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「文明への反発」
2022-04-29 07:00110pt娘が薄着になりたがる。春が過ぎた辺りからか。少しでも太陽が顔を出していれば「今日暑い?」と半袖と短いズボンを履く。「肌寒いから羽織る物があってもいいんじゃない?」「転んだときに膝を擦り剥かないように長いのを履くのもいいんじゃない?」と提案しても薄着の方を選ぶ。娘だけかなと思ったが違うようだ。保育園に着くと肌寒い園庭を子どもたちが薄着で駆け回っている。中には裸足の子さえいる。ぼくは思い出す。かつて人間が裸だったことを。数万年以上前の話だ。狩猟時代に入ると寒さを凌ぐ為に毛皮をまとったのが衣服という文明の始まりとされている。
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「あたらしい季節が始まっていく」
2022-04-27 07:00110pt月曜の朝、娘を眼科に連れていく。週末から「目が痒い」と訴えていたからだ。 受付を済ませ、閑散とした待合室の長椅子に並んで坐る。初夏の陽射しが柔らかなカーテンを通って静謐な廊下に日溜まりを作っていた。診察開始までまだ20分近くあった。
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「1969年の東京でぼくは生まれた」
2022-04-25 07:00110pt憂鬱なブースター接種の後、ネット配信で映画を見続けた。理不尽な発熱にやり場のない憤りを感じながら、一方でこの機会を有意義なものにしようという思いだった。接種日を含めて3日間の休暇(と言っても子育ては通常営業なのだけれど)を久し振りに自分の時間に費やそうと思ったのだ。時間の使い方がうまくないのだろう。若い頃のように睡眠時間を削ってまで、とは思わなくなったからだろう。娘が生まれてからは仕事か家事子育てのどちらかで、仕事と関係のない映画を観る時間はほとんどなかった。
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「水墨画の海」
2022-04-22 07:00110pt窓越しに見える海が水墨画みたいだった。空にはコンクリートのような雲が立ち込めている。海は見る者の心を映す鏡だ。窓辺に立って水平線を眺めているぼくの心も渇き切っていた。海辺で暮らしているからといって毎日が「湘南スタイル」のグラビアみたいな青天白日というわけではない。誰もいない浜辺は時に独房のように殺風景で気が紛れるものがない分、追い詰められると逃げ場がない。正確に言えばこの海辺自体が逃げ場なのでその世界が色を失ってしまうと他に行きようがない。旋回する鳶。屋根の上で獲物を狙っている烏。彼らが屍となったぼくを啄むのを待ち構えているように感じられる。
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「小学校ってなにするところ?」
2022-04-20 07:00110ptトーストを食べるたびに思う。小麦を捏ねて焼いたパンを焼いてみようと最初に思いついた人の発想力は凄いなと。月並みだが「常識を疑うこと」が始まりだったのだろうか。頭痛が痛いに代表される重言のような違和感はなかったのだろうか。焼き窯から出した一斤のパンをスライスしてまた焼こうとした瞬間「いやいや、焼いてあるよそれ」と一斉に指摘されたんじゃないだろうか。炊いたごはんを焼いてみようというならまだわかる。誰が焼き魚や焼き肉を焼いてみようと考えるだろう。焼きが足りないのならまだしも、パンは焼き窯から出した時点で完成しているのだ。あるいはパンが焼いたものであると知らなかった人の発想だったのだろうか。
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「ちいさなおむすび」
2022-04-18 07:00110pt -
「歩くのが速かったぼくは」
2022-04-15 07:00110pt -
「2022年4月11日」
2022-04-13 07:00110pt海沿いの国道を右折して長いトンネルを抜けると里山に出る。雲の流れがシフトチェンジする。感覚が研ぎ澄まされ、鳥の囀りだけが聞こえてくるようになる。子安の里―――ぼくらの菜園もこの一画にある。
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「キュロット」
2022-04-11 07:00110pt少し前の話だ。たまには洋服でもプレゼントしようかな、と娘に聞いたことがあった。いや、そうじゃないな。そうそう、ホワイトデーのお返しだった。「キュロットが欲しい」 娘は言った。キュロット。にんじんじゃない。それはキャロットだ。キュロットとはスカートのように見えるが、良く見たら半ズボンという、騙し絵みたいな衣類だ。いや、フランス語で半ズボンのことをキュロットと言うのだからやっぱり半ズボンなのだろう。男のぼくからすると正直よくわからないアイテムだが、フランス革命のとき男子貴族が着用していたものが発祥だというから男性のぼくが知らないというのもおかしな話なのかもしれない。という説明はさておき。 本題はなぜ娘がキャロット、ではなくキュロットを欲しがったか、にある。彼女の通う保育園では原則としてスカートは禁じられている。
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「わからないから価値がある」
2022-04-08 07:00110ptぼくらの当たり前が当たりじゃないことを子どもたちは教えてくれる。「空気はどうして見えないの?」 娘に訊かれた。「…どうしてだろうね」 見えないのが当たり前過ぎて考えたこともなかった。いや、あったのかもしれないが、忘れてしまった。忘れてしまったということは碌に調べもしなかったのだろう。
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