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年末恒例マル激ライブ:日本版トランプ現象はいつどんな形で始まるか
2025-01-01 20:00会員無料マル激!メールマガジン 2025年1月1日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1238回)
年末恒例マル激ライブ 日本版トランプ現象はいつどんな形で始まるか
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今週のマル激は、12月21日に東京・蒲田「アプリコ」で行われた「年末恒例マル激ライブ」の模様をお送りする。
元日の能登半島地震から始まった2024年は、世界各国で行われた選挙では与党がことごとく大敗するなど激動の1年となった。実際、アメリカとイギリスでは政権が交代し、日本も10月に行われた総選挙で自公連立与党が大敗し、30年ぶりの少数与党政権となった。どうやら全世界的に政治が不安定化の様相を呈しているように見える。
2025年は特にアメリカでトランプ政権が再び誕生することで、アメリカのみならず世界の秩序が大きく変わる可能性がある。また、アメリカで起きたことは、ほぼ周回遅れで日本にも起きると言われてきたし、実際にそうなってもきた。
2016年の第一次トランプ政権の誕生から9年目となる日本にも、そろそろ大きな変化が起きそうな気配が感じられる。
しかし、その場合、日本版トランプ現象とはどのようなものになるのだろうか。政治的にはアメリカのように保守勢力が伸長するのか。または、政策や理念とは関係なく、SNSを使いこなした勢力が一世を風靡するのか。それは失われた30年から日本が脱する一助となり得るのか。
「失われた30年」の間、日本は経済成長も賃金上昇も実現できず、国力を低下させてきた。今や日本はあらゆる指標で先進国の最下位グループに転落している。経済成長ができず、産業構造を改革できず、既得権益を引き剥がすことができず、ひたすら人口減少と経済停滞に対して無策のまま無駄に過ごしてきた日本は、このまま没落国家の道を歩むことになるのか。はたまたどこかで国民が目を覚まし、回復の道を歩み始めるのか。その場合、どのようなモデルが考えられるのか。
戦後の日本は少なくとも1990年代までは、冷戦構造という日本にとってとても有利な国際条件の下で、人口ボーナスのメリットをフルに活用しながら、経済成長の果実を満遍なく享受してきた。日本経済のパイが大きくなる中、日本国民は大勢に従っていればそこそこの経済的恩恵を受けることができたし、実際に生活水準は確実に上がっていた。
しかし、日本自体が成長できなくなっているにもかかわらず、大半の人々は高度成長時代に人為的に作られた考え方や制度を未だに従順に受け入れている。もはや沈みかけた船の中の座席争いに汲々としている場合ではないのではないか。
とはいえ、自分が信じる価値観を貫くことよりも周りの空気を読んで適応する方が得意なのが日本人の特性でもある。であるならば、日本をどう変えるかを考える前に、まずは個々人が自分たちの周りの家族や仲間や地域とつながり、それを少しずつでも変えていくことが重要だ。
今の日本では、本音で話ができる場所がどんどん失われている。空気を読み合い、本音を隠してキャラクターを演じ、そのキャラをSNSやLINEなどを通じて固定化していく。まずは身近なところで、本音で話せる場所づくりをしようではないか。
2024年最後となるマル激では、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が2024を総括し2025年を展望する公開番組をお送りする。
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今週の論点
・なぜ「日本病」から抜け出せないのか
・日本の劣等性が硬直性となって表れている
・「失われた30年」からの着地の仕方を考える
・日本版トランプ現象はどのようなものになるのか
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■ なぜ「日本病」から抜け出せないのか
神保: こんにちは。年末恒例のマル激ライブはずいぶん前から繰り返しやっていますが、今年はたまたま年末の最終週に開催しているので、2024年がどういう年だったのかというところから振り返っていきたいと思います。宮台さんは2024年をどのようにキャラクタライズされますか。
宮台: ひと言でいえば内外反転です。今まで正常や通常だと思っていたものが異常で特殊なもので、今まで異常や特殊だと思っていたものがむしろデフォルトであるということがはっきりしました。その意味で僕にとっては20年来待望していた状態になったということです。民主主義が正常に回ると思える状態は極めて異常であり、民主主義が正常に回らないということがむしろ正常なんです。これは92年以降リチャード・ローティが言っていることで、僕は全面的に賛成しています。
30年以上の歴史があるこの古い発想がなぜ今日まで人々に受け入れられていないのかということについては、認知的整合化、利権への固執、あるいは仲間はずれにされたくないというヒラ目キョロ目のケツ舐めメンタリティーが関係しています。
神保: 日本は2024年1月1日に地震があり、羽田空港の衝突炎上事故も年始にありました。世界的にみるとアメリカのトランプ大統領が返り咲いたということも非常にエポックメイキングな出来事でしたが、アメリカのみならずほぼ世界中の先進国で与党が大敗していて、国によって政権交代、あるいは連立の組み替えが起こりました。
この連立の組み替えはほとんどの場合、勢力を伸長してきた右側との組み替えです。ご多分に漏れず日本でも、政権与党が選挙で大敗を喫しています。世界的に与党が負け、民主勢力が後退しているという状況の中で、日本の選挙結果もその文脈の中に落とし込んで良いのかどうか、あるいは日本は特異な状況にあるのでしょうか。
宮台: 神保さんがおっしゃった質問の範囲でいえば日本も同じです。僕は経済保守から政治保守へという言い方をしていますが、これはマックス・ウェーバーが唱える結果倫理に関わっていて、経済保守は国民を豊かにするという結果を出すことをもって自らを証し立てることができる一方で、政治保守は信条倫理の気分すっきり火遊びバーンといったもので良いんです。
したがって、どこの国でもある程度戦後復興が成功し経済保守が実質を示す時代が終わり、今日日本では通信、放送、インフラその他もろもろの昭和OSが整備された状態で、貧乏でもあまり貧乏感を感じなくなりました。しかしそうなったことで、戦後長い間、どこの国でも傍流にすぎなかった信条倫理の政治保守という営みが前景化しました。これは日本でも全く同じですよね。
神保: 親米保守のような人たちですよね。
宮台: 田中角栄的なものの反対、あるいは高市早苗的なものだといっても良い。経済保守は実質勝負であり結果責任なので信条倫理ではありません。イデオロギーなどにはこだわらないので、周恩来あるいは周恩来を通じて毛沢東と手を結ぶことによって日中の経済的な相互交流を活発化させました。しかし当時のアメリカの国務大臣であったキッシンジャーの逆鱗に触れ、アメリカからの弾に当たりロッキード事件で沈没させられましたよね。
神保: いわゆるリベラル勢力の後退はある意味で当然な部分もあります。リベラルがいうところのある種の綺麗ごとを信じてやってきても全然生活は楽にならず格差も広がり、リベラル勢力の代弁者だと思っていた民主党も実はほんの一握りのエリートの代弁者になりました。ワーキングクラスの利益など守ってはくれないということも明らかになり、それに対する反動的な部分があったので世界的に保守化が起きました。
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