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2012年8月の記事 9件

【シャープ再生への道はあるか】津田大介の「メディアの現場」vol.43

この8月2日、シャープの連結決算発表会で同社の財務状況が深刻な事態に陥っていることが明らかとなり、大規模なリストラを含む経営再建策が発表されました。液晶分野では国内トップシェアを誇るシャープが、ここまで凋落した理由は何なのか。そして、シャープが浮上する道は果たしてあるのか――。 ◆大規模リストラ、台湾企業との提携……「液晶のシャープ」再生への道はあるか? ――この8月2日、シャープの連結決算発表会で同社の財務状況が深刻な事態に陥っていることが明らかになりました。赤字の額は2012年度4〜6月期で1384億円、通年で2500億円にものぼる見通しです。さらに返済の必要がある有利子負債のうち、約7000億円が1年以内に返済期限を迎えます。このような危機的状況を受け、奥田隆司社長は大規模な経営再建策を発表しました。事業グループの再編、事業所の体制見直し、本社のスリム化――。中でも驚きをもって受け止められたのは、「人員のスリム化」という項目でした。連結対象会社の社員約57,000人を対象に、2013年3月末までに約5,000人を削減するという大規模なリストラ策です。パナソニックやソニーをはじめとする大手電機メーカーは、今まで経営上厳しい局面を迎えた時、希望退職者を募るなどしてリストラを行ってきました。しかしシャープは戦後間もない1950年に経営危機に陥った際、希望退職者を募り、泣く泣く解雇したという苦い経験があるため、長年の間「雇用」をある種の聖域として守り続けてきました。その聖域にメスを入れ、大規模なリストラに乗り出すということは、逆に言えばそれだけ危機感を覚えているからということなのでしょう。「シャープ」といえば電機メーカー大手です。それがなぜ、これだけの苦境に陥ってしまったのでしょうか? 津田:シャープといえば「液晶」というイメージですよね。「AQUOS」のような液晶テレビはかなり売れたし、シャープ自身も三重県亀山市の亀山工場で作られたものを特別に「世界の亀山モデル」と呼ぶなどして、品質の高さをアピールしてきました。僕自身、1999年〜2004年くらいまでの雑誌ライター時代に新型パソコンやハンドヘルド端末のレビューを週刊SPA!で毎週やっていて、いろいろな機器を触っていたのですが、その中でも「シャープの液晶はきれいだな」と思っていましたね。薄型軽量ノートパソコンの代名詞だった「MURAMASA」、携帯情報端末の名機「Zaurus」、エポックメイキングなビデオカメラ「液晶ビューカム」――すべてシャープの液晶技術があってこそ生まれた製品です。液晶に対するシャープのこだわりは、1986年から1998年まで社長を務めた辻晴雄氏に始まりました。辻氏が打ち出したシャープ独自の戦略が「スパイラル戦略」です。キーテクノロジーをもとに製品を作り、その製品を開発する過程でキーテクノロジーを磨き、さらに新たな製品を作っていく――このように、らせん状の効果を狙うスパイラル戦略の軸となったのが「液晶」でした。辻氏の後を継いだ前社長・町田勝彦氏はこの路線を踏襲し、1998年6月の社長就任直後に行った記者会見で「2005年までに国内のカラーテレビをすべて液晶に置き換える」と宣言します。のちに「日本の製造業復活の象徴」とまでされた亀山工場を不況ど真ん中の2002年に立ち上げたのも町田氏でした。そして2004年度には国内におけるテレビ売上金額のうち、液晶の占める割合が約90%に達し、シャープは「国内のカラーテレビをすべて液晶に置き換える」という目標を1年前倒しで達成します。液晶技術で一日の長があったシャープは、こうして大成功を収めました。ただ、ここに来て中小型の液晶パネルや薄型テレビの価格下落が止まらなくなってきたんですね。そしてシャープが約4300億円という巨費を投じ、2009年10月に稼働させた世界最大の液晶パネル工場・堺工場が2012年3月期、3760億円という過去最悪の最終赤字を弾き出す原因を作ってしまったんです。その生産能力が裏目に出た結果でした。

津田大介の「メディアの現場」

テレビ、ラジオ、Twitter、ニコニコ生放送、Ustream……。マスメディアからソーシャルメディアまで、新旧両メディアで縦横無尽に活動するジャーナリスト/メディア・アクティビストの津田大介が、日々の取材活動を通じて見えてきた「現実の問題点」や、激変する「メディアの現場」を多角的な視点でレポートします。津田大介が現在構想している「政策にフォーカスした新しい政治ネットメディア」の制作過程なども随時お伝えしていく予定です。

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津田大介

ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。関西大学総合情報学部特任教授。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーター。NHK「NEWS WEB 24」ネットナビゲーター。TOKYO MX「ゴールデンアワー」木曜MC。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。

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