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記事 5件
  • 三上岳彦氏:異常気象を日常としないために

    2017-08-31 07:00  
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    マル激!メールマガジン 2017年8月30日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第855回(2017年8月26日)異常気象を日常としないためにゲスト:三上岳彦氏(首都大学東京名誉教授)────────────────────────────────────── 35度を超える猛暑で、各地で熱中症による死者が出たかと思えば、翌日にはスコールのようなゲリラ豪雨で川が氾濫し、また多くの死傷者を出す。いつのまにかこんなことが繰り返されるようになった。 日本もさることながら、世界に目をやると、干ばつや豪雨、熱波や寒波、大雪に台風に大洪水など、今やどこかで何らかの「異常気象」が起きていない日は一日もないといっても過言ではないだろう。ついこの間まで、さんざ「異常」「異常」と言われていたこんな気象現象が、もはや異常ではなくなっている。少なくともそれが、われわれの日常になりつつある。しかし、つい最近までこんなことは滅多になかった。あってもそれは一時的な「異常」事態だと考えられていた。いつからこんな異常気象が、日常になってしまったのか。 気象学が専門でヒートアイランド現象に起因する都市のゲリラ豪雨に詳しい首都大学東京の三上岳彦名誉教授は、異常な高温や豪雨といった異常な気象現象というのは昔から起きていたが、ここに来てその頻度が増していることは間違いないと指摘する。 三上氏はこの「異常気象」の背景には、長期的には地球温暖化などによる大気や海水の温度の上昇があるが、特に都市部の高温や豪雨は、それとは別に、都市の空調、工場、自動車などからの排熱や、地面がコンクリートに覆われたことで、太陽熱が地中に閉じ込められることによって発生する都市部のヒートアイランド現象など、人為的な影響が大きいという。 三上氏は都市部で高温と豪雨の原因となっているヒートアイランド現象を和らげる最も効果的な方法は、「地面に熱が閉じ込められないようにすること」と「海から入ってくる風の通り道を作ること」の2つだという。前者は、例えば、コンクリートで覆われていない緑地などを増やすことによって実現が可能だし、後者は高層ビルを建てる際に風が抜けるようなデザインにすることを建築条件に加えるなど、まだまだ工夫の余地はあるという。 「異常気象」は気象庁の定義では30年に1度起きる気象現象のことだそうだが、どんなに異常なことでも、日常的にそれを見ていれば、もはや異常と感じなくなってしまうのは確かだ。しかし、それだけでは茹でガエルと変わらない。今一度、昨今の気象がいかに異常な状態にあるかを再確認するとともに、それを日常の一部としてしまう前に、気がついたら茹で上がってしまわないようにするために、今われわれに何ができるかを、三上氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・異常気象は昔からあったが、たしかに頻度は上がっている・なぜ、東京でゲリラ豪雨が降るのか・対処療法ばかりで、原因が議論されない「ヒートアイランド現象」対策・CO2濃度上昇による地球温暖化は、本当に悪なのか+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■異常気象は昔からあったが、たしかに頻度は上がっている
    神保: 今回は「異常気象」と言われているものをテーマとして扱います。ただ、今日の暑さもそうですが、もう「異常」と思わなくなってしまっていますね。
    宮台: 2009年か10年に、いわゆるゲリラ型豪雨によって青山学院前で冠水があり、そこに入ってしまって車が故障したことをよく覚えています。いまはもう慣れてしまって、ヤバいと思ったら車で出なくなりましたね。
    神保: 異常が続くと、適応してそれが正常になると。本日8月25日も東京は35度を超えて、ニュースを見れば福井県勝山市で1時間に40ミリの降雨、秋田県の雄物川も氾濫したと報じられていました。
    宮台: 量の問題ではなく、質が変わったというふうに考えなければダメなのでしょう。国土交通省のお役人さんたちと時々、勉強会をするのですが、近年は「激甚型災害」――つまり、従来のノウハウがほとんど役に立たないようなタイプの災害だらけで、それを知的なネットワークのなかにどう包摂するのか、ということが非常に大変になっている。もう引退したお役人さんや気象官などをたくさん呼んできて、一生懸命に研究しています。
    神保: これだけ雨が急激に降ることを前提にしていなかったから、専門分野でもおそらく蓄積がないのでしょう。気象自体という「上」の話と、異常気象に対応するための都市インフラという「下」の話があると思いますが、今回は上の話を見ていきましょう。 今回の準備の過程で、われわれがいかに気象に疎いのか、ということを痛感しました。ゲストは首都大学東京名誉教授の三上岳彦さんです。2008年に『都市型集中豪雨はなぜ起こる?台風でも前線でもない大雨の正体』(技術評論社)という本を出されていますが、当時から集中豪雨というのはけっこう起きはじめていたのでしょうか?
    三上: 「都市型集中豪雨」というのは正式な言葉ではなく、都市部で起こる局地的な豪雨を分かりやすくするために使っているのですが、例えば「ゲリラ豪雨」という言葉が最初に新聞に出たのは、1972年の朝日新聞。都内で1時間に50ミリ以上の雨が降り、神田川などが溢れたと。つまり、これはいまに始まったことではなく、過去にもあったのですが、ただ、その頻度、発生回数が増えている、ということだと思います。
     

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  • 吉見俊哉氏:これでいいのか日本の大学

    2017-08-23 23:00  
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    マル激!メールマガジン 2017年8月23日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第854回(2017年8月19日)これでいいのか日本の大学ゲスト:吉見俊哉氏(東京大学大学院教授)────────────────────────────────────── 森友学園・加計学園と、相次いで教育と行政の関わりが問題になっているが、教育、中でもとりわけ日本の大学が、危機的な状況に瀕している。 実際、18歳の人口が年々減少しているにもかかわらず、次々と新しい大学が作られたために、今や私立大学の4割以上が定員割れに陥っているという。その多くは中国などからの留学生で穴を埋めている状態だそうだが、定員割れの大学は事実上誰でも入れるため、逆に入学後、授業についていけずにドロップアウトする学生が半分以上にのぼる大学も少なくないという。かと思えば、文部科学省は国立大学への「運営交付金」を毎年1%ずつ削減するほか、国立大学の人文系学部の規模を縮小し、最終的には統廃合するよう通知したことが報じられている。大学に今、何が起きているのか。『「文系学部廃止」の衝撃』や『大学とは何か』などの著書のある東京大学の吉見俊哉教授は、文科省が国立大学の人文系学部の統廃合を通告したとされる報道はメディアの誇大報道だったことを指摘しながらも、実際、日本の国立大学では一貫して理系学部を優先する政策が採用されてきたことを問題視する。その偏りが日本という国の針路の偏りにつながっている可能性があるからだ。 実際、日本は20世紀初頭に始まった戦時体制の下で、軍事力強化の目的で理工系の研究所が次々と建設され、理工系学生が重用されたのを手始めに、戦後も経済復興・成長に貢献できる理工系大学の優遇という形で、一貫して理系重視の政策が継承されてきた。 2004年の大学の独法化に際して、大学は政府から支給される運営交付金が削減され、科学研究費などの「競争的資金」への依存度が増したことで、理工系優位がますます顕著になった。理工系の研究が軍事力の強化や企業の競争力強化に有効なことは言うまでもない。しかし、例えば戦前に「アメリカに勝つための科学力」を強化するために理系が重視されたことについて吉見氏は、アメリカに勝つという目的の是非が問われなかったのは、日本が人文系の学問を軽視してきたことの大きな落とし穴がそこにあったと考えるべきだと語る。 実際に今日、遺伝子操作や出生前診断などに代表される生命科学や、情報通信やAIといったコンピューター技術の重要性が強調され、ますます理系重視の傾向に拍車が掛かっているが、生命倫理や循環型社会のあり方などを考察し、価値判断を下す人文系の視点が後手に回っている感は否めない。 そもそも大学という機関が何のためにできたのか、その起源や成り立ちを見ていくと、昨今の近視眼的な理系重視の政策の問題点が浮き彫りになる。理系は「役に立つ」からが優遇されるのが当然だと言われることが多いが、そもそも何が「役に立つ」かは、何を目的に設定するかによって変わってくる。その目的が単に国力の強化や企業の競争力だけであっていいのかどうか。その価値評価や価値判断こそが、哲学や政治学、倫理学などの人文系の学問的な英知を必要としているものなのではないか。 そもそも日本は公的な教育支出が先進国中、最低の水準にある。その日本で支援の対象が理系に偏れば、人文系の英知が隅に追いやられるのは目に見えている。そのことのツケは思った以上に大きいかもしれない。 何のために大学に行くのかとの問いに対し、「学歴のため」と「みんなが行くから」と答える学生が圧倒的多数を占める日本で、現在の大学のあり方や求められる改革などについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が吉見氏と議論した。
     ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・人口減少も、大学が増え続ける背景・教育で「役に立つ」ことを重視する意味・なぜ「理系」が偏重されてきたのか・大学を覆う「5つの壁」を越えろ+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■人口減少も、大学が増え続ける背景
    神保: 今回は「教育」をテーマに、とりわけ大学を取り上げようと考えました。宮台さん、最初に何かありますか?
    宮台: ポスドク(postdoc)の問題が世間で話題になったのはずいぶん前の話で、2010年以降は、同じような大学や大学院を出たとして、研究者の道に進むことがもっとも人生設計が読めない、不安定なバクチを意味するようになってしまいました。よく行政官僚たちが天下りせざるを得ない事情として、「生涯賃金で比べると、天下りの退職金がなかったら3分の1になる」という話がありますが、ポストが不安定になれば、人材が集まらない。そうなると、いい学生も集めることができないという悪循環です。
    神保: 大学の研究職というのは、いまやネットメディアを始めるくらいのリスキーなビジネスになっているということです。今回のテーマを設定したのは、後ほど紹介する2冊の本に触発されたからです。ゲストはその著者である、東京大学大学院情報学環教授で、現在はハーバード大学でも教鞭をとられており、一時帰国中の吉見俊哉教授です。宮台さんとは、大学で同窓生だったんですね。
     

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  • 橘木俊詔氏:「日本人は格差を望んでいる」は本当か

    2017-08-16 20:30  
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    マル激!メールマガジン 2017年8月16日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第853回(2017年8月12日)「日本人は格差を望んでいる」は本当かゲスト:橘木俊詔氏(京都大学名誉教授)────────────────────────────────────── 「日本のピケティ」との異名を取る京大名誉教授の橘木俊詔氏は、1998年に「日本の経済格差」を著し、一億総中流と言われていた日本経済が急速にアメリカ型の格差社会に向かっていることに対して、最初に警鐘を鳴らした経済学者の一人だった。しかし、その後、日本は橘木氏の予想した通り、一気に格差社会への道を突き進んでいった。 今回は橘木氏との議論を通じ、現在の日本の「格差社会」や

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  • 武貞秀士氏:北朝鮮問題に落としどころはあるのか

    2017-08-09 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2017年8月9日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第852回(2017年8月5日)北朝鮮問題に落としどころはあるのかゲスト:武貞秀士氏(拓殖大学特任教授)────────────────────────────────────── 国際社会が恐れていた事態が、いよいよ現実のものとなりつつある。核兵器を手にした北朝鮮が、それを地球の裏側まで飛ばすことを可能にする大陸間弾道ミサイル(ICBM)を手にするのが、もはや時間の問題となっているのだ。 北朝鮮が核実験やミサイル発射実験を重ねるたびに、アメリカはこれを糾弾し、示威行動を繰り返してきた。しかし実際の軍事行動に出る気配は感じられず、「ICBMがレッドライン」との見方が支配的になっていた。ICBMが実践配備されれば、アメリア本土が北朝鮮の核の脅威に晒されることになるからだ。 しかし、北朝鮮が7月4日、28日と二度にわたるICBMの発射実験を行った後も、アメリカが強硬手段に出そうな気配は見られない。そればかりか、ティラーソン国務長官などは、北朝鮮の脅威が増すにつれて、むしろ対話を模索する言動が目立ってきている。早ければ18年中にもアメリア本土にも届くICBMの開発に成功する可能性が取り沙汰される中、北朝鮮と直接対立関係にある日米韓の3か国にはどのような選択肢が残されているのだろうか。 防衛研究所時代から希代の朝鮮半島ウォッチャーとして知られる武貞秀士・拓殖大学特任教授は、そもそも事態がこのような切羽詰まった状況に陥る遥か以前から、今日のこの状況を予想し、「北朝鮮問題は対話を通じて解決するしかない」と主張してきた。そんな武貞氏の主張は、拉致問題を抱え対北朝鮮強硬論が根強い日本では「弱腰」との批判を受けてきたが、ここに来て事態は氏の主張した通りになってきている。 北朝鮮と交渉すべきという主張は、2つの楽観論を前提とする強硬論にかき消されてきた。一つ目の楽観論は、強く出ていれば北朝鮮はいずれ時間の問題で崩壊するだろうという希望的観測、そしてもう一つは、いざとなればアメリアは黙っていないはずだという他力本願の楽観論だった。こうした希望的観測はことごとく外れ、北朝鮮が現実に核兵器を保有し、弾道弾ミサイルも手にしようとしている。それでも武貞氏は、やはり対話を通じて核兵器やミサイルの脅威を押さえ込んでいくしかないと、これまでの主張を繰り返す。 「トランプ大統領」という誰にも予想がつかない不確定要素はあるものの、アメリカの軍事行動に対する北朝鮮の報復は、同盟国である韓国や日本に莫大な被害をもたらす可能性が高いため、例え限定的なsurgical strikeであっても現実的ではない。既に日本は全土がノドンミサイルの射程圏内に入っていることも忘れてはならない。 一方、交渉はあくまで相互的なものなので、北朝鮮側の主張を全面的に受け入れる必要はない。北朝鮮が求めるものを小出しに与えつつ、核やミサイルの脅威のレベルを低減させていくことが、交渉の目的となる。それが本当に可能かどうかはわからない。しかし、他に現実的な選択肢がないことも事実だろう。 そもそも北朝鮮はアメリカと戦争がしたいわけではない。北朝鮮は1948年の建国以来、朝鮮半島の統一を国家目標としており、国連軍の名前で韓国に駐留する在韓米軍がその妨げになっているというのが北朝鮮側の立場だ。無論アメリカにとっては、中国と同盟関係にある北朝鮮による朝鮮半島の統一は容認できないが、一方の中国も、北朝鮮が崩壊し、米軍が中朝国境まで迫ってくるような事態は受け入れられない。また、統一の際の直接の当事者となる韓国は韓国で、北主導の統一は到底受け入れられないにしても、冷戦によって国が分断されたままの状態を解消したいとの思いは国民の間で根強く共有されている。 このように入り組んだ地政学的パズルの中では、いたずらに対立を煽っても何ら解決にはつながらない。交渉が行われない限り、北朝鮮はこれまで通り核・ミサイル開発を続け、それを国際社会に見せつけることで、自らの力を誇示し続けるだけだろう。そして、時間の問題で地球の裏側まで核を届かせる手段も手にするだろう。時間が経てば経つほど、交渉は北朝鮮にとって有利なものになっているのが現実だ。 アメリカの軍事行動はあり得るのか。中国はなぜ本気で北朝鮮を止めようとしないのか。北朝鮮はどこまでやるつもりなのか。武貞氏に北朝鮮問題に落としどころを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が聞いた。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・対話以外の選択肢はなくなった・朝鮮半島の統一は、現実的にあり得るのか・対話=理想主義/平和主義との誤解・米中の出来レース/文脈の変化に気づかない、戦後ボケ日本+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
     

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  • 篠田英朗氏:国際政治学者だから気づいた間違いだらけの憲法解釈

    2017-08-02 20:00  
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    マル激!メールマガジン 2017年8月2日号(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )──────────────────────────────────────マル激トーク・オン・ディマンド 第851回(2017年7月29日)国際政治学者だから気づいた間違いだらけの憲法解釈ゲスト:篠田英朗氏(東京外国語大学教授)────────────────────────────────────── 東京外大の篠田英朗教授は、平和構築が専門の国際政治学者だ。その国際政治学者の目で見た時、今、日本で大勢を占めている日本国憲法の読み方はおかしいと言う。もっぱら内向きな議論に終始し、現在の国際情勢や国際政治の歴史からあまりにも乖離しているからだ。 そもそも現在の日本国憲法は憲法学者、とりわけほんの一握りの著名な東京大学法学部出身の憲法学者による学説がそのまま定説として扱われているきらいがある。例えば9条も、何があっても平和を追求する姿勢を国民に求めているものと解釈されているが、篠田氏は普通に読めば、その目的は「正義と秩序を基調とする国際平和の樹立」にあり、あくまでその手段として交戦権の放棄や軍事力の不保持が謳われていると読むのが自然だと指摘する。 そもそも日本国憲法の3大原理として、われわれが小学校の教科書で教わる国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の3つの柱は、誰がそれを日本国憲法の3大原理だと決めたのかも不明だ。憲法自体には3大原理などという言葉はどこにも出てこないからだ。 篠田氏は日本国憲法を普通に読めば、その最優先の原理が「国民の信託」にあることは明白だと言う。憲法はその前文で「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し・・・」と記している。前文に明記されている大原則を無視して、誰かの解釈による3大原理なるものが一人歩きをしているのではないか。 早い話が現在の日本の憲法解釈やその定説と言われるものには、一部の憲法学者たちの価値判断が強く反映されており、われわれ一般国民はそれをやや無批判にファクトとして受け止めてきたのではないかというのが、篠田氏の基本的な疑問だ。 悲惨な戦争を経験した日本にとって、戦後間もない時期にそのような解釈が強く前面に押し出されたことには、一定の正当性があったかもしれない。また、世界における日本の存在が小さいうちは、国民がこぞって専門家まかせの憲法解釈に乗っかることも許されたのかもしれない。しかし、戦後復興を経て今や日本は世界有数の大国になり、国際情勢も憲法制定時の70年前とは激変している。そうした中でもし日本がこれから本気で憲法改正の議論を始めるのであれば、まず憲法が長らく引きずってきた様々な予断や、強引で無理のある解釈をいったん横に置き、当時の時代背景などを念頭に置いた上で、あらためて日本国憲法のありのままの中身を再確認することには、重要な意味があるのではないか。 憲法の一大原理である国民と政府との間の「信託」によって、日本国民は政府に対し平和を最優先の目的として掲げるよう求めている。ということは、政府はその目的を達成するために、どのような手段を選択するかが常に問われていることになる。平和を実現するために本来は他にすべきことがあるが、憲法の平和主義原理のために「あれはできない、これはできない」などという話になるのは、全くもって本末転倒ではないか。 憲法の専門家ではない国際政治学者だからこそ見える日本国憲法をめぐる解釈や学説の不自然さや、憲法の歴史的な背景とその後の国際情勢の変化を念頭に置いた時、今日、日本国憲法はどう読まれるべきか、だとすれば、どのような憲法改正があり得るかなどについて、篠田氏とジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
    ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++今週の論点・憲法の3大原理に根拠はなく、「信託」のみが原理である・憲法はアメリカの法政治思想に即して解釈せよ・日本はいつ「平和国家」になった/なるか・9条2項維持でも矛盾が生じない理由+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
    ■憲法の3大原理に根拠はなく、「信託」のみが原理である
    神保: 今回は憲法について、目から鱗が落ちるような議論が聞けることを期待しています。憲法問題は何度も取り上げてきましたが、宮台さんから最初に何かありますか?
    宮台: 少し復習すると、マル激でも初期のころは、憲法学者がやるような「立憲主義とは何か」という比較的オーソドックスな議論をしていましたね。今回はそれよりももう少し具体的に、憲法がどういう政治的な機能を果たし得るのか、という話につながる議論になると思います。
    神保: 今日のポイントは、ゲストが憲法学者ではなくて国際政治学者だというところです。憲法そのものの専門家ではなくて、もう少し広い視野から日本国憲法を見たときに、どこにどういう問題が見えるか。『ほんとうの憲法─戦後日本憲法学批判』(ちくま新書)、『集団的自衛権の思想史 憲法九条と日米安保』(風行社)などの著書がある、東京外国語大学総合国際学研究院教授の篠田英朗さんに伺います。 さっそくですが、そもそも憲法の専門家ではない篠田さんが、あえてこのタイミングで憲法論争に一石を投じようと思われたのは、どんな契機だったんですか?
    篠田: やはり安保法制の2014年、15年あたりの論争が印象に残り、集団的自衛権それ自体について考えてみたいという思いを表現したのが、昨年の『集団的自衛権の思想史』でした。その過程で、憲法学者のいろいろな言説を調べる必要があったわけですが、自分自身も面白かったと思うことや、若干焦点を絞り切れていなかった部分もあり、ちょうど新書のお話をいただいたので、読む人がいるのであれば出しましょう、ということになったんです。
    神保: 篠田さんご自身は、ソマリアやカンボジアで難民支援やってきて、難民を助ける会のボランティアもやられていましたし、カンボジアのPKOで選挙監視にも加わっています。そういう“現場”を観てきた篠田さんからすると、日本国内の憲法学者による安全保障をめぐる憲法論争には、やはり違和感があったのでしょうか。
    篠田: 外側から見た違和感とともに、内側から見たときの焦燥感があります。僭越ながら、国内で憲法に対する本質的な議論が行われていないと感じており、何も変わらないことに非常に驚くんです。平和構築が専門なので、感じるところは大きいですね。
     

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