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2025年4月の記事 5件

日高庸晴氏:同性婚訴訟の原告たちの背後には声を上げられない多くの当事者たちの存在がある

マル激!メールマガジン 2025年4月30日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ ) ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― マル激トーク・オン・ディマンド (第1255回) 同性婚訴訟の原告たちの背後には声を上げられない多くの当事者たちの存在がある ゲスト:日高庸晴氏(宝塚大学看護学部教授) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  同性婚訴訟の高裁判決で違憲判断が相次いでいる。  地裁段階で唯一「合憲」判断とされた関西訴訟でも、先月25日の大阪高裁で「性的指向による不合理な差別」であるとする違憲判決が下された。これで5つの高裁が同性婚を認めないのは憲法違反であると判断したことになる。原告たちは、婚姻の不平等状態を解消し、直ちに法制化に取り組むよう訴えている。  全国の自治体で同性パートナーシップ制度が広がり、同性婚に対しての理解が広がっているが、その一方で、未だに偏見と差別の中で苦しむ当事者が多いという現実もある。LGBTQ+の大規模調査に取り組んできた宝塚大学看護学部教授で社会健康医学が専門の日高庸晴氏は、声を上げた人たちの背後に「見えない存在」として社会の中で困難を抱えて生きる人たちがいると指摘する。  日高氏は1999年にゲイ・バイセクシュアル男性への調査を始めてからこの四半世紀、LGBTQ+と言われる性的少数者の大規模調査を行い、データとして示してきた。国も、2023年にLGBT理解増進法を制定し、性的指向とジェンダーアイデンティティ(性自認)への理解を深めるための取り組みを始めている。しかし、まだ一般社会の理解が追いついているとはいえない状態だ。日高氏の2019年調査では、性的少数者全体で親へのカミングアウトをしている人は26.9%に過ぎない。  特に重要なのは、10代の子どもたちへの対応だと日高氏は語る。調査では周囲との違いに初めて気付いた平均年齢が、ゲイ、レズビアンで13歳~15歳、トランスジェンダーは平均10歳~12歳であることがわかった。このときに親や学校現場がどういう対応をするかが、将来に大きく影響することは容易に想像できる。  日高氏の大規模調査では、性的少数者全体で5人に1人が不登校を経験しており、小・中・高校時代にいじめ被害の経験がある人も半数にのぼる。被害の現状はとても厳しい、と日高氏は語る。自殺未遂のリスクも高く、66%の人が自殺を考え、自殺未遂の生涯経験率は14%にのぼるという。  文科省は様々な通知を出し、学校現場での性的少数者の子どもたちへの対応などに取り組んでいる。ただ、教員を対象にした調査では、同性愛になるかならないかは本人が選べるかという問いに対し、「そう思う」、「わからない」、と答えた人が7割を超えており、性的指向に対しての間違った理解が今も解消されていないことがわかっている。依然として課題も大きいと日高氏は語る。医療現場にも同様なことが起きていて、安心して当事者たちが受診できない状態があり、メンタルヘルスなど当然必要な医療支援が届いていないと言う。  日高氏が行ってきた大規模調査とそこから浮かび上がる様々な事例を通して、LGBTQ+と言われる性的少数者の人たちが置かれている日本の現状について、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・違憲判断が相次ぐ同性婚訴訟 ・LGBTQ+をめぐる文科省の動き ・大規模調査から見えるもの―当事者が直面する課題の実情 ・教育現場や医療現場に求められている配慮 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■ 違憲判断が相次ぐ同性婚訴訟 迫田: 同性婚訴訟の高裁判決では、5件連続で違憲判決が出ています。おそらくこの先も大きく変わっていくのだろうという前提の下、同性婚などについて私たちはどの程度理解が深まっているのか、考えていきたいと思います。 宮台: 最高裁はここ10年くらい、家族の問題については比較的リベラルな方向に推移していますよね。これは統治権力のいわゆる「国策」とは関係なく判断しているということだと思います。最高裁からそういう判断が出ると空気感も変わっていくので、期待できると思います。 迫田: 今回は同性婚に限らずLGBTQ、セクシュアルマイノリティの方々に関する大規模調査を四半世紀にわたり続けてこられた、宝塚大学看護学部教授の日高庸晴さんに来ていただきました。  先月3月25日に大阪高裁で違憲判決が出され、これが5件目となります。大阪は地裁段階では合憲としていましたが、その後、違憲判決となりました。4月23日、日本記者クラブで記者会見が行われ、憲法学者の木村草太先生は「新しい法制度を考えるべき段階に来ている」ということで、皆で考えるべきだろうと発言されました。 会見では部分違憲と全部違憲という言葉が出てきました。全てが違憲とは言えないが部分的は認めるべきだというものが地裁での違憲判決でしたが、高裁では婚姻による効果を全て平等にする必要があるという判断になりました。  この会見に至るまでに当事者の方々はさまざまな経験を重ねてこられました。家族に認められるまでに10年近くかかったという方もいて、今はようやく顔を出して話しているということですが、その背景にはそうではない多くの方々がいらっしゃいます。 日高: 表に出られるごく一部の方々ががんばっているという状況で、弁護団の先生方も手弁当に近い形でやられているのだと思います。厳しい戦いが続いていますが、国はなかなか動いてくれません。 

小川真如氏:日本のコメに何が起きているのか

マル激!メールマガジン 2025年4月23日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ ) ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― マル激トーク・オン・ディマンド (第1254回) 日本のコメに何が起きているのか ゲスト:小川真如氏(宇都宮大学農学部助教) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  コメの値段が高騰している。スーパーで販売されている5kgあたりの精米の平均価格は4,214円と、1年前の2倍以上に跳ね上がっている。  これまでコメはいくらでも安く買えて当たり前な、いわば空気や水のような存在だったため、われわれはコメやコメ市場に何が起きているのかについてやや無関心過ぎたのではないか。今回のコメ価格の高騰を奇貨として、日本人の食生活に欠かすことのできないコメに今何が起きているのかを議論した。  コメは2023年の夏前の日照不足と夏場の猛暑によって1等米の収量が大きく下がる一方で、コロナ明けのインバウンド需要や外食産業の需要が急回復したことで、全般的に品薄状態が続いていた。  宇都宮大学農学部の小川真如助教は、2024年末からの価格高騰の背景には品薄になったコメを巡る業者間の集荷競争があったと指摘する。コメ農家はより高い価格を提示した業者にコメを渡すため、集荷競争が起こると必然的に価格はつり上がる。コメが品薄になったタイミングで南海トラフ地震への注意を呼びかける臨時情報が広く発表されたことで、昨年末から今年初めにかけて集荷競争が更に激化し、小売価格が高騰したのだという。  そのような一時的な要因で米の価格が上がっているのであれば、早晩その価格は元に戻っていくかもしれない。しかし、小川氏は、日本のコメは「田んぼ余り」という構造的な問題を抱えており、今後コメの価格が下がったとしても、その問題が解決するわけではない点は注意が必要だと言う。  戦後の食料不足を乗り切るため、日本は食管法の下で国が農家から買い取ったコメを安く国民に供給する体制を整備した結果、1967年にはコメの自給が達成された。しかし、自給が達成された瞬間に、コメ余りが始まった。国が買い上げたコメが売れ残れば、自ずと国の財政負担は増える。  そこで政府は1978年から本格的に減反政策を始め、コメの生産量を削減したり、麦や大豆などに転作した農家に対して補助金を出すようになった。その結果、国内ではコメを作らない田んぼが増えていった。  1993年にはGATTウルグアイラウンドが妥結し、コメについても徐々に市場メカニズムが導入されることとなったが、田んぼについては「食料安全保障」や「洪水防止機能」などを理由に、政府による保護が続いた。  今はたまたまコメ不足が問題となっているが、小川氏はむしろ日本の問題は、コメ余りへの対応が考えられていないことだと言う。これまで政府はコメが不足した場合を想定してさまざまな対応策を打ってきたが、コメが余った場合については十分に考えられてこなかった。減反はコメが不足もしないし過剰にもならない状態を維持するための政策だが、そこには余ったときにどうするかという発想はない。減反によってほどほどにコメが足りている状態を作ろうとすると、気候や外的要因など何らかのストレスが加わると、たちまちコメ不足に陥ってしまう。  むしろこれからのコメ政策は、余った場合を想定して、輸出の推進など多角的な方策を考えていかなければならないと小川氏は指摘する。  さらに小川氏は、人口減少によって日本の食料安全保障のために必要な農地の面積が実際の農地面積を下回り、田んぼだけでなく農地全般が余る時代が来ることが予想されると指摘する。田んぼ余りの轍を踏まないためにも、余った農地をどうするのかを今のうちに考えておく必要があると小川氏は言う。  今回のコメ価格高騰の背景には何があるのか。日本のコメが抱えるより本質的な構造問題とは何か。コメの安定供給を実現するためにはどうすればいいのかなどについて、宇都宮大学農学部の小川真如助教と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・コメ価格高騰の背景にあるもの ・日本のコメをめぐる歴史 ・「備蓄米」放出方法の問題点 ・「余った農地をどうするのか」考えておくことが必要だ +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■ コメ価格高騰の背景にあるもの 神保: 今日はコメの話をします。コメは今まで空気のようなもので、なくなって初めてやばいという話になりました。これまで国民が関心を持っていなかったためにチェックが入らなかったのかもしれませんが、これをきっかけに良い方に向かう可能性もありますね。 宮台: 本来であれば国民が見ていなくても行政官僚がそれなりの専門性をもって適切な政策を営めば良いのですが、誰が見ても馬鹿げた政策をしているので、それを私たちがチェックしなければならなくなったということが真相だと思います。 神保: なぜコメはそうなのかということも知りたいですよね。ゼロからの勉強という部分と構造の部分を色々と伺いたいと思います。ゲストは宇都宮大学農学部助教の小川真如さんです。小川さんの『日本のコメ問題』という本を拝見して、出演をお願いしました。  コメは毎日食べているものなのに、色々なことを知りませんでした。コメ行政というのは、これまでうまくいっていたからあまり問題にならなかったということなのでしょうか。 小川: そうですね。それから、価格がずっと落ちてきたということがあります。価格が落ちている時は文句は何もありませんが、上がると問題になります。 神保: 今、一番問題になっているのはコメの平均価格が上がっていることです。2022年7月の段階では5kgあたり2,000円を切っていましたが、今では4,214円です。 宮台: 昔の5kgの価格が今の2kgの価格になってしまいましたよね。 神保: 小川さんのようにずっとお米を見ている人にとって、この価格は想定外の事態なのでしょうか。 小川: そうですね。収穫後にこれだけ動くというのは異例の事態です。お米は基本的に1年に1回しかとれないので、値段が動くとしてもそこまで大きく動くことはないのですが、収穫後にここまで上がっているということがポイントです。 神保: これは需給関係による値上がりなのでしょうか。つまりコメが足りないから値段が上がっているということなのでしょうか。 小川: 値段が上がってきた理由は1つではありません。最初は安すぎたので上がったということもあります。2023年の夏以降は品薄になったことで高くなり、その価格の水準を維持しながら新米の値段が決まり、昨年末から今年初めにかけては集荷競争が激化したことで最終的に調達コストが小売価格に転嫁されてここまでの値段になりました。 

三牧聖子氏:トランプ関税の先に待ち受ける新しい世界秩序とは

マル激!メールマガジン 2025年4月16日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ ) ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― マル激トーク・オン・ディマンド (第1253回) トランプ関税の先に待ち受ける新しい世界秩序とは ゲスト:三牧聖子氏(同志社大学グローバル・スタディーズ研究科教授) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  アメリカのトランプ政権は4月9日、13時間前に発動した約60の国や地域を対象とする相互関税の導入を90日間停止すると表明した。ただし中国に対しては計145%の関税を課すとしている。日本に対する関税率はひとまず相互関税導入前の10%に下がるが、適用除外を求める日本は24%の相互関税を回避するためには、個別にアメリカと交渉しなければならなくなった。  トランプ関税に世界の金融市場は敏感に反応し、4月2日から7日の間だけでダウ平均は10.1%、日経平均も12.8%急落した。しかし、株式市場の暴落を他人事のように聞き流していたトランプを翻意させたのは、米国債の暴落リスクだった。国債が売られれば金利が上昇し、すべてのアメリカ国民の生活を脅かすことになりかねない。これに危機感を抱いた元投資銀行代表のベッセント財務長官から「大恐慌に陥るかもしれない」と説得され、トランプは渋々関税の導入の延期をのんだとされている。  同志社大学グローバル・スタディーズ研究科教授でアメリカの政治や文化に詳しい三牧聖子氏は、移民排斥や公務員の大量解雇はトランプ支持者からは強い支持を受けているが、こと関税だけは、トランプの支持者や伝統的な共和党員の間でも反発が起きていると指摘する。トランプは大統領選挙戦の中で、大統領になればインフレを止めると繰り返し約束しており、もしカマラ・ハリスが勝てば大恐慌になると主張していた。  しかし今回のトランプ関税は少なくとも短期的にはアメリカの消費者物価を押し上げ、経済停滞を招く可能性が高い。関税率の算出根拠さえあいまいなまま、ここまで大規模な関税を課すことをトランプ支持者でさえ予想しておらず、今後さらに反発が広がることは必至だと三牧氏は語る。  他国からの輸入品に高い関税をかければ、多少はアメリカの製造業の保護につながるのかもしれない。東京大学経済学部教授で国際貿易論が専門の古澤泰治氏は、トランプ関税はアメリカの物価を押し上げ、消費者全体に対するメリットはないが、トランプの支持基盤でもあるラストベルトの製造業の復活には多少なりとも寄与するかもしれないと指摘する。  とはいえ、関税を引き上げれば物価は上がり、アメリカ全体にとってはマイナスの影響もある。それよりも、関税を引き上げれば各国が泣きついてくるので、各国と取引をし、非関税障壁を下げさせるための関税だという見方もある。  今回の相互関税の導入に際しては、無名の投資ファンドのストラテジストだったスティーブン・ミラン氏が2024年11月の大統領選直後に発表した「グローバル貿易システム再編のためのユーザーガイド」という論文が注目を集めている。そこではアメリカの製造業を復活させるための方策として関税の引き上げが推奨されていたからだ。その後、同氏が大統領経済諮問委員長に就任したため、トランプ政権がこの論文に沿った形で関税の引き上げを実施する可能性が取り沙汰されていた。  この論文では、アメリカの経済格差や産業空洞化の原因はもっぱらグローバル化にあるとしている。実際、アメリカは「ブレトンウッズ体制」と呼ばれる自身が主導した第2次大戦後の貿易秩序の最大の受益者でもあったが、同時に国際社会におけるアメリカ一国の圧倒的な優位性が崩れた今、アメリカにはその体制の守護神としての役割を担い続けるだけの力がなくなっているのも事実だろう。  三牧氏はミラン論文に書かれているような、第二次世界大戦後に築かれてきた自由貿易体制はアメリカが搾取されるばかりの体制だという考え方が、トランプ政権の中心的な考え方になっているという。これを壊してアメリカにとってより「公正」な秩序を作り直すというのが、ミラン論文の論旨でもあり、またそれがトランプ政権の主張とも符合するところだ。  しかし、アメリカが国内に抱えるようになった矛盾の原因を、すべてグローバル化や対米貿易黒字を抱える国々の責任とするのは、論理のすり替えであり、それではアメリカの根源的な問題は解決しないのではないかと三牧氏は指摘する。まずアメリカは極度に拡大した経済格差を是正する必要があるのではないか。  トランプ政権のアメリカで今何が起きているのか。トランプ関税は世界秩序をどう変えるのか、日本にはどのような影響があるのかなどについて、同志社大学グローバル・スタディーズ研究科教授の三牧聖子氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。  また、番組の後半では、トランプ関税の裏で進められている、反イスラエルデモの取り締まりが不十分とされた米大学への連邦政府補助金の削減問題や、アメリカによるイエメンのフーシ派への空爆に関する米政権幹部のチャットに誤ってジャーナリストを招待してしまったという前代未聞の機密漏洩事件についても取り上げた。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・トランプ相互関税の真意とは ・「ミラン論文」が描く新しい国際経済秩序 ・アメリカ国内の格差の原因は本当にグローバル化にあるのか ・日本が取るべき対応とは +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■ トランプ相互関税の真意とは 神保: 今週もトランプの一挙手一投足によって世界が振り回された1週間でした。株式市場も債券市場も史上最大とも言える上げ下げを繰り返して大変でしたが、その背後には厄介な考え方があるようにも思えるので、今日はそこを掘り下げて話せればと思います。ゲストは同志社大学グローバル・スタディーズ研究科教授の三牧聖子さんです。 この1週間に限ってもすごかったですが、その前から大学への介入や連邦職員の大量解雇など色々なことがあり、今週だけの話をするのも難しいかもしれませんが、それでも今週の動きは特に激しかったのではないのでしょうか。 三牧: 関税は世界経済にも大きな影響を与えるものですが、これはトランプ大統領が当選した最大の要因とも言えるインフレ問題との関係からも論じる必要があります。トランプは大統領選の開票日の3日前に、もし対抗馬である民主党候補のカマラ・ハリスが勝てば世界恐慌になるが自分が大統領になれば物価は3日で収まると言いました。しかし実際は世界恐慌の寸止めくらいまでいってしまいました。 アメリカ国内の物価を見れば、指標となる卵の値段が1個150円という状況です。確かに関税は公約に含まれていましたが、アメリカ国民もここまでの規模で、かつ根拠が不明確な関税が導入されるとは予想していなかったと思います。 神保: 今回の相互関税については、現時点で中国以外に関しては3カ月の間はやらないことになりました。日本製品はアメリカで販売しようとすると24%の関税がかかるということになっていました。中国に関しては4月2日の段階では34%ということでしたが、その後お互いに撃ち合いになりチキンレースのようになっています。中国以外の国については、反撃をしなかった国には適用を90日間延期することになりました。  今、特に金融関係者の間で非常に注目を集めているミラン論文と呼ばれている論文があります。タイトルは「国際貿易システム再構築のためのユーザーガイド」です。トランプが当選した直後に書かれたもので、著者はスティーブン・ミランという、ヘッジファンドであるハドソン・ベイ・キャピタルの無名のストラテジストです。 無名とはいえ第1期トランプ政権の最後の方に財務省の顧問のようなことをしていました。なぜ今これが注目を集めているのかというと、政権移行チームがトランプの別荘であるマール・ア・ラーゴに集まった時にこの論文が良いとされ、実行しようと大いに盛り上がったからだといわれました。そしてその後、その通りになりました。  もちろん関税自体にも意味がありますが、ミラン論文が言っているのは、安全保障でアメリカはセキュリティゾーンを提供しているが、それは公共財なので、入りたい国は米国債を購入することで参加するべきだということです。それに応じない国に対しては2つの対応策があるとされており、1つは関税、もう1つはセキュリティゾーンから追い出すというもので、それらは強制的に行えば良いということが書かれています。関税についてはその通りになりました。 

高橋美野梨氏:トランプはなぜそこまでグリーンランドを欲しがるのか

マル激!メールマガジン 2025年4月9日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ ) ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― マル激トーク・オン・ディマンド (第1252回) トランプはなぜそこまでグリーンランドを欲しがるのか ゲスト:高橋美野梨氏(北海学園大学法学部准教授) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  極北の島グリーンランドに世界の注目が集まっている。アメリカのトランプ大統領がグリーンランドを手に入れたいと繰り返し発言したことで、期せずして国際政治の表舞台に引きずり出された格好となっているのだ。  グリーンランドはカナダとヨーロッパの間に位置するが、実際はカナダの北端とは30キロしか離れていないため、ヨーロッパよりもアメリカ大陸に近接している世界最大の島だ。日本の6倍の広さの国土を持ちながら、その8割は氷に覆われているため、人口は西海岸沿いに僅か約5万7,000人が住むだけだ。 因みに外務省によると、今、グリーンランドに日本人は5人しかいないという。1721年から250年以上にわたりデンマークの統治下にあったが、1979年にグリーンランド自治政府が発足し、主権国家としてはデンマークの一角をなしながらも、一定の自治権を得ている。  実はグリーンランドを手に入れようとした米大統領はトランプが初めてではない。1868年にロシアからアラスカを購入した第17代大統領のアンドリュー・ジョンソンは、グリーンランドの買い取りにも意欲を燃やしていたことが知られている。また、第2次大戦後の1946年にはトルーマン大統領が、1億ドルでグリーンランドを購入したい意向を表明したが、当時の宗主国デンマークから拒否されている。  なぜアメリカはほとんど人が住めないこの島にそうまでこだわるのか。  その理由は地球儀を北極の真上から俯瞰すれば、容易にわかるはずだ。グリーンランドは北極を隔てて、ロシアとアメリカ大陸のちょうど真ん中に位置する。モスクワとワシントンのほぼ中間地点にあたるグリーンランド北西部の町カーナークには、米軍のピトゥフィク宇宙軍基地があり、アメリカにとっては対ロシアのミサイル防衛の要所となっている。  また、地球温暖化によって北極海の氷の溶解が進んだため、中国がヨーロッパに出る上で北極海航路の重要性が増していることも、中国との覇権争いに神経を尖らせるアメリカがグリーンランドにこだわる理由となっている。  更に、グリーンランドの氷の下にはレアアース、ウラン、鉄鉱石など多種多様な鉱物資源が眠っていることがわかっている。最近、アメリカがウクライナに対し軍事支援と引き換えにレアメタルの採掘権を要求したことが話題になったが、食料やエネルギーは自給できるアメリカにとって、ハイテク機器などに欠かせないレアメタル資源の確保は、世界の覇権を維持する上で必須の条件となっている。  元々グリーンランドは自ら喜んでデンマークの傘下に組み込まれているわけではなかった。3月の議会選挙でも、デンマークからの独立を主張する勢力が一定の支持を集めている。また、元来グリーンランドの人々にとってアメリカに対するイメージは必ずしも悪いものではなかったという。しかし、トランプが大統領に就任する前から、余りにも強引なグリーンランド接収論を繰り返したために、それがかえってグリーンランドの島民たちの反発を招いていると、北海学園大学法学部准教授で日本にいる数少ないグリーンランド専門家の高橋美野梨氏は指摘する。 トランプは3月4日の施政方針演説でもグリーンランドについて「いずれにしてもわれわれは貰うつもりだ」などと、力ずくでもグリーンランドを接収する意向をちらつかせていた。  最近の世論調査では、グリーンランドの住民の85%が、アメリカに吸収されることには反対の意思を示しているという。また皮肉なことに、トランプの強引なグリーンランド接収論が、元々微妙な愛憎関係にあったグリーンランドと旧宗主国のデンマークの距離を縮める効果を生んでいると、高橋氏は言う。  現実的には近い将来アメリカがグリーンランドを購入、ないしは接収することは考えにくい。アメリカの核の傘に依存するデンマークにとって、アメリカにとって戦略的価値が大きいグリーンランドを保有していることが、対米交渉上も強いカードになるため、そう簡単にグリーンランドを手放すことは考えにくい。また、そもそもグリーンランドの人々がアメリカの一部になることに強い抵抗を示している以上、その意思を無視した購入や接収は考えにくい。  しかし、昨今の報復関税を見ても、またウクライナへの軍事支援の停止を見ても、元々常識では考えられない施策を次々と打ち出しているトランプ政権のことだ。グリーンランドについても、次にどんな手を打ってくるかは予想が付かないところがある。  トランプはなぜグリーンランドにこだわるのか。そもそもグリーンランドはなぜデンマークの自治領なのか、グリーンランドがアメリカの一部になるようなことは本当にあり得るのかなどについて、北海学園大学法学部准教授の高橋美野梨氏と、ジャーナリストの神保哲生、国学院大学観光まちづくり学部教授の吉見俊哉が議論した。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・トランプがグリーンランドにこだわる理由 ・グリーンランドの特異な歴史 ・グリーンランド議会選挙の結果が示すもの ・アメリカが強気に出れば出るほど接近するデンマークとグリーンランド +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■ トランプがグリーンランドにこだわる理由 神保: 今日は宮台真司さんが来られないということで、吉見俊哉さんと番組の進行をしていきます。今日は今までの企画の中では異色な感じがするかもしれませんが、グリーンランドを取り上げたいと思います。トランプが本当に関税を発動するということで株式市場などは大混乱していますが、裏付けとなっているのはスティーブン・ミランという1人のエコノミストが言っていることです。 彼はその後、大統領の経済諮問委員会の委員長になっていますが、非常に脆弱な根拠を基にして、タリフを課せばアメリカ国民が恩恵を受けると言っています。果たして本当にそうなのか。そして、トランプは選挙で選ばれていますが、これを見ても本当にアメリカ国民はこういう人に投票をしたと言えるのか。 吉見: トランプがやっていることのほとんどはゆすりとたかりですよね。お金をちらつかせて関税で脅し、いざとなったら軍事力を使うということで、暴力団の組長が自分の部下に良い思いをさせるために他の人を脅すということとほとんど同じです。われわれはそういう人たちのことを「反社」と呼んでいますが、アメリカそのものが反社になってしまったというふうに見た方が良いと思います。 神保: 関税の問題は、それで誰が利益を得るのかが全く分からないという点にあります。力で何かを奪い取り、アメリカが良い思いをするということなら、とんでもない反社の政権であると言えるかもしれませんが、もしかしたら反社であると同時にアホなのではないのかという疑惑も出てきています。世界最大の軍事力を持った反社がアホだとまずいので、世界は戦々恐々としています。  ただ例によってグリーンランドの問題は、トランプがいきなり暴論を言い出したということなく意外と歴史が深い問題で、地政学上の事情を見てもアメリカとグリーンランドには深い関係があります。グリーンランド、デンマーク、アメリカという三角関係にEUも関わっているという形でしたが、ここにきて中国も入ってきたので、ますます方程式がやっかいになっている気がします。 小さい頃に世界地図を部屋に貼っていると、やたら大きく見える島・グリーンランドが上の方にあり、印象に残るということがありました。今回色々と資料を読み、グリーンランドについて何も知らないということを痛感しました。今日はグリーンランドのいろはについても専門家のお話を伺いたいと思います。 アメリカがグリーンランドに手を伸ばしているという現状をどう見るのかということは、日本にとっても他人事ではないということも分かるかもしれません。ゲストは北海学園大学法学部准教授で、私の知る限り日本で数少ないグリーンランドの専門家の高橋美野梨さんです。グリーンランドの本を書かれている人は本当に少ないのですが、グリーンランド研究家は日本に何人くらいいるのでしょうか。 高橋: 自然科学ではそれなりの規模でいますが、人文社会科学の範囲では、主題としてグリーンランドを扱っているのは私だけだと思います。イヌイットやエスキモー研究の人類学の分野でも数人いるくらいだと思います。 神保: そもそもなぜグリーンランドなのかということなのですが、トランプ政権はグリーンランドが欲しいと言っていて、今回は第2次トランプ政権ですが、第1次の時にもそういう話はしています。したがって初めて出てきた話ではないのですが、第1次の時は人もおらずできませんでした。しかし今回は関税も含めてやると言ったことは全部やりそうな感じなのでより現実味を増しています。 今のトランプ政権がグリーンランドについてここまで興味を示していることについてどう思われていますか。 

島谷幸宏氏:環境に大きな負荷を与えるメガソーラーの問題を放置してはならない

マル激!メールマガジン 2025年4月2日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ ) ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― マル激トーク・オン・ディマンド (第1251回) 環境に大きな負荷を与えるメガソーラーの問題を放置してはならない ゲスト:島谷幸宏氏(熊本県立大学共通教育センター特別教授) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  五島列島のいちばん北にある小さな島で、いま日本最大規模と言われるメガソーラーの建設が始まっている。  美しい海に囲まれた宇久島は、平成の大合併で長崎県佐世保市の一部となったが、今も人口減少が進んでいる。事業面積が島の4分の1を占めることになるメガソーラーの開発は雇用創出などの地域振興も目的として掲げられているが、島の自然環境を損なう恐れがあるとの理由で、地元から反対の声が上がっている。  そもそもこの島でメガソーラーの話が始まったのは、再生可能エネルギー(再エネ)の固定価格買取制度が導入された2012年のことだった。ドイツの企業がFIT(固定価格買取)制度を利用してキロワットあたり40円の買取価格で認定を受け、それを引き継いだ日本企業が事業を進めている。完成した場合、発電能力は480メガワットとなり、年間発電量は17万3,000世帯分の使用量に相当する。人口約1,700人の宇久島にとっては、自分たちのためではなく、本土に送られて使われるための電力開発となる。  発電容量1メガワット以上というメガソーラーが環境にどれほどのダメージを与えるのかは、まだよくはわかっていない。  治水の専門家として宇久島のメガソーラー開発の現場を視察した熊本県立大学共通教育センター特別教授の島谷幸宏氏は、水の循環という観点から島全体の調査が必要だと指摘する。森林を伐採した後にソーラーパネルが敷き詰められることで、気象の変化や、洪水量の増加、地下水の減少など、生態系全体に関わるさまざまな事態が想定される。 ヒートアイランド現象のような都市化による水循環の変化と似たような現象が起こる可能性もある。こうした環境への負荷をどう緩和したらよいのか。そもそも緩和は可能なのか。手遅れにならないうちに環境負荷を最小限に抑える方法を考えなくてはならないと島谷氏は強く訴える。  太陽光発電を巡っては、すでに全国各地でトラブルが起きている。去年3月に総務省が発表した資料では、回答した自治体の4割を超える355市町村で、太陽光発電関連のトラブルが発生しているという。その中身は土砂災害が復旧されない、土砂災害発生の懸念がある、土地開発部局の許可を得ていないなどさまざまだ。  こうした問題に早い段階から警鐘を鳴らしている日弁連のメガソーラー問題検討プロジェクトチームは、法律による規制と並行して、地方自治体が地域に即した条例を制定することを推奨している。河川工事や水害後の災害復旧で住民参加の取り組みの経験を多く持つ島谷氏は、集落ごとに議論を繰り返し、暮らしを守りながら合意形成の道を探るしかないと語る。   先月、政府が閣議決定した新たなエネルギー基本計画では、2040年度の時点で再エネのシェアを4割~5割まで増やし最大の電源にすることが謳われている。それを受けて今後、再エネの導入はますます進むことが予想される。安全面、防災面、景観や環境への影響、将来の廃棄などの観点から、本気で地域との共生を考えなくてはならない時が来ている。  自然を護りながら再エネのシェアを増やすためにはどうすればいいのか。河川工学と治水の立場からこの問題に取り組む島谷幸宏氏と、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・メガソーラー計画に揺れる宇久島 ・メガソーラーは環境にどのような影響を与えるのか ・自然環境や人々の生活を守る「条例」が重要な理由 ・地域住民の生活と調和した再生可能エネルギー開発の必要性 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■ メガソーラー計画に揺れる宇久島 迫田: 今日は再生可能エネルギー、特に太陽光についてお話ししたいと思います。メガソーラーについては色々な形で報道されていますが、五島列島の宇久島という場所で進んでいる日本でおそらく最大のメガソーラー計画については皆さんあまりご存知ないかもしれません。離島を発電の場所にしようという発想自体がどうなのかと思います。 宮台: 再生可能エネルギーは風力と太陽光、そして日本の場合は地熱も重要になりますが、もともと集中型のエネルギーに対する分散型、あるいは中央管理型に対するエネルギーの共同体自治に資するものだと考えられてきました。しかし風力発電にしてもメガソーラーのプラントにしても、これらは共同体自治とは少し違ったものになりかねません。 迫田: 先月政府は新たなエネルギー基本計画を閣議決定し、2040年度には再生可能エネルギーを4~5割、最大の電源と位置付けることを目指していますが、その一方で急速に導入されている再生可能エネルギーによって景観や環境への影響が問題になっています。 宮台: もちろん環境負荷が高くCO2をたくさん排出する石炭火力や天然ガス、そして一度事故が起きると収拾がつかなくなる原子力を他のものに代替しなければなりません。また、従来の国際自由貿易体制が一挙に破断される可能性がある中で、安全保障上、エネルギー自給率が非常に重要なポイントとなっています。 迫田: 環境のことを考えた上での再生可能エネルギーなのですが、それが逆に環境に影響を与えることがあります。五島列島の宇久島におけるメガソーラーの問題をきっかけに、話をしていきたいと思います。  今日はメガソーラーの問題に関して環境の視点から様々な提案やアドバイスをされている、熊本県立大学共通教育センター特別教授の島谷幸宏さんをお招きしました。島谷さんはもともと河川工学の専門家で、球磨川の治水や防災の問題に取り組んでこられました。 島谷: 大学卒業後に建設省に勤め、土木研究所で河川環境の仕事をしてきました。これは洪水防御の問題と一緒に扱わなければならないので治水の問題も勉強してきました。途中からは大学に転身して研究することになりました。 ちょうど大学を退職する年に球磨川で洪水が発生し、ダムによる治水かダムによらない治水かという二者択一のような議論になりました。しかしそれでは地域を分断してしまうので、そうではない第3の選択として「流域治水」をしてみてはどうかという提言を熊本県知事宛てに出しました。それがきっかけとなり熊本県は「緑の流域治水」という新しい政策を始めることになり、今はそれを研究面からバックアップするために熊本県立大学で研究をしています。 工学部がない大学でしたが特別教授という役職を作ってもらい、流域全体で洪水を防ぐ「流域治水」を研究しています。これは水循環を整えるということと同じで、劣化した自然を元に戻すことによって洪水を防御する方法を開発し、行政と一緒に導入するということをやってきました。  その前には九州北部豪雨という災害があり、山の集落が多く孤立しました。17くらいの集落で集落会議を行った経験から、途中からは洪水の復興に関わるようになりました。水害のメカニズムというよりも水害が発生した後にどう対処するか、また水害が発生しないようにするためにはどうすれば良いかといった研究を続けてきました。  同時に小水力発電の研究もしていて、小規模分散で、小水力を地域の人々の力で行うということを進めています。再生可能エネルギーのインフラについては、既存のものを活用するための委員会が環境省で開かれ、5年ほどその委員長を務めました。再エネに関わる仕事をしたこともあったということで今回の案件に関わることになりました。 

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ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が、毎週の主要なニュースの論点を渦中のゲストや専門家らと共に、徹底的に掘り下げるインターネットニュースの決定版『マル激トーク・オン・ディマンド』。番組開始から10年を迎えるマル激が、メールマガジンでもお楽しみいただけるようになりました。

著者イメージ

神保哲生/宮台真司

神保 哲生(じんぼう・てつお) ビデオジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表。1961年東京生まれ。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信記者を経て 93年に独立。99年11月、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立。 宮台 真司(みやだい・しんじ) 首都大学東京教授/社会学者。1959年仙台生まれ。東京大学大学院博士課程修了。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。

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