閉じる
閉じる
×
史上最年少の18歳で修斗世界王者に就いた西川大和インタビュー。北海道在住の西川は国内外で経験を積み、キックのリングにも上がり、修斗参戦後は6連勝で世界王座奪取。その川名tencho雄生戦はガードポジションからパンチ、ヒジを顔面に打ち込みレフェリーストップに追い込むというMMAの常識を破壊する試合だった。VTJでは国内ライト級のトップ青木真也との因縁がつくられ、次戦は1階級上のウェルター級で国内屈指のグラップラー山田崇太郎戦。刺激的な展開が続く19歳の西川大和に話を聞いた(聞き手/ジャン斉藤)
【1記事から購入できるバックナンバー】
・沖縄初の修斗世界王者・平良達郎はこうして生まれた■松根良太
――西川選手、よろしくお願いします。
西川 こちらこそよろしくお願いします。
――本日は日曜日ですが、練習終わりなんですか。
西川 日曜日はオフが多いですね。父親が整体を営んでいるので、いま整体をしてもらって。ストレッチなどをして身体をケアしていました。
――西川選手は現在19歳ですけど、練習スケジュールやメニューなどの管理は高校時代から自分でされているそうですね。
西川 はい。やっぱりそこらへんは人任せにしないほうがいいですよね。任せてしまうと、そこまで格闘技に対するアイデンティティーがないから人任せにできるのかなって思えちゃうんです。ボクは格闘技に対する愛着心が他人よりも強かったりするんですが、「目立ちたい」からとか「有名になりたい」という思いで格闘技をやるのではなくて、まずひとつは日本人、アジア人として海外に勝つと。格闘技って強い・弱いがハッキリしてる競技じゃないですか。世界で勝って名を残したいという目標から、私自身、格闘技に取り組ませていただいてるので。そこらへんの意識の持ち方なのかなと思います。
――アイデンティティーでいうと、地方だといわゆる練習環境に恵まれてなかったりして、どうしても東京とは格差が生じてしまいます。だからこそ自分自身の姿勢が問われるわけですね。
西川 そうですね。ひとつ言えることは、北海道には格闘技にかぎらず、他のスポーツでもプロ野球のドラフトにかかったり、柔道だと強化選手になる人間がいます。その人たちは東京や大阪からプロに転向する選手に比べて何か特徴を必ず持ってる人たちが多いんですよ。やっぱり北海道という他の地方に比べても、さらに環境が困難な場所で、声をかけてもらうってことは、ある意味で奇跡に近いことですので。他の選手がやっていないことだったりとか、意識を高く持ってないと通用しない。やっぱり練習相手に恵まれてる方は心に余裕を持てるわけです。練習相手が強ければ強いほど心に余裕が持てる。私のような人間がそういう選手に立ち向かっていく場合は、その選手が意識してない部分、疎かにしてる部分で勝負を懸けているんだと思います。
――……ものすごくしっかりとした考えをお持ちですね。
西川 ありがとうございます。
――いまの1週間のスケジュールはどういう内容なんですか。
西川 まず中学や高校時代は1日3部練だったんですよ。
――その頃から1日3部練。
西川 どうしても下積み時代というのは、ガムシャラに練習を重ねる姿勢はすごく大切だと思うんですよ。いまは2部練しかしてないんですよね。1週間のスケジュールでいうと、月・水・金がフィジカルと寝技をやる日なんです。火・木・土は打撃をやる日です。そういうスケジュールを立てており、打撃に関しても、北海道にはプロの選手がいないので、私の場合はフルコンタクト空手やボクシングの選手と練習をすることで打撃を補っています。そして寝技はブラジリアン柔術で補う。それをミックスするのが総合格闘技ですが、そうやって練習はなんとかできていますね。
――出稽古が中心なんですか?
西川 打撃に関してはボクがメンバーを集めて練習しておりますので、ボクが中心になって練習を組み立ててますね。寝技は柔術の道場に所属しており、そこの練習メニューに従ってやるかたちなんですけど。技の反復というよりはスパーリングがメインでやってますね。
――西川選手のお父さんはかつてシューティング大宮に通われていた方で。そんなお父さんとの二人三脚が有名ですけど、いつくらいから西川選手自身がすべてを組み立てるようになったんですか?
西川 基盤になるスケジュールを作ってくださったのは父親だったんですけど、もうここ3年ぐらいはほぼ自分で組み立ててやってますね。どうしても子供の頃は誘惑に負けず、何かに向かって取り組むことはまず無理ですので。どの業界のスポーツも最初はやっぱり父親との二人三脚だと思ってるんです。そんな感じでやってるうちに「この競技が好きだ」と思ってやり続けた人がプロで活躍している。自分の場合はUFCを見ることで格闘技を極めてみたいと思うようになり、こうして格闘技に携わっている感じですね。
――西川選手といえば、“下からのパンチ”で川名TENCHO雄生をTKOした試合が印象的です。下になることを厭わず、すぐに立とうとせず攻めのかたちを作る。ここ最近のMMAでは見られない異色のスタイルですが、西川選手自身はMMAのスパーリングをほとんどやらないそうですね。
西川 MMAスパーをやらないということもありつつ、やる相手がないってこともあるんですよ。
――逆転の発想ではあるですね。
西川 私が川名選手から修斗のタイトルを獲った試合でいえば、彼はMMAを極めてる方ですよね。そして私はMMAを極めずに勝った。一般の理論からしたら「何を言ってるんだ」という話にはなると思うんですけど。MMAには、すごくたくさんやることがあります。多種目をたくさん集めた競技がMMAですよね。私の考えではMMAのトレーニングを中途半端に長い時間をやるよりは、打撃と寝技をハッキリと割り切って、それぞれしっかりと密度の高い練習をして、たまにMMAとして軽くミックスするのがベストかなと思うんです。
――だからMMAのスパー自体はそこまで必要としないと。
西川 MMAという競技ですので、いろんな競技からいいとこ取りをしないといけないんですけど、北海道はこんな環境ですし、逆に東京の選手はMMAの環境はすごく整ってます。でも、ひとつの競技しかやってこなかった選手が、MMAのジムに入ると、MMAメインでしかやらなくなるんですよね。自分がやってきたバックボーンだったり、子供の頃から積み上げてきた種目がだんだん頭と身体から遠ざかっていくわけですよ。東京の選手がそうなるのであれば、ボク自身はひとつひとつの部分を埋めて勝負するしかないと思ったんですよね。
――それはいつ頃からそういう覚悟を決めたんですか。
西川 修斗に参戦するようになってからですね。
――というと、ここ1~2年の話なんですか。それでま北海道のPFCを中心に10戦近く経験されてますが。
西川 はい、そうなんですね。それまでは皆さんのようにMMAに取り組んでいけば、結果が出るのかなと思ってたんですけど。それだと東京の選手に勝てないので、だったら東京の選手が疎かにしてる部分や、それこそキワの攻防だったりとか、そういった部分をしっかり観察しながら練習していこうという考えになりましたね。
――西川選手なりの理論立てがあって、現在のスタイルなんですね。
西川 そうですね。
――地方の選手は一芸に秀でているという印象がありますが、上のクラスだと“MMA”に封じ込まれてしまうことが多々あります。西川選手がその壁を突破した理由がわかりました。
西川 結局、試合で負ける部分というのは、その選手の弱点でもあり、穴でもあるんですけど。普通の選手はその穴を埋める練習をMMAスパーでやっちゃうわけですよね。それはMMAの部分ではなく、打撃だったり、ひとつひとつの技術の部分で負けてるのに、です。なので、ひとつひとつの競技を習って、穴を埋めていくっていう考えに変えたんです。
――それでこうして結果が出てるわけですね。修斗創設者の佐山聡先生は「打・投・極」を掲げ、「自然の流れにのった技術がとぎれなく連係し、なめらかに回転することが修斗の姿である」とおっしゃってますよね。西川選手は「打・投・極」をどう捉えているんですか?
西川 ボクは「打・投・極」だからこそ、ひとつひとつを極めないといけないと思っています。たとえば数学でいえば「1+1は2」という答えがあるじゃないですか。でも、総合格闘技の場合は選手によっては「1+1が3」になったり、5になったり、10にしちゃうこともできるんですね。メンタル半分、技半分っていうのが私の考えなんですけど、テクニックやメンタルによって「1+1は10」にもできちゃうんです。
――掛け算的になるのが総合だと。
西川 それはつまり「1+1は2じゃないのか?」と相手に計算を狂わせることも可能なんですよ。逆に「2=1+1」とバラすことも可能であるし、足したり掛けたりバラバラにするのが私にとってのMMAなんですね。たとえばスタンドの打撃で距離感をつかむ、そしてパンチを当てて当て勘の距離を測る。そしてKOに持っていく。テイクダウンに関しては組む、崩す、そしてテイクダウンする。寝技に関しては相手から技を取りやすいポジションに自分がずれ、抑え込み、そして極める。打撃も、組みも、寝技も、すべて3つのパターンなんです。この3つがトライアングル型になって、ごっちゃ混ぜの中で戦うのがMMAなんですね。
――すごくわかりやすい説明ですね。
西川 でも、スタンドで相手との距離を掴まないで、いきなり当てちゃってもいいわけですよ。そしてテイクダウンも崩すだけでもいいんです。最初に3つの段階の2つを省いて、いきなり「1+1は2」と答えを出しちゃう。ボクはそういうことを常に繰り返すので、対戦相手はすごくイヤだと思いますよ。そういう考えでやってる選手は少ないので。
――それこそ計算を狂わせて、アンダーポジションからの打撃でKOできるんですね。あのイメージはあったんですか。
西川 ありましたね。結局、抑え込むということは、よく考えたら、相手の身体を抑えることですから自分の手は封じられてるんです。なので攻撃を食らったら一番ダメージが大きい顔が無防備なんですよ。そして打撃で失神させなくてもいいんですよね。「試合で勝つ」という答えが欲しいので、勝つパターンだったらなんでもやるっていう考えです。実質、相手にかなりのダメージを与えて勝った試合だったじゃないですか。
――現代MMAでは下のポジションになるのは、攻防においても、判定でも不利だと言われてますが、西川選手は恐れてないわけですね。
西川 まったくないですね。日々の練習から、パスされて抑え込まれても返せる自信がありますので。柔道の強豪校が北海道にもありますので、そういうところで練習もできてますし、キックのジムに行かなくても、フルコンの道場には全日本クラスの選手がいます。部分部分の練習は足りてないわけではありません。
――11月のVTJの試合後に青木真也選手に対戦要求をしましたが、以前から青木選手は西川選手に対する評価が低かったです。そういった声は西川選手のもとには届いていたわけですよね。
西川 届いてましたね。
この続きと、ドミネーター、鈴木千裕、中井祐樹、菊地成孔、三浦孝太…………などの2月更新記事が600円(税込み)でまとめて読める「15万字・記事19本の詰め合わせセット」はコチラ
この記事の続きだけをお読みになりたい方は下をクリック! 1記事110円から購入できます!
この記事は有料です。記事を購読すると、続きをお読みいただけます。
入会して購読
この記事は過去記事の為、今入会しても読めません。ニコニコポイントでご購入下さい。
コメント
コメントを書く
他5件のコメントを表示
日本レベルなら地力を上げるための練習優先で減量に労力を使わず、世界で戦う時に蓄えた地力に加え体格を生かすために減量して勝負する。
MMAでなくパーツ練習メインにする理由とか、青木評とかしっかり自分で考えているのが分かるし面白い。
読書のくだりだけ読むと聡明な老人のコメントのようです。
ここまで物事の本質を考えて突き詰めている人だとは。
ある意味、青木真也にちょっと似ている。
この先どこにたどり着くのかとても楽しみな選手です。
19歳の時、何も考えて無かったよ、最近の若者は偉いな
なんか凄え
これはいいインタビューでした。雰囲気のある選手はいいなあ。
vs青木真也は是非見たいね。
非常に興味深い選手。
もしかして格闘技以外で名を残すような人物じゃないかと思ってしまいました。
鳥肌立った。
本当に信念をもって格闘技に取り組んでいてファンになりました。
トラッシュトークを理論的に否定する言葉が他者への強烈なメッセージになってるのが本当に面白い