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記事 16件
  • 「ラジオパーソナリティー」

    2020-10-02 07:00  
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     大抵は日曜の夜か月曜の夜。娘が眠った後に収録していた。そのまま編集しながら選曲し、整音してmixしたものを検聴しながら眠りにつく。ところが最終回用に作った音源に限って聴き始めて五分も経たないうちに眠ってしまった。編集していたときからのなんか違うんだよなという想いが、これじゃない感が拭えなかったせいなのだろう。
     

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  • 「東京」

    2020-07-03 07:00  
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     初めてのひとり暮らしは東京だった。西武池袋線清瀬駅の南口。商店街の途中にある細い路地を右に折れたところにある木造モルタルのアパート。錆び付いた外階段を上った二階にあるのがぼくの部屋だった。玄関を開けるとすぐに三畳ほどの台所にバスタブのある小さな風呂と水洗トイレ。ガラガラと音を立てる右側の開き戸の向こうに日当たりの悪い六畳の部屋があった。カーテンもつけていない磨りガラスの窓の向こうに向かいのスナックの赤いネオンが光っている。安いアルコールの匂いがする。畳の上に置いた留守番電話の点滅。再生ボタンを押すと放送作家の先輩からの「『元気が出るテレビ』と『お笑いウルトラクイズ』の企画を百個書いて来て」みたいな連絡事項が何回かに分けて入っていた。ぼくは放送作家見習いとしてテレビ業界という未知なる世界に足を踏み入れたばかりの二十歳の大学二年生だった。なのに部屋にはテレビもなかった。畳の上に置いたCDラジカセと細長い棚がひとつあるだけの暖房器具もない部屋でラジオの深夜放送を聴きながらレポート用紙にボールペンで企画案を書き続けた。朝まで掛かって書いた企画の束をリュックに詰めて混雑する西武池袋線に乗り、池袋から有楽町線に乗り替えて麹町で降りる。日本テレビの近くに所属させて貰っていたテリー伊藤さんのプロダクションがあった。会議に打ち合わせにオーディションにロケに編集にスタジオ収録と見習いだったぼくは何日も家に帰ることができないときもあった。週に一度か二度、清瀬の家に帰ることがあっても溜まった洗濯物をコインランドリーで回したまま薄い布団をかぶって死んだように眠るだけだった。
     

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  • 「ぼくのくれよん」

    2020-03-27 07:00  
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     夜、娘の絵本棚から適当な一冊を酒の肴に拝借する。シングルモルトを舐めながら読書灯の下で味わう絵本が疲弊した脳をほぐしてくれることを最近知った。
     

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  • 「物語を編む力」

    2020-02-28 07:00  
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     物語においてはすべての出来事に意味がなければならない。伏線は必ず回収されなければならない。ところが現実はどうだろう。すべてが意味のない出来事のようにすら思えるときもあるのではないだろうか。なかったコトにしたい後悔の連続じゃないだろうか。それらを伏線として回収していくのに必要不可欠なのが「物語を編む力」だ。
     

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  • 「この広い世界のどこかに 死ぬまでずっと 君を想っている人がいる」

    2020-01-24 07:00  
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     中山美穂主演の『ラブレター』が公開されたのは1995年3月25日。阪神淡路大震災が起きた2ヶ月後のことだった。震災に遭った神戸も舞台だった(撮影は小樽で行われたのだけれど)。それでも公開時に「神戸」というテロップとともにスクリーンで見た夜景は震災が起きていなかったら、という「もしも」を想起させるものだったと記憶している。
     

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  • 「機械に心があったなら」

    2019-10-30 07:00  
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     先日、娘が仰向けに寝転んでふざけていて、ぼくの顔を蹴ってしまったことがあった。思わず「痛っ」と顔を押さえたぼくを見て、娘が嗚咽し始めた。罪悪感だった。すぐに「大丈夫だよ、ワザとじゃないんだから気にしなくていいんだよ」と抱き締めながら、彼女の中に育っている「良心」を強く感じた。そして、心はどこにあって、どのように育っているのだろうと考えた。でも、口を開けさせて歯の生え具合を確かめることができないのが心だ。
     

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  • 「今日も嫌がらせ弁当」

    2019-07-12 07:00  
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     シェイクスピアの四大悲劇のひとつが〈親子の愛憎〉を主軸に据えた物語であることからも明らかなように親子というのは数ある人間関係の中でも難しいもののひとつかもしれない。
     

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  • 「大和(カリフォルニア)/TOURISM」

    2019-06-05 07:00  
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     戦艦大和の名は古代日本において国全体を指した「大和国」に由来するという。東京都目黒区のアパートで生活していた両親が長男である僕の出生後すぐに引っ越したのが同じ名前を持つ神奈川県大和市の公団住宅だった。
     

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  • 「僕たちは希望という名の列車に乗った」

    2019-05-03 07:00  
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     抑圧こそ青春映画における最大の醍醐味だ。抑圧が生み出す不自由さからどう脱却するのか。それが主人公が物語を生きる命題そのものだし、そこで生じる心理的な葛藤を乗り越えることで主人公は成長する。
     

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  • 「希望の灯り」

    2019-02-01 07:00  
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     ラジオの生放送を終えた微酔いの体を最終の湘南新宿ラインが三浦半島に連れ帰っていく。通り過ぎる車窓の灯り。その灯りのひとつひとつに誰かの営みがあるという当たり前が胸に沁みる夜だ。さっきまで渋谷のラジオで『希望の灯り』というドイツ映画について話していたせいでもあるのだろう。 

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