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田中紀子氏:若年化するギャンブル依存症問題を放っておいていいのか
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田中紀子氏:若年化するギャンブル依存症問題を放っておいていいのか

2024-05-29 20:00
    マル激!メールマガジン 2024年5月29日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1207回)
    若年化するギャンブル依存症問題を放っておいていいのか
    ゲスト:田中紀子氏(ギャンブル依存症問題を考える会代表)
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     大リーグ大谷翔平選手の通訳を務めていた水原一平氏のスポーツ賭博問題で、あらためて注目を集めているギャンブル依存症。賭けた金額の大きさや大谷翔平という希代のスーパースターの預貯金を引き出すことが可能だった水原氏の特殊な立場から、メディアはこれを特別な事例として扱っているが、果たしてそうだろうか。
     今やギャンブルは誰もがスマホで簡単に参加できる時代だ。公営競技として日本で法律で認められている競馬、競輪、競艇、オートレースの4つのギャンブル(賭博)も実際に競技場に行く必要はなく、手元のスマホ一つで何度でも賭けることができる。しかも支払いはクレジットで後払いが可能なものもあり、中にはカードに付帯するポイントでベット(賭け)ができるものまであるという。
    これは合法的なギャンブルの話だが、より深刻なことに、日本では違法となるスポーツ賭博やオンラインカジノなども、ネット経由で誰もが簡単に手を出せる状態になっているのだ。もちろんこれは違法だが、それを取り締まることは容易ではない。また、警察も真面目に取り締まろうとしているようには見えない。
     実は今の日本では、水原氏と同様の、いやもしかするとそれ以上に深刻な問題を抱えるギャンブル依存症の人が大勢いたとしても、まったく不思議ではないのだ。
     自身がギャンブル依存症に苦しんだ経験を持ち、自らが代表を務める「ギャンブル依存症問題を考える会」を通じて依存症者の相談に乗ったり、啓発活動を行っている田中紀子氏によれば、会に相談に来る人の8割近くが20代、30代の若者だという。ことにコロナ禍以降、ギャンブルにはまる人の若年化の傾向が顕著だそうだ。ここ数年の変化は、10年前に会を立ち上げた田中氏にとっても驚くほど急激だという。
    特に仮想的に行われるオンラインカジノは、海外の事業者が規制の緩い日本をターゲットにしているため、これにはまる人が急増していると田中氏は指摘する。
     ギャンブル依存症は治療が必要な病気だ。自分はそんなものに罹るはずはないと思っている人が、ちょっとしたきっかけでやめられない状態となり、負けをギャンブルで取り返そうとしている間に雪だるま式に借金が膨れ上がる。そして早晩、生活に支障をきたすようになるが、その問題を誰にも相談できないで、一人で抱えている場合が多い。そもそも自分自身がギャンブル依存症であることを認識できない場合が多いのだという。
    借金で追い込まれた挙げ句、犯罪に手を染め、それが表沙汰になった時、初めてその人がギャンブル依存症に苦しんでいたことが表面化する。アメリカ精神医学会の診断基準DSM5では「ギャンブル障害」、WHOが出している国際疾病分類ICD10では「病的賭博」という用語が使われる。
     政府は2016年に成立させた統合型リゾート推進法によるカジノ解禁に合わせ2018年にギャンブル等依存症対策基本法を制定しているが、同法は毎年5月14日から20日までの1週間を「ギャンブル等依存症問題啓発週間」と定めている。しかし、つい最近、水原氏のギャンブル横領事件があれだけ大きく報道されたにもかかわらず、恐らく先週1週間が法が定めるギャンブル依存症の啓発週間だったことを知る人はほとんどいないだろう。
    啓発週間の存在を伝える報道や、実際に啓発を目的とする報道は数少なかった。田中氏は政府のギャンブル依存症対策は予算も不十分で、とても本気で取り組んでいるとは思えないと、怒りを露わにする。
     そもそもギャンブルは公営競技だけで関係する省庁が農水省、経産省、国交省と複数にまたがり、さらにスポーツくじtotoは文科省、パチンコ・パチスロは風営法の警察庁と多岐にわたり、それぞれが縄張り化しているため、政府としての一体的な取り組みが行われにくい。現状では日本政府がオンラインカジノに対する規制を強化する方向性はまったく見られず、逆にスポーツベットという名の新たなスポーツ賭博を推進する団体が活動を活発化させているのが実情だ。
     田中氏は近年、若者の人口が減っているとか、若者の貧困化が問題視されているにもかかわらず、若者をより貧困にさせ社会から排除することにつながるギャンブルが完全に野放しになっている日本の状況は、どう考えてもおかしいと語る。若者をギャンブル依存症から守るために今こそ対策が必要だと訴える田中紀子氏と、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。

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    今週の論点
    ・誰でもなりうるギャンブル依存症
    ・対策を本気でやろうとしない政府
    ・どのようにして自助グループにつなげるか
    ・当事者が当事者を救うことで救われる
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    ■ 誰でもなりうるギャンブル依存症
    迫田: 今日は2024年5月24日の金曜日です。今回は、ギャンブル依存症問題を取り上げます。水原一平通訳のことで大きく報道され、アメリカのスポーツ賭博問題はいまだにニュースになっていて裁判の行方が議論されています。

    宮台: どういう角度から取り上げられているのかが問題ですよね。ある種のスキャンダリズムになってしまっていますが、それはどうでも良いことです。

    迫田: 一度無罪を主張した後、治療を受けるといった条件の司法取引で裁判がこの先どうなるのかということが特殊な例のように報道されていますが、特殊ではなく、実は日本にも繋がっている問題なのではないかというのが今回のテーマです。

    実は5月14日から20日まで、ギャンブル依存症についての問題を啓発する週間でしたが、あまり知られていません。今日はギャンブル依存症問題を考える会の代表でいらっしゃる田中紀子さんにお越しいただきました。田中さんご自身がギャンブル依存症の当事者でいらっしゃいます。

    田中: 離婚した父と母方のおじいさんがギャンブル依存症でした。親のようになりたくないとは思っていたのですが、結局はよくある話で、親のような人と結婚して自分もはまっていってしまいました。

    迫田: 今回の水原一平さんの問題を聞いた時にどんなふうに思いましたか。

    田中: 最初は非常に驚きましたが、報道を見ていくうちにこれは普通のギャンブル依存症だと思いました。

    迫田: 水原さんは銀行詐欺という形で罪に問われていますが、ああいうところまでいかないとギャンブル依存症は分からないのでしょうか。

    田中: そんなことはありません。たまたま自分の手に入る抜け穴のような口座を見つけてしまったことが被害を大きくしたと思います。それと家族が気付かなかった可能性があります。家族が気付いていて、今までも散々尻ぬぐいをしているということであればもっと早く何とかなったかもしれません。

    迫田: 始まりは2021年くらいだということで、結構短い間にあっという間に行われたということですよね。

    田中: それはオンラインギャンブルの特徴で、2~3年でにっちもさっちもいかなくなってしまいます。私は20年前にギャンブル依存症に気が付き、夫と一緒にクリニックに行き自助グループに繋がって回復していったのですが、当時そこにいたのはギャンブルをやり始めて10年くらいの40代くらいの人が多かった。しかし今は20代の人が2~3年でどうにもならなくなってしまい、家族が駆け込んでくるというパターンが多く、時代が一変しています。 
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