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田中三彦氏:福島原発事故の原因はまだ判明していない
2015-04-29 22:53550ptマル激!メールマガジン 2015年4月29日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第733回(2015年4月25日)福島原発事故の原因はまだ判明していないゲスト:田中三彦氏(元国会事故調委員・科学ジャーナリスト)────────────────────────────────────── 先週、今週と原発再稼働をめぐり、真逆の司法判断が相次いで下った。 原発再稼働の差し止め請求訴訟で4月14日、福井地裁は高浜原発3、4号機の運転を禁じる仮処分決定を下した。その一方で、4月22日には鹿児島地裁が川内原発1、2号機の差し止め請求を退ける判断を示している。両者の判断を分けたものは、原子力規制委員会が策定した原発再稼働のための新規制基準に対する評価だった。福井地裁の樋口英明裁判長は、新規制基準が合理性を欠くと判断したが、その大前提が、現時点ではまだ福島第一原発の事故原因が十分に究明されたとは言えないというものだった。 福島の原発事故はもっぱら津波による全電源喪失によって引き起こされたものだったのか、それ以前の地震動によって、原発は既に制御不能な状態に陥っていたのか。その答えによって、現在の原発の新規制基準への評価は180度変わってくる。福井と鹿児島の相矛盾するかに見える司法判断の背後には、事故原因に対する認識のギャップがあった。 この問題をしつこく追及しているのが、今回のゲストで、かつて国会事故調の委員として事故原因の究明に関わった科学ジャーナリストの田中三彦氏だ。もともと技術者として福島第一原発4号機の圧力容器の設計に携わった田中氏は現在、新潟県の原子力発電所の安全管理に関する技術委員会の委員として、引き続き福島原発事故の原因究明に取り組んでいる。 その田中氏が新潟県の技術委員会の委員らとともに今年2月21日、東京電力から許可を得て、福島第一原発の一号機の原子炉建屋の中を視察し、その模様を映像で撮影することに成功した。田中氏は新潟県の技術委員会として東電に対し、今回の視察から生じた疑問点を質問し、その回答を待っているところだという。しかし、それにしてもこれは、事故原因に対する根本的な疑問であり、同時にそれは、原発の安全対策を考える上でも、これまでの前提を抜本的に改める必要が出てくる可能性がある重大な問題と考えるべきだろう。 津波は防潮堤を高くしたり、バックアップの電源を増やすことで対応が可能かもしれないが、もし地震が原子炉そのものや、原子炉につながる配管を破壊・破断してしまうとすれば、こればかりはどうにも対応できない。 福島第一原発一号機の4階建屋の映像から見えてくる、原発の事故の地震の影響について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が田中氏に聞いた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・原発再稼働に対するふたつの司法判断から見えてくるもの・田中氏が乗り込んだ、福島原発1号機の内部を見る・原子炉建屋の構造と、東電による説明の不可解さ・東電が「地震の影響」を認めたくない理由+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
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河合潤氏:和歌山カレー事件に見る、科学鑑定への誤解が冤罪を生む構造
2015-04-22 23:00550ptマル激!メールマガジン 2015年4月22日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第732回(2015年4月18日)和歌山カレー事件に見る、科学鑑定への誤解が冤罪を生む構造ゲスト:河合潤氏(京都大学大学院工学研究科教授)────────────────────────────────────── 以前に一連の原発問題の議論の中で、われわれの社会において「科学の民主化」と「民主の科学化」がいずれも大きく遅れている問題が指摘されたことがあった。 「民主の科学化」については一般の市民が科学的な思考をする習慣が身についていないことを、「科学の民主化」では科学者が科学的に正しいことだけに目が行くことで、民主主義にとって何が正しいかの視点が欠けていることが問題になっていることを学んだ。 どうもその問題が司法の世界にも持ち込まれているようだ。夏祭りの炊き出しのカレーに猛毒のヒ素が混入し、4人の死者と60人以上の怪我人を出した和歌山カレー事件で、既に死刑が確定している林真須美死刑囚の犯行を裏付ける唯一の物証となっていた科学鑑定の結果に今、重大な疑義が生じている。 今週のマル激では死刑判決の根拠となった科学鑑定(中井鑑定)に最初に異論を唱えた、京都大学大学院教授で蛍光X線分析の専門家の河合潤氏をスタジオに招き、科学鑑定と司法が抱える重大な問題を議論した。 林真須美氏は黙秘を貫くなどして、一貫して犯行を否認していたが、自白や動機の解明が行われないまま、裁判では、犯行に使われたヒ素の流通経路や組成の同一性が、いわゆる中井鑑定によって裏付けられたことで、真須美氏の犯行であったと断定されている。しかし、河合教授が中井鑑定の中身を検証した結果、この裁判では鑑定に対する大きな誤解があることが判明した。中井鑑定は事件の関係先9箇所から採取したヒ素がいずれも同じ起源であることを示しただけで、それはその地域で流通するヒ素がほぼ同じドラム缶に入って中国から輸入されたものだったために、当然のことだった。そして、河合教授が弁護側からの依頼で、単純に中井鑑定の結果を「林真須美氏が犯行を犯していない可能性」を裏付けるために再度検証した結果、不純物の組成などから、中井鑑定はむしろ真須美氏が犯行をしていないことを裏付けるデータを提供していたことがわかったのだという。 「異同識別」だのヒ素の「同一性」などといった、実際には科学的ではない微妙な言い回しが誤解を招き、それが死刑という取り返しの付かない判決に行き着いていることを、果たして検察や鑑定を行った中井教授はどう理解しているだろうか。今こそ、「市民の科学化」が問われている。河合潤教授とともに、神保哲生と宮台真司が議論した。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・あらためて振り返る、和歌山カレー事件の経緯と裁判の論点・「中井鑑定」のポイントと、でたらめな判決文・鑑定に「SPring-8」を使う必要はあったのか・都合よく使われる「鑑定結果」――“科学の民主化”は遠く+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
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松井孝典氏:われわれはどこから来たのか- 生命宇宙起源説を考える
2015-04-15 20:00550ptマル激!メールマガジン 2015年4月15日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第731回(2015年4月11日)われわれはどこから来たのか - 生命宇宙起源説を考えるゲスト:松井孝典氏(千葉工業大学惑星探査研究センター所長)────────────────────────────────────── 地球上の生命体の起源が宇宙にあるという説があるのをご存じだろうか。これはパンスペルミア説と呼ばれるもので、地球上の生命は独自に地球上で生まれ、その後進化を遂げてきたものではなく、その起源は隕石やチリなどに付着して宇宙から運ばれてきた生命体にあるとの仮説に基づき、さまざまな研究が行われている。 そして今、このパンスペルミア説が現在の宇宙科学の中の、とりわけアストロバイオロジーと呼ばれる分野の研究では、非常に有力な仮説になりつつある。NASA(アメリカ航空宇宙局)のチーフサイエンティストがこの4月7日、10年以内に地球外生命体の有力な兆候がつかめるとの見通しを示すなど、今やNASAの宇宙研究プログラムの最大の目標が地球外生命体の存在を証明することにあると言っても過言ではない。 アストロバイオロジーの第一人者で、世界的な権威でもある松井孝典氏(東大名誉教授・千葉工業大学惑星探査研究センター所長)は、そんなパンスペルミア説を提唱する科学者の一人だ。そもそも地球上でランダムにタンパク質の合成が進んだ結果、今日のような生命体が偶然組成される可能性は、数学的には10の4万乗分の1程度の確率しかない。地球の誕生から46億年しか経っていないことを考えると、その限られた時間内に10の4万乗分の1の確率でしか起こりえない組み合わせが偶然実現すると考えるには無理がある。 今日、アストロバイオロジーの世界では、かつての常識や定説が次々と否定されている。約6550万年前に恐竜が絶滅したのは地球の気候変動や火山活動によるものとされていたが、今日それは巨大隕石が地球に衝突したことに引き起こされた気候や生態系激変が原因であるということが、世界中の研究者の間ではすでにコンセンサスとなっている。生命の起源をめぐる議論についても、自然発生説、化学進化説、斉一説と変遷を繰り返しているが、一般社会では必ずしもそれが広く認識されていない。どうやらわれわれ人類は相当強い思い込みに基づいて宇宙や世界や生命を理解してしまう癖からなかなか抜けられないようだ。 生命はどのようにして始まったのか。そして、それはどこから来たものなのか。もし宇宙に「われわれは独り」ではないのであれば、今、われわれが地球規模で抱える諸問題にはどのような意味が出てくるのか。アストロバイオロジーの第一人者の松井孝典氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・生命は地球外に起源する――パンスペルミア説とは・生命の起源をめぐる諸説の歴史・「赤い雨」の解明に向かって・宇宙という広い視点から、「人間原理」を考える+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
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高橋久仁子氏:食品表示の規制緩和に惑わされるな
2015-04-08 20:00550ptマル激!メールマガジン 2015年4月8日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第730回(2015年4月4日)食品表示の規制緩和に惑わされるなゲスト:高橋久仁子氏(群馬大学名誉教授)────────────────────────────────────── この4月1日から食品表示に対する規制が大きく緩和される。 これまで特定の食品について、例えば「このみかんは花粉症の目や鼻に効きます」や「このお茶は疲れを取ります」のような形で、それが体にどのような好ましい効果をもたらすかを具体的に表示することは認められていなかった。科学的根拠の乏しい表示で、消費者に過度な期待を与えたり消費者の判断を惑わすべきではないと、考えられてきたからだ。 しかし4月1日からは、一定の条件を満たせば、食品メーカー自身が独自に実験を行わなくても、それを裏付ける第三者の論文を添付するだけで、食品の機能を表示することが認められるようになった。これは食品の「機能性表示」と呼ばれるもので、2年前に安倍首相がアベノミクスの規制緩和の一環として発表したもの。本来、食品の表示制度は消費者を保護するためにあるものだが、今回の規制緩和は安倍首相自ら認めるように、主にその経済的効果を狙ったものだ。 健康食品については、既に現行の表示制度の下でも多くの事故が報告されている中で、機能性表示が解禁になれば、それを真に受けて、新たに健康食品を積極的に利用するようになる人や、より大きな効果を期待して過剰摂取してしまう人が増えることは必至だ。事業者側から見れば、正にそれが新たなビジネスチャンスということになるのだろうが、消費者に「機能性表示」の意味を理解させる努力が明らかに不足している。 栄養学が専門で食品問題に詳しい群馬大学名誉教授の高橋久仁子氏は、厳しいとされるトクホの認定を受けている食品でさえ、その効果は非常に乏しいものが多いが、消費者はトクホだというだけで盲目的に効能を信じている人が多い状況に警鐘を鳴らす。メーカー側が僅かな効果を誇張し、消費者が「それを飲んでいるから大丈夫」とばかりにその「機能性幻想」に依存することで、本来健康の促進や維持に必要な運動や食生活における節制などを怠るような結果になっているとすれば、まったく本末転倒である。 安倍首相の肝入りで始まった機能性表示食品制度とはどういうものなのか。それがわれわれの消費生活にどのような影響を与えるのか。新たな制度の導入に際して、われわれ消費者が考えておかなければならないことは何なのかなどについて、ゲストの高橋久仁子氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・暗示とほのめかしが加速させる「フードファディズム」・「機能性表示食品」と、その制度のポイント・誇張されている特保の“効果”・健康食品の危険性と、「真面目な消費者」のススメ+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
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高野孟氏:私が鳩山さんとクリミアを訪問した理由
2015-04-01 23:00550ptマル激!メールマガジン 2015年4月1日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第729回(2015年3月28日)私が鳩山さんとクリミアを訪問した理由ゲスト:高野孟氏(ジャーナリスト)────────────────────────────────────── クリミアを訪問した鳩山由紀夫元首相が、メディアから罵詈雑言を浴びる激しいバッシングに遭っている。まさに日本ではフルぼっこ状態だが、何が問題だったのかと言えば、要するに「けしからん罪」ということのようだ。 日本政府はロシアによるクリミアの編入を認めていない。そのクリミアにロシアのビザを取得して入国すれば、ロシアの「力による現状変更」を追認することになり、それは中国との間に尖閣問題を抱える日本にとっても他人事では済まされない。ましてや、元首相が政府の方針に反する行動を取るとは何事か、というわけだ。 しかし、今回の鳩山元首相のクリミア訪問には少なくとも一つ、重要かつ正当な目的があった。つまり「クリミアの現状を自分の目で確かめる」ことで、ロシアのビザを取得すれば現状を追認することになるからダメだということになると、そもそも「現状」がどうなっているかを知ることが事実上不可能になってしまう。 今回の鳩山氏のクリミア訪問に同行したジャーナリストの高野孟氏は、これまで日本で伝えられてきたウクライナの政変、とりわけクリミア情勢についての情報は、そのほとんどが欧米、特にアメリカの視点からの情報に限定されていると言う。それはロシアの行為は国際社会では容認できない不法行為だという視点だ。しかし、世界がこぞってロシアを批判しているというわけではない。 今回日本が対露制裁に加わったことで、これまで安倍首相自らが積み上げてきたロシアとの友好関係に少なからずひびが入ったことは間違いない。クリミア情勢はこれまで日本が積み上げてきたロシアとの友好関係を危険に晒し、北方領土問題解決の機運に水を差してまで、どうしても日本が対露制裁に加わらなければならないほど緊迫した状態にあるのか。それを確認することが、鳩山氏らのクリミア訪問の目的だった。 高野氏はそもそもクリミアは歴史的にロシアの領土であり、住民の6割近くをロシア系住民が占めていることから、拙速に行われた住民投票の正当性に多少の疑義があるとしても、クリミアがロシアに帰属すること自体は自然な流れだと考えるべきだと言う。むしろ、遙かに深刻なのは、もっぱらアメリカに追随する形で、思考停止をしたまま対露制裁に加わる日本の外交的スタンスと、これに何の疑問も呈さないマスメディアや日本の言論空間だ。 クリミア情勢に対する日本の政治的な立場には、日本なりの合理的判断があるのか。そもそも世論の中に異論や少数意見を包摂できない日本に、合理的な外交や合理的な政策判断を下すだけの成熟した民度があるのか。クリミア情勢と鳩山叩きから見えてくる日本外交の問題点や言論空間の貧困さについて、宮台真司氏に代わり司会を務めた国際政治学者の廣瀬陽子氏とジャーナリストの神保哲生が、鳩山元首相に同行してクリミアを訪問したゲストの高野孟氏と考えた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・「異論を許さない」という、日本の言論空間の異常さ・あらためて振り返る、クリミア問題の概要・多極化する世界に軟着陸できない、アメリカとロシア・渡航しただけで「反国家」認定される日本と、ジャーナリズムの役割+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
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