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記事 13件
  • 「うさぎうどん」

    2020-06-29 07:00  
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     きつねそばが好物だ。手打ちでなくていい。むしろ立ち食いそば屋のきつねそばがいい。ねぎをたっぷり入れて(行きつけの某立ち食い店では黙っていてもそうしてくれる)、魔法瓶のそば湯で出汁を薄めて、食べる。太めの麺の富士そば。葱が入れ放題でゆず入りの七味が置いてある小諸そば。ざるが食べたいときは渋谷駅のしぶそば。若い頃はちくわ天かいか天だったけれど、四十代以降はすっかりきつね一択だ。東京で仕事をしているときのひとり飯はいつもきつねそばだった。リモートワークで三浦半島から出ていないここ数ヶ月で唯一残念なのが、立ち食いそばに行けないことだ。駅のない葉山と横須賀の西海岸周辺には立ち食いそば屋が一軒もない。なので自宅での昼食には乾麺を茹で、作り置きの甘く炊いた油揚げを載せ、立って食べている。
     

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  • 「からっぽのバスがゆく」

    2020-06-26 07:00  
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     海沿いの国道を、からっぽのバスがゆく。 ここに来るまで誰が乗っていたんだろう。ここから先に誰か乗るのだろうか。もしかすると誰も乗っていなかったのかもしれないし、誰も乗らないのかもしれない。ここ数ヶ月、目の前を通り過ぎるバスはいつもそのくらいからっぽだ。
     

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  • 「逢いたかった人に逢えましたか?」

    2020-06-24 07:00  
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     政府も経済界もそして大手メディアも入国制限とロックダウンで疲弊した旅行業界を性急に元に戻そうと必死になっているように見える。ぼくにも小さな宿泊施設を営んでいる友達がいるから気持ちは分かる。分からないではないけれど、感染防止か経済再生か。大切なことがこの二択しかないみたいで、そういう考え方はよくないなと分かっていても、温度差を感じてしまう。もっとも大切にすべき心が置き去りにされてしまっているような気がしてしまうのだ。
     

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  • 「紫陽花と蝸牛」

    2020-06-22 07:00  
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     娘と散歩に行った妻が紫陽花の花束を持ち帰った。浜へと続く小径の無人販売所に百円で置いてあったそうだ。リビングの窓辺に飾ると海の上に広がる厚い雲と相まってより梅雨らしさが増した。「みて!」 まじまじと紫陽花を見ていた娘が声を上げた。近づくと濃い緑の葉に小さな蝸牛が乗っている。
     

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  • 「夜の散歩」

    2020-06-19 07:00  
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     夜の訪れを待って、家族三人で里山に繰り出した。月明かりのない絶好の闇夜だった。向かったのは海沿いの国道と交差して流れている小川だ。少しだけ川上に行ったところに、六月のこの時期にだけ闇夜を回遊する蛍の光を堪能できる場所がある。それは娘が生まれたときから一度見せてあげたい光景だった。
     

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  • 「どうして朝はくるの?」

    2020-06-17 07:00  
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     ある朝、娘が言った。「ねえパパ、どうして朝はくるの?」 五月も半ばを過ぎた頃からだろうか。ますます言語能力を発達させた三歳七ヶ月の娘からの「なぜ?」「どうして?」が日々向けられるようになった。ちなみにどのくらい発達したかというと「ぱっとやっちゃおうか」というぼくの言葉に「にょうもれぱっと?」とどこでインプットしたのか分からない同音異語が返って来るぐらいだと言えば分かって貰えるだろうか。おそらくSiriと同程度か、それ以上の言語能力が今の娘には備わっているように思う。
     

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  • 「ここは地球だったんだ」

    2020-06-15 07:00  
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     六月のある朝、海を見ながら走っていた。ラジオを聴きながら走っていた。温暖化による地球の金星化について研究をしている人の話が耳に飛び込んできた途端、視野が急激に広がるような感覚に陥った。
     

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  • 「デトックス」

    2020-06-12 07:00  
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     五月に一篇の物語を書いた。書いたというか、書いていた。誰に頼まれたわけでもなく、気がついたら書いていた。
     

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  • 「ぼくらは元に戻れないんじゃない」

    2020-06-10 07:00  
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     最近目にした、あるミニシアターの支配人の方のツイートが胸に刺さった。
     

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  • 「二〇二〇月六月六日」

    2020-06-08 07:00  
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     四時半頃に目が覚めた。カーテンの隙間から射し込む朝の光のせいだ。窓の外はもう明るい。朝靄の海に漁船が見える。ベランダで今日の食卓に上る鮮魚を想像しながら、ゆっくりと時間をかけて白湯を飲む。体が完全に目覚めた午前五時、海沿いの国道を走り出す。昨日の熱気を夜が冷却した湿気が肌にまとわりつく。六月に入ってみるみる湿度が上がっていた。乾いた風が気持ち良かった五月は振り返ってももう見えない。
     

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