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記事 12件
  • 「私の世界」

    2022-02-28 07:00  
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     妻に手を振って家を出た直後、娘は少しだけ淋しそうだった。一ヶ月振りの登園。ほんの少し不安そうでもあった。泣くかな、とも思った。それでも園庭に先生や友達の顔を見つけると僕に「いってくるね」と手を振ってうれしそうに駆けだしていった。
     

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  • 「世界が終わった後の夜に」

    2022-02-25 07:00  
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     静かな夜だ。吹きすさぶ海風しか聞こえない。冷気が窓越しに伝わってくる。電気膝掛けの温度レベルをひとつ上げる。妻と娘が作ってくれたバナナナッツブラウニーを食べ、ウイスキーを舐めながら、一日を振り返る。
     

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  • 「花を咲かせるんだよ」

    2022-02-23 07:00  
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     菜花を食べるたびに思い出す言葉がある。「食べたあんたが代わりに花を咲かせるんだよ」 農業歴80年を越えるかしこおばあちゃん。僕の畑の師匠の言葉だ。菜花は二月のこの時期に花を咲かせる直前の蕾を食べる。花を咲かせるために充填したエネルギーを橫から掻っ攫って食べてしまうのだ。人間の営みの何たる残酷なことか。
     

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  • 「すべては目の錯覚に過ぎないんだよ」

    2022-02-21 07:00  
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     娘と浜辺を散歩した後、家の裏手にある公園に移動してサッカーをしていたときのこと。家々の向こうにある富士山を見ていた娘が言った。「ねえ、パパ、こっちの方が富士山が大きく見えるよ」 浜辺で見ていた富士山は小さいのに、公園で見た富士山は大きい。浜辺と公園は距離にして五十メートルほど。とはいえ浜辺よりも富士山から遠ざかったはずの公園の方が富士山が大きく見える。そのことが不思議だったようだ。
     

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  • 「家族ってなんだろう」

    2022-02-18 07:00  
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     人は誰もが幸せになりたいと願う。人の幸せが自分にとっての幸せだと言う人もいる。互いの幸せという利害が一致しているときはそれでいい。でも、時にある人を幸せにすることが自分を不幸に陥れてしまう局面もある。そこでどちらを選ぶのか。人の幸せか、自分の幸せか。 様々な人間関係の中でもこと「家族」においてはそういう局面が多いような気がする。
     

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  • 「いいコになんかなるなよ」

    2022-02-16 07:00  
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    「好きなことは諦めなくていいんだよ」
     なんて偉そうなことを娘に言っておいて恥ずかしい話なのだけれど、この二年で諦めることに慣れ切ってしまったような自分を感じてもいる。ふがいない話だ。
     

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  • 「好きなことは諦めない」

    2022-02-14 07:00  
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     三ヶ月ほど前から娘がバレエのレッスンに通っている。ある朝、突然「バレエがやりたい」と言い出したのが始まりだった。以前から踊ることが好きだった。身体を動かすことが好きだった。そんな姿を見ていて二歳の時に買った『おどりたいの』という絵本にも夢中になった。森の子うさぎが人間の女の子たちのバレエ教室に憧れ「おどりたいの」と勇気を出して申し出る物語だ。「つむちゃん、おどりたいの」 言い出したのはその絵本も読まなくなってしばらく経った時のことだった。自分の中で想いを熟成させていたのかもしれない。あるいは言い出すタイミングを探していたのかもしれない。それが無意識下で行われていたことだったとしても。 
     

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  • 「今、子ども同士が安心して楽しめる遊び」

    2022-02-11 07:00  
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     最近の日課は、五歳の娘とのサッカーだ。 地元のJリーグチームが保育園でサッカー教室を開いてくれたのをきっかけに娘がすっかりサッカーに夢中なのだ。
     

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  • 「守るべきもの、守りたいもの」

    2022-02-09 07:00  
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     登園を自粛していた保育園から休園の連絡が入ったのは三日前のことだ。 自分たちの子どもなのだから自分たちで守るのは自然なことだと分かっていても限界はある。昼間は交代で娘と遊び、終わらなかった仕事を娘が寝た後に明け方頃までやる。睡眠負債も溜まって来ていた。 何より、仕事も育児もどちらも中途半端になっていることへの憂鬱さがあった。メリハリがないというか。それ自体は僕ら自身の資質の問題なので仕方ないといえば仕方がない。仕事するときは仕事だけに、遊ぶときは遊ぶだけに全集中できればいいのだけれど。でも、娘と遊んでいるときに仕事の電話が入ったり、原稿に向かっているときに「トイレ」とか言われるとどちらに対しても失礼なことになってしまう。そこまで鬼にになれない自分の弱さに鬱々とした気分になる。
     

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  • 「推しの力」

    2022-02-07 07:00  
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     叔母が他界した。母の妹で、74歳だった。二人の息子を女手ひとつで育て上げた人だった。「私、ミーハーなのよ」と「8時だよ全員集合」の公開生放送に子ども連れで何度も通っていた。森高千里の「ミーハー」という歌を聞いたとき、真っ先に思い出したのも叔母のことだった。
     

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