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2025年1月の記事 5件

前嶋和弘氏:トランプ2.0はどこまで突っ走れるのか

マル激!メールマガジン 2025年1月29日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ ) ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― マル激トーク・オン・ディマンド (第1242回) トランプ2.0はどこまで突っ走れるのか ゲスト:前嶋和弘氏(上智大学総合グローバル学部教授) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  トランプ2.0が始まった。  1月20日、極寒のワシントンで大統領就任式が行われ、ドナルド・トランプ元大統領が第47代大統領に返り咲いた。トランプ新大統領は宣誓式の直後からバイデン政権の政策をことごとくひっくり返す大統領令への署名に着手し、地球温暖化を阻止するためのパリ協定からの離脱やWHO(世界保健機構)からの離脱を命じた他、2021年1月6日の議会襲撃事件の被告や受刑者1,500人あまりを一斉に恩赦した。トランプが署名した大統領令は初日だけで26にのぼった。  この4年間トランプにとっては頭痛の種だった自身の刑事事件も事実上不問に付され、今や世界の最高権力者の座に再び上りつめたトランプは、もはややりたい放題。怖いものなしで我が世の春を謳歌しているかのように見える。  しかし、上智大学総合グローバル学部教授の前嶋氏は、トランプにとっては大統領に就任したその日が権力のピークであり、ここから先は着実にレームダック化の道を進むことにならざるをえないだろうと語る。  まずそもそもトランプは決してアメリカ国民の圧倒的な支持など得ていない。アメリカは今完全に分断されていて、その約半分を占める共和党支持者からは熱い支持を受けているが、残る半分の民主党支持者からはほとんどまったく支持されていない。実際、大統領選挙も一般投票では僅か1.5%と僅差の勝利だったし、議会選挙も共和党が制したものの、その差は上下両院ともに僅差だ。  実際、トランプが初日に署名した大統領令のほとんどは予算措置を必要としないものばかりだった。予算が必要になる施策は議会の承認が必要になる。議会の上院は共和党が60議席を押さえられていないため、民主党のフィリバスター(議事妨害)にあえば、予算案は通らない。また、アメリカの議会は議院内閣制の日本と異なり基本的に党議拘束がないため、与党共和党の全議員がトランプのすべての政策を支持しているわけではない。  結局のところ、初日の大統領令のラッシュは、予算措置を伴わず簡単に出せるものの中から、悪目立ちするアナウンス効果が大きなものを選んで署名した、パフォーマンスに過ぎなかったことが透けて見えると前嶋氏は言う。トランプ政権の基盤は決して盤石とは言えないというのが前嶋氏の見立てだ。  また、トランプが初日に署名した大統領令の中には、今後法廷で覆されるものも多く出てくるものと見られている。例えば、トランプは初日にアメリカで生まれた人に自動的に市民権を与える「出生地主義」の廃止を命じる大統領令に署名しているが、これに対してワシントン州シアトルの連邦地裁が早くも23日には、これが憲法違反であるとして一時的な差し止めを命じている。 アメリカの出生地主義は憲法修正14条に明記されているため、憲法を変えない限り大統領令だけでこれを変更することができないことは、小学生でもわかることだ。他にも初日にトランプが署名した大統領令の中には、法的な挑戦を受けるものが数多く出ることが予想されている。  しかし、トランプが大統領として2021年1月6日の議会襲撃事件に関与した約1,500人を恩赦したことの影響は計り知れない。大統領には恩赦権限がある。これもまた憲法に明記されている。なので、この決定に対しては誰も何も言えない。しかし、この中には議会襲撃の際に暴力的な行動によって禁錮22年の実刑判決を受けた極右団体「プラウド・ボーイズ」の元指導者エンリケ・タリオ氏なども含まれている。 J-6(1月6日の議会襲撃事件)については、直前に襲撃を煽動するかのような演説を行ったトランプ大統領(当時)の刑事責任については議論の余地もあろうが、実際に何千人もの暴徒が議会を襲撃し警備員ら5人の命が失われたほか、議会の施設が破壊され全連邦議員が緊急避難をしなければならない事態に発展したことは紛れもない事実だ。その罪まで大統領のペン1つで不問に付されて本当にいいのか。それがアメリカの司法に対する信頼や社会正義にどのような影響を与えるかは、今後注視していく必要があるだろう。  実は、バイデン前大統領は退任間際の1月20日、トランプに起訴される恐れのある人々に「予防的恩赦」を与えると発表している。まだ起訴されていなくても、トランプに起訴されたときのために事前に恩赦しておくというのだ。大統領のためであればどんな違法行為も大統領恩赦によって許され、もしも政権が変わることになれば、次の政権から訴追されないために予防的恩赦で予め免罪符を手にすることができる。 このような施策が横行してしまえば、大統領にさえ守られていればどんな違法なことをしても訴追されないという、とても恐ろしい時代になってしまう。アメリカの刑事司法、いや民主主義はどこまで崩れていくのだろうか。  トランプ大統領就任から1週間、アメリカで何が起きたのか。トランプはどこまで本気なのか、トランプ第2次政権はどこまで突っ走るのか、そしてその結果、アメリカはどう変わっていくのかなどについて、上智大学総合グローバル学部教授の前嶋和弘氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・前代未聞の党派的な大統領就任演説 ・次々と署名した大統領令のねらいとは ・レームダック化が避けられない第2次トランプ政権 ・「ハイテク産業複合体」がもたらすのはディストピア時代か +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■ 前代未聞の党派的な大統領就任演説 神保: アメリカ時間の月曜日、日本時間では火曜日にトランプ政権が発足し、この1週間は4年分のことをすべてやってしまったくらい目まぐるしい1週間でした。今日のゲストは上智大学総合グローバル学部教授の前嶋和弘さん、トランプ現象についてお聞きするならこの方だということでかなり前から出演をお願いしていました。  トランプ2.0発足の1週間を見ていきたいと思います。今週の1月20日に4年のブランクを経て再選されたトランプ政権が発足しましたが、まず就任演説を見ていきます。「黄金時代が始まった」、そして「世界から尊敬される国になる」ということをしきりに言い、アメリカ第一主義を掲げました。そして民主党がこういったアメリカの良いところを奪おうとし、挙句の果てには自分の命まで奪おうとしたけれど、自分は神に救われて神の命ずるままにここにいるという発言もありました。 またコモン・センスの回復ということも語り、これは日本語では常識などと訳されるのかもしれませんが、トマス・ペインの『コモン・センス』という本はアメリカの高校生であれば必ず読むもので、これが大文字になると特別な意味を持ちます。 宮台: 共通感覚ということです。 神保: 違法移民の送還、「メキシコ湾」の名称を「アメリカ湾」に変えること、ジェンダーは男性と女性のみでLGBTQなどは認めないこと、また米連邦職員を徹底的に自分の言う通りに動かし、そうしない人については内部告発させる仕組みを作り、場合によってはクビや訴追にするということまで言及しました。 良い意味でも悪い意味でも歴史に残る異例の就任演説だったと言われていますが、まずはスピーチ自体をどのように見ますか。 前嶋: 2つ思ったことがあります。まず言葉が簡単で、自分の支持層に訴える演説のようですよね。民主党側を腐す発言をすると共和党側がスタンディングオベーションするような、選挙演説や一般教書演説のような演説でした。  2つ目は、神という言葉を使っていることです。自分は神様に選ばれてこういう政策をしていると話していて、2025年1月20日は解放の日だと言っています。横にバイデンがいるにもかかわらず、神から命じられて人々を民主党から解放すると言っていて、非常に党派的な演説でした。  一方、歴史的に見ると、アメリカファーストを謳った2017年1月20日の演説と同じように結構スクリプトを読んでいたので、平たい言葉を使っていてトランプ的だとは思いますが、普段の演説とは違うんだなと思いました。しかし一番大きなポイントは、一般投票だとトランプに投票したのは49.9%、ハリスは48.4%で、1.5ポイントしか差がないということです。 

立木茂雄氏:防災立国の実現には調整機能を担う人材の育成と市民の力が不可欠

マル激!メールマガジン 2025年1月22日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ ) ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― マル激トーク・オン・ディマンド (第1241回) 防災立国の実現には調整機能を担う人材の育成と市民の力が不可欠 ゲスト:立木茂雄氏(同志社大学社会学部教授) ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 6,000人を超える犠牲者を出した阪神・淡路大震災から30年目を迎えるこの1月、石破政権の重要施策である防災庁設置に向けて有識者会議が発足し、具体的な議論が始まる。  果たしてこの30年で日本の防災対応力は向上したのか。  この30年の間にも、東日本大震災、熊本地震や昨年1月の能登半島地震など、日本は幾多もの災害に見舞われてきた。災害が起こるたびに新たな対策が取られてきたが、厳しい避難生活や災害関連死の増加など、震災の度に明らかになる諸課題を中々解決できないでいる。  現政権が重点的に取り組むとしている避難所環境や備蓄体制の改善などは、誰も異存のないことだろう。ただ、震災対策としてはそれだけでは十分ではないことも、この30年の経験から学んできているはずだ。  災害関連死は、30年前の阪神・淡路大震災当時から指摘されてきたが、能登の被災地では状況がより過酷になっていると福祉防災学が専門の同志社大学教授・立木茂雄氏は指摘する。最大避難者数と災害関連死発生率をグラフにすると緩やかな上昇カーブになるのだが、東日本大震災の福島県と能登半島地震はその曲線から関連死発生率が極端に上振れしているという。奥能登地域では停電、断水が長く続き、保健や福祉の専門職などの支援が十分に届かず、被災者は過酷な避難生活に追い込まれた。  能登半島をはじめ多くの被災地に足を運んできた立木氏は、災害によって被災地の状況が大きく異なることを指摘する。過去の災害からの経験則だけでは対応できないため、その都度知恵を働かせなくてはならないのだ。生産年齢人口がピークを迎えた1995年に起きた阪神・淡路大震災と、高齢化率が50%を超える能登半島で起きた地震とは、見えている事象が同じでも復旧・復興にむけての過程は大きく異なる。  立木氏は、防災庁設置に向けた方針としてあげられている「復旧・復興の司令塔機能の強化」という表現に疑問を投げかけ、災害対策で必要とされるのは一にも二にも調整機能だと主張する。阪神・淡路大震災後にできたDMAT(災害派遣医療チーム)をはじめ、さまざまな支援の仕組みがありながら多くの人が取り残されるのは、被災自治体や住民、支援チームなどの間でコーディネーション(調整)ができていないからだというのだ。  30年前、西宮の自宅で被災した立木氏は、当時勤務していた関西学院大学の学生や教員たちとボランティアの仕組みをつくり支援を続けた経験を持つ。当時、こうした活動は「ボランティア元年」などとして盛んにメディアで取り上げられたが、震災時の市民セクターの活動の原点は、100年余り前の関東大震災後の活動にあったと立木氏は言う。その後、太平洋戦争を経て、戦後の国づくりは政府・企業という大きなセクターを中心に進められたが、あらためて市民の力が再認識されたのが阪神・淡路大震災だったと立木氏は語る。  政府や行政機関が好んで使う「官民連携」という言葉も、本来のボランタリズム精神の前提にある市民側からの自主的で対等な関係を意味しているのか疑問が残る。  阪神・淡路大震災から30年目を迎える中、日本では再び大きな災害の発生が予想されている。今あらためて災害対応力とは何なのか、生活再建に必要なことは何なのかなどについて、福祉防災学の専門家として調査・研究を続けてきた立木茂雄氏と、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・阪神・淡路大震災が「ボランティア元年」と言われる理由 ・調査から見えてくる生活再建の道のり ・災害時、「福祉」の視点がいかに重要性か ・災害対応には「調整」を担う人材が不可欠 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■ 阪神・淡路大震災が「ボランティア元年」と言われる理由 迫田: 今日は2025年1月17日、阪神・淡路大震災から30年となります。防災や支援、この国をどうしていくべきなのかということを話したいのですが、宮台さん、冒頭で何かありますか。 宮台: 今日はメモリアルな日だということで、新聞やテレビなどではその話題で持ち切りだと思いますが、2つ重要なことがあります。まず、災害は明日はわが身なので、どれだけわがこと化できているのかが大切です。またそれと関連して、災害ボランティアを含めて「助けにいく」という考え方は上から目線すぎで、実際は災害ボランティアに行くことで経験できることがあります。 都会や郊外に住んでいる人には分からないような人間関係があり、地元の人に聞かなければ誰が困っているのか、そして何をすれば良いのかということすら分かりません。そういうことを含めて、何かをギブしに行くのではなくテイクしに行くという発想が必要です。 地元の人々の手助けがなければボランティアに行っても何の役にも立たないということを突き付けられるはずなので、その意味で、まずはボランティアに行くことが大事だと思います。 迫田: 石破政権は重要政策として、「防災庁の設置」や人命最優先の「防災立国」ということを言っており、今度の通常国会でも議論になると思いますし、今月末には有識者会議も発足するそうです。阪神・淡路大震災から30年ということで、国全体の考え方とわれわれの行動を考えるために一番ふさわしい方をお招きしました。本日のゲストは福祉防災学がご専門の立木茂雄さんです。今日はどのような思いでお過ごしでしたか。 立木: 皆、あれから30年と言いますが、私は災害研究をやっているので、去年は能登半島地震があり家はまだつぶれたままで大変ですし、2016年の熊本地震や2011年の東日本大震災など災害は起こり続けています。しかし、「阪神・淡路大震災から30年」と言うと、その間は何もなかったような印象を与えてしまいます。今朝はそんなことを考えていました。 迫田: 先生ご自身も西宮の自宅で被災されたんですよね。 立木: はい。揺れで目を覚ましたらマンションの天井が落ちてくるのだろうと思い、思わず横で寝ている妻の手を握りしめました。揺れが収まってから子どもたちの部屋にたどり着くまでには床一面がガラスの破片の海になっているリビングを通り越えなければならず、どうやって行ったのかは覚えていません。家族4人で抱き合っていて、死ぬのであればこのままの状態でいようと考えたのがちょうど30年前の朝です。 迫田: その後ずっと防災のことに関わってこられて、この30年間、神戸で起きた色々なことが本当に教訓として積み重なってきているのかということを伺いたいと思います。 立木: 私は能登にも入っていますが、皆、「東日本大震災の時はこうだった」と繰り返し言います。あの時にこういう対策をとったから今回も同じ対策を取ると言う人がいますが、それは違います。心理学の概念で「図と地」という考え方があります。だまし絵は図と地がひっくり返っているというものですが、災害は1つ1つの出来事は図なのですが、どういう社会状況の中で起こっているのかという地の部分とセットで考えなければ、なぜそういう対策が取られたのかということが見えてきません。 

保坂展人氏:国がどんなにダメになっても地方にできることはたくさんある

マル激!メールマガジン 2025年1月15日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ ) ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― マル激トーク・オン・ディマンド (第1240回) 国がどんなにダメになっても地方にできることはたくさんある ゲスト:保坂展人氏(世田谷区長) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  政府が機能不全に陥って久しい。いや、これは昨年の総選挙での自公政権の過半数割れや、その後の石破政権による危うい政局運営のことだけを言っているのではない。「失われた30年」の間、日本があらゆる国際指標でつるべ落としのように転落しているのを指をくわえて見ていた政府は機能不全以外の何物でもない。 しかも、このままでは7月の参院選でも、自公連立政権は勝てそうにない。そうなればいよいよ日本の政治は混沌状態に陥る可能性が高い。そしてその間も、日本は経済も社会も転落を続けていくことが避けられそうにない。  だが、中央政府があてにならなくても、日本には地方自治というものがある。実際、教育、医療、環境、介護等々、われわれの日常生活に密接に関わる決定はほとんどが地方政府によって下されているものだ。  東京都の世田谷区は4期目となる保坂展人区長の下で、様々な施策を国に先駆けて実行してきた。その保坂氏は就任直後から「5%改革」を掲げてきた。これは一気に物事を変えようとしても難しいが毎年5%ずつなら改革は可能だという考え方だ。1年目に5%を変え、翌年には変わっていない95%のうちの5%を変える。これを繰り返すと、8年で3割、12年で半分を変えることができる。現行制度の3割とか、5割とかが変えられれば、それは文字通り大改革だ。  世田谷区では例えば、コロナ禍で複数の検体をまとめてPCR検査するプール方式をいち早く導入して見せた。これは複数人の検体を1つの試験管でまとめて検査するというもので、政府がかけ声をかけても中々進まなかったPCR検査を劇的に加速させる効果があるが、中央ではPCR検査を差配する国立感染研究所や厚生労働省の大反対で安倍政権下では一向に実現しなかった。世田谷区では2020年末から他の自治体に先駆けて準備を進め、年明けには実現させていた。  世田谷区はまた同性カップルに「パートナーシップ宣誓制度」というものを2015年11月に国内で初めて導入した。これも国に先駆けて導入したものだが、2020年頃からパートナーシップ制度を導入する自治体が一気に増え、2024年6月時点で459自治体で導入されている。人口でいうと85.1%にあたる自治体で何らかの公的なパートナーシップ制度が導入されている。  自然エネルギーを他の自治体から直接購入できる仕組みも世田谷区が最初に作った。2011年の原発事故の直後に世田谷区長に初当選した保坂氏は、これまで日本には存在しなかった地方で作った自然エネルギー電力を都市が買う仕組みを導入した。2017年、長野県の県営水力発電所の電気を買い始めたのを皮切りに、今世田谷区は群馬県川場村、新潟県十日町市などからも電気を買っている。  保坂氏は世田谷区長に就任したとき、「何でもよくわかっている行政がすべてを決めるのが当たり前」という古い考え方を廃し、「行政はほとんど何もわかっていない」という前提で区長としての仕事を始めた。そのために28か所で20~30人規模の車座集会を繰り返し開き、住民の意見を聴いて回ることから区政を始めたという。  そこで、介護保険を使い始めるとき、どこに行ったらいいのか分かりにくいという意見が多く聞かれたので、地域包括支援センターや社会福祉協議会、地区行政窓口の3つを統合して、一括して相談に乗れる「福祉の相談窓口」というものを作った。それまでも3つの機関は似たような業務を別々に行っていたが、同じ場所に置くことで相互に連携するのが当たり前になったという。  日本は未だに明治以来の中央集権的な制度が続いている。メディアもエネルギーもすべて中央集権的な仕組みになっている。しかし、国が一丸となって富国強兵や戦後復興に国力を集中させるためには中央集権が好都合だったかもしれないが、経済大国として先進国への仲間入りを果たし国民のニーズも多様化した今、中央で一握りのエリート官僚が日本全体の多種多様なニーズを汲み上げ、意思決定を下していく古い統治体制は、とうの昔に限界を迎えている。 中央の権限と財源を地方に移管し、より小さなユニットで意見集約や意思決定をしていかない限り、これからも政治への不満や不信は膨らみ続けることになるだろう。  にもかかわらず昨年6月には、地方自治法が改正され、感染症のまん延など国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が起きた場合、国が地方自治体に指示できるようになった。コロナに適切に対応出来なかった原因が、中央政府の権限が弱かったからだと本気で考えているようだ。保坂氏も、もしコロナの蔓延が始まった時点でこの法律ができていたら、全国に先駆けて行われた「プール方式」によるPCR検査を実現することはできなかっただろうと語る。 時代の要請と明らかに逆行する法律を平然と通してしまうほど、日本の中央政府は機能不全に陥っているのだ。そうでなくとも機能不全の政府により大きな権限を集中させて一体日本をどうしてくれるつもりなのだろうか。  なぜ、少しずつ変えていくことが重要なのか。日本全体が縮小していく中、地方にできることは何かなどについて、世田谷区長の保坂展人氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。  なお、番組の冒頭では、東京五輪をめぐる汚職疑惑により逮捕され、226日勾留された角川歴彦・前KADOKAWA会長が起こした「人質司法」を違憲とする国賠訴訟についても議論した。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・角川裁判―「人質司法」は憲法違反であり国際人権法違反だ ・国に先駆けて行われた世田谷区の政策 ・市民に「参加してもらう」マインドセットを行政が持てるかどうかが鍵 ・問題だらけのふるさと納税 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■ 角川裁判―「人質司法」は憲法違反であり国際人権法違反だ 神保: 前回は宮本匠さんと「空気」の話をしましたが、新年ということで、今回も細かい話というより大きな話ができればと思います。日本全体の統治機構がこのままではどうしようもないということを地方自治のアングルから考えてみたいのですが、中央で物事を決めてコンセンサスを取るというのはもう無理筋ですよね。 宮台: 無理筋ですし、そもそも既得権益の問題で、中央が中央を改革することはできません。過去四半世紀の先進国で、なぜ実質所得が上がらない国があるのかといえば、もちろん産業構造改革ができないからですが、それはそもそも空気に抗えないからです。空気に抗えないというのはヒラ目キョロ目問題で、日本人の生活形式には一切変化がありません。 神保: 日本の中央の政治は全く動かないですし、少数与党で次の参院選はこのままだと勝てません。そうすると政治はいよいよ混沌の時代に入ります。中央が全く動かない中で、世界の指標を見ると日本はつるべ落とし状態。国をどうこうしようという時には大変です。ですが、希望の星と言ったらいいのか、日本には地方自治があります。  われわれの日々の生活を見ると、日常生活に密接に関係がある意思決定のほとんどは地方で行われています。警察や防衛、大きな税率などは国マターですが、他は地方での決定に左右されています。しかし地方自治体の選挙の投票率を見ると非常に低く、皆、地方の政治には関心がありません。 

宮本匠氏:日本人の行動を支配する「空気」の正体とそれに抗うための方策

マル激!メールマガジン 2025年1月8日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ ) ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― マル激トーク・オン・ディマンド (第1239回) 日本人の行動を支配する「空気」の正体とそれに抗うための方策 ゲスト:宮本匠氏(大阪大学大学院人間科学研究科准教授) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  2025年最初のマル激は、とかく日本人が流されがちだと言われる「空気」の正体とそれに抗う方法を考えてみた。「空気」こそが、日本がいつまで経っても「失われた30年」から脱することができないでいる大きな要因になっている可能性があるからだ。  日本列島は昨年も多くの災害に見舞われた。学生時代から災害ボランティアに従事し、その後、研究者としても中山間地域の被災地の復興過程に関わってきた大阪大学准教授の宮本匠氏はその過程で、被災地の復興には「空気」が決定的に重要な意味を持つことに気づいたという。  2004年に発生した新潟県中越地震の際、大学生だった宮本氏は、復興ボランティアとして新潟県を訪れて以来、20年近くにわたり中越地域に関わってきた。長岡市の木沢集落で出会った住民たちにまた会いたいと思い、年の半分以上を木沢で過ごすようになったという。  親しくなった木沢集落の人々は、山や畑では誇らしげに自分たちの村の話をしてくれるのに、復興について話し合う会合になると途端に「水がない」、「子どもがいない」と、将来に対する諦めや足りない物を求める発言が相次いだという。しかし、宮本氏が住民たちの話をひたすら聞くことに徹するようにすると、住民たちの語りは次第に「ここにはサワガニがいる」、「ウラシマソウがある」といった前向きなものに変わっていったという。  山本七平の論を俟つまでもなく、「空気」の支配が強いと言われる日本では、特に災害時には空気の支配によって「〇〇がない」といったマイナス思考が連鎖しやすい。それが被災者の「諦め感」、「無力感」、「依存心」を引き出し、むしろ真の復興の妨げになっていることに宮本氏は気づいたという。  心理学者のクルト・レヴィンが始めたグループ・ダイナミクスという学問がある。第二次世界大戦中の食料不足に対応するためレヴィンは政府からどうすればホルモン(動物の内臓)を食べる習慣のないアメリカ人にホルモンを食べてもらえるかの相談を受けた。レヴィンはホルモンの調理法を考えるイベントに集まった人を2つのグループに分け、1つのグループにはホルモンについての講義のみを行い、もう1つのグループには講義の後に話し合いの場を設けた。 すると講義後に、講義だけを受けたグループでは3%の人しかホルモンを実際には食べなかったが、話し合いをしたグループでは32%の人が食べたと回答したという。この結果をもってレヴィンは、自分の意思を表明する機会があると、その後の実際の行動にもつながりやすくなることを示していると結論付けた。  話し合いの場が設けられ、一人ひとりが自分の意見を表明する機会を与えられることによって、客観的な根拠を積み上げながら良い選択肢を探ることが可能になる。しかし、その機会がないと、特に日本の場合、実体のない「空気」が一人ひとりの意思決定を容易に左右してしまう傾向が強い。  それは今の日本全般にも当てはまる。1995年以降、いわゆる「失われた30年」の中で、日本は生産年齢人口も賃金もGDPも右肩下がりを続けてきた。将来に対する悲観論が日本全体を覆っている。その「空気」を入れ替えるためには、まずは身近な地域の「空気」を入れ替えることが必要だ。それも、ただそう思っているだけではダメで、それを「みんな」の前で言語化することによって初めて行動変容が起きると、宮本氏は自らの経験と研究を元に指摘する。  日本を支配している「空気」とはどのようなものか、どうすれば後ろ向きな「空気」を打破することができるのか、いかにして「ないものねだり」を「あるもの探し」へと転換できるのかなどについて、大阪大学大学院人間科学研究科准教授の宮本匠氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・誰もが気付いていても指摘できない日本の「空気」 ・自分たちがすでに持っているものに気づく難しさ ・「空気」を入れ替えるためには ・被災して何もかも失ってもなお存在するものは何か +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■ 誰もが気付いていても指摘できない日本の「空気」 神保: 今回は2025年最初のマル激となりますが、収録は2024年末に行っています。年始のマル激はいつも旧年に録っていて、そこでは個別のテーマというより1年を展望するような大きな話をすることにしています。今回も特別な企画をお送りできればと思いますが、宮台さん、2025年冒頭ということで何かありますか。 宮台: 年末のマル激ではアメリカ論、公開収録では日本論を扱いました。去年は元々あった問題が全て露呈していくということがあったので、その意味で単に1年ということではなく、日本の過去数十年とアメリカの過去数百年を総括するという話をしました。それを受けてわれわれはどういう心づもりや免疫化をしなければならないのかということが大事です。 神保: 「過ごし方」ですよね。これから来るものは幸か不幸か避けられず、なるべくそういうふうに考えたくないという人もいるでしょうが何が起こるのかはある程度分かっています。今までのマインドセットで見ると酷いことになりかねないと思えるのですが、もしかしたらそのマインドセット自体を変えなければならないかもしれません。 宮台: 社会がだめになると人が輝くという小室直樹先生の名言があります。 

年末恒例マル激ライブ:日本版トランプ現象はいつどんな形で始まるか

マル激!メールマガジン 2025年1月1日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ ) ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― マル激トーク・オン・ディマンド (第1238回) 年末恒例マル激ライブ 日本版トランプ現象はいつどんな形で始まるか ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今週のマル激は、12月21日に東京・蒲田「アプリコ」で行われた「年末恒例マル激ライブ」の模様をお送りする。  元日の能登半島地震から始まった2024年は、世界各国で行われた選挙では与党がことごとく大敗するなど激動の1年となった。実際、アメリカとイギリスでは政権が交代し、日本も10月に行われた総選挙で自公連立与党が大敗し、30年ぶりの少数与党政権となった。どうやら全世界的に政治が不安定化の様相を呈しているように見える。  2025年は特にアメリカでトランプ政権が再び誕生することで、アメリカのみならず世界の秩序が大きく変わる可能性がある。また、アメリカで起きたことは、ほぼ周回遅れで日本にも起きると言われてきたし、実際にそうなってもきた。  2016年の第一次トランプ政権の誕生から9年目となる日本にも、そろそろ大きな変化が起きそうな気配が感じられる。  しかし、その場合、日本版トランプ現象とはどのようなものになるのだろうか。政治的にはアメリカのように保守勢力が伸長するのか。または、政策や理念とは関係なく、SNSを使いこなした勢力が一世を風靡するのか。それは失われた30年から日本が脱する一助となり得るのか。  「失われた30年」の間、日本は経済成長も賃金上昇も実現できず、国力を低下させてきた。今や日本はあらゆる指標で先進国の最下位グループに転落している。経済成長ができず、産業構造を改革できず、既得権益を引き剥がすことができず、ひたすら人口減少と経済停滞に対して無策のまま無駄に過ごしてきた日本は、このまま没落国家の道を歩むことになるのか。はたまたどこかで国民が目を覚まし、回復の道を歩み始めるのか。その場合、どのようなモデルが考えられるのか。  戦後の日本は少なくとも1990年代までは、冷戦構造という日本にとってとても有利な国際条件の下で、人口ボーナスのメリットをフルに活用しながら、経済成長の果実を満遍なく享受してきた。日本経済のパイが大きくなる中、日本国民は大勢に従っていればそこそこの経済的恩恵を受けることができたし、実際に生活水準は確実に上がっていた。  しかし、日本自体が成長できなくなっているにもかかわらず、大半の人々は高度成長時代に人為的に作られた考え方や制度を未だに従順に受け入れている。もはや沈みかけた船の中の座席争いに汲々としている場合ではないのではないか。  とはいえ、自分が信じる価値観を貫くことよりも周りの空気を読んで適応する方が得意なのが日本人の特性でもある。であるならば、日本をどう変えるかを考える前に、まずは個々人が自分たちの周りの家族や仲間や地域とつながり、それを少しずつでも変えていくことが重要だ。  今の日本では、本音で話ができる場所がどんどん失われている。空気を読み合い、本音を隠してキャラクターを演じ、そのキャラをSNSやLINEなどを通じて固定化していく。まずは身近なところで、本音で話せる場所づくりをしようではないか。  2024年最後となるマル激では、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が2024を総括し2025年を展望する公開番組をお送りする。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・なぜ「日本病」から抜け出せないのか ・日本の劣等性が硬直性となって表れている ・「失われた30年」からの着地の仕方を考える ・日本版トランプ現象はどのようなものになるのか +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■ なぜ「日本病」から抜け出せないのか 神保:  こんにちは。年末恒例のマル激ライブはずいぶん前から繰り返しやっていますが、今年はたまたま年末の最終週に開催しているので、2024年がどういう年だったのかというところから振り返っていきたいと思います。宮台さんは2024年をどのようにキャラクタライズされますか。 宮台: ひと言でいえば内外反転です。今まで正常や通常だと思っていたものが異常で特殊なもので、今まで異常や特殊だと思っていたものがむしろデフォルトであるということがはっきりしました。その意味で僕にとっては20年来待望していた状態になったということです。民主主義が正常に回ると思える状態は極めて異常であり、民主主義が正常に回らないということがむしろ正常なんです。これは92年以降リチャード・ローティが言っていることで、僕は全面的に賛成しています。 30年以上の歴史があるこの古い発想がなぜ今日まで人々に受け入れられていないのかということについては、認知的整合化、利権への固執、あるいは仲間はずれにされたくないというヒラ目キョロ目のケツ舐めメンタリティーが関係しています。 神保: 日本は2024年1月1日に地震があり、羽田空港の衝突炎上事故も年始にありました。世界的にみるとアメリカのトランプ大統領が返り咲いたということも非常にエポックメイキングな出来事でしたが、アメリカのみならずほぼ世界中の先進国で与党が大敗していて、国によって政権交代、あるいは連立の組み替えが起こりました。 この連立の組み替えはほとんどの場合、勢力を伸長してきた右側との組み替えです。ご多分に漏れず日本でも、政権与党が選挙で大敗を喫しています。世界的に与党が負け、民主勢力が後退しているという状況の中で、日本の選挙結果もその文脈の中に落とし込んで良いのかどうか、あるいは日本は特異な状況にあるのでしょうか。 宮台: 神保さんがおっしゃった質問の範囲でいえば日本も同じです。僕は経済保守から政治保守へという言い方をしていますが、これはマックス・ウェーバーが唱える結果倫理に関わっていて、経済保守は国民を豊かにするという結果を出すことをもって自らを証し立てることができる一方で、政治保守は信条倫理の気分すっきり火遊びバーンといったもので良いんです。 したがって、どこの国でもある程度戦後復興が成功し経済保守が実質を示す時代が終わり、今日日本では通信、放送、インフラその他もろもろの昭和OSが整備された状態で、貧乏でもあまり貧乏感を感じなくなりました。しかしそうなったことで、戦後長い間、どこの国でも傍流にすぎなかった信条倫理の政治保守という営みが前景化しました。これは日本でも全く同じですよね。 神保: 親米保守のような人たちですよね。 宮台: 田中角栄的なものの反対、あるいは高市早苗的なものだといっても良い。経済保守は実質勝負であり結果責任なので信条倫理ではありません。イデオロギーなどにはこだわらないので、周恩来あるいは周恩来を通じて毛沢東と手を結ぶことによって日中の経済的な相互交流を活発化させました。しかし当時のアメリカの国務大臣であったキッシンジャーの逆鱗に触れ、アメリカからの弾に当たりロッキード事件で沈没させられましたよね。 神保: いわゆるリベラル勢力の後退はある意味で当然な部分もあります。リベラルがいうところのある種の綺麗ごとを信じてやってきても全然生活は楽にならず格差も広がり、リベラル勢力の代弁者だと思っていた民主党も実はほんの一握りのエリートの代弁者になりました。ワーキングクラスの利益など守ってはくれないということも明らかになり、それに対する反動的な部分があったので世界的に保守化が起きました。 

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ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が、毎週の主要なニュースの論点を渦中のゲストや専門家らと共に、徹底的に掘り下げるインターネットニュースの決定版『マル激トーク・オン・ディマンド』。番組開始から10年を迎えるマル激が、メールマガジンでもお楽しみいただけるようになりました。

著者イメージ

神保哲生/宮台真司

神保 哲生(じんぼう・てつお) ビデオジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表。1961年東京生まれ。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信記者を経て 93年に独立。99年11月、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立。 宮台 真司(みやだい・しんじ) 首都大学東京教授/社会学者。1959年仙台生まれ。東京大学大学院博士課程修了。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。

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