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記事 13件
  • 「2020年8月31日」

    2020-08-31 07:00  
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     八月三十一日について書くのはこれで何度目だろう。そのくらいぼくにとって八月三十一日は特別なのだ。子どもの頃の八月三十一日の過ごし方がぼく自身の生き方を決めたとさえ言ってもいい。 
     

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  • 「祭りのあと」

    2020-08-28 07:00  
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     青い空に夏休みの宿題で描いた水彩画のような入道雲がのんびりと漂っている。国道を埋めつくしていた車列も最近はまばらだ。砂浜を彩っていたテントも消えた。梅雨明け以来、砂を巻き上げて濁っていた海にも高い透明度が戻った。
     

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  • 「我が儘とは何であるか」

    2020-08-26 07:00  
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     我が儘とは何であるか、について三歳の娘にどう伝えればいいのか悩んでいる。
     

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  • 「サイはぜんぶダメなんだよ」

    2020-08-24 07:00  
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     たとえば、夏に白菜やブロッコリーを食べなくなったこと。冬にトマトやキュウリを食べなくなったこと。それもこの海辺暮らしでの変化のひとつだ。
     都会で暮らしていた頃はトマトやキュウリのような夏野菜が冬でもスーパーの野菜棚に並んでいた。それを当たり前だと思っていた。
     

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  • 「彩雲」

    2020-08-21 07:00  
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     絵に描いたような夏はいつも足早に過ぎていく。夏休みの終わりとともに浜辺からは人も消えた。茜色に染まる空に秋の寂寥が滲む季節の始まりだ。「てんしのはしごっていうんだよ」 テラスで暮れゆく空を見上げていた娘が教えてくれる。
     

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  • 「満ち潮」

    2020-08-19 07:00  
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     この十年、毎日のように見ている浜辺の海水が初めて見るくらい沖に引いていた。月の引力が四十五度の位置で働いていることによる引き潮だった。いつもは海の底に隠れている岩肌が露わになって真夏の太陽に灼かれていた。その乾きに先日読んだある文章が重なった。
     

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  • 「いつか、風が生まれる場所へ」

    2020-08-17 07:00  
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     ある日、娘に訊かれた。「風はどうして吹くの?」「どうしてだろうね?」 自分でも考えてみるように促しながら、ぼく自身も考えていた。考えていたというより思い出していた。小学校で天気に関する授業で習ったはずだ。確か理科だったんじゃないだろうか。だけどまったく思い出すことができない。そういえば「ドラえもん」にそんな秘密道具があったような気がした。そこに風が起こるメカニズムについても併せて書いてあったような。 結局何も思い出すことができず、ネットで検索していた。
     

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  • 「母が見ていた風景」

    2020-08-14 07:00  
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     ぼくが暮らす秋谷は農漁村であると同時に別荘地でもある。古来より風光明媚な地として知られる立石の絶景は江戸時代に安藤広重によって描かれ、明治時代には葉山御用邸を訪れていた陛下お気に入りの場所となり茶寮が作られた。夏目漱石がその才能を高く評価した作家泉鏡花「草迷宮」の舞台でもある。大正昭和には企業の保養所が次々と建設された。ぼくが生まれるまで銀座で働いていた母も夏休みに会社のみんなと泊まりがけで訪れたことがあると話していたから少なくともその頃にはもう都会で暮らす人々にとって束の間の非日常を味わう場所になっていたのだろう。
     

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  • 「パパ起きて」

    2020-08-12 07:00  
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     蝉時雨の小径を歩いていたときのことだ。突然思い出したように娘が言った。「つむちゃんだけ、夜に起きたんだけどね、ママもパパも眠ってて、怖かったの」 強い西日に照らされたぼくらの影がアスファルトに映っていた。目眩がした。目に映る影が蜃気楼のように揺れ、ぼくと娘のものから父とぼくのものになったような錯覚に陥った。ぼく自身にも覚えがあった。子どもの頃、真夜中に目を覚ましたときのことだ。両親の寝顔を見て、彼らが二度と目を覚まさなかったらという不安に駆られた。なんとも得体の知れない底無しの不安だった。暗闇の中で彼らが息をしているのかどうか確かめようとした。微かに上下する掛け布団を見てようやく安堵して眠りについた。だから娘の「怖かったの」という言葉に込められた不安が手に取るように分かった。「そっか、パパも子どものときそういうことあったよ」「パパも?」「うん」 娘が落ち込んでいるとき、困っているとき、気

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  • 「混沌と静謐」

    2020-08-10 07:00  
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     犬のような長い毛が生えていて、爪のない脚は熊に似ている。目があるが見えず、耳はあるが聞こえない。脚はあるが、いつも自分の尻尾を咥えてぐるぐる回っているだけで決して前に進むことはなく、空を見ては笑っている。善人を忌み嫌い、悪人に媚びる―――「混沌」の語源となった、中国の妖怪だ。
     

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