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橋本淳司氏:水道民営化法案とかやってる場合ですか
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橋本淳司氏:水道民営化法案とかやってる場合ですか

2018-07-18 20:00

    マル激!メールマガジン 2018年7月18日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第901回(2018年7月14日)
    水道民営化法案とかやってる場合ですか
    ゲスト:橋本淳司氏(水ジャーナリスト)
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     200人を超える人命を奪った西日本豪雨では、27万戸を超える世帯が断水に見舞われた。1週間が経った今も、20万を超える世帯で水道が復旧しておらず、復旧・復興の足を引っ張っている。断水の最大の原因は、水道管の破断によるものだ。久しく言われていることだが、1960年~70年代の高度経済成長期に一気に日本中で敷設された水道管の多くが今、耐用年数を過ぎ老朽化している。
     日本はこれまで水道事業は基本的に自治体が運営する公営事業であり、国際的に見ても水道料金が割安に抑えられてきたため、老朽化した水道管を更新するための予算が積み立てられていない。無論、地方自治体も地方交付税に依存している中、水道管の交換に自治体予算を回す余裕はない。そこで政府が考えたのが、水道事業を民営化することだった。
    民営化の是非については、賛否両論があるだろうし、そのメリット、ディメリットがきちんと精査される必要があるだろう。しかし、実は水道民営化を推進する前提となる水道法の改正案が、実は今国会で既に先週衆院で可決し、終盤を迎えた国会で一気に成立してしまうところまで来ているのだ。
     水は人間が生きるための基本財である水を供給する水道事業者には、災害や有事の際も水を提供する責任が伴う。丸ごと民営化してしまうと、事業者には重い公共責任が伴うため、民間企業にとってはリスクが大きすぎる。そこで今回政府が推進している「民営化」は、施設の所有権は現在のまま自治体に残しつつ、水道事業の運営権を民間企業に譲渡する「コンセッション方式」と呼ばれるものだ。
     しかし、水問題に詳しい橋本淳司氏はコンセッション方式であろうが、他の形態であろうが、民営化では水道事業の公共性を守ることはできないと指摘する。
     実は水道事業の民営化は欧米では以前から実施されている。しかし、実際はパリ、ベルリン、アトランタ、インディアナポリス、ブエノスアイレス、ヨハネスブルグなど多くの都市で、一度は民営化した水道事業を公営に戻している。主な理由は水道料金が大幅に値上げされたことと、民間事業者を監督することの困難さだという。
     電気などと異なり水道事業は地域独占となるため、値上げをされても住民はそれを拒否することができない。当然、値上げが正当化できるかどうかの外部監査・監督が必要になるが、運営権を取得した企業はあくまで民間事業者なので、情報公開にも限界がある。
     橋本氏は、コンセッション方式では、企業は利益が上げやすい大都市圏の大規模な水道事業にしか関心を示さないだろうから、利益が出にくい小さな自治体が切り捨てになる怖れがあると指摘する。とは言え、日本の水道インフラの老朽化が待ったなしの状態にあることも間違いない。今国会で政府が通そうとしている法案を通じて政府が主導しようとしている民営化には問題が多いとしても、水道事業をこのまま放置しておくこともできない。
     蛇口を捻れば美味しくて清潔な水がいつでも飲める国というのは、実はそれほど多くはない。日本はこれまで非常に水に恵まれた国だった。しかし、長年にわたり水道施設の更新を怠ってきたことで、日本の水道事業は大きな曲がり角に差し掛かっている。
     今ここで周回遅れの民営化という安直な責任逃れを許すのか、水という国民の安全保障にも関わる重大な問題を真剣に議論し、いかにして水道事業を維持していくかについて国民的なコンセンサスを得るための努力を始めるのか。水道民営化法案の問題点と、先行事例としての海外の民営化事情などについて、橋本氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・災害時に露見する、進まない水道の整備
    ・日本企業が手を挙げない「コンセッション方式」が出てきた経緯
    ・ヨーロッパでも進む水道事業の再公営化
    ・水道だけでなく、国のグランドデザインにかかわる問題
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    ■災害時に露見する、進まない水道の整備

    神保: 西日本が豪雨に見舞われ、200人も亡くなっているという大変な状況です。気候変動の問題も真剣に扱わなければいけませんが、今回は入口として、「水の民営化」をテーマに議論したいと思います。今国会から、ベルトコンベアで進んでしまうような状況になっており、今回の災害を考えても、これはしっかり見なければいけません。いまもっとも深刻なのは断水で、その主要因は水道管の老朽化です。それを解消するために民営化が必要だというのですが、どさくさに紛れて進められていることが許しがたいと思います。水ジャーナリストの橋本淳司さんに伺っていきます。
     前回は2017年6月、『民営化では水道事業は守れない』というテーマでお話しいただきましたが、今国会でまた法案が出てきました。中身は前回とほぼ同じですか?

    橋本: そうですね。水道事業が老朽化してきていて、それをどうやって持続させるか、というのがこの法案の骨子です。最初は法案のなかにそうした持続性についてしか書かれていませんでしたが、突然、「コンセッション」という言葉が明記されました。官民連携を促進するというなかで、非常に具体的な言葉が出てきたのです。「コンセッション」とは聞き慣れない言葉だと思いますが、つまり水道事業の運営権を長期間、民間に売却できるよ、という方式が突如として上がってきたということです。

     
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