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「ルビーの指輪」
2019-11-29 07:00110pt1七五三の朝のことだった。小さなアクセサリーボックスから指輪を取り出していた妻を以前から興味津々に見ていた娘が「あたしも」とせがみ始めた。待ち合わせ時間に遅れてしまうこともあり、また娘が主役だからという寛大な心もありで、彼女が望む朱色の石が入った指輪をぶかぶかのまま親指につけさせ出掛けてしまったのがそもそもの間違いだったのかもしれない。
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「おろ抜き大根」
2019-11-27 07:00110ptいきつけの精肉店で豚肉を買いに行ったときのこと。ご主人が肉を切り分けながら「おろ抜きあるけど持ってく?」といつもの声を掛けてくれた。ここには近隣の農家さんが持ってくる出荷できないキャベツとかキュウリなんかがたくさん置いてあってあるときは大量にお裾分けしてくれる。奥さんが「泥ついたままだけど大丈夫?」と気遣いながら大量のおろ抜き大根を袋に詰めてくれる。
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「東京を離れるということ」
2019-11-25 07:00110ptいまの時代、勤務地が決まっている会社員ならばともかく、どこにいても仕事ができるぼくらのような人間は東京を離れてどこかに移り住むことを「移住」なんて大袈裟な言葉で表現したりしないのかもしれない。 仲間がまたひとり東京を離れた。
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「ぼくが存在しなくなった後の世界で」
2019-11-22 07:00110pt地元の神社で町ぐるみの七五三があった。前夜には町内会主催の縁日があり、翌日にご祈祷が行われた。対象となる町の子供たちがいつも遊んでいる神社を詣でている姿はぼくが想像していた七五三とは違う素朴なものだった。
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「悲歌慷慨」
2019-11-20 07:00110pt30代のある時期、一緒に酒を呑んだり好きなバンドのライブに足を運んだりしていた男が亡くなったことを疎遠だった知人から知らされたのはちょうど一年前のことだった。知人もぼく同様に10年以上連絡も取っていなかったし、葬儀も済んでしまったとの話だったけれど、不自然に感じたのは死因については「それはまた今度でも」と口を噤んだきり話してくれなかったことだ。知人はぼくよりも男と親しかったから悲しみに拍車をかけるようで、それ以上は聞くことができなかった。
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「ママ、いちごケーキになあれ」
2019-11-18 07:00110pt娘の小さな声で目を覚ましたのは明け方のことだった。娘はまだ眠っていた。寝言だった。「ビビデバビデブ」 よくよく聞いてみるとディズニー映画「シンデレラ」に出てくる魔法の呪文だった。3歳児も夢を見るのだろうか。起きているときにぬいぐるみと会話しているぐらいなのに夢と現実の区別なんてついているんだろうか。 浜辺を散歩している時に「何の夢を見ていたの?」とそれとなく聞いてみた。返ってきたのは思いも寄らぬ答えだった。
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「晩秋センチメンタル」
2019-11-15 07:00110pt -
「無邪気過ぎるその影の中に」
2019-11-13 07:00110pt日溜まりの公園で子供たちが鬼ごっこをしている。娘もいずれその輪の中に入っていくのだろうか。そんな親の目線で改めて見ると誰もが当たり前のようにやっている遊びが子供たちにイジメの種を植え付けているようにも思えた。考え過ぎだろうか。疲れているのだろうか。それとも病的とも思えるようなコンプライアンスチェックで毒牙を抜かれた業界に身を置いているうちに神経質になりすぎてしまったのだろうか。
触られたら鬼になると逃げ惑う子供たちの無邪気な笑顔が追い掛ける子供に感情移入すると残酷な仕打ちにも思える。もちろん「ごっこ」というだけで本物の鬼ではない。触られたところで吸血鬼やゾンビになるわけでもない。なのに夢中になっているうちに本当に触られたら何かに感染したかのようなリアクションをし始める子がいるのも事実だ。見ているうちにまるで被験者が看守と囚人という役割を演じているうちにどちらも本気になってしまっていた -
「日が暮れても彼女と歩いていた」
2019-11-11 07:00110pt -
「デート」
2019-11-08 07:00110pt妻が友人の結婚式に出席した日曜日、娘と2人でドライブに出掛けた。雲ひとつない秋晴れだった。三浦半島の突端にある海の見える公園でブランコに乗り、ぐるぐる回る滑り台をして(もちろん娘だけが)、広い芝生で思い切り走り回った。 三崎港へ車を走らせながら娘に「何が食べたい?」と聞くと返ってきた答えは
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