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記事 13件
  • 「完全なる休暇」

    2021-09-29 07:00  
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     接種16時間後から38.0の発熱が10時間ほど続いた。傍らには麦茶と体温計とパルスオキシメーター。トイレに立つ以外はひたすらベッドに横たわってじっとしていた。タブレットで新作映画のオンライン試写を二本と読みかけの小説。物語の世界に没頭していたおかげで、余計なことは何も考えずに済んだ。すべてはワクチンに対して反応する免疫細胞に委ねていた。そもそも考えたところでどうなるものでもないわけだし。
     

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  • 「げたるこまにー」

    2021-09-27 07:00  
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     先日、娘が顔を真っ赤にして「だから、げたるこまにーだよ」と繰り返し妻に訴えていた。どうしたの、と妻に聞くと、なんでも保育園で年長組がやっていた制作に感動して家でやりたいのだという。先生に聞いたら「げたるこまにーっていうんだよ」と教えられたそうだ。
     

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  • 「真夜中のだるまさんが転んだ」

    2021-09-24 07:00  
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     おむつ、何歳まで履くんだろう。溜め息をつくと娘は「紙パンツだよ!」と膨れる。プライドを傷つけてしまったようだ。ごめんごめん。来月で5歳になる彼女は今も眠るときだけ紙おむつ、いや、紙パンツを履いている。膀胱の大きさには個人差があるそうだし、夜中に尿意をもよおしてもトイレに起きないくらい眠りが深いので別にいいかと思っていたんだけど、そうも言っていられない事態が起きた。
     

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  • 「3.5%の脅威」

    2021-09-22 07:00  
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     人類が獲得した金属という文明は塩分に弱い。海辺の町で暮らしているとそれを実感せざるを得ない。真新しい銀色の輝きが赤褐色に腐敗していくのをこの10年間で幾度となく目にしてきた。
     去年の年末、車のホイールカバーがひとつ外れた。経年劣化かなと思っていたら、しばらくしてまたひとつ外れた。おかしいなと思っていたら、先日、運転席側のドアノブが外れた。
     

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  • 「〈なければならないこと〉を〈たいこと〉に変える方法」

    2021-09-20 07:00  
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     数年前の話だ。ネット通販で、コピーロボットを購入した。藤子不二雄の『パーマン』を読んだことがある人は知っているだろう。主人公がパーマンに変身して出動する際に、身代わりとして置いていく〈もうひとりの自分〉だ。
     

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  • 「子どもを寝かし付けているうちに寝落ちしてしまう理由」

    2021-09-17 07:00  
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     残暑も峠を越し、彼岸花が咲き誇る季節に入った。午後8時過ぎ、山側に面した寝室の窓を開けると鈴虫の声とともに秋風が通り抜けていく。静かな夜だね、と家族三人でベッドの上で大の字になる。間に挟んだ娘から保育園であったことをあれこれ聞きながら、妻と顔を見合わせ、今日も無事に過ごせたことに感謝する。もう1年半以上こんな暮らしだ。世界はどんな夜を迎えているんだろう。かつては眠らない街と言われた東京も、夜8時以降は眠るようになったのだろうか。去年の秋頃だったか、渋谷のラジオのサテライトスタジオで午後10時に生放送を終え、車を停めていたスクランブルスクエアまで歩いたときは怖いくらい街に人がいなかった。
     

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  • 「夏休みの練習」

    2021-09-15 07:00  
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     緊急事態宣言は延長されたが、一時は100人を越えた市内の感染者が一桁まで減ったところで、1ヶ月に及ぶ登園自粛協力を解除することにした。「長い夏休みたのしかったよ」 久し振りの登園で家を出たところで僕を見上げて娘が言った。親に気を使っているのかもしれない。だって久し振りに先生や友達と遊べるうれしさが全身から溢れ出していたから。「1ヶ月がんばってくれて本当にありがとう」と僕は両親の在宅勤務につきあってくれた娘に礼を言った。
     

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  • 「季節のうつろいがしんどくなってく」

    2021-09-13 07:00  
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     老後はハワイに住みたい。若い頃は理解できなかったその欲求に今は共感しかない。海が美しいとか、空が広いとか、自然が豊かであるなどという理由ではない。
     

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  • 「サイレント・プロテスト」

    2021-09-10 07:00  
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      朝食の後、娘と二人で浜辺を散歩する。1㎞先まで続く砂浜には誰もいない。当然だ。平日の午前9時。多くの人は働いている時間だ。本来なら僕も娘を保育園に送り届けてパソコンに向かっているところだ。書きかけの原稿を気に掛けながら「まったくもう」と独りごちる。「誰もいないね」と娘も淋しそうに呟く。こちらも当然だ。もう二週間近く友達と遊べていないのだ。
     

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  • 「2021年9月5日」

    2021-09-08 07:00  
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     4日振りに屋外へ出た。妻と娘といつもの小径を下って浜辺に出る。登園自粛と雨で家に閉じこもっていた娘が波打ち際でうれしそうに跳ねている。僕と妻はトング片手にビーチクリーンを始める。漂着ゴミは相変わらずだけど、放置ゴミはご丁寧に砂に刺した煙草の吸い殻が数本程度。入り口に「近隣の方を除き海岸への立ち入りはお控え下さい」と掲示されて一週間。併せて9月からの秋雨で遠方からバーベキューに訪れる人が皆無だったからだろう。
     

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