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平田仁子氏:未来への責任が果たせるタイムリミットが迫ってきている
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平田仁子氏:未来への責任が果たせるタイムリミットが迫ってきている

2021-09-01 20:00
    マル激!メールマガジン 2021年9月1日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1064回)
    未来への責任が果たせるタイムリミットが迫ってきている
    ゲスト:平田仁子氏(NPO法人気候ネットワーク国際ディレクター・理事)
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     世界がコロナ禍に喘ぐ中、人類にとってのもう一つの深刻な危機が迫ってきている。地球温暖化に伴う気候変動の危機だ。

     国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が8月9日に公表した第6次評価報告書は、現在の地球温暖化が人間の経済活動に起因するものであることに「疑いの余地はない」と断定し、世界が直ちに二酸化炭素などの温室効果ガスの削減を始めたとしても、向こう20年間は現在世界中で頻発している自然災害の発生頻度や強度は悪化の一途を辿ることが避けられないと警告した。

     IPCCの評価報告書は1990年から約5年ごとに公表しているもので、6回目となる今回の報告書も世界をリードする200人の科学者が1万4000の論文を精査した結果としてまとめられた。それによると地球の平均気温は産業革命以前と比べて既に1.1度上昇しており、今後20年以内に最低でも1.5度まで上昇することが避けられないという。そして1.5度の上昇でも50年に一度の記録的な熱波が起きる頻度は産業革命前に比べて8.6倍に達するが、それが2度になると13.9倍に、4度になると39.2倍になる。熱波のほかにも極端な大雨、干ばつ、永久凍土の溶解による海面上昇などが世界各地で頻発することも指摘された。

     さらに今回の報告書では、人類が持つ「炭素予算」の上限も示された。炭素予算とは人類が排出していいCO2の上限のことだが、報告書は累積CO2の排出量が1兆トン増えるごとに、地球の平均気温が約0.45度上昇することを指摘した上で、平均気温の上昇を1.5度以内に抑えるためには、排出量を2兆8000億トンまでに抑える必要があるとした。しかし、人類はすでに約2兆4000億トンのCO2を排出しているため、残る「炭素予算」は約4000億トンしか残されていない。これは現在の世界のCO2の排出量の約10年分に過ぎない。

     結論としては、人類がCO2の排出量を直ちに減らし始め、2050年までに地球全体で排出量ゼロ(=カーボンニュートラル)を達成できなければ、平均気温の上昇を1.5度以内に抑えることは難しくなるということだ。その場合の異常気象による全世界的な被害の広がりや農業生産への影響、海面上昇による環境難民の増加などは、われわれの想像を絶するものになるだろう。

     日本では菅政権が発足直後の施政方針演説で2050年のカーボンニュートラルを高らかに宣言している。しかし、現実に起きていることは、NPO法人「気候ネットワーク」国際ディレクターの平田仁子氏によると、日本は未だに環境負荷が高い石炭火力発電所の新規の建設を進めているのが実情で、少なくとも現時点では2050年のカーボンニュートラルの方向に向けて動きだしているとはとても言い難い状況にあるという。

     日本のみならず、インドや中国でも依然として石炭への依存度は高く、ここ当分はCO2の排出量は増加することが避けられそうにない。しかし、その一方で、ヨーロッパを中心に南米などでは自然エネルギーへのシフトが確実に始まっており、それに伴い数々のイノベーションも起きている。このままでは日本はその波に乗り遅れる恐れもある。

     今回の報告書の内容と現実の政治状況を見比べると、状況はかなり厳しい。しかし、今の時代に生きるわれわれが数十年後の人類の未来を左右することになる重大な決定を下さなければならない立場に置かれていることだけは間違いなさそうだ。未来への責任を果たせるタイムリミットは迫ってきている。

     今週はIPCC6次評価報告書の内容を確認した上で、世界の科学者たちは近年の世界的な異常気象や自然災害と地球温暖化の関係をどう見ているのか、今われわれに何ができるのかなどについて、今年の6月、石炭火力発電所の増設阻止に尽力したことが評価され環境部門のノーベル賞とも呼ばれる「ゴールドマン環境賞」を受賞した気候ネットワークの平田氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・カーボンニュートラルを宣言しながら、石炭火力発電所増設の矛盾
    ・再エネの導入も遅れ、“時間稼ぎ”に終始する日本
    ・温暖化が人為的なものだということは「疑う余地がない」
    ・コロナ禍を奇貨とすることができるか
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    ■カーボンニュートラルを宣言しながら、石炭火力発電所増設の矛盾

    神保: 8月9日、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が第6次評価報告書を出しました。コロナのニュースにかき消されたような感じもあったかもしれませんが、しかしさまざまな意味で、かなり画期的な踏み込んだ表現もあった。危機的な状況だということをはっきりと断定しており、これはしっかり見ておきたいと考えて、今回の番組を企画しました。ゲストは気候ネットワークの国際ディレクター、平田仁子さんです。
     平田さんは6月に環境分野のノーベル賞と言われているゴールドマン環境賞を受賞されています。日本人として3人目ということですが、受賞した感想はいかがですか。

    平田: 環境の活動をしている人にとっては憧れの賞で、自分に関係があるとは思っていませんでした。どちらかというと、命の危険を顧みずに建設を止めたとか、あるいはワンガリ・マータイさんのように誰から見ても素晴らしい活動をしている方がもらう賞だと思っていたので、びっくりしましたね。 
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