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会田弘継氏:バイデン新政権の真の課題は単なる脱トランプではない
2021-01-27 21:00550ptマル激!メールマガジン 2021年1月27日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1033回)
バイデン新政権の真の課題は単なる脱トランプではない
ゲスト:会田弘継氏(関西大学客員教授・ジャーナリスト)
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1月20日、トランプ大統領がメラニア夫人と共に大統領専用ヘリコプター「マリーン・ワン」に乗り込みホワイトハウスを去った。ヘリが飛び立った瞬間、世界のメディアが集結するホワイトハウスのメディアルームでは歓声があがったという。
確かに大変な4年間だった。マル激では「トランプが去ってもトランプ現象は終わらない」ことは繰り返し解説してきたが、それでも自身の価値観が「真空」であるがゆえに、政治的に有利になるネタは理念を超越してどんな荒唐無稽なものでも取り込んでしまう人物が世界一の大国アメリカの最高権力者の座に4年間も君臨すれば、その影響は計り知れない。それを一番身近で痛感してきたホワイトハウス詰めの記者たちの安堵感は想像に難くない。
しかし、大統領就任式でもっとも注目されたのは新大統領でもレディ・ガガでも、ジェイロー(女優のジェニファー・ロペス)でもなく、ラフな茶色いアウトドアパーカーを着て、毛糸のミトン手袋をして来賓席に一人ぽつんと座っていた一人の老人だった。
他でもないバーニー・サンダース上院議員だ。サンダースはバイデンと民主党の大統領公認候補選びを最後まで争ったことで知られる。しかし、この日サンダースが注目されたのは、毛糸のミトン手袋と彼のその出で立ちだった。それは、就任式の壇上に並んだ列席者たちのほとんどが高齢の白人であり、その誰もが高価なブランドもののスーツに身を包んでいることが映像からも容易に見て取れたからだ。5000ドルもするスーツに身を包みながらアメリカの融和を訴えたところで、日々の生活が立ちゆかなくなり、現状に大きな不満を持つ人々、特にトランプを支持した7600万人の多くの心には、そのメッセージは響かない。
アメリカの政治思想史、とりわけ保守思想の潮流に詳しい関西大学客員教授の会田弘継氏は、トランプ個人のキャラとは無関係に、トランプ現象の背景にあるアメリカの保守思想の底流にある一つの流れに注目する。それはジェームズ・バーナムとサミュエル・フランシスという2人の思想家が唱えてきた、アメリカの伝統的な保守主義批判だ。
バーナムは官僚支配の共産主義国家も、大企業支配の資本主義国家も、最終的にはエリート・テクノクラートが権力を握り、彼らに支配されることになり、一般大衆は彼らに利用、搾取されるだけだと説いた。そして、エリート支配下で搾取に喘ぐ労働者を取り込むために「ポピュリスト経済政策」を採用するのが、アメリカの保守政治が本来向かうべき道だと主張したのだ。その教えを引き継いだフランシスは、1990年代に第三政党の候補として大統領選挙に出馬したパット・ブキャナンの知恵袋となり、ブキャナンが主張する「保護貿易、移民排斥、アメリカ第一の孤立主義」のネタ元となった。それが昨今のトランプのMAGA(Make America Great Again)にそのまま引き継がれている。
共和党内には当初は保守政治家としてスタートしたニクソンやレーガンも、権力の座にあるうちにエリートたちに取り込まれたという思いを持つ支持者が少なからずいる。しかし、それは民主党では更に深刻だ。20世紀後半の民主党は労働組合を基盤とする政党となったため、本来は労働者の味方のはずだった。しかし、クリントン政権以降、オバマ政権も含め、その民主党がむしろグローバル化を推し進め、アメリカの労働者を苦しめる政策を積極的に推進するという捻れが生じた。
バイデン政権がもし真にアメリカの融和を実現したいのであれば、高いスーツに身を包んだエリートが一段高いところから感動的な演出に彩られたメッセージで「私はすべてのアメリカ人のための大統領になります」と訴えるだけではダメで、格差問題に対する何らかの解を提供しなければならない。そして、それはスタイルこそ違えど、バーナムやフランシスが唱え、ブキャナンが大統領選挙として既存政党の候補者に対するアンチテーゼとして主張した政策を参照せざるを得ないのではないかということだ。
先の大統領選で大企業からの潤沢な献金を大量に集め、資金力でもトランプを圧倒したバイデンが、果たしてそのような政策を本当に実行できるのかどうかは、お手並み拝見といくしかない。しかし、それができなければ、いくら口で融和と訴えても、4年後、必ずトランプは戻ってくる。トランプという人物が戻ってこなくても、トランプ現象は必ずや再び勃興するだろう。その時、その現象が何と呼ばれているかは、現時点では未定だ。
今週はアメリカ政治思想に詳しい会田氏とともに、トランプ政権の終焉、バイデン政権の発足に際して、トランプ現象とは何だったのかを、アメリカ保守政治思想の流れの中で検証するとともに、バイデン政権の真の課題とは何かを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が探った。
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今週の論点
・トランプが改革党時代に学んだ“知恵”
・米保守思想の底流にあるバーナムとフランシス
・なぜいま陰謀論が勃興するのか
・直近のアメリカの注目点と“想定された暴走”
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■トランプが改革党時代に学んだ“知恵”
神保: 1月20日、「無事」という言い方がいいのでしょうか、トランプさんが大人しく去り、アメリカで政権移行が行われました。約150年ぶりに前職の大統領が出席しない就任式だったということです。
宮台: Qアノン系、ある種の妄想を本当に楽しませてもらいました。僕のいう言葉の自動機械、botのような人間がこんなにいるのかと。トランプは大統領になどなる気がなかったのは明らかで、巨大なブランクだから、人々の妄想のスクリーンのようになってしまったということです。また先進各国で日本だけがトランプ万歳で盛り上がっているのは、古谷経衡くんの素晴らしい分析によれば、安倍のあとに出てきた菅があまりにもスカだったので、安倍の「右翼的」な部分をまったく継承せず、いわばロス状態になっているからだと。本当にbotだらけで、このなかで民主制というのは無理なんじゃないか、とひしひし感じています。
神保: 大統領就任式で、ラフなアウトドアパーカーと毛糸のミトン手袋をして来賓席に座っていた、バーニー・サンダースに注目が集まりました。高級ブランドのスーツを着て融和を訴えても、本当の問題が何もわかっていないと思われるということを、壇上の列席者は何もわかっていない、と多くの人が思う。民主党が変わったかどうかの試金石は、どれだけ言葉で融和を訴えたかではなく、もしかしたらバーニーの服装に見られるような態度かもしれないと。
宮台: 周りはセレブのパーティに出るような服を着ていて、そのなかでただひとりだけラフな服装でした。 -
米村滋人氏:特措法と感染症法の刑事罰導入は百害あって一利なしだ
2021-01-20 20:00550ptマル激!メールマガジン 2021年1月20日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1032回)
特措法と感染症法の刑事罰導入は百害あって一利なしだ
ゲスト:米村滋人氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授・内科医)
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ついこの間までGOTOキャンペーンの中止さえも躊躇していた菅政権は、ここに来て、首都圏に続き関西圏、福岡などでも相次いで緊急事態宣言を発出するなど、ようやく本気でコロナの抑え込みに本腰を入れ始めたように見える。しかし、やや遅きに失した感は否めず、感染拡大は一向に衰えを見せていない。
菅首相は1月13日の記者会見で、コロナ特措法や感染症法を改正し、営業停止要請に応じなかった店舗や、感染が明らかになったにもかかわらず入院措置に応じなかった感染者に対して、政府が刑事罰を伴う強制力を持たせる意向を表明した。
現在の日本の医療危機が実際はコロナの感染拡大によるものではなく、むしろ医療行政の不作為によって世界一の病床数を誇りながら病床の転換が進んでいないことにあることをいち早く指摘して話題を呼んだ、東京大学法学政治学研究所の米村滋人教授は、これらの法律に刑事罰を伴う強制力を持たせることは、百害あって一利なしだと一蹴する。
そもそも現在の感染症は結核やハンセン病の感染者の強制収容が法的に行われ、蔓延防止の名目の下で科学的根拠が乏しいにもかかわらず、著しい人権侵害が行われたことの反省の上に立ち、1998年に歴史的な改正が行われて現在に至るものだ。強制入院措置が人権上も、また公衆衛生の実践上も、ディメリットが大きいことは歴史が証明している。
米村氏は検査を受けて陽性になれば、強制的に入院させられ、拒否すれば刑事罰が与えられるようになれば、検査を受けたがらない人や、個人的に検査を受けてもその結果を公表しない人が続出し、結果的に公衆衛生上の効果が上がらないことが予想されると指摘する。強制措置はかえって公衆衛生上のリスクを増大させるだけだというのだ。
米村氏が指摘してきたように、現在の医療法の下では政府は医療機関に対して病床の転換を要請することしかできない。お願いするしかないのだ。結果的に日本の全医療機関の8割を占める民間医療機関のうち、わずか2割程度の病院しかコロナ患者は受け入れていない。昨今メディアが騒いでいる日本の医療危機や医療崩壊は、コロナ患者を受け入れている全体の3割程度の医療機関でのみ起きていることなのだ。
こうした状況を受けて1月15日、政府が感染症法の16条の2項を改正して、医療機関に対して感染者の受け入れを現在の「要請」から「勧告」できるようにするとの意向が、一部のメディアによって観測気球のように報じられた。しかし、米村氏は「要請」を「勧告」に変更するだけでは実効性は期待できないと断じる。そもそも勧告というのは、勧告に応じなかった場合に、その次の段階として何らかの強制なり制裁なりが設けられていて初めて意味を持つ。単に文言を勧告に変えても、政府の権限の強化にはつながらず、よって世界一の数を誇る日本の病床がコロナ病床やICUへの転換が進むとは考えにくいと米村氏は言う。
実は1月13日の総理の記者会見で、ビデオニュース・ドットコムの記者の質問に対し、菅総理が意外な言葉を発したことが、一部で波紋を広げている。なぜ政府は医療法を改正して、政府が医療機関に対して命令できる権限の強化を図ろうとしないのかを問われた菅総理は、医療法の問題は「これから検証する」しか答えなかった一方で、唐突に「国民皆保険も含めて検証する」と述べたのだ。これを聞いた人の中には、「質問の意味を理解できなかった総理が意味不明な事を言い始めた」とか、「総理は新自由主義的な思想的背景から、国民皆保険の廃止を常々考えていたので、本音がぽろっと出てしまったのではないか」などといった観測がネットを中心に広がった。
しかし、厚生労働委員会の委員で医療行政に詳しい青山雅幸衆議院議員(無所属)は、あの一言は医療界に衝撃を与えたと指摘する。青山氏によると、国民皆保険は、もちろん国民にとっても無くてはならない大切な制度だが、それにも増して医療界にとっては、他の何を措いても絶対に死守しなければならない最大の利権だ。総理が場合によっては国民皆保険にまで手を出してくるというのであれば、医療法の改正や感染症法の改正によって、国の医療機関に対する権限を多少強化することくらいは容認せざるを得ないと考えても不思議はない。実際、あの発言の翌日に、感染症法の改正案の報道が流れたが、医師会や医療界から目立った反対意見は今のところ聞かれていない。恐らくあの一言が効いているのではないか、と青山氏は言うのだ。ただし、青山氏は総理があの単語を意図的に発したのか、それともあれは単なる事故だったのかについては、定かではないとも言う。
いずれにしても、コロナの蔓延によって、日本の最後の聖域といっても過言ではない医療界の一端が、「政府は民間医療機関に対して非常時であっても病床の転換すら命じることができない」という形で表に出てきた。目の前の感染拡大にもしっかり対応しなければならないが、こうした構造問題を放置したまま、事業者や個人に犠牲を強いた上、さらにそれに強制力を持たせる法改正を行うというのは、やはり順番が逆ではないだろうか。
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今週の論点
・あらためて振り返る、日本の医療現場がコロナで逼迫している理由
・菅総理による「国民皆保険見直し」発言の衝撃
・コロナ専用病院は「新設」が最適解である
・「強制」は先祖返りであり、むしろ逆効果だ
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■あらためて振り返る、日本の医療現場がコロナで逼迫している理由
神保: 緊急事態宣言が発出され、コロナ特措法や感染症法の改正、強制力云々という話も出てきており、状況が目まぐるしく動いています。
宮台: 最初に言っておくと、これは神保さんが記者会見での質問を通じて国を動かした問題です。
神保: そう言っていただくとかっこよく聞こえますが、藪を突いたら大蛇が出てきた、というような状況で、なぜこんなときに国民皆保険などという話が出てくるのかと。今回はこの問題の言い出しっぺで、私の質問の元ネタとして常に引用されている、東京大学大学院法学政治学研究科教授で、内科医でもあります米村滋人さんをお招きしました。
コロナが流行して1年近くになり、逆に言うと「なぜ医療が逼迫しているのか、おかしいじゃないか」と指摘する人が米村さん以前にほとんどいなくて、記者会見で質問する人も1月までいなかったということが驚きです。
米村: 記者会見での神保さんのご質問を見て、きちんとご理解いただいていたのだなと、まずは非常にありがたく思いました。同時に、総理の答えはそうだろうなと思っていましたが、問題の本質をまったく理解しておられないことがよくわかるものだった。結局、総理のそばにこういうことをきちんと理解して、説明している人が全くいないということなのだと思います。 -
浜田寿美男氏:録音テープが物語る袴田事件の真実
2021-01-13 20:00550ptマル激!メールマガジン 2021年1月13日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1031回)
録音テープが物語る袴田事件の真実
ゲスト:浜田寿美男氏(心理学者・奈良女子大学名誉教授)
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来日したビートルズの日本武道館での初公演が行われた1966年6月30日、この日の未明に静岡県清水市で起きた一家4人殺害事件、いわゆる世に言う「袴田事件」をめぐり昨年12月23日、最高裁は静岡地裁が一度は認めた再審請求を却下した東京高裁に対し、その決定を差し戻す決定を下した。袴田事件の再審などしたくないという東京高裁に対し、最高裁はそれをもう一度考え直しなさいと命じたのだ。その結果、袴田事件は55年もの月日を経て、ようやく再審が始まる公算が高くなった。
この事件では当初から警察が、被害者が経営する味噌工場の住み込み職員だった袴田巌氏を犯人に見立てた捜査が行われ、20日間で250時間を超え、拷問としか言えないような苛酷な取り調べによって最終的に袴田氏が自白に追い込まれたことで、袴田氏はおカネ欲しさから一家四人を惨殺した強盗殺人犯として死刑判決を受け、45年もの間、ひたすら刑の執行を待つ死刑囚として服役することとなった。
他の事件同様、この事件も警察が犯人と見立てた人物の犯行を裏付ける物的証拠が事実上皆無だったため、本人の自白が犯行を裏付ける事実上唯一の証拠だった。しかし、実際には自白だけで公判を維持するのは難しい。裁判では自白に沿う形で、それを裏付ける何らかの物的な証拠が必要となる。しかも、袴田さんは捜査段階では苛酷な取り調べに耐えきれず一度は自白をしていたが、その後、公判段階になって全面否認に転じていた。
これでは公判を維持することはできない。しかし、この事件は当時、大きなニュースとなり、世間の耳目を集めていたこともあり、警察も検察もメンツにかけて、どうしても犯人を見つけ出し有罪にしなければならない事件だった。
そして、事件は袴田さんが逮捕されてから1年以上も経ってから、突如として工場の味噌タンクから血染めの着衣が発見されるという奇妙な展開を見せた。しかも、そこで見つかったズボンのかがり糸が、袴田さんの自宅で発見されるというびっくりするような関連付けが行われた結果、その着衣が袴田さんが犯行時に来ていた服だったことが断定され、袴田被告は取り調べ段階の自白に加え、被害者や本人の血痕が付着した犯行時の衣服という物的証拠も発見されたことで、死刑判決を受けたのだった。
ところが、40年の月日を経て、この「物的証拠」が逆に徒となる。科学技術の進歩によりDNA鑑定が可能になったことで、衣服に付着していた袴田さんや被害者のものとされた血液の痕が、いずれも違う人の物であることが明らかになったのだ。味噌タンクで発見された着衣が何者かによって捏造されたものであった可能性が非常に高くなった。
それを受けて2014年静岡地裁が弁護団側の再審請求を認め、その流れで、2015年、警察と検察の取り調べの様子を録音したテープ約46時間分が開示された。そして、それを鑑定したのが、今回のゲストで心理学者の浜田寿美男氏だった。
当初、けんか腰で威勢良く警察に反論していた袴田氏だったが、警察側が予め答えを知っている謎かけのような駆け引きをもちかけられ、もし警察側が正しかったら、「首を差し出す」ことを約束させられた上で、その賭けに負けて警察との駆け引きで守勢にたたされたりするうちに、次第に元気を失っていった。何よりも重要なことは、テープは一見、警察が袴田氏が犯人であることを聞き出そうとする過程が克明に記録されているものであるかのように見えるが、心理学者の浜田氏が専門的な知見に基づいて鑑定すると、むしろそこには袴田氏が実は犯人ではないことを裏付ける証拠が多数鏤められているのだという。
袴田事件は現時点ではボールは最高裁から差し戻された東京高裁のコート上にあり、まだ必ずしもこのままスムーズに再審へと進む保障はないが、袴田事件が冤罪だったということになれば、無実の人を45年も服役させ、重度の拘禁精神疾患を負わせてしまうという、取り返しのつかない人権侵害を国家が犯してしまったことになる。
今週のマル激は浜田氏とともに、袴田事件の取り調べ録音テープが物語る袴田事件の真相と日本の深くて暗い刑事司法の闇について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・疑問だらけの袴田事件で、唯一証拠とされた血痕付きのパジャマ
・信頼できない自白と、鑑定技術の進化で見えた再審
・自白に落ちてしまう被疑者と、自白を強要する捜査官の心理
・「経験則」により学問の蓄積が無視される法廷
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■疑問だらけの袴田事件で、唯一証拠とされた血痕付きのパジャマ
神保:今回は発達心理学者・法心理学者で奈良女子大学名誉教授の浜田寿美男さんをゲストに迎え、以前から予告していた袴田事件をテーマにお送りします。昨年12月に刊行された『袴田事件の謎――取調べ録音テープが語る事実』(岩波書店)を読ませていただき、なぜこんなでっち上げが行われるのかと、謎がむしろ深まりました。今回は取調べ録音テープを実際に鑑定された浜田さんに、そこで何が明らかになったのかを聞いていきたいと思います。
宮台: 袴田事件について、昨年末に非常に大きな動きがありました。静岡地裁が一度は認めた再審請求を却下した東京高裁に対して、最高裁がそれを差し戻した。もう一度考えろ、という意味ですね。 -
森正人氏:コロナがつきつける人間と自然の関係の再考
2021-01-06 20:00550ptマル激!メールマガジン 2021年1月6日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1030回)
コロナがつきつける人間と自然の関係の再考
ゲスト:森正人氏(三重大学人文学部教授)
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残念ながら2020年はコロナ禍に明け暮れる1年となってしまった。そして、新たな年が明けた今も、そのような状態はまだ当分は続きそうだ。
確かにコロナの感染拡大を抑え込まない限り、オリンピックは言うに及ばず、自由な経済活動すら完全に再開することは難しい。東京五輪について日本政府は今のところ、「人類がコロナウイルスに打ち勝った証」(安倍前首相)として、何が何でも21年7月開催の方針を、少なくとも表向きは崩していない。しかし、そもそもわれわれはどうすればコロナに「打ち勝った」ことになるのか。経済活動を止めることによって感染者数を抑え込むことができれば、コロナを克服したことになるのか。更に問うならば、自然界に無数に存在するウイルスの1つに過ぎないコロナは、人類にとってそもそも「打ち勝つ」べき対象なのか。
文化地理学が専門の森正人三重大学人文学部教授は、有史以来人間は自分たちの力で自然を征服し、これを自分たちの管理下に置くことを目指してきたが、特に近年、科学や技術の力でそれを実現しようとする背景には、自然と人間を相対立する別個の存在とみなす西洋近代の二項対立図式の前提があると指摘する。その上で森氏は、今回のコロナ禍や近年世界的に懸念が高まっている地球温暖化や気候変動の問題が、自然と人間の関係を再考する動きを加速させていると語る。そこで問われているのは、これまでわれわれが当然視してきた人間中心主義的な考え方であり、理性を持つ人間だけがそれを持たない自然や環境やウイルスを支配するのが当たり前という一方的な構図だ。
そこで一つのヒントとなる視座を与えてくれる言葉に「人新世」というものがある。地層のできた順序を研究する学問を層序学と呼ぶそうだが、それによると現在は1万1700年前に始まった新生代第四紀完新世の時代であるというのがこれまでの定説だった。ところが現在、「完新世」はすでに終わっており、われわれの地球は「人新世」という新たな時代に突入しているという考え方が、学会でも真剣に議論され始めているのだそうだ。これは最終的には今から何万年か先の未来に、われわれの現在の文明がその時代の地層の一部になった時に初めてはっきりすることだが、20世紀の後半からの世界人口の爆発的増加や工業的大量生産・大量消費・大量廃棄、農業の大規模化や大規模ダムの建設、核実験や原発による放射性物質の大気中放出などが地球環境に甚大な影響を及ぼしているため、その痕跡が未来永劫、地層に色濃く残ることになると考えられることから出てきた考え方だそうだ。
「人新世」(Anthropocene=アントロポセン)を直訳すると「人類の時代」となり、あたかも人類が自然を含む地球上の他者を征服して、文字通り地球の主役の座に就いていた時代を意味しているようにも聞こえるが、むしろ話は逆だ。「人新世」自体は、人類の活動が地質学的な変化を地球に刻み込んでいることを意味するだけの価値中立的な言葉だが、ここで重要なのは、「人新世」が人類の滅亡と地球の終末を同一のものとは捉えていないところにある。人類が誕生する以前から地球は存在していたし、人類が絶滅した後にも地球は別の地層を堆積しつづける。そこには大気や気候などの自然の存在もあるし、人間以外の動植物や微生物、ウイルスの存在もある。
森氏は今、われわれは人間と自然の関係を見直す契機に立たされているのではないかと言う。目の前の脅威に対応することも重要だが、目先の問題だけに目を奪われると、その背後にあるより大きな問題が見えなくなる。コロナウイルスは日本のみならず世界の多くの国が、実は感染が拡大する前から様々な面で機能不全に陥っていた現実を露わにしているし、そもそもなぜコロナウイルスが人間の世界に引き込まれたのかや、それがなぜこうも急激に世界に広がったのかの原因も考えなくてはならない。そして、われわれの社会がなぜこうもコロナに対して脆弱なのかを再考することも重要だ。また、われわれが知らず知らずのうちに受け入れていたさまざまな前提が、実は必ずしも普遍的なものではないことに気づくきっかけにもなるだろう。
目の前の問題にきちんと対応することは重要だ。しかし、見通しも展望もないまま、行動制限を受けたり、我慢を強いられることほど辛いものはないし、そんなものは長くは続かない。目の前の問題にもきちんと対応しつつ、同時にわれわれは、コロナを奇貨として、人類にとっても、また日本としても、これまでの自分たちの歩みを真剣に再考するいいチャンスを与えられていると考えるべきではないか。
コロナ禍を人間と自然の関係について再考するきっかけとするために、人文学的な立場からのアプローチの重要性を説く森氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・コロナ禍で考えたい「人新世」という概念
・人間中心主義を相対化する視座を持つということ
・人間以外のアクターを浮き彫りにする「コンポスト」
・コロナを奇貨として再考されるべきこと
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■コロナ禍で考えたい「人新世」という概念
神保: 明けましておめでとうございます。お正月くらいは大きなテーマをやろうじゃないかということで、コロナがつきつける人間と自然の関係について議論をしたい。宮台さん、最初に何かありますか。
宮台: 10年弱くらい前から、ビル・ゲイツさんを立役者に“ビッグヒストリー・ブーム”が広がり、そのなかでユヴァル・ノア・ハラリさんの『サピエンス全史』が流行しましたが、文明は虚構によって可能になった、ということの歴史的な経緯と展開が明らかにされています。文明は突然出現したのではなく、大規模定住社会があり、それを支えるための生産力が高い農業が必要で、そのためには暦が必要で、さらに権力が必要で、書き言葉で広範に情報を共有することが必要で・・・・と、振り返れば系列があり、非常にリーズナブルに物事が展開したように見える。コロナの問題も、後から振り返ると「ああ、これもある種の必然的な過程だったんだな。それが早いか遅いかだったんだ」と、気づくことになると思います。
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