らが政権を担う意思が衰えたわけではないと明言するし、発言すべきことは発言していると言うが、その一方で、取材に来る記者や自分の発言がメディアに取り上げられる頻度は「めっきり減った」ことも認める。
と同時に、政権与党に身を置きながら現政権を批判することで、党の同僚らから「後ろから石を投げるのか」と言われ続けることにも、いい加減辟易としていると見える。それが昨秋の総裁選の厳しい結果に反映されたと見る向きも多く、石破氏自身も政権批判を封印とまでは言わないまでも、多少なりとも手控えていることは事実のようだ。
しかし、直接的な政権批判は避けながらも、現在の政府のコロナ対策の問題点を厳しく指摘する。石破氏は現在の日本のコロナ問題の本質は医療体制の脆弱性にあることを明確に指摘した上で、まず日本は何を措いてもその問題に手をつけなければならないと語る。そしてそのためには、政府・与党の責任において医療法の改正を含む、医療体制の整備を進めることが何よりも最優先で取り組まなければならない喫緊の課題だと明快に指摘する。
医療体制の強化こそが日本が最優先で取り組まなければならないことは子供でもわかることなのに、なぜ安倍政権も菅政権もそれができないのかとの問いに対し石破氏は、それはわからないが、政府が本気になればできないはずはないとして、多額の政治献金を行っている日本医師会の政治力や厚労省の官僚の抵抗が強いからなどの説明は受け付けない。その上で、仮に支持団体や官僚からの抵抗で政治的には困難とされる課題であっても、なぜその法改正が必要なのかを国民にきちんと説明し、国民の支持を得ることができれば実現は可能だと、自信をのぞかせる。
同じく東京五輪についても、決定権はIOCにあるという政府の説明を一蹴した上で、この状況下で開催の是非を決断できるのは内閣総理大臣をおいて他にいないとして、どうしても開催するのであれば、総理自身が何のために開催する必要があるのかを国民にきちんと説明し納得を得なければならないと石破氏は語る。その上で、政府とメディアが一体となって推進する立場にある五輪をかつての戦前の翼賛体制と似て危険な状態であることを指摘し、「こういう時こそ議会の役割が問われている」として、国会が何らかの対応を取るべき時に来ているとの考えを示す。
最後まで次の総裁選に出馬するかどうかについての直接の言及は避けた石破氏だったが、近々、自分なりの政策案、特にコロナ対策と安全保障政策、そして経済政策をまとめた構想は発表する用意があるとする石破氏と、コロナ対策、五輪開催の是非、政治と官僚との関係、米中対立の中の日本の安全保障上の立場などについてジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・「自分のため」であれば政治家などやめるべきだ
・医療法の改正は、いまやらずにいつやるのか
・世論に訴え、法律を変えることはできる
・ルールが捻じ曲げられた総裁選の教訓は活かされるか
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■「自分のため」であれば政治家などやめるべきだ
神保: 本日は5月28日、この収録の裏では、沖縄を除いて緊急事態宣言が6月20日まで延長され、その1ヶ月後にすました顔でオリンピックをやりましょう、という話になっています。
宮台: 検察が河井案里に渡った1億5千万円の出所として安倍立件を追及しているという話がかなり出回っており、再起訴に向けた検察審査会の二回目をいつ開催するのか、という問題と、オリンピックが関係しています。検察は非常に国民世論を気にするので、もし国民がオリンピックの開催を強く望んでいそうだとするとそれを邪魔しているかのように見えるのはいかん、あるいはオリンピックゆえにずれ込んだ政治日程とかぶるのもいかんと。そのなかで、どのタイミングで安倍逮捕に行くか、という。
神保」 コロナの状況がどれくらい深刻に見えるかは、オリンピックをやりたいかやりたくないかで随分変わるのでしょうが、いずれにしてもほとんどのことがうまくいっていない。政府は完全に機能不全に陥っているじゃないかと。
宮台: そうですね、どこを切っても金太郎飴の安倍・菅の顔で、かつて原発事故が起こった時もそうだし、ありとあらゆる問題がそうなんです。
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