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野口悠紀雄氏:仮想通貨とブロックチェーンの歴史的意義を見誤ってはいけない
2018-02-28 23:00550ptマル激!メールマガジン 2018年2月28日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第881回(2018年2月24日)仮想通貨とブロックチェーンの歴史的意義を見誤ってはいけないゲスト:野口悠紀雄氏(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問)────────────────────────────────────── 仮想通貨取引所のコインチェックから約580億円相当の仮想通貨「NEM(ネム)」が不正に引き出された事件は、仮想通貨のリスクにあらためて注目を集める結果となった。今回の事件を見て、「やはり仮想通貨は危ない」との印象を強くした人も多かったにちがいない。 確かに今回の事件の教訓として、取引所の管理体制やセキュリティの強化は急務だ。コインチェック以外にも杜撰なセキュリティ体制を放置している取引所が残っている可能性は否めない。また、仮想通貨の保有者は、通貨を取引所に預けっぱなしにしておくことに一定のリスクがあることも、この機会に知っておくべきだろう。 しかし、この事件が仮想通貨やそれを支える「ブロックチェーン」という技術そのものに対する不信感や不安を生んでいるとすれば、それは残念なことだ。ブロックチェーンに詳しい野口悠紀雄氏は、今回の事件はコインチェックという一取引所の杜撰な管理体制が引き起こした問題に過ぎず、仮想通貨の信頼性は何ら揺らいでいないことを強調する。実際、仮想通貨NEMの規格を管理するNEM財団のロン・ウォン氏は、コインチェックが、NEM財団が推奨しているマルチ・シグネチャ方式のセキュリティを採用していなかったことを指摘した上で、今回の事件でNEMのシステムは何ら影響を受けていないとしている。 野口氏は、仮想通貨は、インターネットの登場に匹敵する影響を社会に与える可能性があると語る。野口氏によると、インターネットは世界中のどこにでも瞬時に無料で情報を送ることを可能にしたことで、人類の情報伝達に革命的な影響を与えたが、2つの大きな壁があった。それは情報の信頼性と経済的な価値を送ることが難しいという2つだった。 インターネット上で何かを買う際に、聞いたことのないサイトであれば、誰もが送金をすることを躊躇うはずだ。また、ネット経由で送られてきたメールなどの情報にも、なりすましの可能性など、常に信用の問題がつきまとう。それはそのサイトの信頼性をインターネットが保証できないからにほかならない。信頼性を担保させる方法としてSSL認証などの仕組みがあるが、その認証を得るためには高い費用がかかる。結果的に、Amazonのような既に信頼性が確立されている有名なサイトは多くの人に利用されるが、そうでないサイトは万人の信頼性を得ることが容易ではなかった。 「これは世界がまだ本当の意味ではフラットにはなっていなかったということだ」と野口氏は言う。そして、そのインターネットの2つの弱点を克服する技術が、仮想通貨に使われているブロックチェーンという新しい技術なのだ。 ブロックチェーンは一言で言えば「電子的な情報を記録する仕組み」ということだが、記録の改ざんが事実上不可能という特性を持つ。記録が改変されないようにするために、ハッシュ関数という方法を使ってそこまでのすべての取り引きが記録され、それがP2Pというコンピュータのネットワークを通じて、その取り引きに関係したすべての人に共有されている。その過程で一ヵ所でも記録が変更されれば、ハッシュ関数はまるで違う文字列を形成してしまうため、改ざんされたことが一目瞭然になるというわけだ。 ブロックチェーンによってインターネットの限界だった「信用」と「経済的価値の移転」が可能になると、新しい可能性が無限に広がってくる。それは単に情報伝達手段のみならず、会社の経営の方法や家電のIoTにも多大な影響を与えることになるだろうと野口氏は言う。それほどの可能性を秘めた仮想通貨やブロックチェーンという画期的な技術の進歩を、一取引所の杜撰な管理が原因で起きた事件のために遅らせるようなことがあってはならないと語る野口氏と、仮想通貨やブロックチェーンの可能性と、それがわれわれの社会に与える影響について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・メディアが与えた「仮想通貨は危険」という誤解・データの改ざんを事実上不可能にする「ブロックチェーン」・ブロックチェーンは「経営者なき企業」すら生み出す・仮想通貨の可能性と、中国の脅威++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
■メディアが与えた「仮想通貨は危険」という誤解
神保: 今回は仮想通貨の話をもう少し掘ってみようと考えています。
宮台: 中央銀行、あるいは国が信用を支えるようなタイプの通貨ではない、仮想通貨。今回のような不正があったから直ちに可能性がなくなるというふうには言えないのかもしれませんが、素人にはそのあたりの見極めが非常に難しいですね。
神保: 仮想通貨の入門的な話は一度やりましたが、実を言うと入り口のところでまだ疑問がたくさんあります。今回は仮想通貨の第一人者ということで、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センターの顧問を務めいらっしゃいます、おなじみの野口悠紀雄さんにお越しいただきました。 さっそくですが、今回参考にさせていただいた本として、野口さんが出された『入門 ビットコインとブロックチェーン』があります。また、昨年1月には『ブロックチェーン革命 分散自律型社会の出現』を出されていますが、あえて「仮想通貨」ではなく、「ブロックチェーン」という言葉のほうを全面に出されているのは、何か理由があるのでしょうか。
野口: ビットコインの基礎にあるのはブロックチェーンという技術であって、つまり仮想通貨はその応用なんです。ブロックチェーンはそのほかにも多くの応用を持っていて、そちらのほうで将来の世界を大きく変えていく可能性がある。だから、「ビットコインだけではない」というのも重要なんです。はじめに世の中に出てきたものに過ぎず、ビットコインだけでブロックチェーンのことを判断したら間違いだということですね。
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上西充子氏:馬脚を現し始めた安倍政権「働き方改革」の正体
2018-02-21 23:00550ptマル激!メールマガジン 2018年2月21日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第880回(2018年2月17日)馬脚を現し始めた安倍政権「働き方改革」の正体ゲスト:上西充子氏(法政大学キャリアデザイン学部教授)────────────────────────────────────── 安倍政権が目指す「働き方改革」の危険性については、この番組でもかねがね指摘してきた(マル激トーク・オン・ディマンド第843回(2017年6月3日)『安倍政権の「働き方改革」が危険な理由』ゲスト:竹信三恵子氏[和光大学現代人間学部教授])。 安倍政権は一貫して労働者を保護するための労働法制の規制緩和を目指してきた。2015年にも「高度プロフェッショナル制度」の導入や「裁量労働制」の拡大などを目指して法案を提出したが、野党から「残業ゼロ法案」と叩かれ、世論の反発を受けるなどしたため、成立を断念している。 しかし、今国会に提出された「働き方改革」関連法案は、過去に実現を目指しながら挫折してきた労働者保護法制の規制緩和はそのまま踏襲しておきながら、労働側の長年の「悲願」ともいうべき残業時間の上限規制という「アメ」を含んでいるため、過去の「残業ゼロ法案」や「ホワイトカラーエグゼンプション」のような一方的な規制緩和という批判を巧みにかわすような立て付けになっている。実際、安倍首相も今国会を「働き方改革国会」と位置づけた上で、所信表明演説で、「戦後の労働基準法制定以来、70年ぶりの大改革」、「我が国に染みついた長時間労働の慣行を打ち破る」などと大見得を切っている。 しかし、労働法制に詳しい法政大学の上西充子教授は、「上限規制」という言葉に騙されてはならないと警鐘を鳴らす。確かに残業について罰則つきの上限が設けられているが、残業の上限を基本的には月45時間と定めておきながら、例外的に月100時間までの残業が認められ、年間の残業時間の上限も720時間まで認められる。毎日最低でも5時間の残業を前提とするこの上限値で長時間労働の打破と言えるかどうかも、よく考える必要があるだろう。 しかし、今回の法改正の最大の問題点は「残業時間に上限を設ける」ことで労働側に一定の配慮を見せるかのような体を繕いながら、実際は「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」の導入や「裁量労働制」の対象拡大によって、事実上、残業時間の上限自体を無力化させる制度変更が含まれている点だと上西氏は指摘する。高プロや裁量労働は、事実上勤務時間自体に定めがないため、残業が無制限に許容される恐れがある。この対象が拡大されれば、労働基準法上の残業の上限規制など何の意味も持たなくなる。 しかも、今回、労働組合側は長年の悲願だった「上限規制」が導入されることと引き換えに、事実上の上限規制の抜け穴となる高プロの導入や裁量労働の拡大を含む法改正に同意してしまっている。他にも、今回の働き方改革は「同一労働同一賃金」「働き方に左右されない税制」などの文字が並ぶが、その中身は「同一労働同一賃金」の方は非正規雇用者の雇用条件の改善よりも正規雇用者の待遇の低下を、「働き方に左右されない税制」はサラリーマンの所得控除の縮小を意味しているなど、見出しと内実がかみ合わない両義性を含んでいることを、上西氏は指摘する。 正社員と非正規労働者の待遇に不合理な格差があったり、過労死自殺が後を絶たないような現在の日本の労働環境に改革は必須だ。しかし、その問題意識を逆手に取るような形で、一見労働者の側に立っているかのようなスローガンを掲げながら、実際は労働者の待遇をより厳しいものに変えていこうとする現在の政権のやり方には問題が多い。 そもそも首相が戦後の大改革と胸を張る「働き方改革」は誰のための改革なのか。今国会の審議で明らかになってきた安倍政権の「働き方改革」の実態と、それが働く者にとってどんな意味を持つのかなどについて、上西氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・安倍政権の常套手段――きれいな看板の裏で進む真意とは・他人事に見える「高度プロフェッショナル制度」の落とし穴・際限なく広がる可能性のある「裁量労働」の範囲・日本の労働環境に処方箋はあるのか+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
■安倍政権の常套手段――きれいな看板の裏で進む真意とは
神保: 今回は、正直に言ってわれわれがきちんと取り上げてこなかった、労働法制の問題です。一度、竹信三恵子さんをお招きして、「安倍政権の『働き方改革』が危険な理由」として議論しましたが、今回はいよいよ、働き方改革国会だと。世の中的にはあまり大きく取り上げられていないように見えますが、中身に気をつけないとヤバいものがたくさん入っていると思いましたので、今回のテーマを設定しました。本当は、誰もが他人事ではなく、大きな関心事になっていいものですね。
宮台: 関心の集まり方として、就職できるかどうか、正社員になれるだろうか、給料が上がるだろうか、ということが優先項目になっています。いまの学生たちは売り手市場であっても、「仕事がきつくても正社員になれるなら」となりやすい。大学生の半分が安倍政権支持だというのは、もちろん就職率や景気が大きいところですが、彼らは必ず「いつまでもこうとは限らない」と言う。だから、できるだけこの状態を長続きさせてくれる安倍政権が必要なのだと。「景気がいい」というのがカッコつきだとしても、学生たちには背に腹は代えられないという、不安の意識と表裏一体なんです。
神保: 今回は国会審議を入り口に議論しますが、なぜ日本の労働問題がいまのような位置づけになっているのか、本当に変わってきているのかいないのか、というところまで話すことができればと思います。ゲストをご紹介します。法政大学キャリアデザイン学部教授の上西充子さんです。さっそくですが、冒頭から話しているように、「働き方改革国会」とまで言っているのに、世の中で働き方の議論にそれほど注目が集まっていないように見えるのは、どんな理由からでしょうか。
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西田亮介氏:民主国家はシャープパワーに太刀打ちできるのか
2018-02-14 23:00550ptマル激!メールマガジン 2018年2月14日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第879回(2018年2月10日)民主国家はシャープパワーに太刀打ちできるのかゲスト:西田亮介氏(東京工業大学准教授)────────────────────────────────────── 今日のテーマは今、国際論壇で話題となっている「シャープパワー」。 「シャープパワー」とはアメリカの政府系シンクタンクが昨年末にまとめた報告書で初めて使われた言葉で、民主国家を弱体化させるために、民主国家が重視する言論の自由や経済活動の自由を逆手に取るかたちで様々な工作を行う専制国家を意味している。当初は中国台頭のアメリカに対する脅威を表現するために使われた概念だったが、ロシアが2016年の大統領選挙に様々な形で介入していた事実が明らかになるにつれ、中国に加えてロシアもその対象と考えられるようになった。また、中国やロシアを手本に、そのような手法を真似て民主主義を操ろうとする国が南米や東欧にまで拡がり始めているという。 元々、国の軍事力を裏付けに影響力を行使する伝統的な「ハードパワー」に対し、20世紀末頃からハーバード大学のジョセフ・ナイらが唱えた、崇高な価値観や倫理観を通じて影響力を行使する「ソフトパワー」が重視されてきた。しかし、その崇高な価値基準を逆手に取ることで民主国家を分断したり弱体化させる専制国家の「シャープパワー」が今、台頭してきている。「ソフトパワー」の脆弱で柔らかい部分に、鋭い(シャープ)な刃先を突き刺すという意味が込められているという。 国が外交上の目的を達するために他国に対して様々な工作を行うことは、何も新しいことではないが、「シャープパワー」の特徴は、民主国家が本来の強みとしてきた民主主義の自由や開放性、経済活動の自由度などを逆手に取って様々な工作を行っている点だ。特にその中でも、ソーシャルメディア(SNS)を使った世論操作や社会分断、選挙への介入は、先のアメリカ大統領選挙や昨年のドイツの総選挙で大きな成果を上げた可能性があり、民主国家にとってはその根幹を揺るがしかねない重大な脅威となっている。 フェイクニュースの蔓延やネットを使った中傷や炎上マーケティングは以前から問題になっていたが、言わばネット社会化した民主国家の弱点を突く形で国家目的を達成したり、潜在的な敵国を弱体化させる外国勢力の活動の存在が明らかになった今、SNSのあり方があらためて問われることは避けられない。 ネットと民主主義の関わりに詳しい東京工業大学の西田亮介准教授は、それでも民主主義の利点である言論の自由を制限するような法的な規制を設けるべきではないとの立場を取るが、かといって現在のように、世論が外国勢力に乗っ取られかねない状態を放置するのではなく、「共同規制」と呼ばれる業界団体による自主規制導入の必要性を強調する。 民主主義はシャープパワーの脅威に太刀打ちできるのか。民主国家が民主主義の最大の果実である表現の自由や経済活動の自由を失わずに、専制国家に太刀打ちすることができるのか。社会がネット依存の度合いを強める中での必然な帰結とも言えるシャープパワーの台頭から、民主主義のあるべき姿を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が、西田氏と議論した。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・民主主義の弱点を刺す「シャープパワー」とは・フェイクアカウントは規制できるのか・処方箋のヒントは「動機を疑うこと」・日本の公職選挙法は、意外によくできていた?+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
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西山隆行氏:トランプ政権の1年はアメリカと世界をどう変えたのか
2018-02-07 20:00550ptマル激!メールマガジン 2018年2月7日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第878回(2018年2月3日)トランプ政権の1年はアメリカと世界をどう変えたのかゲスト:西山隆行氏(成蹊大学法学部教授)────────────────────────────────────── トランプ政権の誕生から1年が過ぎた。いざ大統領になれば多少は大統領らしく振る舞ってくれるに違いないとの淡い期待を背負って船出した政権だったが、発足直後からイスラム移民の排斥やメキシコ国境の壁建設を命ずる大統領令を乱発したのを皮切りに、とりわけ人種や人権、環境面では選挙戦中にも増した過激な言動や行動に揺れた1年だった。 気がついてみればトランプ政権は最初の1年で、TPPやパリ協定や国連のユネスコから離脱し、NAFTA(北米自由貿易協定)も再交渉を始めるなど、かつての国際社会の秩序の守護神からその破壊者へと立場を180度変えてしまった。国内的にも長い年月をかけてアメリカが適応してきた環境規制を一気に緩和したり撤廃するなど、アメリカの時計の針を少なくとも20年~30年分は巻き戻すような政策を次々と実施している。 こうした政策選択は一部の有権者には受けがよく、短期的にはアメリカに利益をもたらす可能性もある。しかし、長期的には国際社会におけるアメリカの地位を低下させ、アメリカの国力の衰退をもたらすことになりかねない、危ないものばかりだ。 また、その間、大統領選挙戦中にトランプの陣営がロシア政府と共謀して選挙に介入を試みたとされる、いわゆる「ロシア疑惑」も、ウォーターゲート事件を凌ぐアメリカ政治史上最悪のスキャンダルに発展する可能性が依然、否定できない。 11月に中間選挙が予定される2018年は、怖い物見たさ半分で様子を窺っていた有権者もそろそろ本気でトランプ政権の成果を見極めようとするだろうし、これまでのような出たとこ勝負の政権運営には早晩限界が来るだろう。そうなった時にトランプ政権がどこに向かうのかは、まったく予断を許さない。穏健路線に転じる可能性もある一方で、3割といわれる過激な鉄板支持層を堅持するために、より過激な方向に向かう可能性もある。 トランプ政権の存在は、とりわけ人種や人権面でアメリカ社会に大きな影響を与え始めている。アメリカの大統領には究極のロールモデルとしての役割が少なからずあるからだ。特に子どもたちにとって大統領の言動は、今のアメリカで何は許され、何は許されないのかを判断するための重要な規範になる。歯に衣着せぬ本音トークと言えば聞こえがいいが、人種、宗教、人権などでアメリカがこれまで守ってきた一線が大統領自身の手によって次々と壊されてきたことの影響は、アメリカ社会のみならず世界に大きく波及している。 日本でもかつて、例えば選挙制度や情報公開やNPO法のような、民主主義の制度改革が争点になるたびに、アメリカを参照点にするのが常だったが、今は何ごとにおいてもアメリカを模範とすることが難しくなっている。下手をするとアメリカが悪い見本の典型ように語られることも少なくない。困ったことに「これでも日本の方がアメリカよりまし」などと、現状肯定の言い訳に使われることも珍しくない。腐ってもアメリカはアメリカなのだ。 トランプ政権の誕生はアメリカや世界をどう変えようとしているのか。アメリカはこのまま衰退してしまうのか。そもそもトランプ政権はどこまで持つのかなどについて、アメリカ政治に詳しい西山氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・負ける前提から、大統領という地位にこだわり始めたトランプ・トランプ大統領の1年が、先験的に示したもの・トランプの政策と、検討されないサイドエフェクト・「見本の崩壊」で、日本の政治も正されない状態に+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
■負ける前提から、大統領という地位にこだわり始めたトランプ
神保: トランプ政権の誕生から1年、一般教書演説もあったということで、アメリカの話を入り口にして世界、日本を見る事ができればと思います。ゲストはほぼ1年前、前回選挙の直後にも来ていただきました、成蹊大学教授でアメリカ政治がご専門の西山隆行先生です。トランプが選挙に勝利し、「さすがに大統領になれば、そんなに無茶なことはしないだろう」という期待もあったと思います。それが予想通りだったのが、予想外だったのかということも含め、まず、西山さんはこの1年をどうご覧になっていますか。
西山: トランプというのは、思った以上に分断を深める大統領なんだな、というのが強い印象です。おっしゃるように、選挙のときは民主党と共和党の間で対立していても、大統領になればある程度、全体をまとめようとしないと統治ができない、というのが基本的な発想ですが、トランプは民主党と共和党の分断だけでなく、両党の内部も分断させてしまっている。トランプ政権になり、ある意味でアメリカ社会がバラバラになっている、その度合が以前よりも増しているというのが大きなポイントだと思います。先日の一般教書演説で、トランプが国民の団結を訴えたことで、高い評価を受けていますが、1年経ってそんなことが評価される大統領というのは、やはり前代未聞です。
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