娘がスキップで半歩先を歩いていく。なんだかとても愉しそうだ。里山の畑に続く一本道。鳥の囀りが聞こえる。里芋の大きな葉が揺れている。
　

　　かつて秋谷海岸に続く小径沿いに温泉があった。ぼくが海辺の町に移住する数年前までの話だ。
　

　　水族館に行くと、毎日見ているのは海の表面に過ぎないことに気づかされる。
　

　外食の味付けが濃過ぎる。そう感じるようになって何年になるだろう。子どもと暮らし始めて食事の味付けがやさしくなった。加えてコロナ禍で外食が大きく減った。それが当たり前になった結果、外食の多くが塩分過多、糖分過多であることに舌が過敏に反応するようになってしまった。
　

　秋晴れの日曜日、凪の海を横目に原稿を書いていた。娘と江ノ電に揺られている妻から写真が届く。向かっているのは以前から娘が行きたいといっていた江ノ島水族館だ。一緒に行きたかったが、どうしても書き上げねばならない原稿があった。今日中に書き上げないと多くの人の翌日からのスケジュールが変わってしまう。前日までに書き上げるつもりでいた。だが、テストの答案と同じで答えがわからないことには書くことができない。工場の製造ラインのように決められた時間内に指定された個数が作れるという仕事ではない。それでも書き上がらなかったことは一度もないのだからそれを信じてワープロの前で書いては消してを繰り返しながら少しずつでも前に進むしかない。
　

　娘の相談事で答えに窮することが多くなった。理由は３つある。ひとつは話してもまだ理解できないかもしれないこと。２つ目は正解がないこと。そして３つ目は人間は愚かで信用するに値しない動物であるという現実も伝えていかなければいけないことだ。
　

　娘が６歳になった。誕生日当日に彼女が生まれた日のことを話して聞かせた。６年前の朝も今日みたいに雁渡しの強い風が吹いて、波が高かったことに始まり、午後10時過ぎに生まれてくるまでの断片を、時系列に話して聞かせた。
　

　ビーチクリーンをしていたら、海にミサイルが落ちた。一体何度目なのか。溜息が出た。波打際に吐き出されたマイクロプラスティックを血眼になって拾っているのに、海に有害な化学物質を含む巨大な金属の塊を捨てられたのだ。それは、プラスティック片やビニールと同じように永久に海に還らないものだ。
　

　この夏の菜園は、最低の収量だった。　最大の理由は暑さだ。里山といえども草毟りができるような気温じゃなかった。来年以降もこういう日が続くならば夏場は除草用のロボットを遠隔操作するくらいじゃないと自然の猛威に太刀打ちすることはできないだろう。まあ、除草剤が使われているうちはそんなロボットが開発されることもないのだろうけど。
　

　　娘が６歳になった。
「おめでとう」と言ったら「歯がぐらぐらする」と下の前歯を見せて笑った。６歳になったと同時に乳歯から永久歯への生え替わりが始まったようだ。