保育園の帰りに浜辺に寄るのが日課になった。迎えに行くと正門を出たところでいつも決まってこう言う。
　

　でんぐりがえしを最後にやったのはいつだったろう。まったく思い出すことができない。試しにやろうとしてみたけれど身体そのものが記憶していない。少なくとも高校卒業後にやったとは思えない。大人になってもでんぐりがえしをしている人は舞台「放浪記」の森光子さんと体操選手以外にいるのだろうか。そもそもでんぐりがえしというのは人間にとってどんな意味がある行動なのだろう。
　

　たとえば、昨日まで出来なかった逆上がりが今日からはできるように、〈昨日までの自分〉を脱皮して〈新しい自分〉にたった数日のサイクルで生まれ変わり続けているのが子供なのかもしれない。
　

　終わってしまう。１月に大阪で始まった旅だ。大雪の東京から脱出するように始まった旅だった。
　

　まとまった時間、畑に出るのは八丈島で頂いた明日葉を定植して以来だから、ほぼ２ヶ月振りだった。
　

　夜帰って手を洗うときに必ず目にするのが、脱衣所に置かれた洗面器だ。娘の服が浸けられている。食べ溢しの染み抜きだ。
　

　時代なのだろう。「仕事とお金」について、自分に問い直す機会がここ数年増えたと思う。
　

　保育園の帰りに手を繋いで歩いていたら娘が僕を見上げて「あじさい」と言った。と書いてはいるものの、すぐに分かったわけではない。「はじはい？」「ちがう」と首を振る。「はじあい？」「ちがう？」「もしかして、あじさい？」「わかった！」と嬉しそうに笑う。初めての言葉を発した時は大抵そうだ。
　

　１歳７ヶ月の娘が、核を手に入れた。
　

　保育園に通い始めて１ヶ月が経とうとしている。親以外の人たちとの触れ合いが強い刺激になっているのだろう。脳が急速に発達しているのが分かる。先日、お風呂に入っている時には１から１０まで数えられるようになっていた。散歩中にランニングしている人を見ては「走ってる」と指を差す。頭も首も手もおしりも足も全部分かっている。