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記事 4件
  • 古賀茂明氏:コロナと五輪で機能不全ぶりを露呈した政府がそれでもなお権力の座に居座り続けられるカラクリを斬る

    2021-07-28 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2021年7月28日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1059回)
    コロナと五輪で機能不全ぶりを露呈した
    政府がそれでもなお権力の座に居座り続けられるカラクリを斬る
    ゲスト:古賀茂明氏(元経産官僚・政治経済アナリスト)
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     ある程度予想されていたこととは言え、直前になって開会式の担当者が次々と解任や辞任に追い込まれるなど、東京五輪は麻生財務相の言葉を借りるまでもなく「呪われた」大会になることが開催前から確定的になりつつある。いや、呪いというのは誰かの恨みなどを買ったことで、本来身に覚えのない人の上に災厄が降りかかる場合に使う言葉だろうから、これは呪いでさえない。東京五輪についてはむしろ「自業自得」とか「馬脚を現した」と言った方がより正確だろう。
     コロナ対策も世界一多くの病床を抱える日本でコロナ病床への転換が一向に進まないため、感染者数としては国際的にはまだそれほど高いとはいえない水準にあるにもかかわらず、日本国民、とりわけ東京は今年に入ってからほぼ毎日、緊急事態宣言下に置かれ、行動を厳しく制限されている。コロナ病床が全病床の数パーセントしかないため、僅かでも感染者が増えればたちまち医療崩壊の淵に立たされる危険性がある状態にあるのは、1年半前から何も変わっていない。
     五輪では国立競技場のやり直し問題に始まり盗用エンブレムの採用、竹田恆和JOC会長の贈賄疑惑による辞任、森喜朗組織委員長による女性蔑視発言を始めとする数々の問題発言と相次ぐ責任者の辞任、そして箱物を含めると当初7000億円台だったはずの「コンパクト五輪」が、いつのまにか箱物を含めると3兆円超にまで膨れあがった五輪経費等々、これでもかというくらいの不祥事や失敗が続いている。
     政府がここまで機能不全に陥ったことは決して偶然ではないと、元通産官僚で公務員制度改革などにも関わった経験を持つ古賀茂明氏は言う。長年にわたる政治改革の結果、首相官邸に権力が集中した結果、その権力を能力の低い政治家が握った場合、政府自体が機能不全に陥ることは避けられない。また実質的に権力を操縦している官邸官僚も、首相の能力が低い方が操縦がしやすく、思うがままに権力を行使できるので好都合なのだと言う。
     特に安倍政権では首相の信任が篤く陰の首相とまで異名を取った今井尚哉首相補佐官が経産省の出身であったことから、経産官僚が官邸の実権を握った。古賀氏によると、古賀氏の古巣でもある経産省は高度経済成長以降は事実上省庁としての仕事がなく、経産官僚の主な仕事は補助金を配ることになっていた。
    そのため経産官僚は中身のない政策をもっともらしく見せ、面白いキャッチフレーズや話題作りで世論の目を引くことにかけてはどの省も真似できない高度なノウハウを身に付けているという。安倍政権下で使われた「アベノミクス」「一億総活躍」「働き方改革」等々、数々のキャッチフレーズが思い出されるが、その経産省の性格こそがまさに安倍政権の性格そのものになっていたと古賀氏は指摘する。
     そして、菅政権になってからも、その路線は基本的には何ら変わっていない。
     そこにコロナ禍が降りかかり、日本の真の実力が露呈してしまった。キャッチフレーズだけではコロナは乗り切れなかった。そのような状態にある日本が、思いっきり背伸びをして五輪を主催しようというのだ。あちらこちらでボロが出るのも無理はない。
     古賀氏は実際は国民の2割強しか支持を得ていない政治勢力が国会の3分の2を支配できているところに問題があるとも言う。そしてその主要因の一つが、低い選挙での投票率にある。投票を義務化でもしない限り、その問題は容易に解決しないのではないかと、古賀氏は言う。また、安倍政権以降、官邸がメディアの抑え込みに成功したことも、日本の実態を分かり難くしている一要因になっていることも事実だろう。
     今週は古賀氏と、コロナと五輪で露わになった現在の日本の明らかな機能不全とその原因、そしてその処方箋を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・「呪われた」ではなく「馬脚が現れた」東京五輪
    ・それでも余裕で構えている菅政権
    ・あらためて考える、医療法の改正ができない理由
    ・やはり日本は一度、早く終わるべきなのか
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    ■「呪われた」ではなく「馬脚が現れた」東京五輪
    神保: 今日は2021年7月23日の金曜日。一応、歴史上の日であるはずで、二回目の東京オリンピックの開会式が行われる日です。
    宮台: 64年の当時は国威発揚を担わされたオリンピックが、実際にその機能を果たしました。評論家の松本健一さんがおっしゃるように、それまで日本人は、日本はアジアの一員だと考えていたところが、西側先進国の一員だと考えるように集団的自己意識が変わり、自分たちはもはや弱者ではないという意識を持つに至った。しかし今回のオリンピックは真逆で、むしろ貫徹することにより世界に恥をさらし、日本人は深く傷つきます。
    僕はそういう意味でオリンピックが開催されることには意味があると思っており、つまり世界に恥を晒し、我々の集合的な自意識が尊厳を奪われ、日本はもはや先進国ではないどころか国としての体もなしていない、という儀式になるでしょう。 

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  • 松崎英吾氏:ブラインドサッカーに学ぶ、パラリンピックを100倍楽しむ方法

    2021-07-21 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2021年7月21日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1058回)
    ブラインドサッカーに学ぶ、パラリンピックを100倍楽しむ方法
    ゲスト:松崎英吾氏(日本ブラインドサッカー協会専務理事)
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     自国民が緊急事態宣言下に喘いでいるという時に、世界中から1万を越えるアスリートを集めて華やかなスポーツ大会を開催するというのが、常軌を逸しているとの謗りは免れない。しかし、何があろうともオリンピックをやらないわけにはいかないというのが、現在の日本の政治の現実であり、またそれが実力でもある以上、われわれとしてはその間、できる限り感染症の拡大を防ぐことに努めつつ、むしろ日本政府とIOCの傍若無人ぶりを奇貨として、オリ・パラの市民社会にとっての価値を最大化することに心を注ぐべきだろう。
     その意味でオリンピックに続いて開催されるパラリンピックは、これまでわれわれの社会に足りなかったのが何かを再点検し、それを克服する絶好の機会を与えてくれるに違いない。2015年にスポーツ庁ができるまで、一般のスポーツが文部科学省の所管だったのに対し、パラスポーツは厚生労働省の管轄下にあったという事実が、日本におけるパラスポーツの位置づけを反映している。そうした中、日本ブラインドサッカー協会は40人もの専従職員を抱える、パラスポーツの競技団体としては最も成功を収めている団体となっている。
     2007年から事務局長として同協会を牽引し、現在は代表理事も兼務する松崎英吾氏は、ブラインドサッカーの認知度が上がっていることを歓迎しつつも、まだまだ日本の市民社会の障がい者スポーツに対する認識は、「かわいそう」や「気の毒」、「大変そう」といった、同情や上から目線で見ている傾向があり、立ち後れていると指摘する。
     しかし、一度予断を抜きに観戦すると、多くの人が純粋にスポーツとしてのブラインドサッカーに魅了される。晴眼者に手を引かれながら、やや頼りなさ気にピッチに入ってきた選手たちが、いざ試合が始まると完全なアスリートに変身する。心身ともにトップアスリートとして鍛え抜かれた彼らは、聴覚、嗅覚、触覚など視覚以外のすべての感覚をフル稼働して、音源(鈴のようなもの)の入ったボールの動きや、選手自身や監督、コーラー(ブラインドサッカーでは一定の制約の下で、選手以外に監督とコーラーの2名の晴眼者がピッチ上にいる選手に言葉で指示を出すことが認められている)からのかけ声によって敵、味方の位置を把握し、ドリブルで相手を抜き、味方にパスを繰り出し、最終的にはピッチ上の唯一の晴眼者であるゴールキーパーの裏をかいた鋭いシュートをゴール隅に叩き込む。
     2002年に初めて見た日からブラインドサッカーに魅せられたという松崎氏は、代表チームに入るようなブラインドサッカーの選手たちは、類い希な空間認識能力を持っていると語る。誰がどこにどのように立っているかを認識する上で、健常者は視覚情報に頼ってしまうが、実は人間には2つの耳があるため、音源に正対することで聴覚情報から音の発信源の位置や距離をかなり正確に推し量ることができるのだという。つまり、彼らには健常者とは違う意味で、見えているのだ。この面白さが分かってくると、何気なしにみていた一つひとつのプレーのすごさがわかってくる。
     松崎氏は頭や言葉で偏見はいけない、差別はよくないと教えられ、自らもそう納得しているつもりでいても、それが実際の行動として反映されるまでには、越えなくてはならないハードルがあると語る。そして、そこでは実体験が大きなカギを握る。例えば、松崎氏が詳しいことは何も知らずに初めてブラインドサッカー合宿を見学に行った時、そのプレーぶりに衝撃を受け、たちまち虜になった。しかし、もし自分がいろいろ「宿題」、つまりいろいろと事前に勉強をして、ブラインドサッカーに対する特定の構えを作った上で合宿を見学に行っていたら、同じような衝撃を覚えることができたかどうかは疑問だと言うのだ。
     日本ブラインドサッカー協会では企業や教育委員会からの要請を受けて、ブラインドサッカーの体験学習会を開催している。そうした体験プログラムの中で実際に目隠しをしてボールを追いかけたり、他の人と手をつないでお互いの位置を確認し合うような体験をするだけで、どんなに多くの言葉を重ねるよりも、目が見えないとはどういうことか、困っている時に助け合うとはどういうことか、そして引いてはダイバーシティ(多様性)とはどういうことなのかを理解してもらえる場合が多いと松崎氏は言う。言葉で理解することはとても重要だが、その次の一歩が更に重要なのだ。誤解を恐れずに言えば、目隠しをすると、年齢、性別、外見、障がいの有無などに対する偏見は、かえって目が見えることによって助長されている面があることにも気づくかもしれない。
     今週は五輪開催を目前に控え、ブラインドサッカーを入り口にパラスポーツの魅力、パラリンピック開催の意義や障がい者に対する構えなどについて松崎氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・ブラインドサッカーの選手たちが「見える」理由
    ・先天的に目が見えないプレーヤーが有利な面も
    ・人々の潜在的バイアスを探る「IAT」
    ・ハード面に頼り切らない、真のバリアフリーを目指して
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    ■ブラインドサッカーの選手たち「見える」理由
    神保: 東京オリンピックの開催が1週間前に迫っており、どこも持っていないようなスクープ情報があれば何かやろうと思いますが、それはもういいかなと。ただ、世論調査で菅政権の支持率が急降下しています。
    宮台: 3割を切り、危険水域に入りました。
    神保: かと言って立憲民主の支持率もそれほど上がっていない。自民が21.4%、公明が2.5%、立憲が少し増えて4.5%です。内閣支持率は29.3%、不支持率が49.8%という数字です。例えばパラリンピックが中止になり、そこで日程が空いたりすると、完全に政局の時間ができてしまいますから、とにかくそれを作りたくない。実際に、韓国ドラマの権力闘争を凌ぐような事態がいま起きており、来週はそんな話をしたいと考えています。
    宮台: マックス・ヴェーバーが「没人格」と呼んだようなクズが政治家をやっているという、本当に日本人にふさわしい状態になりました。
    神保: そのクズぶりを臆面もなく隠さなくなりましたね。来週はそんな内容なので、今回はオリンピック、パラリンピック絡みの番組をぜひやりたいということで、「ブラインドサッカーに学ぶ、パラリンピックを100倍楽しむ方法」というテーマを企画しました。ゲストをご紹介します。僕にとってはICUの後輩でもあり、学生時代にはビデオニュースのアルバイトもしてくれていました。日本ブラインドサッカー協会の専務理事で事務局長の松崎英吾さんです。
    松崎: よろしくお願いします。ここに座れて光栄です。 

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  • 保坂展人氏:PCR検査とワクチン「世田谷モデル」から見えてきた日本の目詰まりの正体

    2021-07-14 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2021年7月14日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1056回)
    PCR検査とワクチン「世田谷モデル」から見えてきた日本の目詰まりの正体
    ゲスト:保坂展人氏(世田谷区長)
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     世田谷区の保坂展人区長は、新型コロナウイルスの流行が始まった2020年春、PCR検査を通じて感染源を特定することの重要性を痛感すると同時に、現行の体制では保健所が早晩パンク状態に陥ることを予想した上で、民間の検査機関なども活用しながら独自に高齢者施設などを対象とする「社会的検査」の実施に踏み切った。これは高齢者施設や介護施設などを順次定期的に検査する定期検査と、感染者が出た施設は濃厚接触者に限定せず全入居者と全職員を検査する臨時検査の2本だてからなるもので、「いつでも、どこでも、何度でも」を合言葉とする「世田谷モデル」と呼ばれた。
     しかし、保坂区長がこの方針を打ち出した当初、感染症の専門家やマスメディアからの激しい批判に晒されたという。専門家たちは口を揃えて「無症状感染者を検査しても意味が無い」といい、メディアは「そんなことをしていたずらに陽性患者数を増やせば、医療崩壊を引き起こして取り返しがつかないことになる」と騒ぎ立てたという。
     それでも世田谷区では社会的検査を続け、今年の7月6日までに定期検査を1万4,135人を対象に、臨時検査を8,694人を対象に実施した結果、122人の陽性患者を割り出している。高齢者施設や介護施設で見つかったこの122人は、もし世田谷区の社会的検査が行われていなければ、高齢者が多く滞在する施設内でクラスターを生じさせ、大惨事を引き起こしていた可能性があった。
     昨年春の段階では保健所経由で行われる国主導のPCR検査は、基本的に機械化されていない手作業の検査で、処理のキャパシティが厳しく限定されていた。しかも、当初は後に世田谷区からの働きかけなどによって解禁される「プール方式」の検査も認められていなかった。そのため、「世田谷モデル」のような「いつでも、どこでも、何度でも」を実現できるような大規模な検査を支えることは到底難しかったのだ。その一方で、当時から民間には一度に大量の検体を検査する機械化された設備を持つ機関がいくらでもあったが、感染症は厚労省と国立感染症研究所の専権事項であり、長年にわたりその聖域とされてきたため、そもそも感染症の検査を民間に出すという発想自体が存在しなかった。
     安倍首相が記者会見の場で「検査を増やそうと努力をしているが、どこかに目詰まりがあって増えない」と不思議がっていたが、世田谷区が民間の検査機関を利用した結果、検査件数は容易に増やすことができていたのだ。
     ワクチン接種を巡っても、世田谷区と東京都、厚労省の間には様々な行き違いが生じている。菅首相の「とにかく打ちまくれ」の号令の下、当初の予定を大幅に超える数のワクチンを職域接種に回してしまったため、元々自治体に回ってくるはずだったワクチンに欠品が出始めているのだ。現時点ではまだ世田谷区では問題は顕在化していないようだが、今後、既に受け付けた予約分の接種を打てなくなる自治体が続出する可能性が出てきている。
     コロナ対策は日本の中央と地方の歪な関係をあらためて浮き彫りにした。中央で決めたことを一律に地方に押しつけるやり方が限界に来ているのは明らかだった。そもそも日本は人口当たりの公務員の数が主要先進国の中で最も少ないが、特に日本は国家公務員の数がとびきり少ない。人口あたりの国家公務員数は、中央集権国家の日本の方が、連邦制を敷くアメリカやドイツよりも遙かに少ない。その少ない国家公務員に莫大な権限と財源(税収)が集中しているのが日本なのだ。そして、過去25年にわたり官邸に権限を一極集中させてきた結果、その莫大な権限をほんの一握りの官邸官僚が差配している。
     コロナ対策はその体制の限界を示しているのではないか。コロナはまた、世田谷区のように首長が独自のイニシアチブを取り、国と折衝に当たれる自治体と、そうでない自治体で大きな差が出ることをも露わにしている。
     今週のマル激では保坂展人区長と、PCR検査の世田谷モデルの経験や、ワクチンで国に振り回された経験などを通じて見えてきた「目詰まり」や「政府の機能不全」の正体について、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・あまりにも遅れた日本の感染症対策
    ・「世田谷モデル」で見えた合理的な検査体制
    ・自治体を襲った「ワクチン不足」のお粗末さ
    ・国家公務員の異常な少なさと、集中する権力
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    ■あまりにも遅れた日本の感染症対策
    神保: 本日はゲストに世田谷区長でジャーナリストでもある保坂展人さんをお迎えして、「世田谷モデル」と呼ばれる新型コロナウイルス対策で見えてきたことについて伺いたいと思います。思えば初当選は2011年、震災の直後でいろいろ大変な時期でしたが、今回またコロナがあって。さっそく、世田谷モデルとは、というところから聞かせてください。
    保坂: 昨年の7月末、東京大学・先端科学技術研究センターの児玉龍彦先生が世田谷区のアドバイザーになり、有識者会議で提案をされたのが始まりです。まずはPCR検査をプール方式で徹底的にやろうと。その対象として、本来はあまねくやりたいが、最重要なのは介護や保育など、社会機能に欠かせない仕事に就いている方で、感染があるかないかは別として、定期的に検査をするべきだと。
    神保: 当時は検査が受けたくても受けられないという状況で、増やすべきではないという議論もありました。そのなかで、世田谷モデルは「いつでも、どこでも、何度でも」を合言葉としましたね。
    宮台: 補足すると、昨年1月の段階で尾身茂さんがPCR検査について「どんどんやるべきだ」と言っていたのが、2月になって突然、「増やすと医療崩壊するから制限しなければいけない」と、コロッと態度を変えました。 

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  • 生越照幸氏:赤木俊夫さんの死を無駄にしないために

    2021-07-07 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2021年7月7日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1056回)
    赤木俊夫さんの死を無駄にしないために
    ゲスト:生越照幸氏(弁護士・赤木雅子氏代理人)
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     幼稚園児に教育勅語を暗唱させ、新たに申請する小学校の名前を安倍晋三記念小学校と名付け、現職の首相の妻を名誉校長に迎えるなどして話題をさらっていた学校法人森友学園が、豊中市に国有地をただ同然で取得していた疑惑が持ち上がり、国会で追及されるなどして政治問題化したのが、いわゆる森友学園問題だった。
    交渉過程を隠蔽する目的で行われた文書改ざんの過程で、公文書の改ざんという違法作業を無理矢理強いられた近畿財務局職員の赤木俊夫さんが、それを苦に自殺に追い込まれたという事実は、疑惑でも何でもない、紛れもない事実だ。森友問題はついつい「アベガー」、「スガガー」といった方向に行きがちになるし、実際に彼らの責任が重いことは論を俟たないが、「なぜ赤木さんが自殺に追い込まれなければならなかったのか」や、「どうすれば赤木さんを死なさずに済んだのか」といった論点が見落とされがちになる。
     そこで今週のマル激では、赤木さんの自殺の真相を明らかにすべく、国と佐川氏を相手取り損害賠償訴訟を起こしている俊夫さんの妻・雅子さんの代理人を務める生越照幸弁護士をゲストに招き、赤木雅子さんや、俊夫さんの主治医だった精神科医の岩井圭司医師などへのインタビューも交えながら、何が俊夫さんを自殺に追い込んだのかや、どうすれば俊夫さんを死なさずに済んだのかなどを考えた。
     元々森友学園との交渉を担当していたわけではなかった赤木俊夫さんが、文書の改ざん作業に駆り出されたのは2017年の2月26日のことだった。安倍首相が国会で「私や妻が関与していれば総理も議員もやめる」と大見得を切った9日後のことだ。
     当初俊夫さんは改ざん作業に抵抗し、強く抗議する姿勢を見せたが、財務省本省は俊夫さんの直属の上司なども通じて俊夫さんを説得し、最終的には俊夫さんは改ざん作業に駆り出される。一見、大人数で改ざんが行われる集団に俊夫さんも駆り出されたかのように受け止められがちだが、その実態は俊夫さんだけが改ざん作業を強いられ、上司は俊夫さんに命じるだけで実際の改ざん作業には手を染めていなかった。また俊夫さんは後輩にはこんなことはやらせてはいけないと考え、自分一人で違法行為の汚名を背負った。結果的に俊夫さんが違法行為の「実行犯」となった。
     雅子さんによると、改ざん作業が始まってから(雅子氏は作業の内容が文書の改ざんだったことは自殺の直前まで知らされていない)俊夫氏の精神は「みるみる壊れていった」という。そして3ヶ月後の7月17日、俊夫さんは自宅近くの精神科を訪れ、うつ病と診断される。
     この日から自殺する翌年3月まで、ほぼ2週間おきに俊夫氏を診断してきた精神科の岩井圭司医師は最初の見立てで、公務員としてのアイデンティティが強く、遵法精神や規範意識が強い俊夫氏が何か倫理的な葛藤を抱えている可能性が高いと感じたと言う。
     多くの事件で自死遺族の代理人を務める生越照幸弁護士は、近畿財務局が改ざんの事実を俊夫さん一人に押しつける形になったことをとりわけ問題視する。事の重大性故に誰にも相談できないまま、俊夫さんは追い込まれていった可能性が高い。
     岩井氏は、俊夫さんのうつ病のストレサー(ストレス要因)が職場絡みであることは明らかだったので、病欠で職場から引き離すことが重要と考えていたが、近畿財務局側から委託を受けた産業医はそうは考えておらず、早く職場に戻そうとしていた。それも俊夫さんには大きなストレスになっていたと岩井氏は言う。
     人よりとびきり倫理観や規範意識が強かった俊夫さんは、自らの意思に反して公文書の改ざんという公務員にあるまじき違法行為を強いられ、「自分がもっとも大切にしていたものを汚されてしまった」(岩井医師)。そして、事の性格ゆえに職場でも家庭でも、そして精神科医にさえそのことを相談できず、一人で悩みを抱え、最後は自らの命を絶ってしまった。その間、俊夫氏を支えるべき日本の労働医療のシステムや公益通報などの法制度はあまりに脆弱だったといわざるを得ない。
     俊夫さんの場合は特殊な事情もあるが、それでも似たような職場に起因するストレスが原因で、最終的に自殺に追い込まれている人の数は枚挙に暇が無い。また、自殺に至らずとも、重篤なうつ病に悩む人も多い。森友学園問題がこれだけ全国的に注目を浴びる事件になったのなら、俊夫氏を支えきれなかった制度の弱点や欠点を徹底的に見直し、新たな対応を考えることで、俊夫氏と同じような辛い経験をしなければならない人を一人でも減らすことこそが、森友学園問題のもう一つの真相に迫ることにつながるのではないか。
     赤木雅子氏代理人であり、自殺対策全国民間ネットワークの幹事や、自死遺族支援弁護団の事務局長を務め、現在 、厚生労働省「自殺総合対策の推進に関する有識者会議」の委員も兼務する生越弁護士と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・告発ですべてを失う役人と、それでも自らの倫理観に従った赤木氏
    ・妻・雅子氏と主治医・岩井氏の証言から見えること
    ・「主治医」と「産業医」の立場と見解の違い
    ・裁量はほしいが責任は負わない、行政の体質
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    ■告発ですべてを失う役人と、それでも自らの倫理観に従った赤木氏
    神保: 今回は、僕が拘ってきた問題を取り上げたいと思います。先週、世の中的には「赤木ファイル」というものが世の中に出ましたが、これまで掘られていないようなアングルから、報じるべきことが残っているのではないかと。2週間ほど取材してきましたので、その成果も含めて、近畿財務局職員・赤木俊夫さんの自殺問題に光を当てたい。ゲストは、現在赤木雅子さんの裁判の代理人を務めておられます、弁護士の生越照幸さんです。早速ですが、赤木ファイルが出た後、少し落ち着いたなかで、どんな心境でおられますか。
    生越: 赤木ファイルが出るかどうかは、この訴訟における節目だったと思います。これまで赤木俊夫さんがどういうことをしていたか、させられていたか、ということに関する客観的な証拠はまったく存在しなかった。今回、文書提出命令を申し立て、裁判所の指示に基づいて国が任意で出したファイルによって、それが初めてわかったわけです。これは非常に大きなことだと考えています。 

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