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記事 91件
  • 「2021年9月5日」

    2021-09-08 07:00  
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     4日振りに屋外へ出た。妻と娘といつもの小径を下って浜辺に出る。登園自粛と雨で家に閉じこもっていた娘が波打ち際でうれしそうに跳ねている。僕と妻はトング片手にビーチクリーンを始める。漂着ゴミは相変わらずだけど、放置ゴミはご丁寧に砂に刺した煙草の吸い殻が数本程度。入り口に「近隣の方を除き海岸への立ち入りはお控え下さい」と掲示されて一週間。併せて9月からの秋雨で遠方からバーベキューに訪れる人が皆無だったからだろう。
     

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  • 「ディストピア・リゾート」

    2021-09-03 07:00  
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     市内の感染者数が連日100人を越え、ついに秋谷海岸への立ち入りも「近隣の方以外立ち入りをお控え下さい」という注意書きとロープで規制された。厳しい残暑と体調を整えなければならない理由もあり、週末は家の中で過ごす。トレッドミルで軽く汗を流し、午後はベランダで冷えたノンアルコールビールを飲みながら、仕事の原稿を読む。陽射しは強いけれど、秋の涼風が心地良い。娘はシャボン玉をしている。「リゾートみたいだね」と妻が呟いた。確かにリゾートみたいだ。菜園のある海辺の町ということで引っ越してきたこの町だけど、別荘も多いリゾート地でもあるのだ。そういえば、昭和40年頃、銀座の不二家レストランで働いていた母も夏の社員旅行で秋谷の保養所に来たと話していた。独身時代にこの海を訪れた母はここに息子が棲む未来なんて想像もしていなかっただろう。ましてや孫がその海岸を毎日のように裸足で走り回る未来なんて。
     

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  • 「自然か、不自然か」

    2021-08-27 07:00  
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     海沿いの国道を山側に折れると、長いトンネルを抜けたところに子安の里という昔ながらの農村がある。山の麓に広がるこの人里で菜園を始めて10年になる。耕作放棄地を分譲した貸し農園の一画。作業の手を休めて空を仰げば、雲の流れがあり、耳を澄ませば鳥の囀りだけが聞こえてくる。
     

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  • 「想像して欲しい」

    2021-08-25 07:00  
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     僕にも都会で暮らす友達や家族がいる。だから、分断を煽りたいなんてこれっぽっちも思っていない。こういうときだからこそ多くの人に海や山へ遊びに来て貰って、深呼吸して貰って、少しでも解放されて欲しいと心から思っている。 そういう思いがあるからこそ、都会から訪れたあなたが、時に海沿いの生活道路に違法駐車をし、海岸でマスクもせずに酒を飲み、バーベキューをしていても、見て見ぬフリをしてきた。マスクを二重につけ、あなたが忘れていったゴミを妻や娘とトングで黙々と拾い続けてきた。 
     そのことを公の場で書くに至ったのは、想像して欲しいと思ったからだ。あなたが解放されに来た非日常は、そこに住むぼくらにとっての日常でもある。あなたが日常の場ではマスクをして感染対策をして過ごしているのと同じように、ぼくらも日常生活の舞台であるこの町ではマスクをし、感染対策を徹底して過ごしている。あなたと同じように、ぼくらにも自

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  • 「今日という一日を」

    2021-08-13 07:00  
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    2021年8月11日水曜 晴れ
     娘を保育園に送った帰りに134号線沿いの鮮魚店で魳(かます)を買う。細身で淡泊な白身だが、素早い泳ぎで鰯などを捕らえ、鋭い歯で喰らう獰猛な魚だ。なので良質なタンパク質を魚で摂りたいときはこの魳か太刀魚を選ぶ。 少し前までは2本しか注文しなかったけれど、最近は3本。娘のことを知っているおかみさんも「3本ね」と一本だけ小ぶりなものを選んでくれる。「何にするの?」「塩焼きに」「じゃあお塩振っとくわね」 1㎞先の漁港に水揚げされた魚を仕入れてくるこの店では塩焼きなら塩を、煮付けやソテーなら切り身にと、調理しやすいように捌いて下処理してくれる。忙しい平日はこのひと手間がとても助かるの、と妻は言う。買い物担当の僕にとっても、いつ行っても風通しの良い店先でおかみさんとマンツーマンで買い物ができるこの環境が本当に有り難い。全国チェーンのマーケットのように不特定多数の人と接触するリスクが少しもないことも。何でも揃う便利さと大量仕入れによる安さの代わりに限られた空間に人が密集するということがどれだけ不自然でハイリスクなことなのかを多くの人が思い知らされた1年5ヶ月。お互いの顔が見える地元の個人商店での買い物が見直される機会になるといい。
     

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  • 「ラブソング」

    2021-08-06 07:00  
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     地獄のような夏だ。無政府状態だからでも、ディストピアで世界大会が行われているからでも、その世界から「地獄のような嘘」と批判されている酷暑のせいでもない。
     

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  • 「誰かこの現象に名前をつけて下さい」

    2021-07-30 07:00  
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     休みの日に限っていつもより早く起きる4歳の娘。僕がトイレに入っているときに限ってトイレに行きたがる4歳の娘。 誰かこの現象に名前をつけて下さい。
      三つ編みをしてとせがむ4歳の娘。まごついていると「こうやるんだよ」と説明してくれる4歳の娘。でも、自分ではできない4歳の娘。言われてもうまくできない52歳の僕。 誰かこの現象に名前をつけて下さい。 
     世界中の人がそうであるように、去年からずっと自粛生活だった。1年延期になった五輪も開催できるというので今年こそはと夏の小旅行を計画した。まあ、旅行と行っても車で行ける近場なんだけど。ところが出発の数日前になって、
     

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  • 「オバケキュウリって、なんて辛辣なネーミングなんだろう」

    2021-07-16 07:00  
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     菜園のキュウリが見たこともない大きさに成長していた。連日の雨で畑に入れない日が一週間以上続いたせいだろう。長さ40センチ。直径8センチ。重量は500gを越えていた。ある自治体のキュウリの出荷規格を見ると、長さ25センチ以下、直径重さは140g未満というから2倍近くあるのだろう。もちろんマーケットなどではお目に掛かることのないサイズ。もはや緑色の大根だ。ほとんどが水分でできているキュウリは水風船のように一日で大きくなる。これまでも収穫し損なって大きくしてしまったことはあったが、ここまでの大きさにしてしまったのは初めてだった。梅雨明け後だと里山のカラスが水分補給に食べてくれるのでそのままにしておくのだけど、さすがにこの雨続きではカラスでさえ目もくれない。
     

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  • 「この夏に溶けていく」

    2021-07-12 07:00  
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     蝉時雨で目覚めた。そこに太陽があった。いや、太陽はいつもそこにあった。厚い雲に閉ざされていただけだ。雨を降らせる雲の厚さはおよそ3000メートル。夏の夕立を降らせる積乱雲になると10000メートルにも及ぶそうだ。10000メートルの壁なんて想像もつかない。ベルリンの壁だって20センチしかなかったのだ。
     

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  • 「世界から遠く離れて」

    2021-05-17 07:00  
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     町の防災無線が不要不急の外出を控えるよう繰り返し警告していた週末の朝だった。渋滞の始まった下り線を横目に海沿いの国道を山側に右折する。隧道を抜けるとそこには海の眩しさまでたった五分なんて信じられない光景が広がる。新緑の里山。山頂から流れていく穏やかな川の両脇には尾根伝いに畑が続いている。 車を降りると、僕らは苗を載せたケースを抱え、その一画にある菜園へと向かった。
     

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