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記事 13件
  • 「あたらしい文字」

    2021-08-30 07:00  
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     日記をつけ始める人が増えているそうだ。一寸先は闇という混沌とした世界の中で〈生きた証〉を刻みつけておきたいという根源的な欲求なのだろうか。
     

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  • 「自然か、不自然か」

    2021-08-27 07:00  
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     海沿いの国道を山側に折れると、長いトンネルを抜けたところに子安の里という昔ながらの農村がある。山の麓に広がるこの人里で菜園を始めて10年になる。耕作放棄地を分譲した貸し農園の一画。作業の手を休めて空を仰げば、雲の流れがあり、耳を澄ませば鳥の囀りだけが聞こえてくる。
     

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  • 「想像して欲しい」

    2021-08-25 07:00  
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     僕にも都会で暮らす友達や家族がいる。だから、分断を煽りたいなんてこれっぽっちも思っていない。こういうときだからこそ多くの人に海や山へ遊びに来て貰って、深呼吸して貰って、少しでも解放されて欲しいと心から思っている。 そういう思いがあるからこそ、都会から訪れたあなたが、時に海沿いの生活道路に違法駐車をし、海岸でマスクもせずに酒を飲み、バーベキューをしていても、見て見ぬフリをしてきた。マスクを二重につけ、あなたが忘れていったゴミを妻や娘とトングで黙々と拾い続けてきた。 
     そのことを公の場で書くに至ったのは、想像して欲しいと思ったからだ。あなたが解放されに来た非日常は、そこに住むぼくらにとっての日常でもある。あなたが日常の場ではマスクをして感染対策をして過ごしているのと同じように、ぼくらも日常生活の舞台であるこの町ではマスクをし、感染対策を徹底して過ごしている。あなたと同じように、ぼくらにも自

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  • 「夏が終わった」

    2021-08-23 07:00  
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      夏が終わった。一度も半島の外に出ることができないまま、ぼくらの夏が終わった。窓の外にはまだまだ夏の名残りがあるけれど、その夏を心から楽しむことが今年はもうできそうにない。
     

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  • 「海の心を見つめ、風の歌を聞き、星と話そう」

    2021-08-20 07:00  
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    「あ、いちばんぼしだ!」
     夕闇が迫る空を見上げて娘がうれしそうに声を上げる。そして「星がまたたいていると明日は雨なんだよ!」とか「かさ雲が見えると明日は雨なんだよ!」などと明日の天気を予報してくれる。 
     天気予報という与えられる情報をまだキャッチできていない娘は夕暮れの空で明日の天気を予想する。そこには人類の文明が進化を遂げてきた過程を見せて貰っているような感慨がある。
     

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  • 「つまんないつまんない」

    2021-08-18 07:00  
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    8月17日火曜 曇り時々小雨
     四歳の娘がヨシタケシンスケさんの「つまんないつまんない」という絵本ばかり読んでいる。
     緊急事態宣言下での自治体からの「保育園の利用を最小限にして下さい」という通達。子どもたちの感染リスクを少しでも減らす為に保育施設の利用は医療従事者やエッセンシャルワーカーに留め、それ以外の方は自宅での保育に協力して欲しいというお願いだ。登園自粛要請と何が違うのかといえば、営業補償が必要かどうかというものらしい。頭では理解できるが、その狡猾さに対する腹立たしさもある。と言うと、そもそも三歳以上は保育料無償で預かっているんだからと批判されてしまいそうなのだけれど。登園させて感染しても、登園させずに仕事が滞って収入が落ちても自己責任という納税者に丸投げの姿勢が腹立たしい。
     

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  • 「時間どろぼう」

    2021-08-16 07:00  
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      小さな壁掛け時計を買った。時針は黒、分針は赤とそれぞれ文字盤の色と対になっている子どもにも優しいデザイン。娘が保育園で時計を見て生活することを始めたのにあわせての購入だった。辿々しくもしっかりとした言葉で確認するように時を告げる。目が覚めたら朝で、陽が沈んで眠くなったら夜と太陽と体内時計だけで時を計っていた娘が、古代エジプトで生まれた「時刻」を読み始めたのはまるで人間の進化を目の当たりにしているかのようでなんとも感慨深い。一方で、この世界に新しく入って来た人に何の説明もないまま、生まれる前からのルールを受け入れさせるのってフェアじゃないんじゃないの、という危惧も心の片隅にはある。
     

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  • 「今日という一日を」

    2021-08-13 07:00  
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    2021年8月11日水曜 晴れ
     娘を保育園に送った帰りに134号線沿いの鮮魚店で魳(かます)を買う。細身で淡泊な白身だが、素早い泳ぎで鰯などを捕らえ、鋭い歯で喰らう獰猛な魚だ。なので良質なタンパク質を魚で摂りたいときはこの魳か太刀魚を選ぶ。 少し前までは2本しか注文しなかったけれど、最近は3本。娘のことを知っているおかみさんも「3本ね」と一本だけ小ぶりなものを選んでくれる。「何にするの?」「塩焼きに」「じゃあお塩振っとくわね」 1㎞先の漁港に水揚げされた魚を仕入れてくるこの店では塩焼きなら塩を、煮付けやソテーなら切り身にと、調理しやすいように捌いて下処理してくれる。忙しい平日はこのひと手間がとても助かるの、と妻は言う。買い物担当の僕にとっても、いつ行っても風通しの良い店先でおかみさんとマンツーマンで買い物ができるこの環境が本当に有り難い。全国チェーンのマーケットのように不特定多数の人と接触するリスクが少しもないことも。何でも揃う便利さと大量仕入れによる安さの代わりに限られた空間に人が密集するということがどれだけ不自然でハイリスクなことなのかを多くの人が思い知らされた1年5ヶ月。お互いの顔が見える地元の個人商店での買い物が見直される機会になるといい。
     

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  • 「八月の雨とビートルズ」

    2021-08-11 07:00  
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    2021年8月8日日曜 雨
     なんだか見ていられなくなって、テレビを消した。静かになった部屋に雨と時化の波音だけが聞こえた。ビートルズの6th Al『Rubber Soul』をかける。窓の外は相変わらずだったけれど、ビートに揺れているうちに心だけは凪いでいった。
     

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  • 「2021年、いくつの夏を捕まえられただろう」

    2021-08-09 07:00  
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     8月7日 土曜 雨のち曇り
     台風の前触れでもあるのだろうか。午前中に30分ほど驟雨があった以外は嘘みたいに静かな週末だった。海岸通り沿いの県営駐車場も閉鎖になり、浜辺を賑わせていた子どもたちの声も消えていた。
     

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