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  • 三牧聖子氏:アメリカではなぜ妊娠中絶がそこまで大きな政治的争点になり続けるのか

    2022-11-30 20:00  
    550pt
    マル激!メールマガジン 2022年11月30日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1129回)
    アメリカではなぜ妊娠中絶がそこまで大きな政治的争点になり続けるのか
    ゲスト:三牧聖子氏(同志社大学グローバル・スタディーズ研究科准教授)
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     空前のインフレ下で行われた先のアメリカ中間選挙は共和党有利の下馬評に反して大接戦となったが、最後は人工妊娠中絶が争点となった州の議席を民主党がことごとく押さえたため、両者の痛み分けの結果となった。また、中間選挙と同時にミシガン、バーモント、カリフォルニア、ケンタッキー、モンタナの5州で中絶の是非を問う住民投票が行われたが、5州すべてで中絶の権利を支持する勢力が勝利している。NBCの出口調査によると、先の中間選挙で最も重視したテーマに中絶を挙げた人は、インフレ対策に次いで2番目に多い27%にのぼった。
     2022年6月24日、トランプ前大統領に指名された3人を含む保守派主導の最高裁は、いわゆるドブス対ジャクソンと呼ばれる裁判の判決で、1973年以来50年にわたりアメリカで中絶の権利を保障する根拠とされてきたロー対ウェイド判決を覆し、合衆国憲法は中絶を権利として認めていないとする判断を示した。アメリカ政治を専門に研究し、中絶問題にも詳しい同志社大学の三牧聖子准教授は、今回の中間選挙の結果は、これだけ民主主義を標榜しているアメリカという国で中絶の権利が否定されたことが、特に若い世代に衝撃を与え、それが選挙結果に大きく影響したと指摘する。
     それにしてもなぜアメリカでは、未だに中絶問題が政治的争点となり続けるのだろうか。
     それを理解するためには、中絶の権利を保障してきた1973年のロー判決の中身を知る必要がある。ロー判決には、一つ大きな弱点があった。それはこの判決が妊娠期間を初期3ヶ月、中期3ヶ月、後期3ヶ月の3つに区分する「トライメスター」といわれる枠組みを示した上で、初期3ヶ月は中絶を認め、中期3ヶ月は母体の健康を保護するために州が介入してよいとし、後期3ヶ月は胎児が母体外で生存可能な状態にあることを根拠に、州が中絶を禁止してもよいとしていたことだった。ロー判決が中絶の権利を絶対的なものではなく、妊娠の期間によって変化する相対的なものとしたことで、中絶を禁止したい保守勢力はロー判決以降、様々な条件を付けて中絶の権利を制約していく戦略を採用した。そうして1989年のウェブスター判決や91年のラスト判決などを通じて、未成年の場合は親の承諾を要求することや、州が中絶を思いとどまらせるようなカウンセリングを行うことが合憲とされるなど、中絶の権利に対する制約が次々と課されていった。今回のドブス判決はその集大成であり、最後のダメ押しという性格を持っていた。
     また、保守派の間では、中絶の是非はそれぞれの州が決めるべき問題であり、ロー判決のような形で連邦政府がとやかく言うべき問題ではないとの考えも根強く残っている。
     本来アメリカの世論はリベラル、保守を問わず、中絶の権利を支持する勢力が多数を占めている。そうした状況の下で、最高裁が今回のような世論と乖離した判断を示したことの影響は、今後どのような形で表面化するのだろうか。世界ではカトリック教徒が多数を占めるラテンアメリカ諸国やアフリカの国々を含め、中絶の権利を認める国が大勢を占めている。過去30年間で中絶を制限する方向に進んでいるのは、ロシアと中東のイスラム諸国くらいだ。こと中絶に関しては、アメリカは今、彼らが最も軽蔑しているはずの専制国家やイスラム国家群の仲間入りを果たそうとしているのだ。同志社大学准教授の三牧聖子氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が未だに人工妊娠中絶が政治の主要な争点となるアメリカ政治の現状について議論した。
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    今週の論点
    ・ロー判決とは何だったのか
    ・中絶をめぐる最高裁判決の歴史と保守派の巻き返し
    ・ロシアと潜在的に価値観を一致させていく米国右派
    ・民主主義的資本主義か、権威主義的資本主義か
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    ■ ロー判決とは何だったのか
    神保: こんにちは。今日は2022年11月25日の金曜日、第1129回目のマル激となります。今回は、アメリカで中絶問題がなぜこうまで大きな政治的争点になるのかという謎を解き明かそうという企画です。11月の上旬に中間選挙があり、上院はジョージアで決選投票が残っていますが、ほぼ結果が出そろいました。
     2022年にいたってもやはり、人工妊娠中絶問題が選挙結果を左右するような争点になります。もちろん、その直前に大きな判決があったからなのですが、でもなぜそうなのかということをきちんと説明している番組を、少なくともテレビなどでは見た記憶がないんですよ。それは、そんなに簡単じゃないからだと思います。歴史から紐解いていかないといけないですし、宗教も絡んでくるしということで、それにあえてチャレンジしようじゃないかと。
    宮台: 2016年のヒラリー・クリントンとトランプの大統領選挙においても、実は問題になっていたのは中絶なんですね。日本では全然報じられていませんが、Googleトレンドで選挙直前4日間くらいを調べてみると、圧倒的にabortion(中絶)がトップに上がっていました。 

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  • 石川幹子氏:神宮外苑の再開発をこのまま進めてよいのか

    2022-11-23 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2022年11月23日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1128回)
    神宮外苑の再開発をこのまま進めてよいのか
    ゲスト:石川幹子氏(東京大学名誉教授)
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     この季節、神宮外苑絵画館前のイチョウ並木には多くの人が訪れ、黄色く色づいた樹木の下で散策を楽しむ。この光景が今後も続くか、今、瀬戸際にたたされている。
     神宮外苑の再開発は、2020東京五輪のために建設された新国立競技場(今は、新がとれて「国立競技場」と表現される)を手始めに今後、神宮球場と秩父宮ラグビー場の建て替えや商業施設、超高層ビルの建設と、今後10数年かけて行われる都心の大プロジェクトとなっている。
     夏には環境影響評価審議会の答申が出て、あとは着工を待つばかりの段階だ。今年に入って、外苑の1,000本近い樹木の伐採が計画されていることが明らかになり反対運動も起きたが、計画の見直しの動きはない。
     都市環境計画が専門で東京大学名誉教授の石川幹子氏は、計画を進める段階で事業者側も東京都も情報を公開して市民とともに考えていこうという姿勢がなく、誠実さが足りないと憤る。
     今年10月になって事業者が公表したイチョウ並木の調査は4年前の冬のデータで、現時点でのイチョウの活力度を反映していない。今月になって石川氏が樹木学者の濱野周泰氏の協力で146本のイチョウをあらためて調査したところ、すでに枯れかかっている木があることが明らかになった。
    計画ではこのイチョウ並木から8メートルのところに神宮球場が移設されることになっており、陽当たり、風の通り具合など、環境が激変することが予測されることから、イチョウ並木の存続が危ぶまれるという。本編では、石川氏の案内で現地の状況を取材した様子を収録しているのでぜひご覧いただきたい。
     事業者側は、今回の再開発計画では新規に800本余りの樹木を植えることから、合計樹木の本数は増えると説明しているが、一方で献木も含めて樹齢100年近い大木の多くが伐採されることになる。石川氏は神宮外苑は大正期に「憩いと安らぎの庭園」として創り出された文化的資産であり、国民の重要な“グリーンインフラ”だと指摘し、計画見直しの必要性を訴える。
     石川氏は、東日本大震災後、宮城県岩沼市で住民とともに復興のまちづくりに取り組んだ経験をもつ。伝統的な“いぐね”とよばれる緑に囲まれ、緑道と公園が配置された新しいまちは、被災者と何度もワークショップを繰り返し、住民・行政・専門家が協力してつくりあげた。その体験からも、多くの人が関わって作り上げていくことの重要さを指摘する。
     そもそもなぜ今、神宮外苑を再開発しなければならないのか、文化的資産でもある外苑の環境をどうしたら維持できるのか、大規模な開発計画に私たちはどう関われるのか、神宮外苑再開発に専門家の立場から疑問を発し続けている石川幹子氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。
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    今週の論点
    ・神宮外苑の再開発をめぐり何が起きているのか
    ・ザハ案の失敗に学び、粉飾決算された神宮外苑再開発案
    ・事業者による的外れな調査データと遅すぎる環境アセスメント
    ・「スぺース」のデザインから「プレイス」のデザインへ
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    ■ 神宮外苑の再開発をめぐり何が起きているのか
    迫田: こんにちは。11月18日金曜日、1128回目のマル激トーク・オン・ディマンドです。今日は神宮外苑の再開発、そして自然と人間が共生するまちづくりをどう考えたらいいかという話をしたいと思います。ちょうど今、イチョウ並木が綺麗な時ですが、再開発の計画が進んでいます。
    宮台: 代官山のまちづくりの計画を60年代からされている、槇文彦さんという素晴らしい建築家がいます。その方が、2013年の夏に新国立競技場案に反対するアピールを建築雑誌に載せたことから、僕も呼ばれて、2013年10月11日に「新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える」というシンポジウムをやったんです。他に陣内秀信さんや古市徹雄さんなどの建築家の方々がいらっしゃって、僕だけ社会学者として参加していました。
     いくつかの論点があったんだけど、僕は社会学者なのでまちづくりがどうあるべきなのかという点から話しました。一つの論点は、新国立競技場ができてしまうと、もちろん高さ制限は撤廃されるわけですが、歩行者としてのスケールというのがあるんですね。僕は「歩行スケール」、「車スケール」と言っています。まちが僕たちに与える体験が全く変わってしまうことをどう考えるのか。それに関する学問があるので、それを紹介しました。
     もう一つは、高さ制限撤廃により地価がめちゃくちゃ上がるので、地権者にとっては上手く売りぬければ大変にお金が儲かるということですよね。おそらく、そういう問題も絡んでいると。オリンピックの必要から大きい新国立競技場を建てる、当時はザハ・ハディッドさんというもう亡くなった方の建築プランが槍玉に上がっていたのですが、2013年当時、僕はそういう観点から問題にしていたんです。残念ですが予想通りのことになりました。 

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  • 前嶋和弘氏:民主政の崩壊寸前で踏みとどまった米中間選挙とキャンセルカルチャー

    2022-11-16 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2022年11月16日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1127回)
    民主政の崩壊寸前で踏みとどまった米中間選挙とキャンセルカルチャー
    ゲスト:前嶋和弘氏(上智大学総合グローバル学部教授)
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     崩壊の淵にあるアメリカの民主主義が、辛うじて踏みとどまったかに見える中間選挙だった。
     元来、中間選挙は政権与党に厳しい結果が出る。市民がインフレに喘ぐ中行われた今回の中間選挙でも、バイデン大統領の不人気とも相まって、民主党が大幅に議席を減らすことが予想されていた。そして、入れ替わりにトランプ前大統領に支持されたエレクション・ディナイヤー(選挙否定派)と呼ばれる保守派の議員が大挙してワシントンにやってくるはずだった。
     ところが、いざ蓋を開けてみると、共和党の票は伸び悩んだ。特にトランプ前大統領の支援を受けた「トランプ派」の候補が軒並み落選したため、投票日から4日経った今も上下両院ともに、どちらの党が過半数の議席を獲得したかを確定できない状態が続いている。
     最新の開票状況を見る限り、上院では今も議席が確定していない3州のうち、民主党はアリゾナ、ネバダの両州で勝利し、12月のジョージア州の決戦投票の結果を待つまでもなく、上院の過半数を維持する可能性が濃厚となっている。
     さらに、下馬評では大勝が確実視されていた下院でも、トランプ派の候補が次々と落選している。開票の最終盤に来て、共和党は大勝はおろか過半数も獲得できない可能性が見えてきた。本稿執筆の時点で下院では当選者が確定していない選挙区が21残っているが、そのうち共和党はあと7つを取れば過半数に達するところまで来ている。ところが、まだ未開票の票の大半は伝統的に民主党票が多い期日前投票分なので、共和党はその7つの議席の確保すら危ぶまれている。共和党にとってはよもやの事態となっているのだ。
     自分たちに都合の悪い選挙結果を受け入れず、根拠もなく選挙に不正があったと主張するトランプ派の議員がワシントンの連邦議会の過半を占めるようなことになれば、アメリカの民主主義は根底から壊れてしまう。今回は辛うじてギリギリのところでアメリカの有権者が良識を示して見せた形となった。
     残る選挙区の結果がどっちに転ぼうが、中間選挙の大勝を自分の手柄にした上で、その勢いを借りて来週にも2024年の大統領選挙への出馬を表明する予定だったトランプ氏の目論みは、根底から崩れてしまった。15日に予定されていた次期大統領選への出馬表明も、見合わせられる可能性が取り沙汰されている。楽勝ムードが一転して共和党不振の責任を問われる形となったトランプ氏は、すこぶる機嫌が悪いそうで、ここ何日かは誰彼構わず周囲の人間を怒鳴り散らしていることが報じられている。
     アメリカ政治が専門の前嶋和弘・上智大学総合グローバル学部教授は、大統領が不人気で空前のインフレの中で行われた選挙であったにもかかわらず、民主党が大敗しなかった原因の一つに、今年6月、最高裁が中絶の権利を認めた1973年のロー対ウェイド判決を覆したことへの危機感があったと指摘する。
     また、トランプ前大統領が中間選挙投票日の前日に次期大統領選への事実上の出馬表明をしたことも、逆に民主党支持層を投票所に駆り立てる結果を生んだと見られている。
     今回トランプ派の候補が軒並み落選し、トランプ流の戦い方では共和党は選挙に勝てないことが、2020年に続いて再び明らかになった。共和党内にも、早くもトランプ氏と決別すべきだとの声が上がり始めている。今回の選挙結果は、2024年の大統領選挙の候補者選びにも影響が出てくるだろう。
     しかし、仮にトランプ派が一掃されたとしても、アメリカの分断がより深刻化していることは誰の目にも明らかだ。民主党支持者は中絶問題や銃規制問題、地球温暖化問題を最優先課題に挙げているのに対し、共和党支持者はインフレ対策や移民制限、犯罪対策が一番の関心事だという。両者の間にはもはや熟議や交渉によって妥協点を見出すことは困難に見える。トランプに代わる新たな共和党のリーダーとして頭角を現しているロン・デサンティス・フロリダ州知事は、政策的にはトランプよりもさらに右寄りだ。
     また、アメリカの分断は日本にとっても決して他人事ではない。
     今回は米中間選挙の結果を検証した上で、アメリカ政治の底流に流れる「キャンセルカルチャー」や「クリティカル・レース・セオリー(批判的人種理論)」などについて、希代のアメリカウオッチャーの前嶋氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・ロン・デサンティス・フロリダ州知事とは何者か
    ・民主党と共和党の分断の根深さ
    ・国民国家の解体と政治的価値観の分極化
    ・アメリカはどこへ向かうのか
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    ■ ロン・デサンティス・フロリダ州知事とは何者か
    神保: 今日は2022年11月11日金曜日、第1127回のマル激です。先週予告した通り、今週11月8日にはアメリカの中間選挙もあったので、しばらくアメリカの政治を正面から扱っていなかったこともあり、アメリカで何が起きているのかという話をしようと思っています。宮台さん、冒頭で何かありますか。
    宮台: アメリカだけではなく、アメリカを筆頭にして民主制の今後はどうなるのかを占う面もあるというふうに関心を持って見ています。それから、イーロン・マスクがTwitterのレギュレーションを大幅に緩めて、かつ数日前に「自分は一貫して民主党支持だったが今回は共和党を支持する」と明言したことの意味ですよね。今日のテーマ、キャンセルカルチャーにもすごく密接に関連する問題です。
    神保: そうですね。アメリカで起きていることは、形を変える場合はありますが、5年、10年遅れでほぼ間違いなく日本で起きるということもあるので、アメリカを見ることで、こうならないためにどうしたらいいのかということも考えていけたらと思います。ただ日本では、分かっていてもできない場合も多いですが。
     今回は中間選挙なので、4年ごとの大統領選挙とは違い、議会と州知事以下の選挙です。州知事の改選州は36州ですね。それから州務長官や州の司法長官、州によっては州の裁判官の選挙も同時に行われますので、影響がすごく大きな選挙です。 

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  • 野口悠紀雄氏:未曾有の円安で日本が完全に没落する前に

    2022-11-09 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2022年11月9日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1126回)
    未曾有の円安で日本が完全に没落する前に
    ゲスト:野口悠紀雄氏(一橋大学名誉教授)
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     今の日本の国力が1970年代初頭のレベルまで落ちていることを、どれだけの人が実感できているだろうか。
     未曽有の円安が進んでいる。2022年10月21日には1ドル=150円まで円は売り込まれ、為替レートとしては1990年以来、32年ぶりの低水準となった。しかし、1ドル=150円という現在の為替水準は、必要な輸入品に対する円の購買力を示す実質実効為替レート指数としては、1970年とほぼ同水準まで下がっている。かつて世界一を誇った一人当たりGDPや国際競争力も、日本は先進国では最下位に落ち込み、今や一部の途上国にも追い抜かれ始めている状態だ。
     わかりやすい事例として英エコノミストが発表しているビッグマック指数というものがある。今年の7月段階で日本のビックマックの価格が390円だったのに対し、スイスでは925円、アメリカでは710円と、同じ商品の価格が1.5倍から2倍以上も開いている。今や日本のビッグマックはタイ(481円)やベトナム(406円)よりも安い。遂に「安いだけが取り柄の日本」になってしまった。
     日本が自給自足ができる国であれば、為替レートをそこまで気にしないでもいいかもしれないが、日本は食料自給率もエネルギー自給率も先進国としては最低水準にある。その日本で、円の価値が下落し続けることのリスクははかり知れない。しかも、政府がこの問題に本気で取り組む姿勢を見せていないことから、残念ながら現在の円安傾向は止まるどころかまだまだ進む可能性が大きい。
     一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏は、円安は一部の大企業にとっては天からの恵みとなるが、消費者や労働者など弱い立場にいる人たちを苦境に追い込む。輸入価格の高騰によって消費者物価が上がる一方、賃金は上がらないため、生活は日に日に困窮していくことになる。また、原価の高騰を価格に比較的転嫁しやすい大企業は円安によって利益を増やしているところもあるが、弱い立場にあり容易に価格転嫁ができない中小・零細企業は円安によって経営は苦しくなる一方だ。
     岸田政権は10月28日、「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」と銘打った経済対策を閣議決定したが、財政出動で39兆円、事業規模で71兆円という法外な規模の割には、本質的な問題にはまったく対処できていないと野口氏は対策の中身を酷評する。そもそも物価高騰の原因が政府が主導してきた円安誘導政策であることを棚に上げ、物価高騰だけが問題であるかのようにして、その対処に何兆円もの税金を投入する経済対策では借金が積み上がるばかりで日本が抱える問題は何も解決されないと野口氏は言う。
     結局のところ、日本がすべきことは短期的には円安の原因となっている日米、日欧間の金利差を縮めるために、長年の円安誘導政策を転換し利上げに踏み切るしかない。また、長期的には労働生産性をあげて賃金が上がるようにするしかない。しかし、アベノミクスなどの円安政策はいわば麻薬のようなもので、産業界を麻薬漬けにすることで、日本は必要な産業構造改革を先送りしてきた。その結果、一部の大企業が莫大な利益を享受する一方で、産業構造の改革、とりわけ90年代後半以降のインターネット時代のイノベーションから日本は完全に取り残され、本来は退場してしかるべきゾンビ企業の多くが生き残ったため、日本の生産性は先進国で最低水準にまで低下してしまったと野口氏は言う。
     円安が進めば、日本は単に70年代初頭の貧しい時代に舞い戻るだけでは済まされない。なぜならば50年前と異なり、今の日本は空前の高齢化を迎えているからだ。このままでは能力のある人は日本から離れ、高齢化社会を支える介護や福祉を担う人材を確保することが難しくなるだろうと野口氏は言う。
     円安は日本にどのような危機をもたらすのか。なぜ日銀は金利を上げないのか。上げないのか、上げられないのか。もはや日本は衰退していくしかないのか。窮余の策はあるのかなどについて、野口氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・日銀が金利を上げられない理由
    ・1970年代まで後退してしまった日本円の購買力
    ・最悪のシナリオを避けるために
    ・産業構造改革に成功するかわりにトランピストを生んだアメリカ
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    ■ 日銀が金利を上げられない理由
    神保: こんにちは、今日は2022年11月4日金曜日です。円安がニュースになっていますが、その背後にある非常に深刻な問題、日本経済の構造的な問題がついに円安という形で露呈しているなかで、国家百年の計というか、破滅してしまうくらいの重大な局面だという危機感の下に、何をしなくてはいけないのかを考えようと思い、今日の番組を企画しました。
    宮台: 社会学者から見て最大の問題は、労働生産性、一人あたりGDPが低いことです。その原因は、産業構造改革ができないこと。規制改革と言いながら、既得権益を軽くするだけの非正規雇用化を行っており、あるいは垂直統合問題も解消されていません。つまり既得権益を動かせません。
     さらに、じゃぶじゃぶ税金をつぎ込んではどんどん中抜きしていくという構造があり、そうした既得権益あるいは中抜き企業にたくさんの役人たちが天下りしているという問題もあります。これで生産性が上がればおかしいです。日本には、GAFAMあるいは韓国や台湾に象徴される半導体産業に相当するようなものはありません。
    神保: 当然の帰結ですし、その権化たる政党に、実際は2割くらいの人とはいえ、最大多数の人が投票しているわけです。 

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  • 岸本聡子氏:国際NGOの経験を区政に活かすカギは住民との対話

    2022-11-02 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2022年11月2日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1125回)
    国際NGOの経験を区政に活かすカギは住民との対話
    ゲスト:岸本聡子氏(東京都杉並区長)
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     東京に異色の区長が誕生した。選挙直前まで18年間ベルギーに在住し、国際NGOで新自由主義や市場原理主義に対抗する公共政策の立案や、世界各国の市民運動の支援を行ってきた岸本聡子氏だ。
     ベルギーに住んでいた岸本氏は東京杉並区の市民団体からの要請を受け2022年6月の区長選への出馬を決意、4選を目指した現職の田中良氏を約187票差で破り区長に当選した。東京23区では3人目の女性区長となる。
     区長に就任するまでの18年間、岸本氏はオランダやベルギーをベースに、反グローバル化のシンボル的な存在である政治経済学者のスーザン・ジョージ氏が代表を務める国際NGO、トランスナショナル研究所の研究員として、世界各国で進む水道民営化の問題点を研究し反対運動を支援するかたわら、各国政府に対して政策提言を行うなどのアドボカシー活動を続けてきた。
     東京生まれで横浜育ちの岸本氏は区長選に出馬するまで、杉並区とは縁もゆかりもなかった。行政経験も皆無だが、NGOの立場から世界各国の政府と渡り合ってきたという自負はある。異色の経歴を持つ新区長の誕生に、地元杉並区は活気づいている。それは23区で6番目に多い人口約57万人を抱える杉並区が、原水爆禁止署名運動発祥の地でもあり、全国で初めてレジ袋税を導入するなど、元々住民運動が盛んな自治体であることとも関係があるかもしれない。
     とは言え、有権者と対話を続けながら公約をアップデートしていくという独特な選挙戦を戦った岸本氏の眼前には課題が山積している。児童館の再編問題や西荻窪や高円寺駅周辺の道路拡幅問題などは、選挙戦でも争点となった喫緊の課題だ。
    また、岸本氏が強い関心を持つジェンダーギャップも深刻だ。杉並区役所には約6,000人の職員がいるが、そのうち約2,500人が非正規雇用で、その約9割が女性となっている。日本はジェンダーギャップ指数が146ヶ国中116位、政治分野では139位と、主要先進国でもアジアでも最下位という状況のなか、岸本氏は「地域で頑張っているのは女性なのに、ケアワーカーなどの声が区役所に届く回路がないことが問題」と語る。
     また、番組内で岸本氏は、同性婚のみならず事実婚のカップルにも法的な地位を与える新たなパートナーシップ制度の創設や、予算に市民の意見を採用する市民参加型予算の導入、住民が気候変動への対応を話し合う気候市民会議の設置、給食費無償化の実現などの抱負を語る。
     区長に就任して約4ヶ月。異色の経歴を持ち、毎日自転車で区役所に登庁している岸本氏を杉並区役所に訪ね、国際NGOでの経験をいかに区政に活かそうと考えているのか、どう住民の知恵を生かして区政を進めていくかなどを、岸本氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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    今週の論点
    ・就任から約4ヶ月で見えてきたもの
    ・統治権力の内側では、外にいた時とは違う、政策パッケージの有効性が問われる
    ・対立を作るのではなく、住民との対話を生み出すための情報公開
    ・引き受けて考えると、集合的な力になっていく
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    ■ 就任から約4ヶ月で見えてきたもの
    神保: 今日は、見てすぐに部屋が普段と違うのがお分かりになったかと思いますが、杉並区長の応接室に宮台さんとお邪魔しています。岸本聡子区長を訪ねてきましたが、2022年6月の区長選挙で、わずか187票の差ではありましたが現職を破って見事に当選されて、7月11日に区長に就任されてから、もう4ヶ月ぐらい経ちますね。
    岸本: はい。ちょうど100日ぐらいです。
    神保: 選挙自体も非常に画期的な選挙でしたし、岸本さんは経歴も非常にユニークで、それが杉並区政にどう活きるかということも、これから注目していきたいと思っています。まずはこの段階で、抱負も含めてお話を伺って、何年か後、成果が出てきたくらいの時にまた伺えたらいいなと思っています。それから、宮台さんは世田谷区の保坂さんの区政にアドバイザー的な立場で関わっているので、その経験などもお話しいただけたらと思います。
    宮台: 保坂区長は2011年に当選されましたが、当選の仕方は少し岸本聡子さんと似ているところもありました。12年から、世田谷区基本構想評議会というのが始まり、「世田谷憲法を作ろう」ということで、僕のような学者も含めた世田谷市民と、各党議員の代表が来ていました。 

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